北米留学・就労エージェント「Frog」代表
Sennaさん(@onepercentdsgn)
高校卒業後、Web制作者として制作会社に勤務。2008年、ワーキングホリデーを利用して渡航したカナダで就労、永住権を獲得してフリーランスへ。自らの経験を生かして北米留学・就労エージェント「Frog」を立ち上げ、代表を務める
強烈な円安により、若手エンジニアを中心に関心が高まる海外就職。SNSでは「業界未経験だったけど、海外就職で年収1000万円になった」など、サクセスストーリーもあふれているが、そう甘くはない現実も。
「海外に行ったはいいけれど、就職もできず、貯金も使い果たして帰国という人が目立つようになった」
そう話すのは、カナダを中心にエンジニアやデザイナーの留学・就職サポートをする「Frog」代表のSennaさんだ。
若手エンジニアの海外就職に、今何が起きているのか。後悔しない海外就職をかなえるヒントとあわせて聞いた。
北米留学・就労エージェント「Frog」代表
Sennaさん(@onepercentdsgn)
高校卒業後、Web制作者として制作会社に勤務。2008年、ワーキングホリデーを利用して渡航したカナダで就労、永住権を獲得してフリーランスへ。自らの経験を生かして北米留学・就労エージェント「Frog」を立ち上げ、代表を務める
——「Frog」ではエンジニアの海外就職支援を行っていますが、ここ数年で海外就職に関心を持つ人は増えているのでしょうか?
僕らの拠点があるバンクーバーを事例にお話しすると、就職を希望する若手エンジニアは増加傾向にありますね。
カナダはアメリカと比較して就労ビザが取得しやすいのと、シリコンバレーがすぐ南に位置することから、有名なテック企業の支社も多いんです。
いったんカナダで就職してからアメリカの本社へステップアップというキャリアも描きやすく、バンクーバーで働くことに興味を持つエンジニアも少なくありません。
—— 若手エンジニアが海外就職を目指す動機としては、どんなものが多いのでしょうか?
「年収アップとキャリアアップを同時にかなえたい」という人がほとんどだと思います。
年収の観点で言うと、最近は円安ですから、ドルで給料をもらえるだけでもメリットがある。インフレの影響もあり、給料アップのスピードも日本よりずっと早いと思います。
また、キャリアアップの観点では、仮にカナダ、アメリカと北米圏で活躍できずとも、数年働いて帰国すれば、「海外経験があり、英語が話せて、プログラミングができる人材」にはなれるわけで、日本ではかなり重宝されるでしょう。
そのため、日本にい続けた場合と比較して、期待できる報酬レンジはぐっと高くなるはずですよ。
—— 業界経験が浅いエンジニアでも、海外で働けるものですか?
はい。最低限語学力は必要ですが、日本のエンジニアは経験が浅くても仕事に一生懸命取り組む人が多いので、そういう面は海外でも評価されますね。
カナダやアメリカは会社都合での解雇がかなり多いのですが、私が見る限り、日本人エンジニアはなかなか首を切られないし、良い待遇も得やすい。
真面目な勤務態度、仕事をやり抜く責任感など、よく言われる日本人の国民性がプラスに作用している面があるのではないかと思います。
—— ただ、最近は渡航しても就職できずに帰国する人も多いとのこと。何が起きているのでしょうか?
業界未経験や、経験浅めの層に関して言えば、海外就職してどうなりたいのか、何がしたいのか、曖昧なまま渡航してしまう人が増えていることを実感しています。
例えるなら、「球技で世界とるぞ~」くらいの感覚で海外に出ていくものの、球技といっても野球、サッカー、バレー、バスケ……いろいろあるじゃないですか。
「こんなはずじゃなかった」となる人は、具体的な競技も、具体的な目標も決めないまま、「勢いで海外に来ちゃいました」みたいなパターンの人が多いですね。
また、「Frog」にも、「海外に行ったはいいけれど、思っていたのと違うことを学ぶことになってしまった」「就職できず一文無しになって帰国しなければいけない」というような緊急の相談が後を絶たない状況です。
そこで、そのような現状を受けて、先日は海外で就労経験のあるエンジニアを集めて「未経験の海外挑戦を考える会」を開催しました。
——海外就職の目的が定まらないまま、勢いで来てしまう人が多いと。
海外就職に関心を寄せる人自体が増えてきた中で、それと比例するように、“何となく層”も増えたのでしょう。
特に今は、SNSなどでエンジニアの海外就職や年収・キャリアアップの成功エピソードが拡散されがちなので、良い面だけを見てしまう。
それに、失敗談や「行ってみたけれど海外は合わなかった」という人の声はあまり外に出てきません。そういう意味で、得られる情報に偏りが出てしまいがちです。
——では、Sennaさんの元にはどんな失敗談が寄せられているのでしょうか?
例えば、こんな人がいました。
海外に行ってから3カ月間は語学学校に通い、次の3カ月間でプログラミングを学んだ。そこから就職活動をしたものの、慣れない英語での就活に苦戦し、さらに3カ月が経ってしまった。
就職のアテも見つからないし、ビザもおりない。あと3カ月以内に帰国しなきゃいけない、一体どうすれば……。と、こんなふうに、八方塞がりの状況に追い込まれてしまったのです。
——そうならないためには、やはり目的を明確にすることが大事ということですよね?
そうなんです。あとは、「語学学校だけなら、観光ビザでも通える」みたいな情報も、渡航後のビジョンにあわせて収集しておくことができます。
また、北米圏の就活は、その企業が採用をかけているポジションにマッチするスキルがあるかどうかが重視されます。
いわゆるジョブ型の会社がほとんどなので、必要なスキルセットが明確にあるケースがほとんど。それと自分のスキルが合うかどうかが判断基準です。
だからこそ、自分がどのような会社に就職したいのか、そこでどんな仕事をしたいのかをあらかじめ決めておき、それに必要なスキルがなければスクールに通うなどして習得しなければいけません。
—— 目的に合わせた下調べをすることで、失敗する確率を下げるわけですね。
はい。ただ、ここまで下調べをしても、「こんなはずじゃなかった」は依然として生じる可能性があります。初めての海外生活は、多かれ少なかれ「こんなはずじゃなかった」の連続だからです。
例えば住居にしたって、よほどの財力がなければ物価の高いバンクーバーで一人暮らしは無理。ルームシェアをしたり、郊外にある安いアパートメントを探したりする必要があります。
慣れない生活の中で、カルチャーギャップやストレスを感じる可能性はどんな人でも十分あると思いますよ。
—— 仮に、駆け出しの若手エンジニアが北米圏の会社で就職ができたとして、「すぐに年収1000万になれた」というようなことは起こり得るのでしょうか?
チャンスはあるけれど、実現できるかどうかは自分次第ですね。「海外に行きさえすればホワイトな環境で働けて、自動的に高年収が得られる」なんてことはありません。
やはり、ある程度は英語力が必要だし、ジョブディスクリプションに応じて業務を遂行し、成果を出す必要がある。
さらに、日本の企業のように自動的に給料が上がっていくこともありませんから、会社との交渉も大事な要素になってきます。
——交渉ですか?
はい。北米の企業で働くエンジニアの多くは、転職を重ねて年収を上げていきます。その時に、転職先の企業と交渉し、今の年収よりも上げてもうらことが多いんですよ。
それで、内定をもらったA社からはこれくらいの年収を提示されているけれど、どうか。という話を今の会社に提示し、それ以上を払えるのかどうか交渉する。それで今いる会社が「もっと出すよ」ということであればそこに残る……というような感じ。
いずれにしても、エンジニア本人が交渉していかないと、年収は勝手には上がらないとは思いますね。
—— なるほど。海外就職の目的が「年収アップ」というエンジニアも多いということでしたが、自分で年収アップを勝ち取るスタンスは問われるわけですね。
はい。ですから、まず意識したいのは、交渉力を含むコミュニケーション力です。自分のアピールなくして、受動的に高評価をもらい続けることはできません。
少しくらい語学がつたなくたっていいから、自分の実績をどんどん上司に伝えましょう。
日本人は「完璧じゃないとダメ」と思い込んでしまい、すばらしい行動をとっていても謙遜してしまう傾向がありますが、北米圏ではずうずうしいくらいがちょうどいいですよ。
—— Sennaさんが、海外就職を検討している若手エンジニアに必ず伝えていることはありますか?
前の話と重なりますが、渡航後に「どうなりたいか」をしっかりイメージしてほしいということですね。
日々いろいろなご相談を受けていると、海外就職うんぬんの前に、そもそも、どんなエンジニアでありたいか、エンジニアとして何がしたいのかすらぼんやりしている人もいます。
ただ、それだとどうしても、海外渡航後に「こんなはずじゃなかった」という状況に陥ってしまいがち。
勢いで海外に行って就活に失敗して帰国するというのも、経験ですから必ずしも「失敗」とは言えないかもしれませんが、やはり、気持ちもお金も消耗するケースが多いのは事実です。
そうならないために、まずはなりたい姿、手にしたいものをしっかり決めて、そのゴールに向かって情報収集をしてみましょう。自分が理想とする姿に近い状況にいる人に話を聞いてみるのはすごく有効だと思いますよ。
もちろん、自分だけでは十分な情報が集められないと思ったら、僕たちのような存在を頼ってもらうのも一つの手です。
せっかくのチャレンジを後悔で終わらせてしまわないように、“ふんわり海外渡航”をする前にじっくり考えてみてほしいと思います。
取材・文/夏野かおる 企画・編集/栗原千明(編集部)
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