プロジェクトマネージャー 望月崇史さん
SIer、コンサルティングファームを経て、大手インターネット企業に入社。システム開発部のシニアマネージャーを務める。21年9月、デジタル庁に入庁
2021年9月に発足したデジタル庁。民間から入庁したメンバー約100名が日本のデジタル化に向けて動いている。
前編記事では、デジタル庁の掲げるミッションの意図することや、求めるエンジニア像などについて伺った。
後編本記事では、二人のPMにインタビュー。望月さんは大手インターネット企業から、北間さんは大手電機メーカーから、それぞれデジタル庁発足と同じ2021年9月に入庁。
「転職は考えていなかった」という二人がデジタル庁に入庁した経緯とは何だったのだろうか。現在の仕事内容とあわせて聞いた。
プロジェクトマネージャー 望月崇史さん
SIer、コンサルティングファームを経て、大手インターネット企業に入社。システム開発部のシニアマネージャーを務める。21年9月、デジタル庁に入庁
プロジェクトマネージャー 北間俊秀さん
新卒で大手電機メーカーに入社し28年間務める。21年9月にデジタル庁に入庁
――デジタル庁に転職しようと思ったきっかけについて教えてください。
望月:デジタル庁発足のニュースを見て興味を持ちました。新しく設立された省庁に最初から参加できること、自分の専門領域で「日本のデジタル化」という重要な取り組みに貢献できることに魅力を感じましたね。
転職活動はしていなかったのですが、老後に社会人生活を振り返ったとき、ハイライトになるような仕事をしたい思いは何となくあって。ITサービスは浮き沈みが激しいので、後世まで残るものに携わってみたい気持ちもありました。
デジタル庁の仕事は、この国のデジタル化の基礎をつくる仕事です。今後10年、100年単位の社会の基盤づくりに携われるのは単純に面白そうだし、「東京タワーはおじいちゃんが建設したんだぞ」って孫に自慢できるような歴史に残る仕事ができるんじゃないか、と。これは滅多にない機会だと思い応募しました。
北間:私は2021年春に、元総務大臣の竹中平蔵さんの講演を聞いたことがきっかけでした。その中で日本のデジタルの課題が議題に上がり、その後の質疑応答では見知らぬ若い方が鋭い質問をバンバン竹中さんに投げ掛けていて。
転職は考えていなかったのですが、その若い方の姿を見て「自分も日本のデジタル化推進のために何かできるのではないか」となんだか感化されたんです。
――北間さんは今回が初めての転職ですよね。
北間:はい。新卒で大手電機メーカーに入り、28年間勤めました。決して前職に不満があったわけではなく、それなりのポジションや待遇もあった中で、それでも自ら辞めて、ゼロから新しくデジタル庁でのキャリアをスタートさせました。
転職自体は一大決心でしたが、何よりも今ここでしかできないことを「やってみたい」という気持ちが大きかったですね。
――デジタル庁のホームページには「デジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げることを目指します」とあります。お二人は現在、どのような仕事をしているのでしょうか?
望月:僕の場合は大きく二つあって、各省庁でのプロジェクトマネージャー業務を週3日、残りの2日はガバナンスマネージャーの仕事をしています。
プロジェクトマネージャーの方は構想の段階から関与しながら、体制作りや要件定義、設計、開発まで参画する予定です。今は国土交通省と消費者庁のシステムを担当していますが、まだプロジェクトを大きく回す段階ではなく、デジタル庁と各部署で進め方を検討してるところ。
もう一つのガバナンスマネージャーの方は、各省庁のプロジェクト全体を俯瞰した上で、問題があったり支援が必要だったりするプロジェクトを見極め、問題解決を主導する役割を担っています。
北間:私も望月さんと同じく、ガバナンスマネージャーとして全体のプロジェクト管理をしています。
全システムについてレビューをしつつ、PMO(Portfolio Management Office)の立ち上げを行っています。マネジメントを含め、デジタル庁のシステム開発の効率化を考える役割として、ルール作りなど運営部分の整備に注力しているところです。
――お二人とも民間から行政に環境が変わりましたが、デジタル庁での約3カ月間はどうでしたか?(取材は2021年12月下旬)
北間:今は立ち上げ時なのでバタバタしていますが、経験豊富な方がたくさんいて、誰もが「こうしたい」という思いや目標を持って前向きに仕事をしているのを感じています。
望月:新しい取り組みなので、想像以上に決まっていないことが多いですね。組織としての役割は決まっていますけど、具体的に何をやって、どのようなかたちで貢献し、どうやって信頼を得るのかは、自分自身で探しながらつくっていかなければいけない。
裏を返せば、エンジニアのほとんどが新しく民間から入った人なので、さまざまな背景やキャリアを持った人たちがお互いの強みや経験を活かして活躍できるポテンシャルがあるとも言えます。
北間:一方で、いろいろな役割の人がいて、それぞれの目線で意見が出てくる分、どれを選択し、どう優先度を付け、どのように収拾するかを考えるのは大変だなと思います。トップダウンでは成り立たない苦労と、同時に面白さがありますね。
望月:デジタル庁は思った以上にダイバーシティあふれる環境ですよね。前職の大手インターネット企業にはいろいろな国から来た人たちと一緒に働く環境がありましたが、デジタル庁には経歴の多様性がある。
民間から来た人も役人の皆さんも、年齢や経験はバラバラです。当然考え方やコンテキストは異なりますから、刺激的だなと思います。
――行政に抱いていたイメージと、実際に入ってみて感じることにギャップはありました?
北間:ボトムアップで提案を上げる際に、さまざまな役職者の方に対して説明をし、皆さんの合意を得ていくプロセスが必要です。重要なことだと理解しつつ、やはり大変ですね。パッと決めてしまいたくなることもあります(笑)
ただそうしたプロセスを経て、資料や説明の内容がブラッシュアップされるのは事実です。道のりは長いものの、いただいたコメントが積み重なって、完璧に近いものができていくのを実感しています。
望月:行政ですから、譲れない部分はどうしても出てきますよね。素早く決めて進めていいところと、慎重に時間をかけて考えなければいけないところを見極める必要性は感じています。
一方で、思ったより風通しはよかったですね。霞ヶ関特有の文化はありますが、思った以上にざっくばらんに、序列も関係なく意見を聞いてくれる。ここまでウェルカムな雰囲気だとは思わなかったので、良い意味で驚きがありました。
――仕事へのやりがいはどういうところに感じていますか?
望月:社会的なインパクトが大きい仕事に携われるのは、やはりデジタル庁で働く一番の醍醐味だと思います。これだけ規模が大きいプロジェクトに対して、試行錯誤しながら最初のフェーズから取り組めるのは貴重な経験です。行政の仕事は初めてなので、予算の考え方や物事の進め方など、新しい知見が得られる新鮮さもあります。
また、「自分が大きいことをやる」のではなく、「いかに全体を同じ方向に向けて、より良い国にしてくのか」を考えることにやりがいを感じています。
日本のデジタル化はデジタル庁だけでできるわけではなく、各省のシステム担当者やベンダーさんをはじめ外部の方など、たくさんの方たちの協力が不可欠。「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。」というミッションに、ステークホルダーや国民も含めて共感してもらい、巻き込み、一緒に進めていくにはどうすればいいのか。長期的な視点を持って考えなければいけません。
――巻き込む力はあらゆる仕事で求められますが、デジタル庁の場合はその範囲や人数が桁違いですね。
望月:そうですね。直接会ってお話しができない人もたくさんいますので、より難易度は高いと思います。役所手続きをデジタルでやりたい人もいれば、直接説明を受けたい人もいる。ユーザーは国民全員ですから、本当に多様なニーズがあり、一辺倒ではなく、それぞれの目線に立って考える必要があります。
その分、想像力はもちろんですが、日々の自分の体験も重要です。周りの人の体験談を含め、日常生活のあらゆる情報や世の中の動きがインプットになる面白さがありますね。
――やりがいについて、北間さんはいかがでしょう?
北間:PMOでプロジェクト管理のルールを作っていますが、これはデジタル庁設立時だからこその仕事です。私たちが作ったルール上にデジタル庁の皆さんや政府のシステムが乗るわけで、そこにやりがいを感じています。
また、システムを作る中で、「使いやすいものになっているか」「こういう考えがちゃんと盛り込まれているか」といった、レビューのチェック項目もルール化しようとしています。システム開発の現場では普通のことですが、従来の行政のやり方とは異なる部分かなと思います。
――ルール作りは設立初期だからこその醍醐味ですね。
北間:ただ、やり方を間違えると「今までこうやってきたのに」と反発されてしまうこともあります。デジタル庁そのものが多岐に渡るステークホルダーをまとめようとしているわけで、みんなから「新しいルールの導入がプラスになる」と思ってもらえなければ、浸透はなかなかしないでしょう。
だからこそ、ツールやマインドを変えてもらうにあたり、お互いがWin-Winになるメリットを提示しなければいけません。そこをうまく見いだせるように、現場の皆さんと一緒に探っていきたいと思っています。
――最後に、これからデジタル庁で実現したいことを教えてください。
北間:デジタル庁が本当の意味で各省をまとめるためには、デジタル庁が「頼れる存在」になる必要があると思っています。そういう組織にしたいし、その中で私たちがやっているルール作りに共感していただいて、結果として全体がうまく回っていくといいなと思っています。
政府のシステムは国民の皆さんに使っていただくものですから、何よりも使いやすい、良いものにしたい。税金を無駄遣いせず、コンパクトに作ることが本当のゴールだと思います。
望月:デジタル庁のプロジェクトは長期にわたり、5〜10年かけて取り組んでいくことになると思います。長期的な視点を持って、少しずつ前進できるようにやっていきたいですね。
もっと先の話をすると、自分が老後を迎えた時に暮らしやすい世の中にしたいです。そして「子どもにとって夢がある国」にしたい。
日本のデジタル化はエンジニアだけでできることではないですけど、幸いエンジニアが貢献できることはたくさんあります。デジタルは21世紀に欠かせないものですから、それを最大限に活用する社会の基盤をつくって、子どもたちに良い世界を残したいですね。
取材・文/天野夏海 編集/河西ことみ(編集部)
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