この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!
VTuber事務所・ホロライブプロダクションを支える配信システム開発者が語る「グローバル視点」と「発信力」の重要性
2Dや3Dのキャラクターが歌や踊り、トークを繰り広げ、その姿にファンが熱狂する。キャラクター姿で動画投稿やライブ配信を行なうVTuber(バーチャルYouTuber)は、2016年の誕生以来、配信者やファンを爆発的に拡大し続け、いまや日本が誇るエンターテイメントとなった。
その「VTuber文化」を黎明期から支えてきた会社の一つに、カバーがある。
人気のVTuberタレントグループ「ホロライブ」が所属するホロライブプロダクションを運営し、全YouTubeチャンネルのチャンネル総登録者数は8,319万人に到達(23年9月末時点)。バーチャルコンテンツの未来を切り開き、多くのファンに支持されている。
VTuberと視聴者を画面越しにリアルタイムで結び、エンタメとしての新しい体験を生み出してきたカバー。裏側には、幅広い領域の技術でVTuberの配信を支えてきたエンジニアたちの努力がある。そのエンジニアの組織を束ねているのが、創業メンバーの一人であるCTOの福田さんだ。
「テクノロジーとコンテンツ作りが好きだからこそ、新しいサービスを生み出してこられた」と語る福田さんの話からは、エンジニアが大切にすべき姿勢が見えてきた。
カバー株式会社 取締役CTO 福田一行さん
慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、2005年からソニー株式会社にて放送局向けシステムの設計を担う。08年、アジャイルメディア・ネットワーク株式会社に入社しCTOに就任。ソーシャルメディア向けの広告システム、キャンペーンシステムなどの開発・運用に携わった後、16年、創業期のカバー株式会社にCTOとしてジョイン
VTuberのライブ配信、メタバースプラットフォーム……新しいサービスを生む組織の変遷
バーチャルコンテンツを軸に事業を展開するカバーの創業メンバーである福田さんは、CTOとして同社のコンテンツ作りの技術領域を最前線で担ってきた。
「カバーがVTuber事業に参入したのは2017年頃。この時、VTuberがライブ配信をするためのシステムの開発を手掛けました。
当時のVTuberといえば世間では録画での動画投稿が主流。ライブ配信の文化が浸透しておらず、情報が不足している中で配信機材を検討し、トラブルなくライブ配信できる環境を実現するために試行錯誤を繰り返しました」
生まれたばかりの市場で、次世代のエンターテインメントを作ろうと会社一丸となってトライ&エラーを繰り返した創業期。転機は、VTuberという言葉が徐々に世間に浸透し始めた17年12月に訪れた。
『17Live(イチナナ)』という配信アプリで、カバーがマネジメントするVTuber「ときのそら」がリアルタイム配信を行ったところ話題が沸騰。同時視聴者数は2.6万人に上り、一気にSNSで注目を集めたのだ。
バーチャルJKときのそらは17 Liveの初回配信で同時視聴者数2.6万人を達成しました! pic.twitter.com/GmgcrJJMio
— ホロライブプロダクション【公式】 (@hololivetv) November 29, 2017
VTuber事業が軌道に乗り始めた19年頃には、福田さんのCTOとしてのミッションは「開発の最前線での指揮」から「プロダクトをグロースへと導く組織づくり」へと変わっていった。
「VTuberは新しいコンテンツだからこそ、配信者のニーズも視聴者のニーズもどんどん変化します。システムも日々のアップデートが必要です。
この頃になると、先が予測できない状況だった創業期に作った配信システムをリプレイス、リプレイスで運用していくことに限界を感じるようになっていました。そこで、配信システムの刷新に踏み切ったんです。
プロジェクトを立ち上げて、開発専任のメンバーをアサイン。私は、この組織のマネジメントに力を割くようになりました」
開発体制を強化したカバーは、VTuber市場の拡大とともに成長。20年にはメタバースプラットフォーム『ホロアース』の開発へと乗り出した。
「メタバースプラットフォームの開発には、ライブ配信システムとは異なる技術が求められます。そこで、メタバースを開発・運営するエンジニア組織を新設。現在もチーム拡大のため、ゲーム開発経験者を中心に採用を行っています」
カバーは23年3月に東証グロース市場へ上場。現在の従業員は400名以上、エンジニアの組織は業務委託のメンバーも含めて約70名にまで拡大している。
身に付ける技術は「作りたいコンテンツ」から逆算して考えるべきもの
VTuberのライブ配信とメタバースプラットフォーム。異なる二つの技術組織を率いる福田さん。彼のモチベーションの源泉は、一貫してテクノロジーを使ったコンテンツ作りへの好奇心と探究心にある。
大学を卒業後、「ソフト、ハード、サービスのすべてに携わりたい」と考えてソニーへ入社。その後、SNSマーケティングの施策を企画・実行するアジャイルメディア・ネットワークにCTOとしてジョインし、日本で初めてTwitterを活用したキャンペーンを行うシステムを開発している。
「エンジニアとしてのキャリアの初期段階、古くはWeb2.0の時代から、各社が開発しているAPIを触るのが好きだったんです。Twitterキャンペーンのシステムは、個人で作っていたシステムを応用して作りました。
1日で数十万人が参加するキャンペーンに携わらせていただくなど、良い経験を積むことができましたね」
そして16年、スマートフォンの次に世界を変えるデバイスとしてVRデバイスに着目。「新しいバーチャルコンテンツを作れたら面白そうだ」と興味を持ち、IoT系のイベントに通う日々を過ごす中で、後にカバーのCEOを務める谷郷元昭さんと出会った。
新しい技術に触れ、新しいプラットフォームで、これまでにないエンターテインメントコンテンツを生む仕組みを作る。エンジニアとして歩んできたキャリアを通じて、福田さんは、自身の強みを次のように分析する。
「私はエンタメが好きなのですが、自分でコンテンツを作る力はないんです。その代わり、コンテンツを作る人のためのツールやサービスを開発することはできる。どんなコンテンツが欲しいか、コンテンツを作る人はどんなサービスを求めているのかを考えながら、その都度必要な技術を学んでいくことが得意なんだな、と思います」
作るコンテンツから逆算して、必要な技術を学んでいく。変化が激しいエンタメ業界において、クリエーターやファンが求めるコンテンツを作るためのツールを先回りして開発するためには、さまさまざな技術動向を追いかけ続ける必要があるだろう。なぜ福田さんは軽やかにこなすことができているのだろうか。
「かつてはWebエンジニアとして、インフラ・サーバー・アプリとフロントからバックエンドまで手掛けていたので、幅広く学ぶことは苦じゃないんです。むしろ、その経験のおかげでサービス開発に強みを感じられるようになりました。
それに、私は新しい技術やサービスに触れることが好きです。新しいサービスが出ると、ひと通り自分で触って、その特徴を掴むようにしています。その癖をつけてきたおかげで、フットワーク軽くさまざまな技術を扱えるようになったのかもしれません」
発信力を磨き、グローバルで存在感を発揮できるエンジニアへ
カバーが手掛けるVTuber事業やメタバースプラットフォームのように、テクノロジーを活用した新しいサービスは次から次へと生まれていく。その流れに乗り、自身の成長へと変えていけるエンジニアとなるためにはどのようなスキルやマインドが求められるのだろうか。
「VTuber事業やメタバースプラットフォームにも言えることですが、そのサービスを開発するだけでなく、サービスを使ってどんな世界観を作っていくのか、どんなコミュニケーションを実現していくのか、といった部分まで考えていく必要があります。
そして、サービスが拡大すればするほど利用者は多岐にわたります。バーチャルコンテンツに国境はありません。グローバルなトレンドに敏感で、多角的な視点を持つエンジニアであることが求められるシーンは今後も増えていくはず。そのためにも、SNSなどを活用して情報収集を行なうと良いのではないかと思っています」
グローバルというキーワードに身構えてしまうエンジニアもいるかもしれない。しかし、テックトレンドの多くが海外で生まれているのもまた事実。福田さんは最後に、次世代のエンジニアに向けて次のようなアドバイスを送った。
「日本のエンジニアが海外のコミュニティーで存在感を発揮することの難しさはよく分かります。まず最初のステップとしては、自分自身の発信力を鍛えていくのが良いかなと。
先ほどもご紹介したように、カバーでもエンジニアに対してテックブログでの情報発信を勧めています。
特にVTuberやメタバースの領域は、技術的に多くのエンジニアに興味を持ってもらいやすい領域ですから。自分なりの強みを生かして、アウトプットを増やしていく。そうやって発信を続けていると、自然と自分にも情報が入ってきて少しずつコミュニティーを広がっていく、というのが私の考えです」
取材・文/中たんぺい 撮影/竹井俊晴 編集/秋元 祐香里(編集部)
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