SIerから事業会社への転職、成功・失敗の明暗分ける「会社の選び方」とは? 大手SI出身アソビューCTOに聞く三つのポイント
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受託や派遣といった形態から事業会社に転職したいと考えるエンジニアは少なくない。一方で、「事業会社は何となくハードルが高そう」と感じる人も多いのではないだろうか?
そんな人に紹介したいのが、コロナ禍の危機を乗り切り目覚ましい成長を見せるスタートアップ企業、アソビューのCTO江部隼矢さんだ。
江部さんは新卒で大手SIerに入社し、2012年に1人目のエンジニアとして、レジャー予約サイト『アソビュー!』や、レジャー施設のDXを支援する『ウラカタ』を手掛けるアソビューにジョインし、CTOに就任した。
アソビューでは、江部さんの他にも元SIのエンジニアが数多く活躍。現在もSI出身のエンジニア採用に力を入れているところだという。
その理由は何なのか。事業会社への転職を考える人たちへのアドバイスとあわせて聞いた。
コロナ禍の苦境に生まれたDX事業で業績好転。SI出身エンジニアを求める理由
――アソビューでは今、特に「SI出身のエンジニア」の採用に力を入れているそうですが、その理由は?
弊社のサービスといえばBtoCのレジャーや体験の予約サイトをイメージしていただくことが多いのですが、実はそれだけではなく、レジャー事業者さま向けのSaaSの開発も行っています。
特にSaaS領域はアウトドアやものづくり体験を提供する事業者さまやテーマパークなどのレジャー施設さまなど、幅広い企業のDXを推進するもので、彼らの業務やビジネスを総合的に分析し、システムに落とし込んでいく必要があります。
こういった顧客の業務理解と最適なシステムの立案などは、SIにおける上流工程との共通点も多く、SI出身のエンジニアの方が持つスキルと経験がマッチすることから、採用を加速させているというのがこれまでの経緯です。
――具体的にはどんな点がマッチするのでしょう?
例えば同じ予約サービスであっても、遊園地などの施設と、コンサートや映画館とでは、予約画面のUIが異なりますよね。遊園地であれば日時を指定すればいいけれど、映画の予約であれば座席指定まで行えるかたちが理想です。
こんなふうに、レジャー施設の種類や規模によって設計時の要件や課題は多岐にわたります。施設ごとの多様な業務プロセスを理解し、お客さまとコミュニケーションを取りながら適切に要件定義をして、設計に落とし込んでいく工程は、SI出身の方の経験が生かせる部分だと思います。
また、こうした多様な業態に対応するために、開発ではドメイン駆動設計を取り入れており、言語はオブジェクト指向のJavaをメインで採用しています。
SIにいたエンジニアの中には、エンタープライズ系のシステムでよく使われるJavaに馴れている方が多いと思うので、技術的な親和性も高いはずです。
実際、私自身もアソビューにジョインする前は大手SIに勤めていましたし、既存メンバーの中にもSI出身のエンジニアは多く在籍していますよ。
SIでの経験を生かす転職のカギは「共通点」を探すこと
――SIから事業会社への転職は「ハードルが高いと感じる」という声も一定ありますが、アソビューのように経験を生かしやすい会社もあるんですね。
たしかにSIと事業会社ではエンジニアの仕事に必要な観点が変わってくるので、転職前に一定の不安が出てくることはあるのかもしれませんね。
SIとしてシステム開発に関わる場合、さまざまな業界のプロジェクトを経験することができるため幅広い知識を付けることができる反面、関わる範囲はあくまでシステムの側面に限定されがちです。
一方で、事業会社で働く場合はシステムだけでなく、「事業全体」を見る広い視野が必要になります。
営業やマーケティング、バックオフィスなどが協力して初めて一つの事業として成り立っている。それを踏まえて業務にあたるために、考え方をシフトする必要性が出てきます。
――そうした違いがある中で、自分にとってベストな会社を見つけるにはどうしたらいいのでしょうか。
月並みにはなりますが、「そこで活躍できるイメージが持てるかどうか」がとても大切なポイントだと思います。
例えば当社であればJavaを用いた開発や、顧客折衝、要件定義のシーンが多くあるので、SI出身のエンジニアの方は自分の持つ経験を生かすことができるイメージが湧きやすいですよね。
そんなふうに、自分がこれまでやってきた経験や知識を洗い出した上で、共通点を見いだせるかどうか。そこがフィットする場所を選ぶのが望ましいのではないでしょうか。
採用担当者が見ているのはビジョン共感への“兆し”
――スキルフィットの他にも、見るべきポイントはありますか?
SIから事業会社に移るのであれば、転職先の会社のビジョンやミッションに対する共感も欠かせないポイントです。アソビューの採用でも、その点は非常に大切にしています。
私たちの場合は、「生きるに、遊びを。」というミッションを掲げていて、ここには遊びを通じて「人々の幸せを支えたい」という思いが込められています。
日本は世界的に見れば豊かで、お金やモノという側面ではそれなりに満たされている人が多いのは間違いありません。しかし、世界と比較して国民の「幸福度が低い」という調査結果があるのも事実です。
衣食住やお金は大切だけれども、物だけではなく心まで満たされなければ人は幸せにはなれません。そこで私たちは、「遊び」、すなわち余暇を充実させるサービスによって、人の幸せを物心両面から支えていきたい。これが、会社の方針です。
ただ、これに対して最初から100%理解したり、共感したりする必要はないとも思っています。
選考時点では、ビジョンに相当な熱量を持っているかどうかというよりも、会社が目指す方向性に対して納得感が持てそうか、「その兆しがあるかどうか」を重視しています。
――100%納得していなくても、その会社がやることの方向性に対して少しでも共感できればいいと。
そうですね。そもそも私自身もアソビューのミッションに対する感じ方や捉え方は徐々に深まっていった感覚があります。
特に、子育てをするようになってから、子どもたちの成長を見守る中で、自然や文化と触れ合う「遊び」の体験が人にもたらすものの大きさをあらためて感じるようにもなりました。
そうしたライフステージの変化によって、会社のミッションが持つ意味を改めて理解できることもあると思います。
そして、それがだんだんと「その会社で働く意味」になっていき、仕事へのモチベーションや、長く働くことにつながっていくわけです。
ですから、長期的な意味でも活躍できる場所を選ぶのであれば、事業会社であるかどうかという点や金銭的な条件、福利厚生だけでなく、その会社の目指すビジョンを見てみることをおすすめします。
――SIから事業会社に移った過去を持つ江部さんご自身は、改めて「エンジニアが事業会社で働く魅力」は何だと思いますか?
私が思う「事業会社でエンジニアが働くやりがい」は、プロダクト作りにおいて、仕様や設計に対してコントロールできる領域が広いということです。
SIでは「クライアントが求めるものを作ること」が仕事ですが、事業会社ではユーザーのニーズや課題をどのように解決するかは私たちがオーナーシップを持って考え、提案し、作りあげていくことができます。
それから、プロダクトは「作って終わり」ではありません。サービスは、ローンチしてからがむしろスタートです。エンドユーザーの声を聞きながら、サービスを育てていくことがメインの仕事です。実際に使ってくれているユーザーのフィードバックを直接受けられることがなによりのやりがいだと感じます。
――サービスを「育てる」フェーズにどれだけ興味を持てるかも、どの事業会社に転職するか判断するためのポイントになりそうですね。
改めて、事業会社への転職の前には、ぜひ次のポイントを自分なりに確認してみてください。
1.スキルフィットして、その会社で活躍できるイメージが湧くか
2.会社のビジョンに共感できそうか
3.その会社のサービスを作って終わりではなく、長く育てたいと感じられるか
この三つのポイントと自分の経験や価値観を照らし合わせ、最も多く当てはまるところに転職できれば、きっと後悔しないと思います。
取材・文/高田秀樹 撮影/吉永和久 編集/河西ことみ
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