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「世界にリセットがかかった」生成AI登場でエンジニアのキャリアに過去最大級のチャンス到来【澤円×木内翔大】

働き方

『ChatGPT』をはじめとする生成AIが急速な進化を遂げ、AIは誰もが使える当たり前のビジネスツールになりつつある。

一方で、この新しいツールをどう使いこなせばいいのか、企業も個人もまだ手探りの状態が続いている。

そんな中、2023年5月に設立されたのが、一般社団法人生成AI活用普及協会だ。生成AIの活用をビジネススキルの一つとして社会実装することを目的に掲げている。

一般社団法人生成AI普及協会

そこで今回は、同協会の理事に就任した圓窓代表取締役・澤円さんと、「日本をAI先進国に」をテーマにSNS等で生成AIについて情報発信を続ける10X 代表取締役の木内翔大さんに取材を実施。

生成AIの社会実装をどのように進めていくのか、生成AI活用がさらに浸透したときにエンジニアの仕事・キャリアにはどのような影響を与えるのか、二人の考えを聞いた。

プロフィール画像

株式会社10X 代表取締役
木内翔大さん(@shota7180)

元・株式会社SAMURAI 代表取締役。GMO AI & Web3株式会社 顧問。大学時代からフリーランスのWEB・AIエンジニアとして3年ほど活動。2013年に日本初のマンツーマン專門のプログラミングスクールである「SAMURAI ENGINEER」を創業。累計4万人にIT教育を行い2021年に上場企業へ売却。「日本をAI先進国に」をテーマにSNSを中心に生成AIについて発信している

プロフィール画像

株式会社圓窓 代表取締役
澤円さん(@madoka510)

元・日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。マイクロソフトテクノロジーセンターのセンター長を2020年8月まで務めた。DXやビジネスパーソンの生産性向上、サイバーセキュリティや組織マネジメントなど幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングなどを行っている。複数の会社の顧問や大学教員、Voicyパーソナリティなどの肩書を持ち、「複業」のロールモデルとしても情報発信している

「状況が一気に変わった」現実味を帯びるシンギュラリティー

——まずは、今回設立された生成AI活用普及協会(GUGA)とはどのような団体なのか、お二人が協会理事に就任した経緯とあわせて教えてください。

木内:GUGAは、生成AI活用を社会に実装していくために、スキルの習得・可視化を推進する一般社団法人で、生成AIに関わる認定試験の実施や資格の発行といった活動を通じて、生成AI活用が企業活動における普遍的なスキルとして定着することを目指しています。

生成AIを活用するスキルがあるかどうかは、ビジネスパーソンにとって今後ますます重要なスキルの一つになるでしょう。

そこで「スキルの可視化」をすることは、企業における適正な人事評価に役立ち、会社員のキャリア形成や学生の就職活動などの一助になると考えています。

株式会社10X 代表取締役 木内翔大

木内:また、私自身の話をすると、テクノロジーに触れるようになったのは小学生の時で、ゲームを作り始めたのがきっかけでした。

その後、いろいろな技術に触れていく中で、AIが登場し、シンギュラリティー(※)という概念を知ったのが15歳くらい。当時から、テクノロジーによって人類が労働から解放される世界をずっと夢見てきました。

(※)人工知能が人間の知性を大幅に凌駕する時点や、それにより起こる社会や生活の変化を示す概念

人々が自分の好きなことに集中して創造性を発揮できれば、紛争もなくなり平和な世界が実現できるのではないかと考えるようになったんです。

そこに貢献したいという思いから、10年前にマンツーマンのプログラミングスクール事業を立ち上げて、5~6年前のAIブームの時にはディープラーニングのプログラムなども提供していたのですが、まだまだ一般の人が使えるレベルでの普及は難しいとも感じていました。

ところが、『エンジニアtype』読者の皆さんもきっと感じていると思いますが、LLMをベースにした生成AIの登場で、一気に状況が変わりましたよね。いよいよシンギュラリティーが現実味を増してきました。

そこで、スクール事業からピボットして、現在はビジネスコミュニティーを立ち上げ、最先端の情報収集やユースケースの共有を図るなど、新事業を始動。まさにそのタイミングで、GUGAの理事にならないかと声を掛けていただきました。

今後、生成AIが誰でも使えるビジネスツールになるのは間違いありませんが、スキルの可視化が進まないことには、採用や人事評価に反映することは難しい。

協会として、いわばAIリテラシーの業界標準を定義することによって、企業におけるAI教育や個人のスキルアップを進めていく上で大きな助けになるはずで、僕自身もそこに深く共感しています。

今後はIT教育に携わってきた私自身の経験を踏まえて、日本のAIシフトを加速させていく活動に、貢献していきたい。それが今の思いですね。

澤:僕もGUGAから声を掛けていただいた時に、二つの点で自分の経験を生かせるのではないかと考えました。

一つは、パワーバランスの偏りの問題です。

日本のIT人材は約7割がベンダー側にいると言われます。つまりITを語るときに7割がセールストークになり、事業者側にそれを理解できる人材が少ないということ。

僕自身はITを売るベンダー側にいながら、啓蒙するという仕事をメインにしており、一歩引いた形で業界全体を見ていたので、ずっとこの状況はまずいと思っていました。

だからこそ、協会という第三者的な立場で、AIの普及と活用を進めていくことに意義を感じています。

もう一つ、サイバークライムセンターのセンター長をやっていた経験から、セキュリティーの問題も非常に重要だと考えています。

これまでは、フィッシングメールなどで自然な日本語を書くのが難しかったことから、日本は人為的なハッキングが非常に難しい国とされてきました。

ところが、生成AIで自然な日本語が作れるようになると、完全にその牙城が崩れてしまう。

もちろん防御にもAIを活用できると思いますし、何よりも多くの人がAIリテラシーを持つことは、セキュリティーの観点からも非常に重要になっていると思います。

「何のために生成AIを使うのか」目的と手段をセットで考える

——生成AIを今後より良いかたちで社会実装していくために、エンジニアに意識してもらいたいことは?

澤:今回の生成AIに限った話ではないのですが、何か新しい技術やバズワードが登場したときに最も大切なのは、主語を間違えないことですね。

例えば、旅行に行くときに荷造りが得意な人と苦手な人の違いは何か。苦手な人は「旅行には何が必要か」考えるのに対して、得意な人は「私は旅先で何をしようか」を考える。

やりたいこと、つまり目的に合わせた荷造りをすれば、自然と必要最低限のものをコンパクトにまとめることができます。

圓窓 澤円

撮影/桑原美樹 ※2022年撮影

澤:これと同じで、AIを主語にしてものを考えると、おかしなことになってしまうのです。

私もよく「生成AIって何ができるんですか?」と聞かれることがあるのですが、「いろいろできます」としか答えようがない。

まず考えてほしいことは、自分たちがやりたいこと・実現したいことは何か。それがあって、じゃあAIをどう使うとよいのかという話ができる。

流行りものを使うことそれ自体が目的になってしまうから、このような漠然とした質問になってしまうのでしょう。

そして、エンジニアをはじめビジネスパーソンの皆さんが生成AIの活用を自分ごととしてリアルに考えてみるためには、まずは生成AIについて知ることが大切。

サービスを使ってみたり、APIを使って何か自分で作ってみたり。「こんなことできないかな」とイメージしながら、試しに触ってみるといいと思います。

今仕事で何か困っていることがあれば、そのまま『ChatGPT』に問いを投げてみるのはどうでしょうか。答えそのものは出てこなくても、未知の事例や思わぬ掛け合わせを提案してくるかもしれない。

そういうところから、自分なりのいい活用方法を考えていくといいと思います。

木内:そうですね。エンジニアの皆さんにはぜひ、どんどん生成AIを使ってみて、新しい可能性を探ってみてほしいですね。

Twitter等のSNSを見ていると、「こんな使い方があるのか」と驚かされるような方法を実践している人もいますし、生成AIを使うことで仕事効率をかなり上げたというエンジニアの方も増えています。

私も新規企画のためのアイデア出しをするときなどに『ChatGPT』を活用していますが、リサーチをまとめるのもあっという間。

コーディングもAPIリファレンスをいちいち参照する必要がないので、体感として3倍くらい速くなりました。

これまでなら誰かに頼んでいた作業も、人を介さなくてすむようになると、リードタイムが一気に縮まるので、圧倒的に効率化できると感じます。

澤:検索は本当に楽になりましたよね。従来のサーチエンジンは、日本語の文節の理解度が低くて苦労しましたが、劇的に速くなりました。

プレゼンテーション用の原稿作成で、一般的な内容をまとめるときなどは『ChatGPT』に聞いて要約してもらえば、かなり楽。

これまでは原稿を書いて、英語に翻訳して、校正をかけてと、複数のツールを使い分けていましたが、『ChatGPT』に丸投げすれば、ある程度のものができてしまう。

もちろん、正しい答えばかりではないので情報を精査する必要はありますが、使わない手はないと思いますね。

「AI・上流・対人」スキルの重要度が上がる

——お二人はすでに、さまざまな生成AIツールを使っているということですが、生成AIをビジネスで活用する企業がさらに増えていくと、エンジニアに求められるスキルはどのように変わると思いますか?

木内:今後エンジニアには、AIスキル、上流スキル、対人スキルの三つが必要になると見ています。

AIスキルについては、コーディングツールを上手に使いこなすこと。

これからは、あらゆる開発現場で生成AIと壁打ちしながら仕事していくことが当たり前になるはずなので、AIとのコミュニケーション能力、AIに適切に問いを投げる力、正しい指示を出す力が重要になってくるでしょう。

上流スキルについては、言うまでもありません。AIシフトが進めば、人間は単純作業や反復性の高い業務から解放され、より複雑で創造的な仕事をすることが求められるようになる。

エンジニアで言えば、コーディングなどの業務ではなく、設計やマネジメントなどの上流業務を担うことがより期待されるようになっていくと思います。

株式会社10X 代表取締役 木内翔大

木内:対人スキルについては、AIの生産性が上がっていく中で、人間の強みとして、人対人のコミュニケーションの重要性が相対的に高まっていくということです。

生成AI革命の最大のインパクトとは、UIが自然言語になったことでしょう。

人間のコミュニケーション能力をUIとして捉えると、一人一人が自分のUIを磨いて使いやすいUXを作っていかないと、それもコンピューターに代替されてしまう可能性さえあると思います。

この三つは、どの業界で働くエンジニアにおいても共通して必要なスキルになるはずです。

澤:今後エンジニアにとってますます重要になるスキルに関しては、まさにおっしゃるとおりだと思います。

さらに大切なのは、狭い範囲で単体スキルのレベルを競うのではなく、これらのスキルをどう組み合わせるかですよね。

例えば、10万円のシャツを持っているだけではおしゃれだとは言えなくて、ワードローブにある他の服と組み合わせて自分らしさを出していって、はじめておしゃれな人と言われる。

ここでいうシャツがスキル、組み合わせることがセンスであると考えています。

先ほどお話しした「主語を間違えない」という話に通じるのですが、僕は木内さんが挙げてくれた三つのスキルを、皆がフルスタックで持つ必要はないとも思っていて。

どれも重要なスキルであると認識しながらも、自分には何ができるのか、どの分野で他者に貢献するのか、組み合わせをよく考えてみてほしい。

「時代が求めるから」ではなく、自分を主語にして、自分の得意な分野、努力が苦にならない分野のスキルを磨いていけば、それを生かせる場は必ずあるはずですから。

新たな仕事も職業も生み出せる。過去最大級のチャンスが到来

ーー生成AIの普及がすすめばビジネス環境もさらに変わっていくと思いますが、エンジニアのキャリアにはどのような影響が出ると思いますか?

澤:個人的には、生成AIの登場で「世界にリセット」がかかった今、エンジニアのキャリアにとって、この上ないチャンスが到来していると思っています。

圓窓 澤円

撮影/桑原美樹 ※2022年撮影

澤:今はまだ、誰もが生成AI初心者です。みんな手探りだし、分からないことだらけ。だからこそ、ここに直近の歴史の中でも過去最大級のチャンスがある。

未知の新しい世界が目の前に広がっているわけですから、自分で何かを作って売り出してみるなり、頑張って勉強して人に教える立場に立つなり、いかようにもキャリアを築いていくことができる。

今、このブルーオーシャンに飛び込まなくて、いつ飛び込むのかと思いますね。

木内:まさに今はリセットの時ですね。生成AIを活用して業務を自動化すれば、空いた時間を自分の勉強にあてることもできますしね。

それこそ独学のツールとして、生成AIはとても使い勝手がいい。AIを活用した英語学習アプリなども出ていますし、『ChatGPT』に質問すれば何でも答えてくれるので、場合によっては人間よりも優れた先生になり得ます。

これからはAIが特別なものではなくなり、ビジネスのあり方も変わってくるでしょう。AIと人間が共同で経営していく時代になり、AI中心の組織づくりが行われるようになるかもしれない。

最近プロンプトエンジニアリングが注目されているように、AIのアウトプットを最大化する、AIに対するマネジメント能力も必要になってくるでしょう。

AIマネジャーのような職種が一般化するかもしれません。このチャンスを逃さず、それぞれのキャリアを切り開いていってほしいと思います。

取材・文/瀬戸友子

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