プログラミングパラダイムとは
プログラムをどのように考え、書くかの「考え方の枠組み」のことです。例えば、日記を書くとき、物語を作るとき、レポートを書くとき、それぞれの書き方にルールやスタイルがあるように、プログラミングにもいろいろな書き方があります。代表的なものには、命令を順番に実行していく『手続き型』、手続きをまとめた関数を組み合わせて記述して実行する『関数型』、「順次」「反復」「分岐」などの単純な制御構造をまとめて抽象化し、階層構造によって処理を行う『構造化』などがあります。
オブジェクト指向は、現代のプログラミングにおいて欠かせない重要な考え方です。Python・Java・PHP・Rubyなど、近年主流の開発言語を使用する際には必ずと言っていいほどオブジェクト指向が顔を出します。
しかし、いざオブジェクト指向を理解しようと思って調べても、なかなか難解であるため苦労する人も多いでしょう。クラスやプロパティ、メソッドなど用語が多いことも、理解を妨げている理由の一つかもしれません。
そこで本記事では、プログラミング初心者でも理解できるようにオブジェクト指向の基本から分かりやすく解説します。
目次
オブジェクト指向とは、プログラミングを行う際のアプローチの一つです。具体的には、システムの各要素を特定の役割を持つ「オブジェクト」として定義し、これらのオブジェクトを組み合わせてシステム全体を構築する考え方を指します。
オブジェクト指向の概念は、自動車の構成を例に考えると分かりやすいです。
自動車は、エンジン、ブレーキ、ホイールといった多くの部品で構成されています。オブジェクト指向プログラミングでは、これらの部品を「オブジェクト」として捉え、それぞれが特定の役割や機能を持つものとして認識します。「エンジン」オブジェクトであれば車を動かす役割、「ブレーキ」オブジェクトであれば車を停止させる役割といった具合です。
これらのオブジェクトはいずれも、自動車を構成する必須要素です。スポーツカー、SUV、電気自動車など車種は異なっても、自動車である限りエンジンやブレーキ、ホイールの機能は基本的に共通しています。そのため一度オブジェクトを定義すれば、異なる車種の開発に転用できるので、新車種の開発が効率的に行えるようになります。
プログラムの要素を「ある機能や動作などの特徴を持つオブジェクト」として定義することで、再利用や調整が容易にできることがオブジェクト指向の大きな特徴です。開発作業の効率化につながることから、近年のシステム開発における主流の考え方となっています。
オブジェクト指向のように、プログラミングの考え方を示すものを「プログラミングパラダイム」と呼びます。
プログラミングパラダイムとは
プログラムをどのように考え、書くかの「考え方の枠組み」のことです。例えば、日記を書くとき、物語を作るとき、レポートを書くとき、それぞれの書き方にルールやスタイルがあるように、プログラミングにもいろいろな書き方があります。代表的なものには、命令を順番に実行していく『手続き型』、手続きをまとめた関数を組み合わせて記述して実行する『関数型』、「順次」「反復」「分岐」などの単純な制御構造をまとめて抽象化し、階層構造によって処理を行う『構造化』などがあります。
オブジェクト指向が他のパラダイムと大きく異なるのは、プログラミングを手順ではなくモノの作成と操作としてとらえることです。このアプローチによりシステムが単純化され、設計が直感的で理解しやすくなります。これは特に大規模な開発環境で効果を発揮するでしょう。
さらに先述したように効率化にもつながることから、現在では最もポピュラーなプログラミングパラダイムとしてオブジェクト指向が選ばれています。
オブジェクト指向はさまざまなプログラミング言語で取り入れられています。代表的な言語は次の通りです。
●Java
●PHP
●Ruby
●JavaScript
●Python
●Swift
●C#
●C++
これらのプログラミング言語を効果的に扱う上では、オブジェクト指向についての知識や理解が役立ちます。
続いて、オブジェクト指向を構成する重要な要素について解説します。オブジェクト指向を習得するには、次のワードを理解しなくてはなりません。
一つずつ整理しながら見ていきましょう。
直訳すると「モノ」や「対象」という意味があり、プログラミングにおいてはデータと処理の集まりを表します。
現実世界で例えるなら、自動車やスマートフォン、人間もオブジェクトです。例えばスマートフォンというオブジェクト(モノ)は、「ブランド」「画面サイズ」「ストレージ容量」などのデータと、「電話をかける」「メッセージを送信する」「アプリを起動する」などの処理に分けることができます。
このようにデータと処理をまとめた集まりがオブジェクトであり、オブジェクト指向の基本となります。
オブジェクトの設計書のようなもので、オブジェクトが持つデータと実行できる処理を定義する機能です。例えばスマートフォンを製造する際には設計書が必要なように、オブジェクトを作るためには必ずクラスが必要になります。
オブジェクトの特徴を表すデータのことです。スマートフォンをオブジェクトにした場合は「ブランド名」「画面サイズ」「ストレージ容量」などがプロパティに該当します。またオブジェクトの特徴だけでなく、状態を表す場合もあります。
オブジェクトが実行できる処理を定義したものです。スマートフォンの場合は「電話をかける」「メッセージを送信する」「アプリを起動する」などがメソッドに該当します。メソッドを呼び出すことで、オブジェクトは特定の操作を実行して何らかの処理を行うことができます。
クラスから作成される具体的なオブジェクトを指します。クラスを設計図とすると、インスタンスはその設計図に基づいて製造された実物です。
例えば「スマートフォン」というクラスから『iPhone 15』というインスタンスを製造すると、iPhone 15はスマートフォンクラスの特性を受け継ぎます。同様に「スマートフォン」クラスから別のインスタンスとして『Galaxy S23』を生成することも可能です。それぞれのインスタンスは異なるプロパティやメソッドを定義することで、異なる実物として区別されます。
オブジェクト指向には、次にあげる三つの原則があります。
これらの原則を知ることで、オブジェクト指向の考え方をプログラミングへ落とし込めるでしょう。それぞれ詳しく解説します。
継承とは、既存のクラスを親クラスとし、親クラスのプロパティやメソッドを新たに作成した子クラスへ受け継がせることです。
例えば親クラスである「自動車クラス」はエンジンやブレーキ、ホイールなど全ての自動車に共通する機能を持っています。これを子クラスとする「トラッククラス」に継承すると、トラッククラスでは自動車クラスが持つ共通機能をそのまま受け継ぎ、トラックに必要な荷物の積載スペースなどの追加する機能のみ新たにコードを書けばよいのです。
この継承によってプログラムの再利用性が高まり、効率的にコードを書くことが可能になります。
ポリモーフィズムとは、同じ名前のメソッドでもクラスごとに異なる振る舞いを実装できることです。
例えば全ての車には「加速する」という共通の操作があります。しかしスポーツカーは迅速に加速する一方で、トラックは重い荷物を運んでいるため、よりゆっくりと加速します。このように同じメソッドでもクラスごとに振る舞いが変わる性質がポリモーフィズムであり、プログラムの柔軟性を高めるために重要です。
カプセル化とは、オブジェクト内のデータをカプセルに入れるように閉じ込め、外部からアクセスできなくすることです。
外部から自由にデータへアクセスできる場合、誰にでもデータの参照や編集が可能な状態になってしまいます。データの不整合や誤動作、外部からの不正な使用を防ぐために、カプセル化は効果的です。
ここからはオブジェクト指向の具体的なメリットとデメリットについて解説します。
オブジェクト指向の主なメリットとしては次のようなものがあります。
●開発作業を効率化できる
『継承』の原則によりオブジェクト間で共通するプロパティやメソッドを再利用できるため、同じコードを何度も書く必要がありません。
またオブジェクト指向はシステムをモジュール(部品)化することを促進します。これらのモジュールはシステムのほかの部分とは独立しているため、既存の機能の変更や新たな機能の追加時にも全体のシステムに影響を及ぼすことがありません。そのためシステムの拡張が容易かつスピーディに行えることも開発作業の効率化につながります。
●メンテナンスがしやすい
プログラム内の処理を変更・改修する必要が発生した際に、特定のクラスのメソッドを変更すれば、そのクラスを利用しているオブジェクトすべてに変更が適用されます。メンテナンスの労力を減らすだけでなく、修正漏れをなくして不整合や誤動作を防げることもメリットです。
オブジェクト指向にはメリットが多い一方で、次のようなデメリットも存在します。
●学習コストがかかる
オブジェクト指向を習得して業務で活用するには、ある程度の期間や労力が必要です。ここまで紹介したように学ぶべき新しい概念や原則などがたくさんあるため、とくにプログラミング初心者にはハードルが高いかもしれません。
しかし、だからこそオブジェクト指向をきちんと習得したエンジニアには希少性があるといえます。就職や転職活動においても非常に有利になるでしょう。
最後に、オブジェクト指向を習得するためにおすすめな学習方法について紹介します。
書籍は情報がまとまっており、体系的に自分のペースで学習できることがメリットです。理解が難しいオブジェクト指向についてじっくりと学ぶことができます。さまざまな種類の書籍が発売されていますが、とくにおすすめの書籍は次の三つです。
【1】『オブジェクト指向でなぜつくるのか 第3版』(日経BP)
「これからの10年も通用する基本」をテーマに、幅広い読者に向けてオブジェクト指向の全体像を解説しています。まずは特定の言語ではなく、オブジェクト指向のコンセプトを理解したい方におすすめです。
【2】『オブジェクト指向入門 第2版: 原則・コンセプト』(翔泳社)
オブジェクト指向の入門書としてかなりのボリュームがあり、原理原則をしっかりと理解できる書籍です。オブジェクト指向の定義や考え方、技法をすべて学ぶことができます。ある程度オブジェクト指向の概要を学んでおり、さらに知識を深めたい方におすすめです。
【3】『新わかりやすいJava オブジェクト指向徹底解説 第2版』(秀和システム)
Javaのオブジェクト指向について、わかりやすい図やイラストを豊富に用いて解説しています。実際に手を動かしてプログラミングをしながらオブジェクト指向を学べるため、知識が定着しやすいことがメリットです。
今回は人気の良書をピックアップしましたが、ほかにもさまざまな言語でのオブジェクト指向についての書籍が発売されています。ぜひ自分が扱う言語や興味のある言語の書籍も探してみてください。
オンラインの学習サイトを利用することもおすすめです。例えばJavaScriptのオブジェクト指向について学べるJavaScript オブジェクト入門や、さまざまな学習動画が用意されているオンラインプラットフォームUdemyなどを利用すれば、無料または安価な価格で手軽にオブジェクト指向を学ぶことができます。
スマホでも利用できるため、忙しい方でも移動中などの隙間時間を利用して学習できることもメリットです。
オブジェクト指向で作られたプログラムは再利用性が高く、メンテナンスも容易なことから現在のシステム開発では最も主流といえます。この考えをしっかりと習得することで、エンジニアとしての市場価値を高める効果も期待できるでしょう。ぜひ学習を続けてオブジェクト指向への理解を深めてみてください。
「オブジェクト指向」についておさらい
オブジェクト指向は、パラダイムプログラミングの一つで、現実世界の事物を「オブジェクト」としてモデル化し、そのオブジェクト同士のやり取りを通じてプログラムを構築する方法です。各オブジェクトは特定の「クラス」から生成され、クラスにはそのオブジェクトの属性(データ)と振る舞い(関数やメソッド)が定義されています。オブジェクト指向の核心的な特徴には、カプセル化(データの隠蔽)、継承(既存のクラスの特性を新しいクラスが受け継ぐこと)、ポリモーフィズム(同じインターフェースで異なる実装を可能にする性質)があります。このアプローチにより、再利用性、拡張性、管理のしやすさが向上し、複雑なソフトウェアの開発が容易になります。
文/江副杏菜 編集/エンジニアtype編集部
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