海外有名テック企業の大量解雇や採用停止、円安の影響による海外就労人口の増加など、ITエンジニアを取り巻くニュースが多かった2022年下半期。「日本のテック企業やエンジニアへの影響を考えた」という方も多いだろう。そこで『エンジニアtype』では各識者や最前線にいるエンジニアたちにインタビュー。2023年のIT転職市場は一体どうなるのか。少し先の未来を考えてみた。
「売り手市場なのに採用されない」駆け出しエンジニアにありがちな転職の思い込み五つ【キャリアアドバイザー えさきまりな】
中途採用で売り手市場が続くエンジニア。コロナショックとともに一時は減ったポテンシャル層の採用も再び回復し、駆け出しエンジニアでも転職しやすい状況が続いている。
これまでにエンジニアの転職を数多く支援してきたキャリアアドバイザーのえさきまりなさんは、「2023年以降も、IT業界をはじめさまざまな業界でエンジニア採用は活発。IT人材不足にあえぐ企業は依然として多く、駆け出しエンジニアでも自主的に学びスキルアップできる人の需要は大きい」と話す。
一方で、「売り手市場の今だからこそ、『転職すれば必ず年収を上げられる』『今こそ自社開発の会社に転職した方がいい』など、思い込みも多い」と警鐘を鳴らす。
2023年に転職活動を本格化させる前に、駆け出しエンジニアが払拭しておきたい「転職の思い込み」とは? 五つのポイントで紹介しよう。
SHE株式会社 えさきまりなさん(@MarinaEsaki)
1986年生まれ。短大卒業後、自動車ディーラーでの事務職、エステティックサロンでの接客・店長経験を経て、2016年株式会社キャリアデザインセンターへ入社。キャリアアドバイザーとして実績を残し、20年に退職。現在はSHE株式会社にてキャリアコーチングを担いながら個人でも人材紹介を行うなどキャリアアドバイザーとして活躍している
思い込み1:ポテンシャルさえあればすぐ採用される
現在、転職市場でエンジニアが採用されやすい状況にあるのは事実ですが、いくら技術力やポテンシャルがあっても、転職活動がうまくいかない人がいるのも事実。
エンジニアの中には転職を重ねてキャリアアップを狙う人もいますが、採用する企業からすれば、できるだけ長く働いてくれる人を迎えたいのが本音です。
ですから、これまでの職場を「人間関係がうまくいかないから」というような理由ですぐ辞めてしまったり、つらいことや困難なことが少しでもあるとすぐ逃げ出してしまったりするような人ではないことを面接・面談の場で確認する企業が多いと思います。
そこで大事なのは、これまでの退職理由をはっきり伝えられることと、自分が今回の転職で何をかなえたいと思っているものが何かを明確に伝えられること。人事が「うちで働いてもらえば、この人は長く幸せに働けそうだ」と感じられれば、採用につながりやすくなります。
また、駆け出しエンジニアであっても、ある程度は前職でどんな成果を出した人なのかを問う企業も多いです。「ポテンシャルがある」ということだけでなく、前職までに自分が取り組んできた仕事の実績とあわせて新しい職場のビジネスにどう貢献できるのかを伝えることが必要です。
思い込み2:受託開発より、自社開発ができる環境に移るべき
また、売り手市場の今だからこそ「自社開発の会社に移っておくべき」と考えて、転職相談に訪れるエンジニアも少なくありません。
ただ、何となくで「自社開発の会社に行く方が成長できる」「キャリアアップできる」と思い込んでいるなら、少し冷静になるべきだと思います。
受託開発と自社開発、それぞれメリット・デメリットがあるので、どちらの環境がベストかは人それぞれ違うもの。
受託開発の方が、さまざまなプロジェクトに入ることができ、多様な技術に触れることができるためエンジニアとして成長しやすいとも言えますし、時期によって違うプロジェクトにアサインされるため、わずらわしい人間関係に悩まされないという側面があったりもします。
実際、受託開発の会社から自社開発の会社に転職した人の中には、「業務量や仕事の責任範囲が広がったのに給料はそこまで伸びず、会社の規定で副業もできずで割に合わなかった」と話すエンジニアがいました。
自社開発で年収を伸ばしていくなら、現場で作業ができるだけではなく、組織人として人を動かすような仕事をしたり、ビジネス視点も磨いて事業を伸ばしていくような動きが求められます。「技術だけ」であれば、むしろ受託開発の方が稼げる可能性もあるでしょう。
受託か自社開発か、働く環境を選ぶにも、自分が転職に求めるものは何かを明確にした上で冷静に判断する必要があります。
思い込み3:エンジニアなら、転職すれば年収はすぐ上がる
あらゆる業界でエンジニア採用が活発な今だからこそ、「転職すれば必ず年収を上げられる」と思い込んでいる人も目立ちます。
ネットに「エンジニアになって年収1000万円」などのうたい文句がそこかしこにあふれている時代なので誤解してしまう人も多いのですが、一般的にSESなどでキャリアをスタートした場合、エンジニアの年収は300~400万円程度になる場合がほとんど。
そこから組織に所属しながら年収1000万円以上をかなえるには、相当な技術力やビジネススキルが求められます。作業しかできない人だと、エンジニアでも年収500~600万円までが一つの目安になるでしょう。
また、転職で「年収を上げたい」と言っておきながら、過去の成果や実績について触れないまま面接を終えてしまう人もいます。無論、希望を伝えるだけで年収が上がることはありません。
いくら駆け出しエンジニアであっても、年収を上げる転職をかなえたいのであれば、それとセットで「何ができる人なのか」「どういうふうに成果をあげられる人なのか」を示さなければ、年収アップの希望は通りにくくなります。
企業が「高く買いたい」と思う人は、その会社でそれ相応の「利益を生み出せる人」です。その人が事業にどれくらい貢献してくれる人なのかを実績ベースで考えて、入社時の年収を提示してくれると思います。
ただ、儲かっている業界や企業であれば、もともとの給与水準が高く設定されているため、自然と年収が上がることも。特に、金融業界やコンサルティング業界、外資系企業は23年も引き続き好調で、給与水準も他の業界に比べて高いと思います。
思い込み4:今こそ大手・有名企業に転職すべき
ここ1~2年で大手企業が、ポテンシャル層にまで採用対象を広げることが増えてきました。そのため、この機会に自分のキャリアアップにつながるような「銘柄のいい大手企業に転職すべき」と考える人もいます。
ただ、大手に行くことや、有名企業に入社することが駆け出しエンジニアにとって最適な選択かというと、そうとは限らないので要注意。
例えば、大手企業には潤沢な開発資金や研究資金があり、エンジニアにとって魅力的に映る部分もあるかもしれませんが、組織の規模が大きくなればなるほど、一人一人のエンジニアの仕事が部分的になってしまうことも。
仕事の全体像が見えにくくなり、やりたい仕事に関われるとは限らず、責任あるポジションに就く機会もなかなかめぐってこない……。そんな環境にフラストレーションを感じる人もいます。
さらに、社内の調整作業が増え、気付けば「これってエンジニアの仕事なの?」と言いたくなるような、資料作成の仕事ばかりしていた……なんていう話が聞こえてくることも。
大手企業の中で上流の仕事に携わりたいなら、高い技術力と、人や組織を動かせるビジネスパーソンとしての力の両方が求められます。
一方で、企業は無名であっても、ポテンシャルのあるプロダクトを開発していて、若手に大きな裁量や挑戦の機会を与えてくれる優良企業は数多く存在します。
それが数名しか社員がいない小さな会社だったとしても、そこにCTOのような立場で入らせてもらい、技術も経営も「両方やる」環境で働く方が、圧倒的に成長できるとも言えます。
転職に何を望むか次第ですが、必ずしも「大手がいい」とは限りません。目の前の収入・待遇アップだけでなく、長期的な目線で自分のキャリアを見たときに、今どんな環境で働くことがよいのか、じっくり検討してみることをおすすめします。
思い込み5:優秀なエンジニアがいるベンチャーにいけば、自分も成長できる
最近では、大手企業だけでなく、有名ベンチャー企業がポテンシャルのある若手エンジニアの採用に乗り出す機会も増えました。
また、そうした企業には著名なCTOや優秀なエンジニアが多数在籍しているため、「ここに入ればおのずと自分も成長できそうだ」と考える人もいます。
実際のところ、伸び盛りのベンチャーであれば、周囲の仲間からの刺激もあるし、挑戦できるチャンスもたくさんあって、良い成長環境があることは確かです。
ただ、同じ環境にいても、その環境を生かせる人と生かせない人がいるのは事実。新卒時代の同期を思い出してみてください。同じ会社、同じ環境で育ったにも関わらず、皆が同じ成長を得られているわけではありませんよね。それと全く同じです。
つまり、成長は人や環境にさせてもらうものではないということ。自分がいかに能動的になれるかで、環境を生かせるかどうかが変わります。
そう考えてみると、今の職場環境を最大限生かし切れているでしょうか? 能動的に仕事で挑戦を重ね、その都度、先輩や上司にフィードバックをもらい、改善するような動きがとれているでしょうか。
自分の仕事に対する姿勢を変えるだけで、実は今の職場でも大いに成長できる可能性があります。それも含めて、本当に転職すべきなのか、転職するならどうすれば望むような成長が得られるのか、考えてみてください。
「思い込み転職」で後悔する前に、プロの力は遠慮なく借りよう
ここまで、駆け出しエンジニアの方が売り手市場の今だからこそ勘違いしてしまいがちな、転職の思い込みについてお話ししてきました。
こうした思い込みが生まれている背景には、「転職前に誰かに相談する」アクションを飛ばしてしまう人が増えたこともあるのではないかと考えています。
「エンジニアなら転職できる」という状況だからこそ、誰にも相談せず、いきなり選考に進んでしまう人が少なくないのです。
ただ、転職活動を本格化させる前に、キャリアアドバイザーやキャリアカウンセラーに自分の状況や希望を話すことによって、スキルの棚卸しができたり、意図せず狭くなっていた視野がぐっと広がったりすることがあります。
また、「人とコミュニケーションをとるのがあまりうまくない」という自覚がある人もエンジニアの中にはいるかもしれませんが、そういう場合は転職エージェントを活用することで、企業との交渉など、自分の苦手な部分を代わりにやってもらえることもあります。
ただ内定をもらうだけなら一人でもできるかもしれませんが、プロの助けを得た方が、後悔の少ないより良い転職がかなえられるケースが多いはずです。
いずれにしても、いい転職をかなえるためには、自分の希望を明確にすることが欠かせません。プロに相談したり、カジュアル面談などで人事や他社の社員と話す機会を設けることで、自分の考えを整理し、より良い選択ができる状態をつくってから転職先を決めることをおすすめします。
取材・文/栗原千明(編集部)
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