「“古くて固い”開発文化を打ち破る」課題山積みの地方金融DX、石川・北國銀行が一歩先を行くワケ
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大手銀行のシステム障害が相次いで報じられ、日本の金融機関の「DXの遅れ」が指摘されている。
そんな中、地方銀行ながらいち早く金融のDXに取り組み、成果を出しているのが、石川県金沢市に本拠地を置く北國銀行だ。
2019年9月には、クラウドを活用したインターネットバンキングをアジャイル開発でリリース。金融機関では珍しい取り組みとして注目を浴びた。
続いて同11月には、北國銀行のシステム部門を担う株式会社デジタルバリューを設立。21年5月には、日本で初めて勘定系システムのパブリッククラウドへの移行にも成功した。
地方銀行でなぜ、ここまで先駆的な取り組みを実現することができたのか。北國銀行のシステム開発を一手に担うデジタルバリュー代表の井川武さんとシステム部長の岩間正樹さんに話を聞いた。
地方の金融機関が抱える三つの課題。解決のカギは「DX文化」の醸成
地方の金融機関が置かれている現状は厳しい。
デジタルバリュー代表の井川さんは、地方銀行が対応すべき三つの課題として、「収益環境の悪化」「収益構造の変化」「テクノロジーの加速的な進化」を挙げる。
「人口減少と比例し、地方銀行の収益環境はますます厳しさを増しています。さらに近年は、FinTech企業の成長が目覚ましく、預金と貸付金の預貸利ざや、為替手数料などで稼ぐ従来のビジネスモデルは成り立ちにくくなっている。
そんな中で、銀行が収益構造を変化させるには、DXが不可避。そのため、ほとんどの金融機関がDXに取り組んでいます。
しかし、その質はばらばら。単に『デジタルを使えばいい』と考えている銀行も多く、大きな改革に踏み切れないケースが少なくありません。
そもそも金融システムは、社会インフラとしての側面が強く、何か新しいことをして『失敗すること』自体が許されません。それは間違いないのですが、それゆえに現状維持バイアスが働きがち。クラウド化などは、セキュリティーへの不安から躊躇する金融機関も少なくありません」(井川さん)
しかし、北國銀行では現状維持ではない「攻めのDX」を行うことを決めた。
「これまでのビジネスモデルは遅かれ早かれ成り立たなくなる。それならば、従来にとらわれない商品やサービスを提供していくことが急務だと考えました」(井川さん)
そこでまず取り組んだのが、ITを使いこなし、新たなサービスを生み出すための企業風土の醸成だ。
「まずは、社員に一人1台PCとスマホを貸与し、ペーパーレスを進める環境を整備。『生産性2倍』を目指すなど、『DXに必要なマインドセット』が社員に根付くよう働き掛けを始めました。
また、システムの内製化には約20年前から取り組んでいます。リカレント教育を推進し、エンジニアの人材育成にも力を入れてきました。
時代の変化にスピーディーに対応してサービスを提供していくためには、社内のノウハウを蓄積していくことが必要だと考えたのです」(井川さん)
銀行文化がまったく通用しなかった、東京でのアジャイル開発
さらに北國銀行が「攻めのDX」に大きく舵を切るきっかけになったのが、2017年から約2年かけて実施した個人向けインターネットバンキングの開発だ。
一般的に銀行の勘定系システムの開発は、ITベンダーへ丸投げされることも少なくない。
当時、北國銀行の勘定系システムはオンプレミスのメインフレームを使い、開発手法はウォーターフォール。インターネットバンキングという新しいサービスを開発するのに、従来のやり方はそぐわないと考え、クラウド化、かつアジャイル開発で進めることを決めた。
だが、当時の北國銀行にはアジャイル開発のスキルもノウハウもなかったため、東京のITベンチャーに手伝ってもらうことに。北國銀行のエンジニアが東京へ赴き、“缶詰状態”の日々を過ごしながら、ワンチームで開発を進めたという。
当時、エンジニアとしてチームに加わっていた岩間さんは、この時がまさに「北國銀行の開発チームにとっての転換期」だったと振り返る。
「この開発を通して、北國銀行のエンジニアたちは技術力を伸ばせましたし、何よりもマインドチェンジできました。
なぜなら、ITベンチャーの方と一緒に働いてみたら、銀行の開発文化がまったく通用しなかったんですよ。皆さんがイメージされるような『古くさくて固い』行内文化もそうですし、開発手法も、プロジェクトの進め方も、考え方がまったく違った。
それまでわれわれが行っていたウォーターフォール開発では、初めにしっかりプロジェクト計画を立て、あとは根性で納期に合わせるような感じ。それがアジャイル開発では、途中でスコープやスピードなどの優先順位を変更することもザラで、価値提供を重視しながらどんどん前に進めていく。
先に期日がフィックスしないので、最初は感覚的に気持ち悪かったエンジニアもいたようです。でも、やってしまえば不思議と慣れるんですよね」(岩間さん)
両方の開発手法を経験して岩間さんが思うのは、適材適所が大事だということだ。
「作るものがある程度決まっているなら、ウォーターフォールできっちり作ればいい。でも『攻めのDX』に求められるのは、世の中のニーズに合わせて適切な価値を適切なタイミングでお客さまに届けること。
そのため、プロダクトの形が事前に決まっていないことがほとんどです。そういうものを試行錯誤して作っていくにはアジャイルの方が絶対に向いていると感じています」(岩間さん)
この、「攻めのDX」は北國銀行にとってまさにチャレンジングなプロジェクト。試行錯誤を重ねながら、取り組み開始から2年が経つ2019年9月、地方銀行としては初となる本格的な個人向けデジタルバンクをリリース。同年11月にデジタルバリューを設立し、バンキングシステムのクラウド化を加速させてきた。
「インターネットバンキングのプロジェクトを機に、行内ではアジャイル開発が主流になりました。それと同時にエンジニア同士のコミュニケーションツールには『Microsoft Teams』や『Slack』などを活用しています。
それまでの銀行の文化では、先輩や上司に絵文字を使うなんて暗黙の了解でご法度だったのですが(笑)、いまでは役職問わずチャットで気軽にコミュニケーションを取るようになりました。障害対応のスピードも格段に速まっています」(岩間さん)
エンジニアの「脱・下請け体質」が金融DXを加速させる
この、攻めのDXプロジェクトの成功の鍵を聞くと、二人は「エンジニアの意識改革が不可欠だった」と声を揃えた。
地方銀行をはじめ、国内の金融機関のDXが本質的なものにならなかったり、進まなかったりする原因についても、「エンジニアの『下請け体質』が課題なのではないか」と話す。
「余計なことをやっても怒られるだけ。言われたことだけやって、ミスはしたくない。そういう考えのエンジニアは多いと思います。金融系の案件は銀行からベンダーに丸投げすることも多いので、現場のエンジニアが攻めの姿勢をとらないのも無理はないことです。
ただ、これからの時代はそれではダメ。金融機関内の社員とシステム会社が仲間として開発していかなければDXに対応するのは難しい。このプロジェクトを通して痛感しました」(岩間さん)
デジタルバリューにとって、ITベンダーは、内製のためのITパートナーという位置付け。同じ立場で一つのプロダクトをつくり上げる仲間だと考えているそうだ。
「金融案件に携わるエンジニアの悩みの一つに、『新しい技術を学びにくい』ということがあると思います。でも、これからは金融業界も新しい手法や技術でサービスや商品を開発していく時代です。
デジタルバリューではクラウド、アジャイル、スマホアプリ開発などいろいろな経験を積めますし、トップダウンを極力減らしているので、技術選定や開発プロセスは担当チームで決められます。
また最近では、フルリモートで働ける環境を整えたので、全国どこに住んでいてもプロジェクトに参加できる。働き方も時代に合わせてアップデートしているところです」(岩間さん)
さらに、地方の金融機関として、地域に貢献するための視線も大切にしていきたいと井川さんは今後のビジョンを語る。
「現在は、法人向けのインターネットバンキングを開発しています。完成後は、API連携などで他社のサービスや商品とつないで地域のエコシステムを形成したい。融資以外もできる地域総合会社として、地域活性化に貢献していきたいと思っています」(井川さん)
岩間さんも、エンジニアの立場から地域を見つめる。
「世の中でのDXが加速する一方で、特に地方にはデジタルが不得手な中小企業や年配者も多い。そういう人たちに伴走していけるのは、地域に根を張ったわれわれのような金融機関だと思います。その一端を担えるのは、地方金融機関のエンジニアとして働く醍醐味の一つではないでしょうか。
いま、金融機関でこんなふうにエンジニアが脚光を浴びて、ビジネスの命運を握るようになったのはすごいチャンス。面白い時代だなと感じています。
一人でも多くのエンジニアに幸せに働いてもらうため、これからもさまざまな挑戦をしていきたいですね」(岩間さん)
>>株式会社デジタルバリュー【北國フィナンシャルホールディングスグループ】の転職・求人情報
取材・文/古屋江美子 撮影/吉永和久
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