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キーワードは「シンプル」と「情熱」ーー。20年以上、日本のモノづくり業界第一線に身を置くユー・エス・イー山口氏が語る業界復興の条件とは?

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    約30年に渡り日本のモノづくりを支えてきたユー・エス・イー。その代表である山口氏に、モノづくりの未来を聞いた。

    1990年代、日本は技術大国として高品質な製品を生産し、日本経済を大いに潤わせながら世界の“モノづくり”業界を牽引していた。しかし、2000年あたりを境にその勢いは衰え始め、03年に起きたソニーショックや、08年のリーマンショックを経て、以来低迷を続けているというのが現状だ。では、どうすれば日本のモノづくり業界は再興するのか? 20年以上にわたり日本のモノづくり業界の第一線に身を置き、荒波を乗り越えてきたユー・エス・イーの代表、山口明氏に話を聞いた。

    プロフィール画像

    株式会社ユー・エス・イー CEO
    山口 明(やまぐち・あきら)氏

    1959年生まれ。NECグループの三信電気においてシングルチップマイコン関連のソフトウエア開発に携わった後、1992年にユー・エス・イーを設立。ソニー、シャープ、パイオニア、クラリオン、ヤマハなど、日本を代表するモノづくり企業からの期待に応え、AV機器、車載用品などに独自の機能性を実現。現在ではアジアをはじめとする海外企業からも注目される存在となっている

    熱い想いのもと高い技術力で成果を出す。それこそが受託企業の生き残る道

    かつて日本の家電メーカーや自動車関連メーカーが世界を席巻した時代に、組込みシステム特化のシングルチップマイコン・ソフトウェアの開発で突出した技術力を示してきたユー・エス・イー。オーディオ、車載機器、ワイヤレス等の領域で1990年代から大手メーカーとの二人三脚で日本のモノづくりを支えてきた。リーマンショックやソニーショックといった苦境を乗り越え、今では中国をはじめアジアの新興市場からも注目されている。

    「1980〜90年代の製造現場には熱気がありました。今よりもっと高い性能、もっと新しい技術、もっと確かな品質を実現するため、メーカーや受託企業は立場やヒエラルキーを超え、イコール・パートナーとなって切磋琢磨していたのです」

    そう語るのは、同社の創業経営者である山口明氏だ。ところが2000年を1つの境として、日本のモノづくりは熱を失い、モノづくりの環境も一変した。

    「日本のメーカーは苦境に陥った際、これ以上の衰退を防ごうと生産の効率化に注力しました。そこで起こったのが品質の低下という問題です。数字を優先する流れの中で、製品の製造委託も多く行なわれるようになりました。そうして生産の効率化を推し進めた結果、製品の品質低下が引き起こり、品質を監視するための労力やコストが発生するという悪循環に陥ってしまったのです」

    2000年以前は部品や部分的機能を担っている受託企業も堂々と完成品メーカーに意見をし、「ともにいいものを作ろう」という空気があった。しかし今のメーカーは「とにかくこちらの指示に従ってください」というスタンスの企業が多い。受託企業側も「ウチは下請けだし、言われたことをやっていればいい」という考えが強く、悪しき上下関係が固定化してしまっているという。

    「もちろん、どんな業界にだってヒエラルキーはあります。しかし、こうした環境下でエンジニアが『言われた通りのことをしていれば仕事にありつける』というような意識に染まってしまえば、画期的なアイデアやそれを達成するための情熱は消えてしまいます。そして中国製造業の躍進に飲み込まれ、居場所を失ってしまう可能性まであるのです」

    受託型の企業であっても、「良いものを作る」という想いのもと高い技術力で成果を出せばメーカーから選ばれ、生き残ることができる。それが山口氏の考えだ。事実、ユー・エス・イーはその技術がグローバルに注目され、最近ではAppleのMFi(Made for iPod)のDeveloper Licenseも取得。USB、Bluetooth、NFC、Wi-Fi、Audio DSPなどデジタル先端技術を使った製品やアプリケーション開発も進めている。

    目指すは「シンプル」。モノづくり業界の原点回帰

    では、今の劣勢をはね返して、日本のモノづくりが世界で再び『勝つ』にはどうすればいいのか? 「儲ければいい」と山口氏は語る。

    「儲けるために、『面白い。欲しい』と思わせる新しいものを作ること。面白いものを作るには、作る側の人間が面白がって働くことが重要だと思います。本気で面白いモノを作ろうと思えば、悩んで夢にだって出てくる(笑)。以前、私は何度もマイコンの夢を見ました。試行錯誤してもなかなかうまく動かないことがある。試作を繰り返すたび、それが夢に出てくる。それだけ愛情を持って熱中できれば、新しい面白いモノが作りだせると信じています」

    とはいえ、現在の日本のモノづくり業界のように、複雑な日常作業に追われれば、エンジニアの創造性は損なわれる。そういった環境の中で「作る」力、「作りたい」という情熱を持ち続けるためには、「やるべきこと」を限りなくシンプルに絞ることが重要だ。

    日本のモノ作りの未来を熱く語る山口氏

    「シンプルさにおいてお手本になるのがAppleです。Appleがこの10年、20年の中で投入してきた製品やサービスの多くがシンプルな機能、性能を強みにしています。開発を進めていく動きも実に直線的でシンプル。今こそ日本のモノづくりはここから学ぶべきだと思います」

    実際、同社では社員が企画提案に用いるパワーポイントなども、できるだけシンプルに作るように指導している。
    「問題点は何か、伝えたいアイデアは何か。これを一言で表そうとすれば、誰でも悩みます。しかし、そういう過程を経ることで事の本質が明らかになる。Appleが新製品発表会等で発信するメッセージも常にシンプルですよね? シンプルだから、聞き手の心に刺さる。シンプルに発信できるような技術を追求するから、作り手も本来の仕事に没頭していくことができるのです」

    モノづくりを支える存在から、リードする存在へ

    日本の“モノづくり”業界への危機感は多くの人が感じている。しかし、誰かが動き出さなければ日本は変わらない。そんなの想いを胸に、ユー・エス・イーは新しい動きを開始した。中規模の技術企業であっても、日本のモノづくりを覚醒させることは可能だと信じ、現在はヒト・モノ・カネのリソースを「オンリーワン技術確立」のために投じ始めているのだ。

    「これまでの事業を粛々とこなすだけのほうが、目先の利益は上がっていくでしょう。しかし、それでは日本が変わらない。だからこそ、ユー・エス・イーにはなかったまったく新しいものを創造していこうと考えているんです」

    近年ではオンリーワン分野の開拓と確立を実現させるため、多額の予算を費やし、人員も増強にも動いている。

    ユー・エス・イーがモノづくり業界を牽引すると意気込みを見せる

    「今は30代のエンジニアを中心にしたメンバーで企画会議を繰り返し、何を作るのか、どんな技術を用いるのか、アイデアを持ち寄って、皆で検討している段階です。まだまだ助走を始めたに過ぎません。だからこそ、今後必要となるのが外部からの新鮮な意見です。組込系技術で何かを成し遂げてきたようなエンジニアはもちろん、そうしたバックグラウンドのないエンジニアにもこのプロジェクトに参加してほしい。経験よりも大切なものは、心の底から『面白いもの。まだどこにもないもの』を作りたいと思っていること。そして、そういう情熱や愛を備えたエンジニアこそが日本を変えられると思うからです。そんなエンジニアたちとともに知恵を出し合い、ぶつけ合って、かつて日本のモノづくりが持っていた熱気を、このユー・エス・イーでよみがえらせたいです」

    取材・文/森川直樹 撮影/竹井俊晴

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