アイキャッチ

酷暑の原因は「建物」だった? 施設の消費エネルギー制御に挑むエンジニアたちの活躍

【PR】 ITニュース

朝から照りつける陽射しに、オフィスの冷房はフル稼働。「今日も暑いね」と誰もが口をそろえる。

2025年7月の日本の平均気温は、平年比+ 2.89℃と観測史上最高を更新。これで3年連続の記録更新となった。もはや、猛暑は異常ではなく日常だ。

こうした気候変動への対応の象徴といえるのが、25年4月1日から施行されている「改正建築物省エネ法」だ。全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準の適合が義務化され、建築物におけるエネルギー効率の改善は「努力目標」から「法的要請」へと変わった。

この課題に対し、テクノロジーで解決策を提示しようとする企業がある。建物の空調や照明、セキュリティーなどの運用を一律で制御し、省エネの実現を目指すビーリッジだ。

センサーや制御機器、クラウド、Webアプリまでを組み合わせた「統合制御」に強みを持ち、都市におけるエネルギー運用の最適化に取り組んでいる。

快適な空間を保ちながら、無駄なエネルギーだけを削ぎ落とす。その仕組みを、技術の力でどう実現しているのか。同社代表の森藤弘喜と玉井哲生さんに、話を聞いた。

プロフィール画像

株式会社ビーリッジ
代表取締役
森藤弘喜さん

監視制御系企業で15年以上エンジニアとして経験を積み、2015年にビーリッジを設立。最新のIT技術と制御機器(OT)技術を融合し、オフィスビルや商業施設など社会インフラ向けの革新的なシステム開発を手掛ける

プロフィール画像

株式会社ビーリッジ
代表取締役
玉井哲生さん

監視制御系企業でエンジニアとしてキャリアを重ね、2015年にビーリッジを共同設立。ITと制御技術(OT)を融合し、ビルや工場などの社会インフラ向けに最先端システムを開発。クライアントの課題解決に向けて、ゼロから新しい価値を創出するクリエイティブな姿勢と専門領域を横断する幅広い知見を活かし、「業界のミッシングリンク」を担うことを使命としている

気候危機を食い止める主戦場は、建物の中

近年の猛暑は単なる一過性の問題ではなく、地球規模で直面している気候変動の一断面だ。気象庁によると、日本の年平均気温はここ100年で約1.38〜1.40℃上昇しており、冷房需要の増大はもはや避けられない。

この状況下で注目されているのが、「都市の建築物がいかにエネルギーを消費し、それが社会全体のCO₂排出にどう影響しているのか」という問いだ。建築物、とりわけ空調や照明といった運用要素は、気候変動とどう結びついているのだろうか。

「国交省の発表によると、日本のエネルギー消費のうち、約3割が建築物に起因であることが明らかになっています。

ここでいう建築物には、オフィスビル・商業施設・病院・工場・学校など、人が集まり続ける空間の全てが含まれます。特に大きなウェイトを占めているのが空調と照明で、施設によっては全体のエネルギー消費の6〜8割を占めることもあるんです」(森藤さん)

株式会社ビーリッジ 代表取締役 森藤弘喜さん インタビューに答える様子

建築物は、今やCO₂排出の抑制に直結する対策領域として位置付けられつつある。だが現実には、空調や照明の制御が非効率なまま放置されているケースが多いという。

「人の動きや時間帯に応じた制御がされていないことが、想像以上に多いんです。誰もいない部屋で空調が一日中稼働していたり、晴天の日でも地下室のような空間と同じ照明設定で全館を動かしていたり……。

というのも、『空調はA社、照明はB社、セキュリティーはC社』というように、別々のベンダーが独立してシステムを組んでいる建物がほとんど。そうすると、それぞれの機器が個別最適で動くことになり、全体としては非効率です。

仮に照明と空調を連動させようとしても、プロトコルが違ったり、相互のデータが扱えなかったりして、うまくつながらない。これが、日本中の多くの建物の実情です」(玉井さん)

建物の中で起きている非効率の多くは、「そもそも制御できる状態にない」ことが起点となっている。では、どうすれば最適化できるのか。

そのカギを握るのが「OT(Operational Technology)」という技術領域だ。

「OTは、空調や照明といった現場の設備を直接制御する技術全般のことを指します。現場の機器と接続し、動作状態を読み取り、必要に応じて動きを変える。IoTという言葉はよく聞かれるようになりましたが、その手前側にある、もっとリアルな制御の層のイメージです。

BAS(ビルディング・オートメーション・システム)やBMS(ビル管理システム)もOTの一部で、われわれはその下にあるセンサーや制御機器のレイヤーから、建物の状態を見える化しています」(玉井さん)

株式会社ビーリッジ 代表取締役 玉井哲生さん インタビューに答える様子

クラウド型遠隔監視システムで、地下駅の空調を遠隔制御

現場の機器をつなぎ、建物の状態を見える化。それを遠隔で把握し、効率的に制御する。

こうしたOTとITの連携を実現した取り組みの一つが、東急電鉄との協業による「クラウドSCADA(スキャダ)」の導入だ。24年10月、渋谷駅にて運用が始まったこのシステムは、空調や換気設備の状態をクラウド上でリアルタイムに監視し、遠隔対応を可能にする仕組みとなっている。

「以前から東急電鉄さんでは、地下駅の設備支障にどう備えるかが大きな課題でした。40年以上使われている設備も多く、そもそもどういった状態か分からない部分もあったからです。

そうした状況を変えるには、やはり現場のデータを見える化し、状態を把握した上で保守や運転制御を最適化していく仕組みが不可欠でした。そこで提案したのが、クラウドSCADAによる遠隔監視とデータ活用です」(森藤さん)

導入されたクラウドSCADAでは、現地のセンサーが設備の状態を常時取得し、SIM通信を通じて専用クラウドに送信。データはリアルタイムで可視化され、スマホやタブレットから簡単にアクセスできる。

現場へ確認に行かずとも、異常の有無や設備の稼働状況が分かるようになり、従来は現地確認と業者出動の二段階対応が必要だった保守業務が、遠隔対応で完結できる場面が大幅に増えた。

「新たなクラウド型システムを導入することに対して、運行系システムとの連携、特にセキュリティー上のリスクを懸念する声も多くありました。

そこでクラウドSCADAの運用については、SIMカードを使った専用回線を採用し、運行系のネットワークとは完全に分離しています」(玉井さん)

株式会社ビーリッジ 代表取締役 玉井哲生さん インタビューに答える様子

こうして蓄積されたデータは、日々の保守業務だけでなく、設備の状態変化を長期的に分析する基盤としても活用されている。今後は、AIを活用して異常の予兆を検知したり、設備の運転パターンを最適化したりといった、新たな取り組みも進めていくという。

「データが残るだけで、運用現場での気付きは大きく変わります。『この時間帯はこの設定が最適』といったパターンが見えてくるし、『去年の同時期と比べて冷え方が遅い』といった兆候にも早く気付けるようになりますから」(玉井さん)

会社の急成長よりも、未来に続く土壌を育てたい

クラウドSCADAをはじめとするソリューションによって、省エネや業務効率化といった目に見える成果は着実に広がりつつある。

だが、ビーリッジが見据える“その先”は、単なる導入効果の積み上げにとどまらない。

「省エネや保守業務の効率化はもちろん重要ですが、私たちが本当にやりたいのは、業界をオープン化していくことです。

例えば、これまでは特定のメーカーやベンダーしか扱えなかった設備情報や制御データを、もっと誰もが扱える形にしていきたい。現場の担当者や運用者が、自分たちで判断して改善できる環境を整えることが、本当の意味での変化だと思っています」(玉井さん)

データが一部のベンダーだけに閉じていては、改善も活用も属人的になる。だからこそビーリッジは、オープンプロトコルを用いた設備連携や、操作性の高いインターフェース設計を通じて、透明性の高い運用にこだわっている。

ただ、データを使える環境が整っても、それを担う人材がいなければ意味がない。この設備制御の人材不足は、業界全体が抱える課題でもある。

「海外にはHVAC(※暖房・換気・空調)を学ぶための学科が当たり前に存在します。でも日本では、そうした分野に専門性を持つ人材が圧倒的に足りていません。

それは教育の仕組みが追いついていないということでもあるし、業界としての認知の低さでもある。だから私たちは、現場で得た知見を伝えていく責任があると思っています」(玉井さん)

(※)「Heating(暖房)・Ventilation(換気)・Air Conditioning(空調)」の頭文字を取った略語で、建物の空調システム全体を指す総称

株式会社ビーリッジ 代表取締役 森藤弘喜さん インタビューに答える様子

この分野に光を当て、選択肢として見えるようにすること。それが、未来の技術者を増やす第一歩になる。

「正直なところ、私たちの代で会社を急成長させようとは、あまり思っていないんです。それよりも、建物の管理・制御に正面から向き合い、目の前の設備を少しずつより良い形にしていくこと。その積み重ねで、将来の標準になっていけばいいなと。

次世代のエンジニアが『この領域で働きたい』と思える土壌を作ることができたら、それが一番の成果かもしれませんね」(森藤さん)

株式会社ビーリッジの採用情報はこちら type.jp
株式会社ビーリッジの採用情報はこちら

撮影/赤松洋太 文・編集/今中康達(編集部)

Xをフォローしよう

この記事をシェア

RELATED関連記事

JOB BOARD編集部オススメ求人特集

RANKING人気記事ランキング





サイトマップ