アイキャッチ

「和製Web3サービス、増えていくはず」起業家たちが語る日本と世界のWeb3最前線&未来予測【渡辺創太/中村健太郎/藤本真衣(GMO Web3)】

働き方

世界中で大きなムーブメントを巻き起こしている「Web3」。興味は持ちつつも日本国内での勝機を見い出せていない人や、海外事例も含めて情報収集中の人などさまざまだが、多くのエンジニアが注目しているキーワードに違いはない。

そこで今回は、GMOインターネットグループが2022年12月6日・7日に開催したテックカンファレンス「GMO Developers Day 2022」より、アメリカやシンガポール、スイスで活躍中のWeb3起業家たちが登壇したセッションを紹介したい。

「世界で戦うWeb3起業家たち」と題して実施されたセッションには、日本発のパブリックブロックチェーン「Astar Network」ファウンダーである渡辺創太さん、日本円ステーブルコイン「GYEN」の開発・運用で名をはせる中村健太郎さんがスピーカーとして登場。GMO Web3取締役・藤本真衣さんのモデレートにより進行された。

海外拠点の選定理由から世界と日本のWeb3の現状、エンジニアがWeb3業界で活躍するための条件まで語り尽くされた充実の内容をお届けしよう。

プロフィール画像

Astar Networkファウンダー
GMO Web3株式会社 顧問
渡辺創太さん(@Sota_Web3

日本発のパブリックブロックチェーン「Astar Network」ファウンダー。STAKE TECHNOLOGIES Pte Ltd CEO。日本ブロックチェーン協会理事や丸井グループ、GMO Web3、電通 web3 Clubなどのアドバイザーを務める。2022年、Forbes誌の選出するテクノロジー部門アジアの30歳以下の30人に選出

プロフィール画像

GMO-Z.com Trust Company, Inc. CEO
GMO Web3株式会社 取締役
中村健太郎さん(@GMO_KenNakamura

2008年にGMOインターネットグループ株式会社に入社後、米国サンフランシスコに渡り、ゲーム・広告・ドメイン等のビジネス開発に従事。20年12月、米国ニューヨークに、ステーブルコインGYEN(円ペッグ)およびZUSD(ドルペッグ)の発行会社GMO-Z.com Trust Company, Inc.を設立し、CEOに就任。22年6月、GMO Web3株式会社の設立時より取締役に就任

プロフィール画像

BlockchainPROseed Co-founder
GMO Web3株式会社 取締役
藤本真衣さん(@missbitcoin_mai

2011年より国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及にまい進。ミスビットコインという名で親しまれてきた。現在はスイスを拠点にイーサリアムのレイヤー2であるintmax projectを推進している。18年より開催されているNon Fungible Tokyo、Japan Blockchain Week2022の発起人であり、これらのイベントを運営するBlockchainPROseedのCo-founder。一般社団法人ブロックチェーン協会、一般社団法人Metaverse Japanの顧問を務める。22 年 9 月、GMO Web3 株式会社 取締役に就任

アメリカ、シンガポール、スイス…日本の起業家三人の拠点選択の背景

藤本:私は現在スイスで働いているのですが、中村さんはアメリカ、渡辺さんはシンガポールと、お二人とも海外に拠点を置いていますよね。それぞれの国を選んだ理由を教えてください。

中村:GMOインターネットグループとのシナジーを生かして日本国内で展開したいところだったのですが、日本の規制ではステーブルコインを取り扱えないという事情があったんです。

一方、ニューヨークではすでにPaxos standardのUSDPやGemini Trust CompanyのGemini Dollarという二つのステーブルコインが、規制当局の監督下で普及し始めていました。

ステーブルコインのような法定通貨型のものは、中央集権型の規制の中で事業が進んでいくだろうと想定していましたし、さまざまな国や地域の中でもニューヨークが最もステーブルコインについて理解があると感じ、拠点に選びました。

金融業界のハブであるウォールストリートがあるという点も強みの一つですね。

藤本:とても理にかなった選択だったということですね。

日本でもWeb3が盛り上がってきたことで、アメリカとのつながりを強くしたいという起業家が私の知人にも大勢います。

中村:確かに、出張でニューヨークに来た日系企業の方とお会いするケースは増えましたね。

今後、私たちはAPIをオープン化していきますし、どのような事業においてもステーブルコインが決済に使えるようにしていくという点では、あらゆる業界においてシナジーがあると思っています。

ただ、ニューヨークという地域はやはり金融の性質が強いため、伝統的なFXのブローカーや、これから暗号資産をやっていきたいと考えているメガバンクやリージョナルバンクの方々とやり取りさせていただくことが多いです。

藤本真衣

藤本:地域特性が出て面白いですね。

私もスイスに拠点を移した際、「クリプトバレー」という言葉もあるくらいだからWeb3にもシナジーがあるのでは、と期待していました。ただ、スイスは歴史的な金融大国なので、いわゆるFinTech系の企業の方が強みを発揮しやすい保守的なカルチャーを感じています。

渡辺さんはシンガポールにいらっしゃいますが、選択の理由は?

渡辺:拠点を選ぶ際に最も重視したのがQOL面だったので、日本食の買いやすさや住環境は決め手の一つでした。当時は日本との仕事が多かったので、時差が1時間しかないという点も魅力でしたね。

最近では賭博法が改正されるなどクリプト系のビジネスが難しくなっているため、拠点にドバイを選ぶ人が増えている印象です。私もドバイは候補地の一つだったのですが、大企業や政府系機関との仕事もあるので、レピュテーションリスクを避けるためにシンガポールに決めました。

藤本:Web3界隈においては、日本国内の優秀な人材が海外に流出してしまう懸念が指摘されていますよね。一方で、見方を変えれば海外でチャレンジする日本人が増えているということでもあります。

中村さんは、日本におけるWeb3の現状をどう見ていますか?

中村:日本の起業家が海外に出ていく現状は、いいことだと捉えています。

これまでは、日本ほどの経済大国なら、国内だけでもそれなりにビジネスを回せました。その環境に甘えて、海外で挑戦しない人が多かった。

しかしWeb3となると、日本では法整備などさまざまな壁があるため、海外で事業展開せざるを得ないんですよね。

海外のプレーヤーたちと関わることで視野も広がり、多様な知見が得られるはずですし、日本の法律や税制が整った時には、海外で培ったノウハウを持った人材が戻ってくる……という流れもできてくるでしょう。結果的に、日本にも強い起業家集団が生まれるのではないかと期待しています。

中村健太郎

藤本:渡辺さんはグローバルでご活躍しながら日本でも事業を広げていますが、海外と日本の事業のバランスをどのようにとっているんでしょうか?

渡辺:私は「アービトラージ経営」を意識しています。

30年ほど前、孫正義さんが「タイムマシン経営」とよく口にされていましたよね。タイムマシン経営とは、アメリカや海外のイケてるサービスを日本にいち早く展開することで、マーケットを独占するという考え方。対してアービトラージ経営は、世界のある国で得た評価や認知度が、他の国で事業展開する際の強みになるという考えです。

現在は私たちは海外でコインベースやバイナンスといった取引所から投資していただいていますが、それによってアメリカ側で認知されると、日本にも上陸しやすくなる。そしてNTTドコモや博報堂などの日本を代表する企業と一緒に事業に取り組むと、その実績によってアメリカでもより一層戦いやすくなるんです。

世界中でお金と人と実績を集めて強みに変え、振り子のように行ったり来たりするという戦略をとっています。

「セキュリティへの知見」「カルチャーフィット」Web3企業がエンジニアに求めるものは?

藤本:Web3は非中央集権型ですが、中央集権・非中央集権のバランスは今後どうなっていくと考えていますか?

中村:共存していくと思っていますが、内情は国によって異なるでしょう。

アメリカや日本、スイスといったしっかりした基盤を持つ国々で中央集権型が失われるとは考えにくい。一方、アフリカ大陸や南米などの国や地域においては、自国通貨が安定しない分、非中央集権型での暗号資産のやり取りや、そのためのインフラ整備が加速的に起きるのではないでしょうか。

藤本:私も中村さんの意見に同意なのですが、渡辺さんはいかがですか?

渡辺:そもそも、「Web3」という言葉がバズワードとして注目を集めているが故に、実態が正しく理解されていないと感じています。「非中央集権だ、分散型だ」とよく言われていますが、「人間に新しいオプションが増える」と捉えることが重要です。

例えばブロックチェーンのAstar Networkの場合も、原則的にはノードがAWS上にあるため、分散しているとは言えません。もちろん、それが嫌なら自分でノードを立てるという選択肢もあります。

クリプトの場合もバイナンスなどの取引所に預けている人が多いですが、レジャーなどのサービスを活用して自己管理することだってできるわけです。

このように、非中央集権というより、人の意思に合わせて新しい選択肢をとれるようになったと考える方が自然でしょう。Web3は国や地域ごとに事情が違うはずですから、日本も欧米の後追いではなく、自分たちのバックグラウンドに合ったものを構築していく必要があると思います。

渡辺創太

藤本:Web3に興味を持つエンジニアの中には、中村さんと渡辺さんが経営するような企業への就職を考えている人もいるかと思います。Web3業界において、エンジニアに必要なスキルについて教えてください。

中村:意外に思われるかもしれませんが、スマートコントラクトなどのコーディングができるかどうかはあまり重視していません。セキュリティが重要なプロダクトを提供しているので、その分野の知見がある人は重宝しますね

また、プロダクトの運用はアメリカメインで行っているので、英語と日本語の両方ができる方を中心に採用しています。

渡辺:私はスキルよりもカルチャーフィットの面を重視しています。

ご存知の通り、クリプトはボラティリティが激しいマーケットです。マーケットが上昇しているときはいいのですが、下がっているときにモチベーションを保ちながら開発し続けることは難しい。

だからこそ、採用では私たちの会社のカルチャーに合った人材かどうかで判断するんです。つまり、マーケットの上下ではなく、価値あるものを世の中に提供していることにモチベーションを持てるかどうかを見ています。

Web3は自分たちでルールをつくれるエキサイティングなムーブメント

藤本:Web3業界全般の未来についてはどのようなご意見をもっていますか?

渡辺:日本においても、大企業がWeb3に参入する動きが加速していくと思います。

例えば暗号資産の管理などを代行するカストディと呼ばれる分野などでは、日本人が使いやすい和製Web3サービスが出てくるのではないでしょうか。とても楽しみですね。

中村:日本のWeb3起業家たちには、世界の人たちがローンチしているプロダクト情報などをどんどん集めて、アウトプットにつなげていってほしいですね。広い視野で物事を捉えられるようになると、スピード感のある事業展開や有効な海外戦略の策定も可能になってくると思います。

世界で戦うWeb3起業家たち

渡辺:私は、Web3は一つのムーブメントだと捉えています。若い人たちからすると、誰かが作ったルールにならうのではなく自分たちでルールを作れるというのは、フロンティアに満ちていてエキサイティングですよね。

一方で、Web1やWeb2から関わってきた人たちが新しくビジネスを展開できる領域でもあります。

Web2においてはアメリカの企業が圧倒的だったので、Web3では日本人としてグローバルに何ができるか、どんな結果が残せるかを考えることが重要だと思います。

Web3は誰か一人の力で何とかできるものではないからこそ、日本も国家的な戦略に挙げているわけです。このムーブメントを絶やさずに、いろいろな方と一緒にそれぞれの強みを生かし合っていきたいですね。

▼セッション全編はこちらから

>>全セッションのアーカイブ映像は、こちらから

文/まゆ

Xをフォローしよう

この記事をシェア

RELATED関連記事

RANKING人気記事ランキング

JOB BOARD編集部オススメ求人特集





サイトマップ