下城米 雪さん(@naro_shogakusei)
ソフトバンクのテクノロジーユニット ビジネスシステム開発本部に所属し、通信機器の設定を行うシステムの管理などを担当。社内の副業制度を利用し、小説執筆を行っている。代表作『え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?』(主婦と生活社)はコミック化もされている。小説は台湾KADOKAWAより翻訳版も出版。自身で運営するウェブサイト「なろうRaWi(ラヴィ)」で自作AIを公開中
芥川賞受賞作家もAI活用を公言するなど、創作活動にテクノロジーを用いるケースが増えている中、ある小説が話題になっている。
小説『え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?』(主婦と生活社)作者の下城米 雪さんは、エンジニアとして働きながら副業でこの小説を執筆する際に、AIを徹底的に活用したという。
下城米さんはどのようにAIを創作活動に取り入れたのだろうか? テクノロジーが創作活動にもたらす可能性に迫った。
下城米 雪さん(@naro_shogakusei)
ソフトバンクのテクノロジーユニット ビジネスシステム開発本部に所属し、通信機器の設定を行うシステムの管理などを担当。社内の副業制度を利用し、小説執筆を行っている。代表作『え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?』(主婦と生活社)はコミック化もされている。小説は台湾KADOKAWAより翻訳版も出版。自身で運営するウェブサイト「なろうRaWi(ラヴィ)」で自作AIを公開中
-下城米さんの本業はエンジニアだそうですが、小説を書き始めたのはいつ頃ですか?
子どもの頃です。夜更かしをしていたときに見たアニメがあまりにも面白くて、書店に行って原作の小説を買い、夢中になって読んでいるうちに、気付いたら自分も小説を書いていました。
それからは、時間を見つけては小説を書き、ネットに投稿し続けました。
-ヒット作となった『え、社内システム全てワンオペしている私を解雇ですか?(以下、ワンオペ解雇)』は、どのような経緯で執筆を始めたのでしょうか?
これまではずっと「自分が書きたい小説」を書いてきたのですが、あまり評価が良くなかったんです。でも、せっかく小説を書いてきたからには一つぐらいは大ヒット作品を生み出してみたいと思い、自分が作品を投稿しているサイトの小説ランキングを徹底的に研究し始めました。
その研究内容から主な読者のペルソナを想像し、その人たちに刺さる設定や表現を意識して『ワンオペ解雇』を書き始めたんです。
作品の詳細設定や登場人物については、今まで自分がエンジニアリングに携わる中で見聞きしてきたことも反映されています。仕事柄いろいろな立場の人の間に立つことが多かったので、周囲の人の心情を考えながら働いてきた経験が活かされているのかなと思います。
-『ワンオペ解雇』は執筆に際してAIを活用した点でも注目を集めていましたよね。具体的にはどのようにAIを使ったのでしょう。文章をAIに書いてもらったのですか?
いえ、本文の執筆は全て人力です。AIは、人気ランキングに載っている作品の共通点を分析するために使いました。
誰もが知るような人気の作品って、「バトル×青春」「異世界転生×成り上がり」といったように、共通する要素が多いですよね。ジャンルやストーリーの「人気あるある」をAIに学習させてランキング内の作品を分析すれば、読まれやすい作品の傾向を探れると思い、分析結果が数字でスコアリングされるようなAIを自作したんです。
ところが、さまざまな小説に対してAIが出す評価を見ているうちに「小説のタイトルやあらすじだけを評価しても同じ評価が出るのでは?」という仮説を思いつきました。その結果できたのが「タイトルとあらすじをインプットすると、その作品を数字で評価するAI」です。実際にあるランキングサイトが公開している小説の評価と、自作AIの評価を照らし合わせたところ、見事に正の相関が得られました。
AIはビッグデータで学習しているので、AIの出す数字は読者たちの平均的な評価を意味します。つまり、AIが100点を出すタイトルとあらすじで小説を書けば、読者に受け入れられる可能性が高くなります。
『ワンオペ解雇』のタイトルとあらすじも、このAIを活用して考えました。『ワンオペ解雇』はコミカライズもされて多くの人に注目される作品に育っているので、執筆活動へのテクノロジーの活用は成功したと言えそうです。
-自作AIの開発には、エンジニアとしての経験が活かされたわけですね。
そうですね。エンジニアとしてはデータサイエンスを専門にしてきたので、データの分析手法やAIが出す数字の解釈に関してはナレッジがあり、それらをフル活用しました。
-小説執筆のためにAIを活用した経験は、エンジニアの仕事にも活かされていますか?
はい。AIを使って小説を書いてからは、AIが自分の手足になったと感じます。
昨今、多くの企業がAIの活用を考えていると思います。この時、AIの活用そのものを目的としていることが多いと感じます。私も最初はそうでした。しかし副業でAIを活用してからは、AIを“目的”ではなく、課題解決の“手段”として捉えるようになりました。例えば何らかの課題に直面した時、それを解決する手段の一つとして、具体的なAIの活用方法がパッと頭に浮かぶんです。
AIを単なる仕事としてではなく、自分が心から達成したい目的のために使った経験があるからこそ、AIを使いこなせるようになったのかなと思います。
-AIを使い始めてから、作品のクオリティーは変化しましたか?
大きく変わりました。このAIは私にとっては相談相手のような存在になっています。
どの作家さんもそうだと思うのですが、フィーリングだけで執筆するのは不安なんです。羅針盤を持たずに海を航海しているようなものですから。でもこのAIを使い始めてからは、数字という羅針盤に沿って小説を書けるようになったので、迷いにくくなりましたね。
-AIが指針を示してくれることで、執筆活動の楽しさが奪われてしまうことはありませんか?
私の場合は全くないですね。AIは単に点数を出しているだけであって、それをもとに何を書くかは自分が決めていますから。
先述したように、私はAIを「自分の代わりに文章を書いてもらう」のではなく、「市場のどこに向かって書くべきかを示す羅針盤」として使っています。私がクリエーティビティーを発揮する領域は何ら変わりがないので、今までと同じように楽しみながら書くことができているんです。
-下城米さんのようにAIを創作活動に使う人は、これから増えると思いますか?
そうですね。実際にAIを使って執筆している作家さんはまだごく一部ですが、AIを使っている人と使っていない人の間では、大きな差が開きつつあると思います。
おそらく将棋の世界と同じです。将棋の研究に率先してAIを活用してきたことで知られる藤井聡太さんは今や八冠ですよね。 AIを使って研究している棋士と、それを頑なに拒否している棋士と同じような差が、小説の世界でも出始めているのではないでしょうか。
というのも、私は自分が開発したAIをWeb上に公開しているのですが、それを使って小説を書いた作家さんから「初めてランキングで上位に入り出版社から声がかかりました」というDMが届いたんです。これから創作の世界の常識は、AIによってものすごいスピードで変わっていくのではないかと思います。
-小説執筆におけるAI活用には、未だ賛否が分かれているかと思います。下城米さんご自身は、どのように感じていますか?
AIを使って書いた作品が、私の作家としての夢を一つ叶えてくれたことは間違いありません。テクノロジーを積極的に活用したいという作家さんが増えれば、小説業界はこれからもっと盛り上がっていくと思います。
面白い作品がどんどん増えていき、全体的な読者も増えて業界自体がより盛り上がってほしいというのが、私の願いです。その役に立てるのなら、これからもいろんな作家さんに、私が開発したAIを使ってもらえたらうれしいですね。
取材・文/一本麻衣 編集/今中康達(編集部) 写真提供/主婦と生活社
社内システムをワンオペしていた佐藤愛は、
社長交代を機に解雇予告を受ける。
退職後、ファミレスで悲しみに暮れていたところ、
幼なじみの健太と再会。
健太は愛を自身のスタートアップ「真のプログラマ塾」に誘い、
愛の熱く、時に破天荒な講義で受講生たちを前向きにさせる。
ストレス社会で頑張る全ての人たちへ、
明日がちょっとだけ笑顔になれるお話です。
著:下城米 雪 イラスト:icchi
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