売り手市場のエンジニアとはいえ、長く活躍していくためには「一流」と呼ばれるようなスキルを磨いていくことが必要だ。しかし、技術力が物を言うエンジニアリングの世界で「一流」と呼ばれる人たちは、一体どんなスキルを持った人たちなのだろうか?
そこで、中小企業のセキュリティソリューションの導入からエンタープライズのサイバーセキュリティ対策まで幅広くIT関連事業を手掛けるセキュアエッジ、SNS『mixi』や『モンスターストライク』『家族アルバム みてね』といったコミュニケーションサービスを幅広く展開するMIXI、次世代型テックバンクを標榜し、銀行APIや組込型金融の普及・発展を推進するGMOあおぞらネット銀行の代表・CTO三名による座談会を実施。
これからの時代に「一流」と呼ばれるエンジニアが備えている素養とは何か、また、そうしたエンジニアを社内で育成するために各社が取り組んでいることは何なのか。テック領域のプロフェッショナルが三者三様の立場で語った。
セキュアエッジ株式会社 代表取締役
西島正憲さん
セキュリティ最大手企業であるシマンテックに11年間勤務、米国本社直属の製品戦略部門でアジア・太平洋地域の製品責任者として、標的型攻撃対策製品やメールセキュリティ製品の製品戦略に携わる。2015年にセキュアエッジ、その後、脆弱性診断に特化したセキュアエッジテクノロジーを設立。世界トップベンダーであるPalo Alto Netwoks、Crowdstrike、CyberArk等のパートナーとして技術支援やMDRサービスなどの自社サービスにも力を入れている
株式会社MIXI 取締役CTO
村瀨龍馬さん(@tatsuma_mu)
ゲームの専門学校に半年在籍した後、2005年にイー・マーキュリー(現:MIXI)に入社。SNS『mixi』の開発に携わる。09年に一度退職し、ゲーム会社のエンジニアや役員を経験。13年にミクシィ(現:MIXI)に復帰し、『モンスターストライク』の開発に携わったほか、XFLAG開発本部本部長を務め、18年には執行役員CTOに就任。19年6月より現職
GMOあおぞらネット銀行株式会社 CTO
矢上聡洋さん(@akihiro_yg)
日本アイ・ビー・エム入社後、カード・信販系の顧客担当エンジニア、SE、アーキテクトとして従事。その後、金融系チーフアーキテクト部門責任者として、金融全般の顧客におけるエンタープライズアーキテクチャ、インフラアーキテクチャ設計を推進。2019年7月よりGMOあおぞらネット銀行にて現職
最前線で活躍するエンジニアは「良い意味でハッカー気質」
——今回は「セキュリティ」「コミュニケーションサービス」「金融」と、それぞれ違う領域をテクノロジーの力でリードする3社の代表・CTOにお集まりいただきました。まずは、各社がいま特に注力している事業について教えてください。
西島:セキュアエッジはセキュリティ領域に強みを持っている会社で、次世代ファイアウォールやEDR、フォレンジック製品などを組み合わせた包括的なセキュリティソリューションを提供しています。取引先は有名コンサルティング企業からITベンダーまでさまざまです。
最近特に注力しているのは、月額990円のEDRライセンスと運用代行を組み合わせたセキュリティサービス『セキュアエッジMDR99』。このサービスは、IPAサイバーセキュリティお助け隊の認定を受け、さらに中小企業向けの「IT導入補助金」の対象となることもあり、現在多くのお客さまから問い合わせをいただいているところです。
今後、「日本の9割を占める中小企業のビジネスを支える存在」になることを目指しています。
矢上:GMOあおぞらネット銀行は、「すべてはお客さまのために。No.1テクノロジーバンクを目指して」というコーポレートビジョンを掲げて事業を推進しています。
1994年にビル・ゲイツが「銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる」と発したように、当社は事業開始時より「他行にはできないアイデアをテクノロジーで実現し、お客さまに寄り添う銀行になろう」という思いを胸に、金融をとりまくさまざまな課題に挑戦し続けてきました。
具体例を挙げるとすれば、銀行APIの提供です。
2016年頃から個人事業主向けの家計簿ソフトが流行し始め、「アプリと銀行口座を連携したい」というニーズが高まりました。当時は法整備も進んでいなかったため、家計簿アプリへ銀行IDとパスワードを入力する仕組みになっていましたが、セキュリティリスクが心配されていました。
この課題を受けて17年に銀行法が改正され、オープンAPI(銀行側でのAPI公開)の努力義務が課されることになりました。単に法制度に対応するだけでなく、いかにお客さまに使いやすいAPIを用意するか、他と一線を画す取り組みをしたのが当社でした。
現在では無償・有償を合わせて35種類のAPIを公開し、開発を後押しするサンドボックス(テスト環境)を提供するなど、テクノロジーの力で新たな銀行のあり方を切り開いています。
村瀨:MIXIは今も昔も変わらず「コミュニケーションサービス」に強みを持ち、SNS、ゲーム、スポーツなど幅広い事業を展開してきました。
スポーツに熱狂したり、友人や家族と心温まる交流をしたり。人と人とのつながりから生まれるコミュニケーションを支援し、盛り上げ、ユーザーの生活を彩ることが私たちのミッションです。
今後も豊かなコミュニケーションを広げられるようなサービスを生み出していきたいと思っています。
ーー皆さんの会社では、どんなエンジニアが活躍しているのでしょうか?
西島:当社が主戦場とするサイバーセキュリティ領域は、ハイレベルな攻撃者に対して一手、二手先を読んで対応しなければならない分野です。
さまざまな手法を使った攻撃を仕掛けてくるハッカーに対応するには、ネットワーク、サーバー、エンドポイントなどの幅広い分野への知見が欠かせません。そういった意味では、ハイレベルなエンジニアが集まった組織だと自負しています。
また、サイバーセキュリティの領域で活躍するエンジニアは、良い意味でハッカー気質を持っているとも言えるかもしれません。なぜなら、脆弱性診断などは攻撃者のハッキング手法を凌駕してこそパフォーマンスを発揮できる分野だから。
お客さまの大切なデータや資産を守るために、時に執念深くセキュリティの穴を探し出せるようなエンジニアこそ、当社で活躍できる人材だと言えると思います。
矢上:西島さんの言う「良い意味でのハッカー気質」を持ったエンジニアが活躍できる、という点には同感です。
お客さまの大切な資産を預かる銀行は、法令を順守し、高いモラルをもって事業に取り組まなければなりません。
しかし、それだけで十分かというとそうもいかない。特にテクノロジー関連においては、いまだ法律の整備が追いついていない実態もあります。
絶対に守らなければならないルールがあることは大前提。一方で、これまでに提供されてきたサービスの要・不要を洗い直し、テクノロジーの力でより便利にできる余地があるはずです。
なので当社では、「もっとチャレンジできるポイントはないか?」「大前提から考え直すことはできないか?」という視点をもつことができるエンジニアを採用し、育てています。
ーーMIXIではどんなエンジニアが活躍していますか?
村瀨:当社の場合は、エンジニアという仕事の形にとらわれず「やれることがあるなら何でもやってみよう」という柔軟性を持っている人材が多いと思います。
「自分はエンジニアだから、〇〇はやりません」と線を引いてしまうタイプの人だと、成長の機会を逃しやすい。
自分の中に何か一つ芯を持ちつつも、他の人のアイデアや専門外の領域の知見も柔軟に取り入れられるようなエンジニアが活躍していますし、そういった人材の方が成長しやすいと思います。
技術に純粋、起業家精神、観察力と好奇心…一流エンジニアの条件
ーー昨今、エンジニアに求められるものが技術力だけではなくなっている印象です。皆さんが考える「一流のエンジニア」とは、どのような人材なのでしょうか?
西島:一言で言うなら「技術に純粋な人」ですね。技術力そのものだけでなく、技術に対するスタンスが一流の人と二流の人の違いなのかもしれません。
例えば、セキュリティエンジニアとして高いパフォーマンスを発揮するには、本当に幅広く、豊富な知識が必要なんです。その上、最先端の知識をキャッチアップしていく貪欲さも求められます。
技術的にハードな領域だからこそ、最終的には「技術が好き」という気持ちをどれだけ強く持っているかが成長速度を左右すると考えています。
ーーセキュリティ領域で長く活躍されてきた西島さんならではのお考えですね。矢上さんと村瀨さんはどうでしょう?
矢上:「起業家精神を持つ人」でしょうか。これは私の意見というよりも、時代の影響でもある気がします。
というのは、20年前は、何人ものエンジニアで分業しなければできなかったプロダクト開発でも、今や既存のコンポーネントを組み合わせれば一人で開発できてしまう場合もあります。
となると、おのずとプロダクトの種を生み出すアイデアが肝要になってきます。
なので、エンジニアも“一流”と呼ばれる領域にいきたければ、プロダクトの種を生み出せるような能力が求められるのかな、と感じますね。
村瀨:私は「観察力」と「好奇心」の二つを兼ね備えていることが、一流のエンジニアの条件なのではないかと思います。
プロダクトを良くしていくためには、プロダクトそのものの状態や、それをつくる開発チームの現状、それぞれの課題をモニタリングし続ける必要がありますよね。
次から次へと課題が生まれる中で、「今はどれにフォーカスすべきか」を決定するためには、観察眼が必要です。
その上で、新たなプロダクトを生むためには、好奇心も欠かせない。
エンジニアリングの道だけを極めることはもちろん尊いですが、例えばエンジニアリング×マーケティングとか、エンジニアリング×デザインといったように、別の領域と掛け合わせることによって生まれる価値もあるわけです。
そうした有益なコラボレーションを実現するためには、幅広くアンテナを張る好奇心がいる。なので、どちらか一方ではなく両方を持っていると良いですね。
ーーでは、そんな「一流のエンジニア」を育てるために、各社ではどのような仕組みを設けていますか?
西島:泥臭く聞こえるかもしれませんが、実務経験に勝る学びはないと思っているので、難易度の高い案件にもどんどん若手のエンジニアをアサインしています。
最初は失敗したっていい。むしろ、失敗やトラブルこそ積極的に体験してもらいたいと思っているくらいです。
もちろんお客さまあっての仕事なので、フォローができる上長や先輩がそばにいる状態であることが大前提ではありますが、失敗を恐れすぎてエンジニアの行動を制限していては、成長させることもできませんから。
それに、失敗から学べることって多いと思いませんか? 「自分の書いたスクリプトのせいで障害を引き起こしそうになった」としたら、次からは同じミスをしないはずですからね。
村瀨:当社がエンジニア育成のために取り組んでいるユニークな例として、あえて「非エンジニアに向けた勉強会」をご紹介したいと思います。
私としては、エンジニアが成長するのは「チャレンジのしがいがある課題が現れたとき」だと思うんです。
「どうやったら解決できるんだ?」「こうやったらいけるんじゃない?」と試行錯誤しているときが一番楽しいし、成長にもつながる。
だからこそ、エンジニアを育てるためには、エンジニアの好奇心をくすぐるような「絶妙な課題」が次々に生まれる環境を整えるべきなのでは? と考えました。
ただ、「絶妙な課題」というのは、エンジニアだけのチームからは生まれづらい側面があります。
なぜかというと、エンジニアは「この技術でできること・できないこと」が何となく分かってしまっているからこそ、突拍子もないことを思い付きづらいんです。
そこで、あえて非エンジニアに向けて技術に関する勉強会を開き、その技術で実現したいアイデアを出してもらうことにしました。
出てくるアイデアは玉石混交ですが、ある程度カオスな状況の方が、既存の枠にとらわれない発想が出てきやすい。
その中から、時にエンジニアの目を輝かせるような面白い課題が生まれるんですよ。
矢上:勉強会というキーワードに近しいところでいうと、当社では、エンジニアが外部のプログラミングスクールの講師を務める機会を設けています。
「起業家育成」をミッションとするスクールなので、講師として教壇に立つと、受講生の熱がひしひしと伝わってくる。
ベンチャースピリットを刺激されるだけでなく、講義に足るような知識・スキルを磨かなければという気持ちにもさせられるので、自分自身の学びも深まりますよ。
この講師活動以外にも、当社の技術動向や取り組みを社内外に広く分かりやすく発信する「エバンジェリスト制度」を推進しています。具体的には、当社の取り組みを知ってもらうために、技術ブログなどを運用したり、イベントに登壇したりしています。
銀行というと、あまり外部に向けた情報発信やナレッジのアウトプットをしないイメージがあるかもしれませんが、人に伝えることで、自らの知識や経験が整理されていく効果がありますよね。
エンジニア一人一人の技術向上につながるのはもちろん、社外の技術コミュニティーにも貢献もできる一石二鳥の取り組みです。
ーー技術力の向上のために、アウトプットを推奨しているということですね。MIXIはどうですか?
村瀨:MIXIでは、エンジニアの新卒研修にかなり力を入れています。
例えば、Unityでのゲーム開発やAI、セキュリティ研修など多種多様なプログラムを展開しており、一部資料は動画も含めて外部にも公開しています。
Gitの使い方やデータベースの基礎知識など、幅広い分野をカバーするため「これさえ見ておけば一通りの知識は身に付けられる完成度」になっているはずです。
「新卒研修」と言いましたが、活用できるのは新卒に限った話ではありません。
どんなにベテランになっても人間ですから、ところどころ抜けている知識はあるんですよね。ところがベテランであるが故に、「いまさら聞けないな……」と知識が抜けたままの状態を放置してしまうことも多い。
そんなとき、新卒研修資料を広く公開しておくと、ベテランが「この部分はよく知らなかったな」と自省するきっかけにもなるんです。
一流のエンジニアを目指して成長したいなら、年齢や年次にかかわらず「自分に何ができないか」を知る謙虚さは絶対に必要ですからね。
ーーMIXIの研修資料は、公開されるやいなやSNSでも話題になっていましたよね。セキュアエッジでは、エンジニアの成長意欲を高めるために取り組んでいることはありますか?
西島:ハイレベルなエンジニアほど「同じ仕事」をこなすだけではすぐに飽きてしまいますよね。向上心が高いからこそ、「この組織では成長できない」と感じた瞬間にモチベーションが下がってしまうリスクがあります。
なので、エンジニアの興味・関心を刺激し続けるべく、会社として常に最先端の情報を取り入れることができるように努めています。当社では海外のさまざまなセキュリティソリューション製品を数多く取り扱っている関係上、日本の1年、2年先を行く最新技術の情報が常に入ってくる環境がありますから。
また、攻撃者たちは次々と新しいパターンの攻撃を繰り出してくるので、それに対応すべく、エンジニアとしてのスキルを高め続けなければならない緊張感もあります。
セキュアエッジにはエンジニア自身が「技術屋」としてトップを走るのにぴったりな環境が整っているのです。
大きな課題にコミットするには、熱意あるエンジニアの存在が不可欠
ーーでは、皆さんが「一緒に働きたい」と思うエンジニア像を教えてください。
矢上:銀行のイメージからは外れるかもしれませんが、ベンチャースピリットを持つエンジニアに集まってもらいたいですね。
銀行というレガシーな領域で戦っていくためには、「銀行は斜陽産業」という固定概念を打ち砕くような情熱とオリジナリティーを備えたエンジニアとともに働きたい。
コンプライアンスは守りつつも、「銀行がこんなことにチャレンジするのか」と驚かれるような挑戦を続けていきたいです。
ーーMIXIは、どのようなエンジニアを仲間に迎えたいですか?
村瀨:MIXIでは「発明」「夢中」「誠実」という三つのバリューを掲げているので、そこに共感してくれるエンジニアと働きたいですね。
「発明」は、目的を達成するために、従来とは違う新しいアイデアを考えられる視点のこと。「夢中」は、自分自身がそのアイデアを面白いと感じ、没頭する力のこと。
そして、「誠実」についてはユーザーはもちろん、チームメンバーに対して真摯に向き合い、ともに成長しようとする姿勢のことです。
今日集まった3社は会社規模も事業領域も異なりますが、お話を聞いていると、結局のところ「誠実に、熱意を持って取り組む」ことが一流への近道なのだなと思いますね。
ーー最後に、セキュアエッジが求めるエンジニア像は?
西島:ここまでいろいろとお話ししてきましたが、最終的には「一緒に頑張れる人かどうか」が重要です。
当社は規模をさらに拡大しながらますます成長していこうというフェーズなので、新しいことにも楽しみながら挑戦してくれるようなエンジニアの力が必要だと思っています。
村瀨:セキュアエッジさんが取り組んでいる「中小企業のセキュリティ向上」って、国としてもかなり大きな課題ですからね。
そこにコミットしていくためには、芯の部分に熱い思いを持っていてほしいという気持ちはすごく共感します。
西島:熱いエンジニアが満足して働ける環境をつくるために、私自身も代表として努力していきたいです。
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取材・文/夏野かおる 撮影/桑原美樹