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「どうにもならないときは諦めも大事」ゲームプログラマー歴34年のミクシィ吉田さんに聞く、“外的要因”に振り回されない集中力の保ち方

働き方

グラフで見る「パフォーマンスとコンディション」の関係性

“心・技・体”ベストバランス

エンジニアがいい仕事人生を歩むために、「心と体のコンディション」と「仕事のパフォーマンス」にはどんな相関関係があるのだろう? 高いパフォーマンスを発揮するエンジニアの経験談から「心・技術・体」のベストバランスを学ぶ!

1980年代にゲームプログラマーとしてのキャリアをスタートさせ、56歳となった2022年現在もスマホゲームの新規タイトル制作にいそしみ、現場でコードを書き続けている吉田明広さん。

50代、60代になってもプログラマーとして第一線を走り続けたい」と考えるエンジニアにとって、彼の姿は憧れそのものなのではないだろうか。

実際に、2020年に『エンジニアtype』で公開した以下の記事は多くの反響を呼んだ。

>>54歳プログラマーが30年以上もゲーム開発の最前線に立ち続けられるワケ「技術の“仕組み”を理解すれば、時代の変化に強くなる」

彼のように年齢を重ねてもプレーヤーとして最前線で活躍するためには、常に高い成果を出し続ける必要があるはずだ。

そこで吉田さんに、これまでのエンジニア人生34年間を振り返り、パフォーマンスを発揮し続けるためのコンディション管理について話してもらった。

株式会社ミクシィ デジタルエンターテインメント事業本部インキュベーション事業部 吉田明広さん

株式会社ミクシィ デジタルエンターテインメント事業本部
インキュベーション事業部 吉田明広さん

1965年生まれ。大学の電子工学科を卒業後、88年にゲーム開発会社ジャレコに入社。『じゃじゃ丸ポップコーン』や『ラッシングビート』シリーズ、セガサターンタイトルの『ファンタステップ』などのメインプログラマーを務める。2000年、ネクステックに入社し『女神転生NINE』の開発に参加。その後、ジニアス・ソノリティで『ポケモンコロシアム』『ポケモンXD』、ネクスエンタテインメントで『PS3版タイムクライシス4』『レイジングストーム』などの開発を担当。16年9月にミクシィ入社。主にスマホゲーム領域の新規タイトル開発に携わる

企業買収、技術リセット、新ハードの登場……激動の34年間

株式会社ミクシィ デジタルエンターテインメント事業本部 インキュベーション事業部 吉田明広さん

仕事のパフォーマンス(赤)と、心身のコンディション(水色)をグラフ化。吉田さんは、特にコンディション面で波があるように見える

――吉田さんのこれまでのキャリアとあわせて、その時々のパフォーマンスと心身のコンディションの変化について伺わせてください。

もう30年以上前の話にはなりますが、新卒でジャレコというゲーム会社に入社した当時は、希望していた仕事に携われることから精神的なコンディションは最高潮でした。

一方でゲーム開発は黎明期だったこともあり、いざ開発現場に入ってみると分からないことだらけで。

今のようにネットで調べることもできないし、周りの人も同じようなスタートラインにいるから聞いても分からない。1日中作業が進まないこともあり、パフォーマンスという意味では最も低かったと思います。入社3カ月くらいはこの仕事を続けられるかすら不安でしたね。

ただ、しばらくすると徐々に技術に関しての理解が深まり開発も滞りなくできるようになって、アイデアが次から次へと出てくる状態に。さらにチームメンバーのバランスがちょうどよく、人間関係も良好だったので、コンディションも良い状態に保ちながらパフォーマンスを発揮できるようになりました。

――でも、グラフを見るとその後、パフォーマンスもコンディションも急降下していますね。

以前の記事でも触れているのですが、1994年にプレイステーションとセガサターンが発売されてゲームが「3D時代」に突入した際、開発環境や開発言語が大きな転換期を迎えたんです。それまで培ってきた技術がリセットされたため、しばらくは思うように開発が進められませんでした。

さらにその後、ジャレコが買収されることになり、経営体制が大きく変化し組織が様変わりしてしまって。それまで開発していたプロジェクトの開発もストップしてしまっていたため、強制的にパフォーマンスもコンディションも下がった……という背景があります。

株式会社ミクシィ デジタルエンターテインメント事業本部 インキュベーション事業部 吉田明広さん
――そんなことが……。 それから、ネクステックに転職後はパフォーマンスはほぼ一定で高い水準を保っているのに対し、コンディションが急降下しています。

この頃は人生の中で一番コーディングしていたのではと思うくらい、パフォーマンス的には最高潮でした。

しかし、関わっていたタイトルが『女神転生NINE』という悪魔をテーマにしたゲームだったからか、体調不良やけがが重なり、入院をすることもあって……。身体的なコンディションが低かったように思います。お祓いには行っていたのですが……(笑)

後にも先にも、この時以外は大きな病気もけがもなく健康なんですけどね。

その後転職したジニアス・ソノリティでは、大好きな『ポケモン』関連のゲームに関わることができたこともあり、精神状態はかなり良かったです。

――それからネクストエンタテインメントに。

ネクストエンタテインメントでは、『ニンテンドー3DS』などのモバイルゲーム機専用ソフトの開発に初めて関わったんです。据え置き用のソフトとは違うゲームの開発は新鮮で楽しかったのですが、モバイルゲーム特有の画面や文字の小ささが影響して視力が落ち、疲れが顕著に表れてきた覚えがあります。

さらにほどなくしてPS3のゲーム開発に関わったのですが、ここからがまた大変で。

ゲーム機器のスペックが高くなると、開発に対するプラットフォームやハードウエアへの要求も高まりますよね。PS3でもそれなりのスペックのPCが必要だったのですが、当時はそれを賄える環境が用意されていなかったんですよ。

プログラムを実行しようと思ったら毎回40~50分くらい掛かってしまうような状態で。開発自体は楽しかったのですが、ストレスが掛かるし、開発スピードも激落ちしてしまいました。

それから2016年にミクシィに転職し、前回の記事でもお話しした通りここにきて本格的にUnityでの開発に挑戦することになりました。ミクシィ自体はすごくいい会社なので精神的な状態はずっと良いものの、入社して1〜2カ月は思うように成果が出せず、会社に対しても申し訳ないと思っていましたね。

Unityに関しては周囲の若いメンバーたちの方が詳しいので、分からないことがあれば聞いたり、調べたりして少しずつ知見をためていって、今ではコンディション、パフォーマンスともに高い状態で仕事ができているのではと思っています。

株式会社ミクシィ デジタルエンターテインメント事業本部 インキュベーション事業部 吉田明広さん

「周囲に迷惑をかける」ようになったら危険信号

――吉田さんの過去を振り返ると、「パフォーマンス」に関しては主に開発環境や技術のリセットなど、外的要因で左右されていて、コンディションとはあまり紐づいていなそうですね。

そうですね。コンディションとパフォーマンスは必ずしも結び付いているとは思っていません。無理をすることでスキルアップにつながることも多いですし、逆に自己管理できているからといって仕事で高い成果をあげられるとは限りませんから。

むしろ、個人的には「仕事が楽しい」と思っているなら、多少体力的に無理をしてもやれるだけやってみるのもいいと思います。特に若いときは吸収力がいいので、少しくらい後先考えずに経験を積みにいけば、長期的に見て後々のパフォーマンスを向上させることにもつながってくると思いますよ。

――吉田さんも、若い時は無理をして働くこともありましたか?

ええ。明け方まで仕事をした後に家に帰ってからゲームをして、そのまま寝ずに会社に行く、というような、全然寝ない生活をしていた時期もありました。今では絶対にできないですけどね(笑)

でも、若いうちにそういう生活をすること自体はいいけど、それによってコンディションに影響が出てきたり、人に迷惑をかけ始めるようになったりしたら、調整した方がいいです。

僕も一時期危なかったことがあって、『ファンタステップ』というゲームソフトを開発していた時期に、全く起きられなくなってしまったんですよ。会社まで20分もかからない場所に住んでいたにもかかわらず、目覚ましを何個もセットしてギリギリの時間に出社していて。

というのも、普通に朝まで仕事をしたり食事の時間が不規則だったり運動しなかったり……不摂生な生活が重なって知らない間に疲労が蓄積していたのだと思います。

眠さを軽減するためにエナジードリンクを飲んでやり過ごすけれど、効力が切れてしまうと一気に疲労感が襲ってきて、余計にパフォーマンスが落ちてしまっていました。

――コンディション管理とパフォーマンスは必ずしも一致しないけれど、あまりにも不摂生な生活を送ってしまうと話は変わってくる、と。

特に今のゲーム開発は、エンジニア同士協力しながら進めることが多く、チームワークが非常に大切になります。せっかく頑張って仕事していても、大事な時に休んでしまったり、力を発揮できなかったりするとチームにとってマイナスになってしまいますから、一定レベルでの「正しい生活」はやっぱり大切ですよね。

株式会社ミクシィ デジタルエンターテインメント事業本部 インキュベーション事業部 吉田明広さん

今は50代半ばなので、昔よりも健康には気を遣うようになりました。走ったり、会社の人たちとバッティングセンターに行ったりしてたまに体を動かしています。それから食事も、量より質を重視して、できるだけ遅い時間に食べないようにしています。

気分転換、先回りの開発、「良かったこと」のメモを取る

――例えば急な差し込みだとか、プロジェクトの方針転換などで、吉田さんのように「外的要因」などによってパフォーマンスやコンディションが落ちてしまうこともエンジニアには多そうですよね。

僕は、仕事がうまく進まないときはスパッと諦めて、趣味で気分転換していますね。開発の方針変更や会社の意思決定などは、深く考えても仕方ないことも多いので。特に仕事とは全く違う分野の趣味があると気持ちも切り替わりやすいし、そこでの知識が意外と本業の役に立つこともあって、何かとプラスだと思います。

あとは、先回りして対処できそうなことはするようにしています。例えば「ここの機能を追加したい」とか「この表示を付けたい」とか、ゲーム開発を長年やっていると、後から追加で依頼が来そうなことって何となく分かるんですよ。だから、いざそうした依頼がきても対応しやすいような作り方を最初からしておくんです。

やりたい仕事があるのに急な差し込みがあると、仕方ないとは思いつつもやっぱり少しだけモヤっとしてしまうじゃないですか(笑)。先手を打つことで、そういうモヤモヤをなるべく無くせるように心掛けています。

株式会社ミクシィ デジタルエンターテインメント事業本部 インキュベーション事業部 吉田明広さん

それから、「モチベーションを保つ」という意味では、人から言われたこととか、フィードバックをメモするようにしているんです。悪いことはずっと覚えていても、うれしかったことや良かったことって忘れやすいじゃないですか。

なので、つまずいたところだけではなく、プロジェクトを振り返って一番うまくいったこと、誰かに褒められたことなどを、思い立ったときに書き留めていて。誰かに見せるわけでもなく、自分の秘密日記みたいな感じなんですけどね。

行き詰まった時に見返すとモチベーションが上がりますし、自分の得手不得手も分かるのでいいかなと。

――外的要因ができるだけパフォーマンスに影響しないよう、精神面でのセルフコントロールも上手にされているんですね。

エンジニア視点では、処理速度の速いプログラムが思い通りに書けたときや、バグが少なく、品質を担ったアウトプットができるとか、そういうことが「いいパフォーマンス」だと思うんです。そして、そのためにはやっぱり集中力が必要。

ときにはどうにもならないこともありますが、自分が集中できるような状況を理解して、コンディションを整える工夫をすることは、長く第一線で活躍する上でも大事だと思いますね。

取材・文/阿部裕華 撮影/赤松洋太 編集/河西ことみ(編集部)

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