一休 CTO
伊藤直也氏
ニフティ、はてな取締役CTO、グリー統括部長を経て2016年4月より一休 執行役員CTO。Kaizen Platform, Inc.、ハウテレビジョン技術顧問。著書に『入門Chef Solo』(達人出版会)、『サーバ/インフラを支える技術』、『大規模サービス技術入門』、『Chef実践入門』(ともに技術評論社) など多数
「『マネジャーになったらコードが書けなくなった』って言う人がいますけど、僕はあれ、言い訳だと思うんですよね」
この発言は、2017年2月22日に行われた『TechLION vol.29』の登壇者、伊藤直也氏のものだ。実は、伊藤氏自身も数年前まで「マネジメントとは人を管理するものだ」と考え、マネジャーとして業務でコードを書くことは諦めていたという。
しかし一休に入社した現在では、 CTOという立場でありながら、第一線で開発しているという。どうしてそれが可能になったのだろうか。
同じくこの日に登壇したメルカリの柄沢聡太郎氏の考えるマネジャー観と合わせて紹介していこう。
一休 CTO
伊藤直也氏
ニフティ、はてな取締役CTO、グリー統括部長を経て2016年4月より一休 執行役員CTO。Kaizen Platform, Inc.、ハウテレビジョン技術顧問。著書に『入門Chef Solo』(達人出版会)、『サーバ/インフラを支える技術』、『大規模サービス技術入門』、『Chef実践入門』(ともに技術評論社) など多数
メルカリ 執行役員 CTO
柄沢聡太郎氏
中央大学大学院在学中の2007年末にエンジニアグループnequalを立ち上げ、サービスなどを運営。10年、大学院卒業後、グリーに入社。退社後の11年2月、クロコスを立ち上げ、CTO就任。12年8月、クロコスをヤフーへ売却。その後もヤフーのグループ会社としてクロコスの事業成長と平行して、ヤフー自身のソーシャルの展開、新規事業を担当。15年5月よりメルカリに参画し、技術領域全般を担当。CTOやVPoEなどエンジニアをマネジメントするポジションを歴任した後、17年11月より現職。著書に『パーフェクトPHP』(技術評論社)
「一年くらい前まではマネジメントをしながらコードを書くのは難しいと思っていたんですけど、最近では書けると思うようになりました。実際、今はアクティブなプロダクトのコードをバリバリ書いていますし」(伊藤氏)
「マネジメントを行うようになると、コードを書かなくなる」という話はよく言われているが、伊藤氏はどういった経緯でマネジメントと開発を両立するに至ったのだろうか。
この日一緒に登壇した柄沢聡太郎氏は、その理由を「マネジメントが順調で、自分の時間があるからではないか」と分析する。
「単純に人の面倒を見る時間を減らしたというのはありますね。それに、組織的な部分はもうかなりやったし整ってきた。そういう状況でもなお組織の面倒を見るだけのマネジメントっていらないのかなって思ったんです」(伊藤氏)
また、マネジメントが必要となる人材は採用しないというのも、マネジャーとして時間を作れるようになった理由の一つだと語る。
「最近では純粋に技術だけ、知的好奇心だけという人は採用しにくいですね。高い技術があるに越したことはないですが、技術にしか興味ない人って結局マネジメントが必要になっちゃうんですよ。その人の持っている能力を、会社の業績と結びつける人が必要で、人数が少ない会社だとそれは難しいんですよね」(伊藤氏)
それではマネジャーが担わなければいけない役割とは、一体どのようなものなのだろうか?
柄沢氏によると、CTOの役割は、その都度自らが置かれている状況によって変化するものだという。
「僕がチームのマネジメントをするようになってから思ったのは、このチームで誰もできないタスク、あるいは誰かがやらなきゃいけないけど漏れちゃうようなタスクをやるのがマネジャーの役目なんじゃないかな、と」(柄沢氏)
「今、必要なこと」を考えたうえでコードを書くようになった伊藤氏の一方で、柄沢氏はあえて今マネジメントに注力しているという。その理由をこう語る。
「今メルカリは人をどんどん採用してチームが拡大している。その下準備として人と向き合いながらマネジメントすることも必要だと感じたので、今はマネジメントに軸足を置いているんです」(柄沢氏)
また、伊藤氏はマネジメントの概念の変化がサービスをリニューアルするきっかけにもなったと話す。
「人の面倒を見なくなって、じゃあ自分がやるべきことってなんだろうって考えたんです。その時に課題だったのは、システムのアーキテクチャの見直し。その為に、自分自身でエンジニアとしてコードを書くことにしました」(伊藤氏)
伊藤氏はマネジャーとして言語の選択を必要とするケースもあったと語る。結果としてPythonを選んだわけだが、その理由も「今、自社に必要なこと」を考えた結果だった。
「もし5年前の自分だったらきっとPythonは選んでいないかなって思います。きっと、RubyとかScalaとかもう少し好みで言語を選んでいたかもしれない。今はマネジャーとして、どの言語がもっとも会社や今のプロダクトにフィットするのか、役に立つか、という軸で選ぶようになりました」(伊藤氏)
エンジニア視点ではなく、マネジャー視点での言語選択を行うようになったと心境の変化を語る伊藤氏。また、Pythonを選んだもう一つの理由として、チーム運営をより円滑にする狙いがあったという。
「一休のシステムリニューアルでは、開発の技術だけでなくデザインや使いやすさも重視しなければと思っていました。既存システムは機能が乏しいプラットフォームを使っているので、その分作りが単純で、結果的にエンジニアだけでなくデザイナーも開発に参加できているんです」(伊藤氏)
「それを維持するためには、デザイナーがチームに入りやすい環境を作ることが大事だと思った」と伊藤氏は続ける。
「エンジニアにしか使いこなせないプラットフォームを選んでしまうとそれが叶わなくなる。Pythonなら学習コストも低いし開発環境も選ばないので、彼らも引き続き開発に参加できるんじゃないかと思いました」(伊藤氏)
人やチームのマネジメントに徹することだけがマネジャーの仕事ではないと語る2人。「今解決すべきことは何か」を明確に見極め、必要な対処を行うことこそが、マネジャーの真の役割であるという点で認識が一致していた。こうした考え方は、技術探求かマネジメントかのキャリアで悩むエンジニアにとって、新たな選択肢になることだろう。
取材・文/羽田智行 撮影/佐藤健太(ともに編集部)
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