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シンギュラリティー(技術的特異点)とは? 起こる時期や影響など、代表的な説をまとめて解説!

IT用語集

あらゆる分野でAI(人工知能)の活用が広がる近年。AIが人間の知能を超える転換点を意味する「シンギュラリティー」という言葉を耳にする機会が増えています。

この記事では、シンギュラリティーの意味や想定される時期、社会にもたらす影響などについて解説します。ITエンジニアとして準備すべきことについても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

シンギュラリティーとは?

シンギュラリティー(Singularity)とは、AIが人間の知能を超える転換点、またそれにより社会や生活にもたらす変化を指します。日本語では「技術的特異点」と訳されます。

シンギュラリティーは、AGI(Artificial General Intelligence=汎用人工知能)が実現したときに起こると言われています。AGIはAIの一種ですが、特定のタスクや分野に特化しているのではなく、人間の知能に匹敵する能力を持ち、自律的にさまざまな課題を処理できることが特徴です。AGIが実現すれば、AIが自らバージョンアップを繰り返して人間を超える優秀な知性が誕生すると言われています。

現時点ではシンギュラリティーは仮説であり「必ず起こる」と言えるものではありません。しかし近年AI技術が進化するスピードはめざましく、ChatGPTなどをはじめとしたAIが一般的に普及しはじめています。こうした背景から、シンギュラリティーへの関心が高まっているのです。

シンギュラリティーの起源

シンギュラリティーの概念は、科学者や作家たちによって20世紀中頃から徐々に形成されていきました。数学者でSF作家のヴァーナー・ヴィンジ氏は、1980年代からシンギュラリティーを提唱しています。

その後ディープラーニング(深層学習)の技術が進化したこと、さらに発明家のレイ・カーツワイル氏が2005年に著書『The Singularity Is Near(シンギュラリティーは近い)』を発表したことにより、シンギュラリティーは世界中から大きな注目を集めるようになりました。

シンギュラリティーが実現する要因

シンギュラリティーが実現する要因として、提唱者たちが挙げているものは次の二つです。

・ムーアの法則

ムーアの法則とは、簡単に説明すると「コンピュータの処理能力が2年ごとに2倍になる」という法則のことです。この法則のペースでAIが進化すれば、近い将来にシンギュラリティーが実現する可能性があると言われています。しかし、ムーアの法則は根拠が半導体チップの微細加工技術にあることから、物理的な限界によりこのペースが永遠に続くわけではないという見方もあります。

・収穫加速の法則

収穫加速の法則とはレイ・カーツワイル氏が提唱した概念で、ムーアの法則をテクノロジー全般に適用したものです。新しい技術や発見がさらなる技術進歩を促進するという考えを表します。シンギュラリティーにおいては、この加速度的な技術進化が人間の知能を超えるAIの出現を早める可能性があるとされています。

「プレ・シンギュラリティー」とは?

スーパーコンピュータ開発者・次世代のAGI研究者である齊藤元章氏は、シンギュラリティーの前段階にあたるプレ・シンギュラリティーが2030年頃に到来すると提唱しています。

シンギュラリティーはAIが人間の知能を超える技術的な転換点であるのに対し、プレ・シンギュラリティーは社会的なシステムが変化する転換点です。具体的には、スーパーコンピュータの飛躍的な性能の向上により次のような変化があるとされています。

・エネルギー問題が解決する(無料で供給される)
・衣食住に関わるあらゆる課題が解決する(無料で供給される)
・人間は働く必要がなくなる
・お金が不要になり戦争がなくなる

もしこのようなプレ・シンギュラリティーが本当に実現すれば、シンギュラリティーも遠い未来の話ではないかもしれません。

シンギュラリティーはいつ起こる?

シンギュラリティ

シンギュラリティーが起こる時期については、有識者の間でも意見が分かれています。ここでは代表的な説をまとめます。

レイ・カーツワイル氏の説

レイ・カーツワイル氏は、著書『The Singularity Is Near(シンギュラリティーは近い)』のなかで、ムーアの法則と収穫加速の法則を根拠としてシンギュラリティーは2045年頃に起こると予測しました。これは2045年にシンギュラリティーによって人間の能力と社会が根底から覆って変容することを示しており、AGIの出現はさらに早い2029年に起こると考えられています。

この説はシンギュラリティーに関する議論のなかでもっとも広く知られるものであり「2045年問題」と呼ばれることもあります。

ヴァーナー・ヴィンジ氏の説

ヴァーナー・ヴィンジ氏は、1993年に発表した著書『The Coming Technological Singularity(来たるべき技術的特異点)』のなかで「30年以内に技術的に人間を超える知能がつくられる」と述べています。実際に当時から30年後の2023年を迎えた現在、予測された状況にはなっていませんが、近い将来に実現する可能性はゼロではないでしょう。

さらにヴィンジ氏は「シンギュラリティーによって人間の時代は終わる」とも述べており、技術進歩による明るい未来だけでなく、悲観的な意見を持っていたこともわかります。

スチュアート・アームストロング氏の説

未来学者のスチュアート・アームストロング氏は、2040年にシンギュラリティーが起こる説を提唱しています。同時に、論文において「AIは常に最良の振る舞いを行うわけではない」「AIの危険な行動を中断するボタンを人間が押す必要があるかもしれない」といった危険性についても言及しています。

ヒューゴ・デ・ガリス氏の説

AIの研究者であるヒューゴ・デ・ガリス氏は、論文の中でシンギュラリティーは21世紀後半に起きると予測しています。その時、AIは人間の知能に対して1兆の1兆倍(10の24乗倍)になるとも述べました。

シンギュラリティーは起こらないという意見も

さまざまな研究者がシンギュラリティーの起きる時期について見解を述べる一方で、そもそもシンギュラリティーは起こらないという意見もあります。

たとえばスタンフォード大学の教授でAI研究の世界的権威でもあるジェリー・カプラン氏は、シンギュラリティーの到来自体を否定しています。AIには独立した目標や欲求がなく、人間と同一視するのは難しいという見解からです。

このようにシンギュラリティーの到来は非常に複雑な未来予測であるため、有識者の間でも大きく見解が分かれています。

シンギュラリティーがもたらす社会への影響

では、もし近い将来にシンギュラリティーが起こった場合、社会や私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか? ここでは、想定される変化や影響について解説します。

シンギュラリティ

労働市場の変化

まず、もっとも変化が大きいと予想されるのが労働市場です。人間が行っている仕事の多くがAIによって自動化されることで、省人化・無人化が進み、雇用が減少することが想定されます。特に影響を受けるのは、スーパーやコンビニの店員、一般事務員、工場の作業員など単純作業の繰り返しや条件によって対応が決まる仕事でしょう。

一方で、人間特有のホスピタリティーや創造性が求められる仕事の重要性は増すことが想定されます。また、今までにない新たな職種が生まれるかもしれません。

社会制度の変化

AIが仕事を代替することで多くの人が労働から解放されれば、社会制度にも影響を及ぼすでしょう。具体的には、ベーシックインカムの導入が進むと予想する声が多くあります。

ベーシックインカムとは、すべての国民に一律の金額を支給する基本生活保障制度です。経済格差の解消や多様なライフスタイルの実現といったメリットがあります。しかし、労働意欲の低下や財源の確保など、課題も存在するため実現は簡単ではないかもしれません。

医療の進歩

発達したAIによって、今まで不可能だった人間の脳や臓器の仕組みや働きを解明することができれば、医療にも大きな進歩をもたらすかもしれません。今まで技術的に代替が難しかった臓器などを人工物で代替できるようになれば、治療が困難な病気を克服できる可能性があります。

システムへの依存

AIによって高度に自動化された社会では、日常生活の多くが効率化されて利便性が向上する反面、生活を支えるシステムに大きく依存する可能性が高いです。システムに障害が発生すると、多くの活動に影響を及ぼしかねません。また、新たなサイバー攻撃の脅威を生み出す可能性もあるため、リスクを的確に把握して対策を行う必要があります。

シンギュラリティーに向けてITエンジニアが準備すべきこと

シンギュラリティーによる影響はITエンジニアにとっても大きいでしょう。進化したAIにより、開発業務の多くが自動化される可能性があります。ここでは、シンギュラリティー以降にエンジニアに求められるであろうスキルについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。

シンギュラリティ

スキルセットの強化・多様化

今後AIを活用したシステムのニーズはより高まるでしょう。そのため、現在の担当分野のほかに、AIに関連した知識や技術を習得・強化する必要があります。また、データサイエンスやAIに関連するプログラミング言語などを習得することも効果的です。スキルセットを広げることで、雇用が減っても市場価値を高められるでしょう。

創造性と適応能力の向上

人間ならではの柔軟な創造性や問題解決力はAIには代替できないものです。エンジニアがこうしたスキルを向上させることで、AIと共存して新たな価値を生み出すことができます。また技術は常に進化しているため、最新のトレンドや技術を学び続けることも大切です。

コミュニケーション能力の向上

AIによって技術的な労働負荷が軽減されることで、より重視されるのがコミュニケーション能力などのソフトスキルです。プロジェクトを成功に導くリーダーシップを持つ人や、チームワークを促進する協調性をもつ人は組織から重宝されるでしょう。

倫理的な観点と責任感

AIの活用において、よく課題となるのが倫理的な問題です。エンジニアに対してもAIシステムの開発・運用において倫理的な観点や行動が求められます。関連する法律などについて学び、社会的な影響を理解することが重要です。

ビジネスと市場の理解

シンギュラリティーがもたらす変化が、ビジネスや市場のニーズにどのような影響を与えるのかを理解することも大切です。予測をして適切な対策や戦略を考えることができれば、ビジネスチャンスにつながります。常に新しい技術がもたらす影響を見極め、それを活用する方法を考えることが重要です。

シンギュラリティ

知識とスキルを身につけてシンギュラリティーに備えよう

シンギュラリティーとは、AIが人間の知能を超える転換点、またそれによりもたらされる社会や生活の変化のことです。シンギュラリティーが起きる時期については有識者の間でも意見が分かれており、否定的な意見も存在します。

まだ仮説の段階ではありますが、昨今のAIの急速な進化を見ても実現する可能性は大いにあると言えるでしょう。シンギュラリティーが起きると、労働負荷の軽減や医療の進歩などメリットが想定される一方で、雇用が減少するといったデメリットも考えられます。エンジニアも例外ではなく、シンギュラリティー以降にも重視されるスキルを身につけることが大切です。

これからさらに進化するであろうAIと共存することで、社会の発展や新たな価値の創出に貢献できるでしょう。シンギュラリティーを迎えても最大限に活躍できるよう、ぜひスキルアップを目指してみてください。

文/江副杏菜

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