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「AI時代に必要なスキル」って結局何? トップランナーたちが考える、エンジニアに求められる能力の正体

スキル

AIによるプログラミングの品質が高まり続けている今、エンジニアとしてのキャリアをどう築くべきか、多くの人が模索していることだろう。コード生成の高速化、開発プロセスの変革、エンジニアに求められるスキルの再定義ーーまさに時代の転換点に立ち、エンジニアの価値そのものが問われていると言える。

今回は、このような時代を生き抜くエンジニアに不可欠なスキルを探っていこうと思う。

本質的な技術力とは何なのか。どのような能力を磨いていけばよいのか。第一線で活躍する識者たちの言葉を通じて考えてみたい。

AI時代に「技術力」は再定義されるのか。まつもとゆきひろが明かす不変の三要素

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AI時代に「技術力」は再定義されるのか。まつもとゆきひろが明かす不変の三要素

AIによるコード生成が普及する中、「技術力」の本質はどのように変化するのか? エンジニアtype編集部では、そんな問いをプログラミング言語・Rubyの生みの親であるまつもとゆきひろさんにぶつけさせてもらった。

記事の中で、まつもとさんは自身がAIを開発に活用した際の体験談を語った。それによると、AIは定型的な処理や既存のパターンには強いものの、創造的な作業や文脈を深く理解するタスクにはまだ課題が多いと感じたという。

まつもとさん

軽量Ruby処理系「mruby」の開発にAIを使ってみたのですが、思うようにいかなかったんですよ。
(中略)
「既存のファイルを活かして作ってください」と軌道修正を指示しても、「これは複雑ですね」と言ってゼロから書き直そうとする。2時間ほど格闘した末、最後には「思ったよりだいぶ難しいですね」と諦められてしまいました。

このエピソードから、人間には設計意図を理解し、的確に指示する力が求められることが分かる。AIはあくまで「手」であり「頭」ではないのだ。

そしてまつもとさんはこれからの技術力について「いつの時代も変わらない」と前置きしつつ、次のように解説した。

まつもとさん

(技術力とは)「技術を用いて問題を解決する能力」だと思います。

この能力は、単なるプログラミングスキルではなく、いくつかの能力が集まって成り立つ複合的な力です。具体的には、問いを立てる能力、選択肢の中から最善を選んで決断する能力、責任を取る能力などに細分化できます。

これらの力は、AIがいくら進化しても、すぐに代替されるものではありません。

上記の記事では、「技術力」という言葉が示す意味についてのまつもとさんなりの解釈に加え、近年の若手エンジニアが成長する難易度が上がっていることについて言及した上で、どのようにスキルを磨いていけばよいかのアドバイスもされている。

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Rubyアソシエーション理事長
Ruby開発者
まつもと ゆきひろさん(@yukihiro_matz

プログラミング言語Rubyの生みの親であり、一般財団法人Rubyアソシエーション理事長。株式会社ZOZOやLinkers株式会社、株式会社LIGなど複数社で技術顧問などを務めている。オープンソース、エンジニアのコミュニティ形成などを通じて、国内外のエンジニアの能力向上やモチベーションアップなどに貢献している。島根県松江市名誉市民

「成長の近道は、他人のPRを読むこと」米マイクロソフト・牛尾 剛が考える、バイブコーディング時代の必須スキルとは?

「成長の近道は、他人のPRを読むこと」米マイクロソフト・牛尾 剛が考える、バイブコーディング時代の必須スキルとは? type.jp
「成長の近道は、他人のPRを読むこと」米マイクロソフト・牛尾 剛が考える、バイブコーディング時代の必須スキルとは?

米Microsoftのシニアソフトウェアエンジニアである牛尾 剛さんは、AIが日々のコーディングを助ける「バイブコーディング時代」において、エンジニアの成長に不可欠なのは「読む力」であると語る。

かつて牛尾さんは、数週間かけて実装した新機能に対して同僚から「そのコード、もう使われていない古いアーキテクチャ(デッドコード)の上に書かれてるぞ」と指摘された経験があると明かし、当時の気付きを次のように口にした。

牛尾さん

自分がかけた時間も労力も、全部ムダだった……。目の前が真っ暗になるとは、まさにこのこと。

結局のところ、自分に足りなかったのは、「速さ」でも「努力」でもなかった。決定的に欠けていたのは、「システム全体の理解」。どんなに素晴らしいコードを、どんなに時間をかけて書いたとしても、その土台となる文脈の理解がなければ、その努力は一瞬で無に帰してしまう。

「ただがむしゃらに書く」ことの危うさと、その前に何か重要なステップが抜け落ちていることを痛感した出来事でした。

この痛烈な経験を機に、牛尾さんはアプローチを180度転換。「いかに速く書くか」ではなく「いかに深く、正確に読むか」に焦点を移した。

牛尾さんが実践したのは「ディープコードリーディング」。チームの主要開発者のプルリクエスト(PR)を最初から全て「100%完全に理解する」まで読み込むという徹底的な学習法だ。この際、GitHub Copilot AgentのようなAIツールを家庭教師のように活用し、疑問点を一つずつ解消していく。

牛尾さん

彼ら(トップエンジニア)の凄みは、決して「コードを打ち込む速さ」や「膨大な知識の記憶」ではありません。その本質は、どんなコードでも即座に読み解き、システムの構造を把握する「高速な理解力」にあるのだと確信しました。

どんなに馴染みのないコードベースであっても、彼らはその場で「読む」ことで、設計思想やデータの流れ、影響範囲といった文脈を素早く自分の頭の中にインストールしてしまう。だからこそ、次に何をすべきか、どこに手を入れるべきかという「的確な判断」が、即座に下せるのです。

トップエンジニアたちの本質が高速な理解力にあるのだとすれば、「私たちもまた、その力を鍛えることで成長できるはず」と牛尾さんは力強く語る。伸び悩みを感じているエンジニアは、きっと勇気をもらうことができるはずだ。

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米マイクロソフト
Azure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア
牛尾 剛さん(@sandayuu⁠⁠⁠

1971年、大阪府生まれ。米マイクロソフトAzure Functionsプロダクトチーム シニアソフトウェアエンジニア。シアトル在住。関西大学卒業後、日本電気株式会社でITエンジニアをはじめ、その後オブジェクト指向やアジャイル開発に傾倒し、株式会社豆蔵を経由し、独立。アジャイル、DevOpsのコンサルタントとして数多くのコンサルティングや講演を手掛けてきた。2015年、米国マイクロソフトに入社。エバンジェリストとしての活躍を経て、19年より米国本社でAzure Functionsの開発に従事する。ソフトウェア開発の最前線での学びを伝えるnoteが人気を博す。書籍『世界一流エンジニアの思考法』(文藝春秋)は10万部を突破し、ITエンジニア本大賞2025特別賞も受賞

AI時代の開発は「品質保証」がボトルネックに。「QAの総合力」がエンジニアの価値を左右する

AI時代の開発は「品質保証」がボトルネックに。「QAの総合力」がエンジニアの価値を左右する type.jp
AI時代の開発は「品質保証」がボトルネックに。「QAの総合力」がエンジニアの価値を左右する

ソフトウェア品質保証のトップランナーであり、『ソフトウェアテスト徹底指南書 開発の高品質と高スピードを両立させる実践アプローチ』(技術評論社)の著者の井芹洋輝さんは、生成AIによるコード作成がエンジニアの生産性を向上させる一方で、「品質保証」がプロダクト開発の新たなボトルネックになりつつある現状に警鐘を鳴らした。

AIが生成するコードのスピードに対し、その品質を担保する活動が追いついていないというのだ。

井芹さんは、生成AIがテストコードの生成や定型的なテストデータの作成において非常に有用なアシスタントであると認めつつも、その生成物には人間による最終チェックが不可欠であると指摘する。

井芹さん

仕様書に明記されていないような識別困難な品質リスクを見抜き「勘所を突くテスト」を実施することも、現在の生成AIでは対応が難しいと言えます。

経験を積んだエンジニアであれば、「このプロジェクトの状況だと、過去のあのプロジェクトで起きたようなバグが潜んでいそうだ」「開発者との会話で、品質リスクが高そうな箇所が見えてきた」「組織連携の問題で、このインターフェースの品質リスクが高そうだ」といったように、表面化されていないリスクを嗅ぎ分けることができます。

しかし、現在のAIに仕様書を渡して「怪しい部分を突くテストケースを作って」と指示しても、そうした暗黙知までは汲み取ってくれません。

コードを高速に生成できても、その品質が保証されなければプロダクトとして世に出すことはできない。結果として、開発チームは「自分たちが品質を保証できる範囲のスピードでしか、コードを生成できない」という制約に直面しているのだ。

井芹さんは、この課題を解消するためには「品質保証の役割」を再定義し、開発に携わるエンジニア一人一人が「自ら生み出したコードの品質を、いかに高速に保証していくか」という問題に向き合うべきだと述べている。

井芹さん

「品質保証の役割」を再定義する流れの中で、「生成AIによって専門のQAエンジニアは不要になるのでは?」という問いを耳にすることがあります。

結論から言えば、その答えは「いいえ」です。しかし、より正確に答えるならば「旧来型の単純作業に特化したQAエンジニアの役割は縮小する」となります。

AIによって生産性が向上し開発が効率化されるほど、エンジニアはより顧客満足に直結する領域に注力できるようになります。結果として、品質保証にはこれまで以上に高度な対応が求められるようになります。品質保証の役割は今後ますます重要になっていくため、QAエンジニアが不要になるとは考えていません。

「旧来型のQAエンジニア」がシュリンクする傾向が強まっていく中で、能力の総合性・体系性を高めていく必要があるというのが井芹さんの考えだ。詳細をインプットして、エンジニアとしてのキャリアを模索してみてはいかがだろうか。

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ソフトウェアテスト徹底指南書』著者
井芹洋輝さん

開発者、コンサルタント、テストエンジニア、QAエンジニアなど様々な立場で様々なソフトウェア品質保証の業務に携わる。現在は車メーカーでテスト/QAテックリードとしてテスト/QA活動に従事。その他テストに関する講演、技術指導、複数の論文・書籍執筆などを手掛ける。JSTQB技術委員、テスト設計コンテストU-30クラス初代審査委員長。25年6月『ソフトウェアテスト徹底指南書』(技術評論社)を上梓

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