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ときめき可視化、次世代ロープウェイ、個人情報の安全性向上…落合陽一×Z世代リーダーが語る“欲しい未来”の創り方【ECDW2022レポ】

働き方

テクノロジーの世界で、Z世代(※)の存在感が増している。デジタルネーティブとも言われる彼・彼女たちが生み出す新たなプロダクト、サービス、システムによって、世の中が大きく変わる日も近いかもしれない。

6月21日(火)~25日(土)にわたってエンジニアtypeが開催したオンラインカンファレンス『ENGINEERキャリアデザインウィーク2022』(ECDW2022)では、Z世代経営者・開発者の山本愛優美さん、須知高匡さん、中村龍矢さんが登壇。

メディアアーティストの落合陽一さんが聞き手となり、3人がいま自分たちの手で創ろうとしている未来のことや、そのために必要な取り組みについて、トークを展開した。

(※)一般的に1990年半ば〜2010年代初頭に生まれた世代。生まれながらにしてデジタルネイティブである初の世代

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メディアアーティスト 落合陽一さん(写真:Ⓒ蜷川実花)

1987年生まれ。メディアアーティスト。1987年生まれ、2010年IPA認定天才プログラマー/スーパークリエータ、15年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。17年より筑波大学准教授、20年より筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長・JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表などを歴任

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Nexstar CEO 山本愛優美さん

2001年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部4年。高校2年時に開業、複数の事業プロデュースを経て、2020年4月より数理心理学・感性工学的に「ときめき」の研究を開始する。現在は心拍に合わせて光るデバイス『e-lamp.』を開発中。WIRED JAPAN/TED×Sapporo/日経新聞電子版/with他、メディア出演多数

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Zip Infrastructure株式会社 代表取締役 須知高匡さん

1997年仙台生まれ、仙台育ち。幼いころからものづくりが好きで、慶應義塾大学入学直後から宇宙エレベーターの研究を始める。世界最大のクライマーの大会であるSPECに2度出場し、その技術を社会実装するべく在学中にZip Infrastructureを2018年に設立

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株式会社LayerX 執行役員兼PrivacyTech事業部長 中村龍矢さん

LayerXにて、プライバシー保護技術の研究開発と事業化を推進。金融や医療、行政等幅広い領域でパーソナルデータの利活用を支援している。2020年度IPA未踏スーパークリエータ。東京工業大学との共同研究が2020年度電子情報通信学会インターネットアーキテクチャ研究賞(最優秀賞)受賞。イーサリアムの脆弱性を複数発見、仕様策定に貢献し、イーサリアム財団のグラントを日本拠点のチームで初めて獲得した

Z世代×テクノロジーで起こすイノベーション

落合:今日はそうそうたるメンバーが集まってくださり、うれしい限りです。では、まず自己紹介をお願いします。

山本:私は慶應義塾大学でイヤリング型のデバイス『e-lamp.』を開発しています。これはイヤリングについているセンサーが耳たぶから心拍を読み取り、読み取った心拍に合わせてLEDがピカピカ光る製品です。

山本:これまで、心拍のようなバイタルデータは医療やヘルスケア業界での需要が目立っていたのですが、「自分のドキドキを他者に見せる」行為をきっかけに、自分の気持ちをポジティブに伝えられるコミュニケーションが取れるような社会をつくれたら面白いかなと。

現在はイヤリングの製品化に向けて動いているところです。

須知:僕は次世代ロープウェイ『Zippar 』の開発をしています。ロープウェイは開発単価が安く、1kmあたり15億円ほどで実装できるのが魅力です。これはモノレールと比較して、5分の1程度のコストです。

ただ、ロープウェイには走行中に右や左に「曲がれない」という最大のネックがあり、都市で大々的に実装するのは難しいと言われてきました。

須知:そこで、ロープとゴンドラを独立させることで曲がれるロープウェイを実現し、都市部での移動をもっとスムーズにしたいと考えています。

事業としては、ちょうど200メートルの試験線の工事が始まったところで、秋には試験が終了する予定です。

いずれは老朽化により休止している上野動物園のモノレールの後継に選んでいただいたり、2027年の横浜国際園芸博覧会(花博)で採用されたりするといいな、などと考えています。

中村:僕は、最先端のプライバシー保護技術を使い、個人情報やパーソナルデータを外部の企業に提供・販売する際の安全性を高めるソリューションをLayerXという会社で提供しています。

『Anonify(アノニファイ)』は、世界中で進む先端的なプライバシー分野の学術研究を土台に、実務的なデータ利活用に応用できるようLayerXが独自に開発したさまざまなアルゴリズムから成るプライバシー保護技術

中村:例えば、山本さんのイヤリング型デバイスも、ユーザーデータを研究機関や医療メーカーから「売ってほしい」と言われるケースがあり得ると思います。われわれの技術を使えば、個人を識別・特定されるリスクなく、安全に外部に販売・提供できるんですよ。

落合:どれも面白いですよね。実は僕も大学2年生の時、「心拍を可視化するネクタイ」を作ったことがあります。山本さんのアイデアに近いかもしれません。

山本さんはいま、『e-lamp.』の開発を進める上でどんな課題に取り組んでいますか?

山本:まずはデバイスの重さですね。いま12gあるのですが、耳にぶら下げるものなので、理想を言えば10g以下にしたいです。

あとはバッテリーの寿命。1日(8時間)持たせるのが理想ですが、最低でも2時間くらい持つものが作れれば製品化できると思っています。

細かなことを言えば、明るさも現段階では自分で調整できないので、Bluetoothに接続して調整できるよう改良中です。

落合:須知さんの開発課題はどうですか?

須知:事故を起こさないための安定性、安全性を保つことですね。実は、ロープウェイのロープが切れたことはこの100年の歴史の中で1回しかないんです。それも、航空機が突っ込んできたことが原因だったため、かなりイレギュラーに近い。

けれども、乗り降りのところは人がからんでくるので問題が起きやすいんです。そこをどうデザインするかが課題ですね。

物理的なものである以上、どのように設計しても事故のリスクを0にはできませんが、なるべくうまく設計してリスクを減らしていきたいと考えています。

仲間と一緒に“欲しい未来”を手にするために必要なこと

落合:ここにいる方には、三者三様の“欲しい未来”像があると思うのですが、その実現に向けて乗り越えたい壁と、必要なことは何だと考えていますか。

山本:いまの壁は、『e-lamp.』を通じて、「自分の気持ちをポジティブに伝える」行為をどのように社会実装していくか、です。

逆質問になってしまうんですが、さっき落合さんも「心拍を可視化して光るネクタイ」を作っていたとおっしゃっていましたよね。なぜ、製品として発表しなかったんでしょうか?

落合:僕のネクタイは、世界中の人につけてもらうプロダクトではないと思ったんですよね。

ある行為が世の中に浸透するには、多くの人が同じものをほしがる必要があるでしょう? でも、光るネクタイを欲しがる人って、むしろ他人と同じようなファッションアイテムはつけたくない人なんじゃないかなと気付いた(笑)

僕はデザイン雑貨を作りたいわけじゃなかったから、めざす社会に対して、アプローチの方法がズレているんじゃないかと気付いたんです。それを踏まえて、『e-lamp.』はどうですか?

山本:これまで、生体情報を他者と共有するユースケースってそんなになかったんですよ。

でも今後さらに技術が進歩すれば、脳波だったり表情だったり、いろんなデータを他者に共有することができると思っていて、そこに何らかの面白い可能性があるんじゃないかと考えています。

落合:でも、自分の情報が他人に見られることを嫌がる人も多いですよね。「自分の生体情報を他人に見せたい社会」ってどんな社会なんだろう。

山本:それはおっしゃる通りで、考慮すべきことだと捉えています。「見せたくないのに勝手に心拍を見られた」という社会は、私の望むところではないので……。

もしも『e-lamp.』が量産できるほどヒットし、多くの人に使っていただけるようになったら、心拍の速さをからかわれたり、いじめにつながったりするかもしれない。

こうしたリスクとどう向き合っていくかは悩ましいところです。『e-lamp.』に限らず、個人のデータを活用する上で、倫理的にどう社会と対話しながら届けていくべきかは大きな課題ですね。

落合:そうですよね。ただ、『e-lamp.』があるとうれしい人がいるだろうな、というのも感じていて。

例えば僕は、ここ5年ぐらい身体障がい者の方が抱える課題をIoTで解決する研究をやっているんですけど、耳が聞こえない人は声色という情報が得られないので、「光情報で他人の感情を判断できるようになると、コミュニケーションが取りやすくなってうれしい」と感じる人も多いような気がします。

山本:そうだとうれしいです。ちなみに、社会実装で私より先を行っている先輩として、須知さんはどのような課題に向き合っているのでしょうか?

須知:最近は開発課題というよりも、自分のパーソナルな問題を解決しなくちゃいけないと思ってますね。

いままでは、とにかく自分で手を動かして物を作るゼロイチのフェーズだったのですが、会社が20人くらいに増えたので、メンバーとの関わり方やマネジメントが新たな課題です。

落合:20人ぐらいは確かに一つの分岐点かもしれないですね。うちの会社は外部委託を入れていま100人ぐらいなんですけど、人数によって経営者やマネージャーがやることも変わってくるので。

何か情報を伝達するときに人を挟まなくていいのか、1回挟むのか、それとも2回挟むのかではコミュニケーションの方法って大きく変わるんですよね。人が増えると社内の体制をそのフェーズにふさわしいものに整えていく必要が出てくる。

須知:そうなんです。ヒントとなるような本を読んだり人に話を聞いたりもするんですが、結局自分が経験するしかないので、なるべく早く壁にぶち当たって悪戦苦闘するような、体当たり的なアプローチがいいのかなと考えて実践しているところです。

落合:欲しい未来を誰かと一緒に創ろうとすれば、誰もがそういう壁にぶち当たると思います。

さて、そうすると、中村さんがいるLayerXはチームとして仕上がっているような気がするんですけど、中村さんは会社というものをどう捉えていますか。

中村:LayerXには経験豊かな経営陣がそろっているので、チームビルディングに関しては皆さんから勉強させてもらってますね。

個人的な話をすると、僕はもともとイーサリアムを研究していたのですが、「もう1人で孤独にやりたくない」という理由でやめた経緯があります(笑)。なので、いま組織に人が増えて、同じ目的に向かってみんなで前に進んでいく感じがすごく楽しいです。

落合:シナジーが効いてるのはいいことですね。熱いスタートアップで働く一番のメリットは、ビジョンに対して同じレベルの熱量を持った人たちがたくさんいることだと思います。

須知さんはどういう観点で人を採用しているんですか?

須知:いろいろな基準はあれど、結局のところ、「その人と一緒に働きたいかどうか」に帰着すると思っています。

ただ一方で、われわれは『Zippar』をいろいろな審査に通さなくちゃいけない。そのためには経験がある人やスキルがある人を大事にしなくちゃいけないんですが、ロープウェイの開発者なんてそもそも日本にほんの少ししかいないわけです。

そうなると、その人が持っているスキルと、自分が一緒に働きたいかどうか、どちらを優先するべきか、判断するのが難しいこともあります。

落合:よく分かります。いまはどうやって判断しているんですか?

須知:採用時点でカルチャーフィットするかどうかももちろん大事なのですが、技術力がある方については、入社してから社内の認識をすり合わせていく過程も重要視するようになりました。

そのためにはインプットをなるべく均一にしたいと思っていて、僕が影響を受けた本を読んでもらうようにしたり、イベントにみんなで一緒に行ったり、感覚や経験をなるべく共有し合うようにしています。

落合:なるほど。では中村さんの乗り越えたい壁は何ですか?

中村:ルールメイキングや法律の部分ですね。実は、個人情報保護法には匿名性、つまり「どうすればプライバシーを保護できるのか」「どの程度のデータまでなら外部に提供してよいのか」の客観的な定義はまだ定められていないんです。

だけど、われわれのプライバシー保護技術を用いれば、そこにある程度明確な基準が生まれるのではないかと。

中村:なので、いずれはその基準を法律や規制に明記してもらい、「われわれのサービスは法的要件を満たしていますよ」と言えるようになったらうれしいです。法律はどの業界・領域でも関わってきますからね。

落合:ポリシーメイキングは大切ですよね。でも、既存のものを変えるのは、新しくシステムを作るよりもずっと大変だったりする。

中村:そうなんですよ。例えば、ネット投票などがそうです。SNSなどを見ていると、「いまどき、なんでスマホで投票できないんだ」と憤っている方は数多くいます。

僕たちも同じ課題意識を持っていたので、つくば市で実証実験をやったのですが、これがなかなか根が深くて難しい問題だと分かりました。

というのも、投票をデジタル化するためには投票内容の秘匿性が保たれ、投票が改ざんされないシステムを作る必要があるからです。

落合:「選挙の管理者が信用ならないやつでも、投票活動がクリーンに保たれる仕組み」ってことですよね。

中村:そうです。ところが選挙に関わるシステムを見てみると、選挙人名簿、マイナンバーカードの認証、選挙委員会の基幹システムなど、いろいろなシステムがバラバラに動いているんです。

ネット投票を実現するには、法律や条例を整え、いまバラバラに動いているシステムを統一する必要があるのだと分かって……。短く見積もっても、あと10年ぐらいはかかってしまうのかなと感じています。

落合:分かるなぁ。人はついつい、「投票システムなんて簡単に作れるだろう」と思いがちなんだけれど、今実際に動いているシステムを統合したり、変更したりするのは新規開発よりずっとずっと大変。

中村:これを乗り越えるためには、一般論ですがロビーイングが必要だと考えています。

新しいルールや規制を作るためには人的にもコミュニケーション的にもコストがかかるので、そのコストに見合うだけのメリットをしっかり提示していくことが必要です。

少し話がそれてしまいましたが、われわれのプライバシー保護技術に関しても、技術の透明性を担保することによって、いかに情報の価値が広がるかをしっかり説明できるかが鍵になってきます。

組織運営はバンドと同じ。リーダーは「ファン意識」を醸成せよ

落合:ここからはフロアの質問に答えましょう。まず、「お三方それぞれが起業しようと思ったきっかけは何ですか」という質問です。

山本:私が起業しようと思ったきっかけは、『銀の匙』(荒川弘)という漫画です。私の地元は北海道なんですけど、この作品は北海道の農業学校を舞台にしていて。

主人公が起業するのを見て、純粋に「かっけー!」と思ったところから、自分も起業したいと思うようになりました。

須知:僕も近いです。僕の場合は、小学5年の時に、友達から借りて読んだ『希望の国のエクソダス』(村上龍)が人格形成に大きな影響を与えてくれました。

なんだろう、大人に反逆したいところがあったんです(笑)。自分の価値を証明することが大人への反逆だと思っていて、今もその反骨精神が少し残っているかもしれません。

中村:私は他のお二人と違い、創業メンバーではあるものの社長ではないので、リスクを取っていない面はあります。

その上で、なぜ事業を立ち上げようと思ったのかは、「対象となる技術に、どのくらい可能性があるのか気になったから」ですね。

かつて1人で研究していたイーサリアムも、いま取り組んでいるプライバシーテックもそうです。なおかつ、プライバシーテックにはとても良い流れが来ているように感じているので、これからどう広げていけるかがすごく気になっています。

落合:次の質問は「落合さんが3人の会社にアドバイザーとして入ったとしたら、どんなアドバイスをしますか」というもの。

落合:そうだなぁ、山本さんの場合は、ニッチな領域のユーザーがみんな使うようなプロモーションを展開するためのアドバイスをします。僕だったらたぶん、聴覚障がいの業界に売り込むかな。

須知さんには、大人たちとの交渉のやり方、人の動かし方について、教えられることがあるんじゃないかと思いますね。

いわゆる“寝技”(表に出ないような駆け引き)で行政や企業と交渉できるような人たちを紹介して、マネジメントスキルを身につけられるように取り計らうと思います。

中村さんには、プライバシー保護技術が学術的にどう広がっていくか、どうやって外国の研究者とつながっていくかが大切になると思うし、僕自身も興味があるので、アカデミックの一分野として広がりを持たせるための手伝いをするんじゃないかな。

ちなみに、みなさん自身がいま最も求めているのは何ですか?

山本:一番求めているのは仲間ですね。これまでずっと1人でときめきの研究や『e-lamp.』の開発をやっていましたが、最近ようやく6人の仲間を採用したんです。

皆さん技術者だったり、社会への実装方法をビジネスの観点から考えたりするメンバーなので、アカデミックな観点でともに研究してくれる仲間にもジョインしてもらえたらうれしいです。

中村:僕は、LayerXの経営陣に経験豊かなメンバーが多くて、的確なアドバイスをもらえることが多いので、特に不足はないですね。逆に、いつか恩返しするために自らを鍛えていきたいと思っています。

落合:須知さんはどうですか?

須知:社員の会社への愛情みたいなものをどうやって醸成していくかですね。いまはプロダクトに対しての愛はあるんですけど、対会社となると、そこまで愛情が育っていないことに課題を感じています。

落合:会社に対するロイヤリティーやエンゲージメントってことですよね。そういうものをどう高めていくか。

僕は、会社の経営陣はバンドメンバーに近い存在だと思っています。目指している方向性は一緒だけど、それぞれが舞台に立つ武器は歌だったり、ギターだったりドラムだったり違うもので。

そして社員は、バンドを裏で支えるスタッフみたいなもので、スタッフである以前に、そのバンドのファンであることが多い。

そういう意味で実は、カスタマーと社員ってすごく近い関係にあると思うんです。だから、社員もお客さまだと捉えて、どうすればもっと自分たちのバンドのファンになってくれるかを考える視点を持てるとよいのかもしれないな、と思いますね。

さて、そうこうしているとお時間になってしまいました。今日はとても楽しい時間をありがとうございました。お三方のプロダクトが社会にもっと広がり、より面白くなる未来を期待しています!

文/松田小牧

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