DeNA「AIを使いこなす社員」の評価基準、現時点の“答え”とは?
AIを使いこなしている人、あるいは状態とは一体どういうレベルなのか? その問いに日本トップレベルでAI活用が進むDeNAが出した、現時点での“答え”はこうだ。
「AIオールイン」宣言企業が打ち出した評価の新基準
DeNAが2025年2月に発表した「AIオールイン」宣言(DeNA TechCon 2025)を支える重要施策群のなかで、その変革をさらに加速させるための施策の一つが、2025年8月末からの導入が発表された新指標「DARS(DeNA AI Readiness Score)」だ。
このDARSは、エンジニアに限らず全ての社員を対象とし、「AIが使える状態」から「AIを武器に事業変革を起こせる状態」までを5段階でスコア化。技術的なラーニングだけでなく、“組織がどれだけAIドリブンで意思決定・実行できているか”まで可視化するという、非常に野心的な取り組みだ。
これまで一部のテックリーダーに委ねられてきたAI活用の推進を、“組織単位”で底上げすることにより、全社でのAI実装スピードと深度を最大化する狙いがあるという。
日本トップクラスでAI活用が進んでいるであろうDeNAが、試行錯誤を経て形にした「AI活用スキルの定義」や「評価方法」。このDARSは、これからAI活用を進めようとする全ての企業にとっての参考事例となるはずです。
「AIを使いこなすとはどういうことか?」「それをどう組織的に底上げしていくべきか?」という難問に対し、最前線の企業が出した“現時点の答え”を知れる意義は大きいでしょう。
個人と組織。それぞれのAI活用度を評価
DARSでは、社員一人一人のAI活用スキルを5段階評価する「個人レベル」と、部署単位でのAI活用成熟度を測る「組織レベル」という2軸で構成されている。
■ 個人レベル:あなたの“AI活用成熟度”はどの段階?
開発者(開発を主業務とするエンジニア)と非開発者(ビジネス/クリエイティブ職/マネージャー等)に分類され、AI活用の習熟度に応じてレベル1から5までの段階を設定しています。レベル1は「基礎的な知識や利用習慣がある」状態を示し、最上位のレベル5は「AIを軸とした全体設計やビジネス変革ができる」状態を示しています
エンジニアにとって注目すべきは、「AI Platform、フレームワーク、ツール群をオーケストレーションしAIエージェントを設計する。エコシステムを理解し、組織全体のAI開発を推進する」が最高レベルとなる「レベル5」の要件に含まれていること。
これは単なるプロンプト活用ではなく、AIを業務基盤に組み込み、AIを軸としてビジネス変革あるいはスケールさせる力が求められることを意味する。
■ 組織レベル:あなたのチームは“AIネイティブ”か?
もう一つの軸は、部署・チーム単位での評価だ。
組織レベルでも1〜5段階で分類されており、最上位のレベル5では、「AIだからこそ可能な戦略が実行されている」状態が求められる。
組織のAI活用フェーズに応じてレベル1から5までの段階を設定しています。レベル1は「組織の中でAIを試し始めている段階」を示し、最上位のレベル5は「AIだからこそ可能な戦略が実行されている段階」を示しています
例えば、単なる効率化ではなく「AI前提でプロダクト構造やKPIを再設計」しているような状態を指す。
この評価は、「チーム内で個人レベル●以上の人が何人いるか」という定量的な構成比によって決まるため、属人的なAIエリートに依存しない、底上げされたチーム構造が目指されている。
「評価に直結しない指標」の本質的意味
DARSの興味深い点は、個人の人事評価には直結させないことが明記されていることだ。
つまり「罰ではなく成長のための指標」であるため、社員が安心してAI活用にチャレンジできる設計だ。現場に安心感を与えると同時に、「AIスキル向上」が一人一人の中長期的なキャリアにどう寄与するかを自律的に考えさせる仕掛けでもあるようだ。
特にエンジニアにとっては、AIツールを“使う”だけでなく、AIエージェント構築、業務自動化、LLMOpsの導入など、より本質的な生産性向上を担う役割が明示的に示された点が、重要なメッセージといえるだろう。
評価制度を通じた、組織文化の再設計
DARSの導入は、単なるスキル評価ではなく、組織全体がAIネイティブへ進化していくプロセスの一部でもある。
実際、同社では現在、eラーニングや勉強会、学習ポータルなどを通じて、エンジニア・非エンジニア問わず、2025年度末には全組織がDARS組織レベル2以上に到達するという目標を掲げている。
これは裏を返せば、「AIは一部の人の専門領域」ではなく「全員の基礎教養」になるという思想の現れでもある。
AIスキルの見える化は、キャリアの問い直しにも
DARSが示したのは、単なる指標や制度ではない。
「これからの企業はどうやってAIを文化として根づかせるか?」という問いに対する、一つのベンチマークだ。
今後、多くの企業がAI活用に本腰を入れようとする中で、DeNAが先陣を切ってつくったこの仕組みは、そのまま「AIネイティブな組織」を実現する設計図として多くの現場で参照されていくことになりそうだ。
文/エンジニアtype編集部
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