株式会社Thirdverse 代表取締役CEO / Founder 國光宏尚さん
米国Santa Monica College卒業後、2004年にアットムービー社に入社。取締役として、映画・テレビドラマのプロデュースを行なう。07年に株式会社gumiを創業し、代表取締役に就任。21年7月に同社を退任。21年8月より現職。22年に「メタバースとWeb3」(エムディエヌコーポレーション)を刊行
今最も注目を集めるTechトレンドの一つである「メタバース」。さまざまな企業・個人がこの市場への参入を進めているが、「勝ちプレーヤー」はまだ存在していないように思える。
今後、勝ちプレーヤーとなるのはどのような企業なのか。そしてその現場では、どんな人材が求められるのか。
2022年6月21日(火)~25日(土)の5日間にわたり、エンジニアtypeが主催したオンラインカンテックファレンス『ENGINEERキャリアデザインウィーク2022』(ECDW2022)の4日目には、株式会社Thirdverse 代表取締役CEOの國光宏尚さん、クラスター株式会社 代表取締役CEOの加藤直人さん、VRアーティストのせきぐちあいみさんが登壇。
メタバース業界の中心に立つ3名は、市場の流れをどう読むのか。
株式会社Thirdverse 代表取締役CEO / Founder 國光宏尚さん
米国Santa Monica College卒業後、2004年にアットムービー社に入社。取締役として、映画・テレビドラマのプロデュースを行なう。07年に株式会社gumiを創業し、代表取締役に就任。21年7月に同社を退任。21年8月より現職。22年に「メタバースとWeb3」(エムディエヌコーポレーション)を刊行
クラスター株式会社 代表取締役CEO 加藤直人さん
京都大学理学部で、宇宙論と量子コンピュータを研究。同大学院を中退後、約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にVR技術を駆使したスタートアップ、クラスターを起業。 17年、大規模バーチャルイベントを開催することのできるVRプラットフォーム『cluster』を公開。18年経済誌『ForbesJAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。22年に『メタバース さよならアトムの時代』(集英社)を刊行
VRアーティスト せきぐちあいみさん
クリーク・アンド・リバー社所属。滋慶学園COMグループ VR教育顧問、Withingsアンバサダー、福島県南相馬市「みなみそうま 未来えがき大使」一般社団法人Metaverse Japanアドバイザーを務める。VRアーティストとして多種多様なアート作品を制作しながら、国内外でVRパフォーマンスを披露。17年にはVRアート普及に努め、世界初のVR個展を開催。21年3月に自身の作品が約1300万円で落札された。Forbes Japanが選ぶ21年の顔100人「2021 Forbes JAPAN 100」にも選出
――最初に伺いたいのですが、日本のメタバース市場がより拡大するためには何が必要なのでしょうか。
國光:まずは、ハードウェア・デバイスの進化と普及が重要になります。過去をさかのぼると、最初にPCが普及し、その次にスマホが広まりましたよね。これと同じような流れが、いつ起こるかです。
スマホ時代に勝利を収めた会社は、各サービスのUI・UXをスマホファーストに1から設計することで社会に大転換を起こしました。メタバースの「勝ちプレーヤー」になれるのは、こういった動きができる会社だと思います。
メタバース対応のハードウェアでいくと、Meta Quest2は発売から2年ほどで1600万台を売り上げており、大変勢いがあります。もちろん、他社製の新端末も今後どんどん出てくるでしょう。
波に乗れば、VR機器は3年以内に各社合計で1億台を売り上げる規模になるのではないでしょうか。これは、Nintendo Switchの売上台数とだいたい同じ規模です。
エンジニアの皆さんには、このチャンスにぜひ業界に飛び込んでいただきたいですね。スマホ時代も、いち早く業界に飛び込んだ人の給料は桁違いに上がりましたから。
加藤:國光さんは、メタバース原理主義者みたいなところがありますよね(笑)。なので、メタバースの実現にはVRが必須、という考えをお持ちのはず。僕はもう少し広義のメタバースにも注目しています。
例えば、全世界の30億人がゲームで遊ぶようになった現代は、もはやメタバース時代に入ったと捉えてもいいように思うんです。そこにハードウェアデバイスやVRがなくとも、ゲームをしながらDiscordでだらだら喋る、ソーシャルの中心がデジタル空間で構成されているという大きな流れ、生活様式もまた、一種のメタバースと呼べるのでは? という考え方です。
その上で、日本のメタバース市場には、二つの期待をしています。
一つ目は、カルチャーの躍進です。今はまだ、僕たちクラスター社のように、100件を超える法人バーチャルイベントをやっている会社はなかなかありません。ですが、バーチャルYoutuberのANYCOLOR社がつい最近上場したことからも、日本カルチャーの勢いが感じられます。
二つ目は、VRエンジニアがもっと増えること。こういう新しい領域に飛び込んで来るエンジニアの数は限られていますが、これがEpic Gamesみたいに、エンジニアだけで数千人規模になる会社が日本から出てくると、本格的なメタバース時代が到来するのではと読んでいます。
せきぐち:今は良い意味でカオスで、「これこそがメタバースの本流だ!」というデファクトスタンダードがない。ただ私は、それもまた楽しいと思うんですよね。
Web3の思想を汲んでいるかとか、ブロックチェーン技術を取り入れているかとか、そういった部分が大切だという人もいますが、体感としての過ごしやすさはVRChatやクラスターの方が上に感じます。
今は可能性が無限大に広がっており、それを自分たちでつくっていけるタイミング。夢みたいな世界が実現するまでにはまだ時間がかかりそうですが、人類へのメリットを考えると、この流れが絶対に止まることはない。未来を開拓できるタイミングは、まさに今ですよね。
――皆さんのお話を聞いていると「飛び込むなら今!」ということが伝わってくるのですが、どういったエンジニアにチャンスがありますか?
國光:メタバースのスキルセットとしては、クライアントサイドではUnityかUnreal Engine、3DだったらBlenderが重要になってくると思います。
メタバースに限らず、新しい市場にコミットするにあたっては、自分のスキルがどこで生かせるかを考えてみるとよいでしょう。もちろん、ゼロから新しいツールを勉強するのも楽しいはず。いずれの場合でも、何らかのチャンスは掴めると思います。
加藤:ゲーム業界とWebアプリ業界が混ざり合っているのも、メタバースの面白いところですよね。ベースの技術がゲームだとしても、ユーザーがアップロードしたものをどう共有して楽しむか、というカルチャーが加わってくると、Webアプリ系の発想に近くなる。
カルチャーが異なる二つの業界をどう統合するかが、メタバースムーブメントの醍醐味だと思っています。
――今回のトークセッションのテーマは「メタバース市場の『勝ちプレーヤー』は誰だ?」です。お三方が思う「勝ちプレーヤー」候補を教えていただけますか?
國光:新たなテクノロジーが普及するには、一定の流れが決まっています。まず初めにくるのはゲームです。次にコミュニケーション、広義のエンターテインメント、Eコマースが伸びて、少し時間が経ってFintech。さらに時間が経ってB to BやSaaSが成長し、だいぶ遅れてガバメントがくる。
メタバースにもこれと同じ流れが起きるでしょうから、やはりゲームやエンタメの領域から初戦の勝ちプレーヤーが出てくると予想しています。
加藤:僕としては「弊社(クラスター)こそが勝ちプレーヤーになります」と言いたいところですが(笑)、一般論として言えるのは、勝ちプレーヤーになるにはカルチャーの移り変わりを掴むのが大切だということです。
メタバースの背後にあるのは、2Dから3Dへというグラフィックの流れと、コンテンツの主流がユーザージェネレイティッドへ移り変わる流れです。
2010年代は、動画がインターネットの牽引者でした。これからの数十年は、3DCGとゲームになるでしょう。ハリウッド映画からYouTube、そしてTikTokの時代へ、という流れを掴み、プラットフォームに生かせるどうかが勝敗を決めるでしょう。
ユーザージェネレイティッドに関して言えば、日本にはコミュニティーづくりの上手い会社が結構あるんです。ニコニコ動画、pixiv、かつてのmixiもそうでした。ところが、それをアルゴリズムでスケールさせていくのは苦手。ここをどう打開するかが鍵になるはずです。
あとは、集まったデータをいかにプラットフォームに還元していくかも重要です。これについては、世界的にもうまくやっている会社はまだ見当たりません。
プラットフォーマーとしてのあり方は、弊社としても模索中です。その一環として、産学連携で「メタバース研究所」を設立し、AI研究者とともに研究を行っています。
國光:ちょっといやな質問をしますけど、クラスターさんのプラットフォームが流行ったあかつきには、個人のデータをたくさん集めて売りさばくこともできるわけですよね(笑)。そのあたりをどう考えていますか。
加藤:それはもう、複雑な問題ですよね(笑)。メタバースが本当に普及すると、すべての行動がデジタルの世界になるわけで、ありとあらゆる情報が残ってしまう。
うまく使えばユーザーの生活を向上させるけれど、当然プライバシーの問題も発生します。ここにはイデオロギーも絡んでくるので、答えを出すのは容易ではありません。
せきぐち:少なくとも、提供する範囲は自分で決めたいですよね。その上で私は、快適に過ごせるのであれば、ほぼすべてのデータを提供したいですけど(笑)
私としては、まずは皆さんにもメタバース空間の中に入ってみてほしいですね。技術に関わる知識だけじゃなく、感覚的なところをつかんでほしい。例えば、PCとスマホとではメタバース上での快適さが全然違いますから。
國光:エンジニアとしての勝ちプレーヤーを目指すのであれば、まずデバイスの変化に注目することが重要ですね。
PCからスマホへの変化では、タッチパネルが主流になり、インターネットへの常時接続が前提になるというパラダイムシフトが起きました。そしてメタバースへの変化では、おそらく音声入力が主流になると思います。
また、スマホでは基本的にアプリを一つずつ、切り替えて使っているけれども、メタバースでは複数のアプリを常時起動する形式になるはず。基本的に、すべてがリアルタイムになると予測しています。
このようにすべてのUI・UXが大きく変わることが予想されるため、初期の段階で開発にコミットできる人の市場価値はとても高くなるはずです。
加藤:少し前のスタートアップにいる若い人たちは、D2Cとか、B to BのSaaSに取り組むケースが多かったように思います。それが最近は、メタバースやWeb3をやりますという人が増えている。
ぜひこの流れが加速してほしいですし、シニアのエンジニアの方でも、「最近新しいことを学べていないな」と思ったら前向きにトライしてみていただきたいです。
せきぐち:新しい未来が開けるのは私たちにとってももちろんプラスだけれど、ご高齢の方とか、地方に住んでいる方とか、いろいろな方にとって人生を切り開くツールになるはずです。
私はまだ「勝ちプレーヤー」に手が届く立場ではありませんが、アーティストとして新しいことをするためには、ただ様子を見るのではなく、積極的に飛び込んでいきたい。自分に自信がなくても、失敗しても、恥をかいても、とにかくつくっていくことが大切だと考えています。
――ここからは、参加者からの質問にも回答していただきます。まずは、「全く違う分野でエンジニアとして働いているのですが、メタバース業界に参入するにはどうすればよいですか?」という質問です。
國光:メタバースに限らず、新たな業界に参入する際に重要なのは、サービスやプロダクトについて、ユーザーとしての肌感を持っているかどうかです。他社のサービスをしっかり触って、ユーザーが何を感じているのかを理解しようとする好奇心が重要だと思います。
加藤:メタバース領域は新しく、全員が未経験者みたいなものです。ですから、メタバースへの知見がないことはそこまで弱みに感じなくてもよいかもしれません。
一方で、チーム開発ができるかどうかは大切です。アプリなら比較的少人数でもつくれるけれど、メタバースやVRの領域は組織が大きくなりがちなんですよ。
昔は少数精鋭でよかったから、「普通のエンジニアを100人採るよりも、100倍仕事ができるエンジニア一人に100倍の給料を出せばいい」という考え方もあったんですけれど、メタバースではそうはいかない。だから、チームを組んでやっていける人かどうかが大切になると思います。
――次の質問です。「メタバースに関し、日本はすでに出遅れている気がしますが、皆さんはどこに希望を見出していますか?」
國光:やっぱりゲーム産業ですかね。欧米で流行っているゲームは、基本的に欧米人が好きそうなテイストになっています。そのため、日本のアニメテイストのコンテンツはガラ空きです。やっぱり欧米は欧米のテイスト、アジアはアジアのテイストがあるので、きちんと個性を生かせばチャンスはいっぱいあると思いますね。
加藤:僕は、かつての自動車産業が参考になると思っています。日本がなぜ自動車の領域において世界の「勝ちプレーヤー」になれたかというと、選択と集中をしたからです。
高度経済成長期には、軍国化を防ぐために航空機の製造が禁止され、業界の優秀な人たちが自動車産業に押し寄せました。欧米が自動車と航空機にリソースを分散している中で、日本は自動車ばかりつくるはめになったけれど、かえって功を奏して世界で勝てた。
今の日本に目を向けると、ゲーム産業がすごく元気なんですよ。アメリカや中国が便利なアプリをつくる中で、日本ではずっとソシャゲをつくっていた。これって、かつての自動車産業に似た構造だと思いませんか?
今ソーシャルゲームをつくっている人たちが皆メタバースに来たら、世界の「勝ちプレーヤー」になる見込みはまだ残されていると思っています。
――最後の質問になります。「メタバースの一番の魅力はなんでしょうか?」
國光:一つは、誰も見たことがないような、新しいものをつくり出せること。もう一つは、自分の市場価値がしっかり高まることです。
メタバース領域のエンジニアは、少なくともグローバル市場においては年収1500万円を下ることはないはずです。転職も含めて新しく動き出すチャンスですから、参加者の皆さまはぜひ、Thirdverseをよろしくお願いいたします(笑)
せきぐち:メタバースでは、自分のみならず他の人を別世界へ連れていくこともできます。それって、本来は神さましかできなかったことだと思うんですよね。こうした体験によって、誰かの人生を変えるくらいのきっかけを生み出せるというのは、本当にやりがいを感じることです。
加藤:せきぐちさんがおっしゃるとおり、メタバースの本質的な魅力って、たぶん、どうしようもない現実世界を捨てて、理想の社会や世界をつくれるところにあるんです。
クラスター社でも、9割くらいの社員がアバターを使って会議をし、働き方の面でも新しいルールをつくり出そうとしています。そういうマインドセットを持った人たちにはぜひ、どんどん参入していただき、ともに新しい社会をつくってほしいですね。
文/伊藤祥太
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