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「社内でも煙たがられていた存在だった」2兆円市場に成長したPlayStation Storeの歩みと次なる一手【TGS2025基調講演】

ITニュース

深夜に一人挑んだボス戦、友人と肩を並べて笑い合った協力プレイ、オンラインの仲間と勝利を分かち合い広がったつながり……。

多くのプレイヤーにとって、こうした時間は人生の記憶の一部になっている。その体験は、優れたゲームコンテンツがあって初めて生まれるものだ。

だが、どれほど優れたコンテンツも、プレイヤーに届かなければ価値はない。作品を見つけ、購入し、遊べるようにする仕組みが必要であり、その役割を担ってきたのが「PlayStation Store」だ。

2024年に日本発売30周年を迎え、25年9月には北米と欧州でも節目を刻んだPlayStation。その歩みを支えてきたPlayStation Storeの成長と未来像について、「東京ゲームショウ2025(TGS2025)」の基調講演でソニー・インタラクティブエンタテインメントCEOの西野秀明さんが語った。

PlayStationは最高のゲーム体験を届けるエコシステム

PlayStationは昨年2024年12月に日本での発売30周年、そして25年9月には北米と欧州でも発売30周年という大きな節目を迎えました。

初代PlayStationのキャッチコピーは「全てのゲームは、ここに集まる」でした。この言葉が示す通り、魅力的なコンテンツなくしてゲーム機のビジネスは成り立ちません。発売から30年が経過した今も変わることなく、素晴らしいコンテンツこそがPlayStationでの体験を形作る、最も重要な原動力であり続けています。

皆様の応援のおかげで、PlayStation事業は着実に成長を遂げ、24年度の売上高は4兆6700億円を記録しました。現在展開しているPlayStation 5は、我々の歴史上、最も財務的に成功した世代となっています。

歴代PlayStationの売上推移

「PlayStation」という言葉を聞いたとき、多くの方はゲーム機本体や、特定のゲームタイトルを想像されるかもしれません。しかし、私たちの考えでは、PlayStationとは単なるハードウエアやゲーム単体ではなく、そのすべてが融合して提供される「体験」そのものを指します。

そして「体験」とは、皆様がゲームをプレイする時間のこと。私たちは、皆様の貴重な人生の時間をPlayStationに費やしてもらった、「投資」してもらったと考えています。その時間を、これからも豊かにしていくお手伝いをしたいと心から願っています。

一方で、PlayStationはプレイヤーとクリエーターをつなぐ「エコシステム」でもあります。

現在、PlayStation Storeは1億3000万のアカウントを擁し、大手パブリッシャー様からインディースタジオ様まで、4000社を超えるクリエイターの皆様から1万2000以上ものタイトルをご提供いただくまでに成長しました。

より多くのプレイヤーが集まることでクリエイターのチャンスが広がり、素晴らしいゲームがさらに多くのプレイヤーを惹きつける。このポジティブな循環を作り出すことが、我々の使命です。

本日お話しするのは、このエコシステムの心臓部として、クリエーターとプレイヤーを繋ぐ架け橋の役割を担ってきた「PlayStation Store」の物語です。

エコシステムとしてのプレイステーション

PlayStation 2の拡張ベイに宿る、ネットワークビジネスへの思い

PlayStation Storeは、06年11月11日にサービスを開始しました。24年には、単体で2兆円規模の売上にまで成長しています。毎月ストアにお越しいただくユニークアカウントユーザー数は、約8300万にものぼります。

クリスマスの翌日は、世界で最も PlayStation Store へのアクセスが集中するタイミングの一つです。06年のサービス開始当初、1分間あたりのトランザクション、つまり決済処理の数は最大でもわずか60件でした。それが今では、約250倍となる、1分あたり1万6000件以上のトランザクションを処理する巨大なプラットフォームへと変貌を遂げています。

私たちのネットワークビジネスへの挑戦は、実はPlayStation Storeが誕生するよりもさらに前、PlayStation 2の時代まで遡ります。

PlayStation 2の本体の背面にある、空洞の部分。この拡張ベイは、われわれがPlayStation 2の時代から「ネットワークに繋がる体験を提供したい」という、明確な意思を持っていたことの証左です。この時から、PlayStationはネットワークビジネスを志向しています。

ただ、当時はまだ時代が全く追いついていませんでした。イーサネットアダプターには「電話回線接続禁止」と書かれていた時代です。携帯電話のパケット通信のスピードも、わずか9.6kbps。家庭ではまだまだISDNが主流で、ようやくADSLなどのブロードバンド通信が普及し始めたというタイミングでした。

そのような中で、03年に発売した拡張ユニット「PlayStation BB Unit」は、当時としては非常に先進的な技術であり、ハードディスクを搭載した、まさにコンピュータとしての機能を詰め込んだものです。ハードディスクはゲームデータの取り込みやインストールに活用され、今では当たり前ですが、ロード時間の大幅な短縮を実現しました。

PlayStation BB Unit

このユニットが生まれたことでネットワーク機能が格段に強くなり、その恩恵を受けて多くの方に愛された人気タイトルが、02年に発売されたファイナルファンタジーシリーズ初のオンラインゲーム『ファイナルファンタジーXI』です。

今では、オンライン上で離れた場所にいるプレイヤーとコミュニケーションを取りながらゲームを進めることは当たり前になりましたが、当時それを自宅の家庭用ゲーム機で実現できたのは、非常に画期的な体験だったと記憶しています。

このように、PlayStationは常にネットワークビジネスの未来を見据えて進化してきました。携帯電話が2Gや3Gといった回線の時代で、ブロードバンドもまだ十分に普及していない時代でも、PlayStationをどうにかしてネットワークにつなげられるように、試行錯誤を繰り返してきたのです。

PlayStation 3の発売とPlayStation Storeの始まり

06年、われわれはPlayStation 3を発売し、同時にPlayStation Storeが始まりました。コンテンツを閲覧、購入、ダウンロードという一連の流れが生まれたのです。

PlayStation 3はハードウエアとしても、Wi-Fiと有線の両方でネットワークに繋がるなど、当時としては先進的な機能を標準で備えていました。しかし、まだ社会の環境が、われわれのビジョンに追いついていませんでした。

ソニーCEO西野さん イベント登壇時の模様

当時、日本のインターネットは光回線よりADSLが主流で、速いと言われた光回線ですらダウンロードのスピードは45Mbps程度。一方、PlayStationのゲームディスクであるBlu-ray Discの容量は50GBです。実際、それをフルで使っているゲームは稀でしたが、仮に50GBのデータを45Mbpsの回線でダウンロードするとなると、計算上は2時間半も掛かってしまうのです。

コンピューターとは違い、ゲーム機はゲームの進行を妨げないことが非常に重要です。そのため、ダウンロード作業に割り当てられるメモリ量など、ダウンロード処理に関わるシステム上のプライオリティーは、どうしても低く見積もられがちでした。

このような環境下だったこともあり、当初PlayStation Storeで取り扱っていたのは、わずか10数タイトル。まだディスクビジネスが絶対的な主流で、社内ですらPlayStation Storeはビジネスとしてほとんど受け入れられていない、そんな状況だったのです。

また、機能面でも課題がありました。07年にようやく「バックグラウンドダウンロード」機能をリリースしましたが、PlayStation 3の発売当初は、ゲームを遊んでいる間に他のゲームを裏でダウンロードすることはできませんでした。その後、バックグラウンドダウンロードも改善を重ねましたが、通信の安定性に問題があり、途中でダウンロードが止まってしまったり、極端に遅くなってしまったりということもよくありました。

そもそも、ディスクビジネスが主流だった当時のソニー・コンピュータエンタテインメントには、サーバーに強い専門のエンジニアが5名程度しか在籍していませんでした。そこで、アメリカのソニー・ピクチャーズ傘下のチームと連携し、彼らの持つ技術などを持ち寄り、なんとか開発にこぎ着けたというのが実態なのです。

PSストア開始時の状況

転機の裏にあった、元ソニー役員・平井一夫の決断

2010年頃、社内で大きな議論が巻き起こりました。それまでずっと安定した収益源であった「ディスクビジネス」と、これからの可能性を秘めた「ネットワーク経由での配信」。どちらを今後、PlayStationビジネスの主流とすべきかという議論です。

ネットワーク経由での配信には、複数国での販売が容易になる、在庫リスクがなくなる、プレイヤーとの関係をよりダイレクトに、そして深くすることが可能になるなど、計り知れないメリットがあります。とはいえ、ネットワークのスピードが遅く、ダウンロードに膨大な時間がかかるといった課題は依然として大きく、これを主流のビジネスと考えるのは難しいといった声は根強くありました。

当時のPlayStation Storeには、フルタイトルと呼ばれるディスク販売のゲームは並ばず、デジタルオンリーの小規模なコンテンツか、フルタイトルの追加コンテンツがほとんどでした。誤解を恐れずに言えば、ネットワークビジネスは本流ではなく、むしろその本流を脅かしかねないものとして、社内でも少し煙たがられていた存在だったことは事実です。

そんな中、このネットワークビジネスを確実に立ち上げるために、当時のソニーグループの役員であった平井一夫が大きな決断をします。ネットワークビジネスを行う別会社「ソニー・ネットワークエンタテインメント」を設立したのです。その本社を、ネットワークビジネス経験が豊富なエンジニアが多くいる米国に配置し、本格的なデジタル時代の到来に向けて準備を整えたのです。

そして、10年の6月、現在まで続くサブスクリプションサービス「PlayStation Plus」も全世界で開始となりました。この年を境に、PlayStation Storeの売上は平均して年37%という高い成長率で上昇していくことになります。

ソニーCEO西野さん イベント登壇時の模様

デジタルのメインストリーム化とPlayStation 4の登場

世の中にブロードバンドネットワークが広く浸透していくにつれて、ゲームのデジタル販売に対するお客様の理解も、徐々に高まってきました。そして、13年に発売されたPlayStation 4世代からは、ディスク版とデジタル版を同時に発売する「Day and Date(デイ・アンド・デイト)」が実現するのです。これは、我々の歴史において非常に大きな出来事でした。

ダウンロード専用タイトルという意味では、世界的な人気を博した『ロケットリーグ』など、皆様の記憶に残る作品も多く生まれたのではないかなと思います。この世代からは、バックグラウンドでのダウンロード機能も安定し、ゲームデータの一部をダウンロードすれば、全体のダウンロード完了を待たなくてもプレイできる機能も導入されました。

また、世界中のインディーゲームがPlayStation Storeを通じて販売されるようになり、クリエーターの多様性が一気に花開きました。PlayStation Storeを展開する国と地域は、10年度には37でしたが、17年度には現在の70にまで広がっています。

こうしてネットワークビジネスが安定的に成長し、いよいよ本格的にビジネスの中心として推進していくという段階に至ったため、先ほど二つに分けたソニー・コンピュータエンタテインメントとソニー・ネットワークエンタテインメントを再び統合する形で、現在の「ソニー・インタラクティブエンタテインメント」が誕生しました。

私たちが提供する価値が、クリエイターとユーザーをつなぐ「インタラクティブ」な体験にあるという、決意の表れです。

ソニーの歴史 会社統合の流れ

より完成された体験へ。PlayStation 5の時代とこれから

10年代後半になると、ネットワークのスピードは家庭用の回線でも100Mbps超えが一般的となり、より快適にゲームをダウンロードできるようになりました。ビジネスチャンスも大きく広がり、クラウドゲーミングや、ゲームのサブスクリプションサービスを本格的に展開したのもこの頃です。

また、ゲーム自体はディスクで購入し、追加のマップやアイテムといった「アドオン」をオンラインで買うスタイルが主流になったのも、この頃からでしょう。オンラインでコンテンツを購入するという行為が、広く定着してきたのです。

デジタルビジネスがより広いユーザー層へ浸透する上では、18年に発売された『フォートナイト』の影響も非常に大きかったと言えます。ゲーム内通貨で売上を得る、いわゆる「Free-to-Play」のビジネスモデル、そして継続的なアップデートで長く遊んでもらう「ライブサービスゲーム」という考え方です。

日本国内でも『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』や『ファンタシースターオンライン2』など、その考えを先取りしていた素晴らしいタイトルも既にありました。そして19年には『Apex Legends』、20年には『原神』がリリースされ、この流れは決定的となりました。

継続的なアップデートで長く遊んでもらう「ライブサービスゲーム」

こうした流れの中、20年にリリースされたのがPlayStation 5です。もはや、ネットワークにつなげて遊ぶのが当たり前の時代。PlayStation Storeもさらに進化を続け、よりコンソール本体に溶け込む形で、ストレスのないゲーム体験、そして購買体験の提供を目指しています。例えば、外出先からスマートフォンのアプリでゲームを買ってダウンロード指示を出しておき、家に帰ったらすぐにゲームを始められるといった体験もその一つです。

その他にも、ゲームの発売前からストア上でコミュニティーを形成し、ユーザーからのフィードバックを開発に活かすといった取り組みも可能になりました。さらに、ユーザーの好みに合わせた体験を提供する「パーソナライズ」も強化し、プレイヤーとクリエーター双方にとっての「ライフタイムバリュー」を高めていくことを実践しています。

昨今はFree-to-Play が流行していますが、私たちはモバイル市場とは異なり、コンソールではプレミアムなフルプライスのゲーム、サブスクリプション、そしてFree-to-Playと、それぞれのビジネスモデルにおいて、クリエーターが収益を最大化できるよう戦略をサポートしていきます。

ゲームは人々のライフスタイルの変化に応じて進化し、その姿を変えていきます。その中で、各ユーザーのデータを活用した「個別最適化」はますます重要になっていくでしょう。私たちの目標は「遊びの限界を超える」こと。そして、プレイヤーにとっては「最高の遊び場」、クリエーターにとっては「最高の出版場」であり続けることです。

ゲーム業界には、明るい未来が待っていると信じています。本日ご来場の皆様と共に、この業界を一緒に盛り上げていきたいと、心から願っております。

ソニーCEO西野さん イベント登壇時の模様

写真/TGS2025 文・編集/今中康達(編集部)

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