最新の技術を学んでも、あっという間に陳腐化してしまう今の時代。ビジネスを成功に導くのは、知識でもテクニックでもなくエンジニアたちの「モチベーション」かもしれない。本特集では、環境の変化に左右されがちなモチベーションを、エンジニア自身がセルフコントロールする最新メソッドを紹介。自分をアゲて、仕事の成果もあげていこう。
「モチベーションは上げるよりも『下げない』工夫を」エンジニアの意欲の源泉&阻害要因とは【ゆめみ×Gaudiy】
開発業務に慣れていくほど、日々の仕事を「こなす」ようになってしまうケースは少なくない。チームを率いるリーダーにとって「エンジニアたちのモチベーションをいかに上げていくか」は重要な課題の一つだ。
そこで今回は、エンジニアのモチベーションの重要性に着目し、フレキシブルなワークスタイルの導入や手厚い学習支援をしている二社の話を聞いてみよう。
インタビューに応じてくれたのは、Webサービスの内製化支援事業を展開するゆめみのCTO・大城信孝さんと、ブロックチェーン技術を活用したWeb3時代のファンプラットフォーム『Gaudiy Fanlink』を提供するGaudiyで、エンジニアとして働く佐藤祐亮さん。
二人の話からは、エンジニアのモチベーションが高まる組織のヒントのみならず、エンジニア自身がセルフモチベートスキルを持つべき理由が見えてきた。
株式会社ゆめみ 最高技術責任者(CTO) 大城信孝さん(@notakaos)
沖縄県出身。2012年に上京し、サーバーサイドエンジニアとして経験を積んだ後、16年ゆめみ入社。現在はリードアーキテクトとして、主にシステムのアーキテクチャ設計やバックエンドの実装を担当。21年5月にCTOに。あるべきゆめみのエンジニアリングについて、第一声を上げる役割も担っている
株式会社Gaudiy エンジニア 佐藤佑亮さん(@yusukesatoo06)
2016年、大手通信会社に新卒入社。大手金融グループ向けのシステム開発や、ブロックチェーンを活用した新規事業開発にインフラエンジニアとして従事。その後スマートロックを扱うスタートアップでバックエンドやモバイル開発、アプリチームのマネージャーを経験。22年よりGaudiyにジョイン。現在はバックエンドの開発を中心に担当
モチベーションによって、エンジニアの行動はポジティブに変化する
ーーゆめみもGaudiyも、エンジニアがモチベーションアップできる環境や制度づくりに力を入れていると聞きました。具体的にどのような取り組みをしているのですか?
大城:ゆめみでは導入している制度や仕組みの詳細を社外に向けても公開しています。例えば、「給与自己決定制度」はモチベーションアップに対する取り組みの重要な柱です。
エンジニアのモチベーションを下げる要因の一つとして「成果が評価に結び付かないこと」が考えられますが、自分自身で給与の額を決められる制度があれば、その要因を排除できる。
会社への貢献度と評価のズレがなければ納得感を持って仕事に取り組めるし、「いろいろなことにチャレンジしてより高い成果を出そう」というモチベーションにつながります。
またメンバーの成長をサポートする制度として、学習に必要な書籍代やセミナー参加費などを会社が全額負担する「勉強し放題制度」や、営業時間中の副業を可能とする「副業し放題制度」などもあります。
ゆめみのプリンシプル(基本原則)は「自律・自学・自責」であり、エンジニアは自ら学び、成長することが大前提。会社はそれを応援するというスタンスです。
佐藤:Gaudiyならではの特徴的な仕組みとしては、「代表選挙制度」があります。
弊社はUI、UX、エンジニア、デザイナーなどの職能ごとにチームが分かれていて、それぞれに代表がいます。そこで定期的にチームメンバーからの投票を実施し、熟議をもとに現在の代表が継続するか、投票で選出された候補者に交代するかを決める仕組みです。
自らの職能のリーダーを民主的に選べるのでメンバーも人選に納得感を持てますし、自分が代表のポジションを目指すこともできるので、エンジニアのモチベーションアップにつながります。
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また、全社的に学習やインプットを支援する「EMPOWER-DAY」という制度があり、毎週水曜の午後は新しい技術を学んだり、普段の開発ではなかなか取り組めないことにチャレンジする時間となっています。それぞれが習得したナレッジを他のメンバーと共有する場面もよくありますね。
個人がインプットしたことを積極的に発信し、現状を改善してより良いものを生み出していこうとする活動が非常に活発な会社だと思います。
ーー両社ともユニークな制度を導入している印象ですが、なぜ会社をあげて「エンジニアのモチベーション」に投資しているのですか?
大城:エンジニアのモチベーションは会社の成長やプロジェクトの成果に大きく影響すると考えているためです。
仕事に対するモチベーションが上がれば、能動的にタスクをこなしたり、周囲と積極的にコミュニケーションを取ったり、新しいことにチャレンジしたりと、エンジニアの行動がポジティブに変化していきます。
こうしたエンジニア一人一人の行動が積み重なれば、プロダクトやサービスにも良い影響を与え、それが会社の成長にもつながっていくと考えています。
佐藤:私も大城さんの考え方に共感しますね。
Gaudiyは「ブロックチェーン技術を活用したWeb3時代のファンプラットフォーム」という今までにないものを作っている会社なので、エンジニアが自律的にプロダクトと向き合う姿勢が特に求められるんです。
その際、エンジニアにモチベーションがない状態だと、どうしても「決められたことをやる」というスタンスになってしまう。
でもモチベーションが高く保たれていれば、エンジニア一人ひとりがプロダクトの価値を考えながら開発していくことができます。
ーーモチベーションアップへの投資を行った結果、実際にはどのような変化や良い効果がありましたか?
大城:ゆめみには業務時間の10%を自分の好きなことに使える「10%ルール」があり、社内のメンバーは業務とは関係ない研究開発や技術調査をしたり、自身の能力開発に充てたりしています。
この10%の時間で得た知見を本業にも生かし、新しい技術や手法を取り入れながら自分がやりたいことを実現していくエンジニアは多いですね。
ずっと同じやり方を続けるのではなく、常により良いものを探求していけるのは、エンジニアにモチベーションがあってこそだと思っています。
佐藤:Gaudiyはもともと技術や仕事に対する熱量の高いメンバーが集まっていますが、組織としてもそれを阻害しないカルチャーがあります。
エンジニアが「こんな技術を取り入れたい」と提案したら、周囲は否定的な意見を言うのではなく、「なぜその技術を使いたいのか」を議論しながら深掘りしていく。その結果、新しい技術の導入が一気に進んだこともあります。
個人が持っている熱量を生かすことで、組織としてもモチベーションが高まり、パフォーマンスが発揮される場面は多いと感じます。
仕事への納得感や、挑戦できる環境がモチベーションの源泉
ーー仕事に対するモチベーションの源泉は一様ではないと思いますが、両社にはどんなことに意欲的なエンジニアが多くいますか?
大城:面白い技術やプロダクトに関われることにモチベーションが上がるタイプが多いのではないでしょうか。
私自身も新しい技術が出てきたらすぐに試したいし、これまで解決できなかった課題にその技術が役立つかどうかを検証したい。
新しいことにトライできる環境があることは、エンジニアが働く上で面白さを感じるための重要なファクターです。
佐藤:Gaudiyのエンジニアの場合は、「納得感を持って開発している」という点にモチベーションを感じる人が多いと思います。
私たちが手掛けるのはエンタメ領域のプロダクトなので、すでにある明確な課題を解決するというより、まったく新しい価値をユーザーに届けることが開発の主目的です。今までにないものを作るわけですから、最初はあくまで仮説ベースで議論しながら進めていくしかありません。
だからこそ、その仮説がどれだけ深掘りされているか、どんな価値を提供したいのかなどをPdMやメンバーとしっかりすり合わせて納得できれば、モチベーションを保ったまま開発に取り組めます。
ーー逆に、エンジニアのモチベーションの低下を招く要因としては、どんなものが考えられますか?
大城:作業に集中している時に割り込みが頻繁に入ったり、目的がよく分からない会議に長時間の出席を強いられたりする環境だとモチベーションを保ちづらいですね。
加えて、ずっと同じことの繰り返しで自分の成長を感じられなかったり、成果を出しているのに評価に結びつかなかったりすることも、モチベーションの低下に直結します。
佐藤:「開発者体験」が著しく下がってしまう環境があることも要因になると思います。
システムの規模が大きくなると、開発の複雑性が増して機能の追加や改修がやりづらい場面も出てくるので、その状態が続くとエンジニアも自分のバリューを発揮できていない感覚に陥りがちです。
エンジニアはモチベーションを「下げない」ことが重要
ーーゆめみやGaudiyは会社としてエンジニアのモチベーション向上に取り組んでいますが、エンジニア個人は、自身のモチベーションとどう向き合えば良いと思いますか?
大城:モチベーションは常に上げていくべきものと思われがちですが、実はエンジニアの日常業務においては「モチベーションを下げないこと」の方が重要だと考えています。
エンジニアであれば、プロジェクト中にトラブルやシステム障害などストレスが掛かる場面に直面することもあるでしょう。
そんな時でも目の前の業務への意欲を失わず、一定のモチベーションを保って冷静に対処しなければいけない。そのために必要になるのが、セルフモチベートのスキルです。
もちろん新しいことにチャレンジするには一定の熱量が必要ですし、モチベーションが上がると仕事に集中できるでしょう。ですが、だからと言って「モチベーションが上がらないと何もできない」というのでは困りますよね。
むしろモチベーションに頼らなくても安定的にアウトプットできる仕組みをつくることがセルフモチベートになる、というのが私の考えです。
例えば自分が苦手なことは他の人に協力してもらったり、得意な人にお願いしたりする。その代わり自分が得意なことは積極的に引き受けたり、他の人を手助けしたりする。
こうしてストレスを回避しつつ、自分のモチベーションを下げない仕組みを回すことを意識すると良いのではないでしょうか。
佐藤: 僕も大城さんの考え方に近くて、モチベーションを下げないことを普段から心掛けています。
エンジニアの世界は情報が開かれているので、高い技術力を持った人や目立つ活躍をしている人と自分をつい比べてしまいがちですが、それではつらくなってしまうこともありますよね。
なので僕の場合は、他人ではなく過去の自分と比較して、「1年前の自分と比べてここまで成長できた」といった点を見つけることでセルフモチベートしています。
Gaudiyのメンバーにもセルフモチベートの方法を聞いてみたら、現在の自分を将来なりたいエンジニア像にたどり着くまでのステップとして捉えることでモチベーションをコントロールする人もいれば、逆になりたいエンジニア像を長期的に追い掛けていると飽きてしまうので、あえて理想を自分の身近なところに置いて、現状と理想のギャップを埋め続けることで達成感を得るという人もいました。
人によって何をどう感じるかは異なるので、セルフモチベートの方法も自分に合ったものを作り上げていくことが大事だと思います。
ーーこのセルフモチベートスキルの有無で、将来のキャリアにも差が出ると思いますか?
佐藤:そう思います。セルフモチベートのスキルは、エンジニアとして長く活躍していくために必要なものです。
テック業界は他業界に比べて環境変化が激しく、新しい技術も次々と登場します。
セルフモチベートできる人なら新しいものを自ら学びとっていく好奇心や活力を維持できるし、そこから得たインプットをエンジニアリングに生かしてより良いものを作っていけるはずです。
でもセルフモチベートできない人は学びを得られず、環境変化の中で埋もれてしまうかもしれません。
これだけ技術の進歩が早いと、10年後や20年後はエンジニアの仕事も今とは大きく変わっていると思います。それでもセルフモチベートできる人なら、自分をアップデートしながら長く活躍できるのではないでしょうか。
大城:私も、セルフモチベートのスキルがあるかどうかで変化への対応力に差が出ると思います。
来年どうなっているかも予測がつかないほど先が読めない業界ですが、自分自身をモチベートできれば、変化を恐れるのではなく楽しむことができる。どんな変化が起こっても前向きに受け入れながら、自分のキャリアを伸ばしていけるはずです。
取材・文/塚田有香 編集/秋元 祐香里(編集部)
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