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DeNA「内定者にもAI教育」 入社前から生まれる”AI格差”の実態と、次の育成標準とは?

ITニュース

「新卒研修は入社後にすればいい」「まずはビジネスマナーから」。そんな”当たり前”のままでいる企業や人事は、少々焦ったほうがいいかもしれない。

DeNAは2026年度入社予定の内定者のうちの希望者に対し、内定式の翌日にDevinを使ったAI研修を実施した。しかも、対象はエンジニア職だけではなく、ビジネス職を含む全内定者だ。

本記事では、10月2日に行われた26卒内定者向け「Devin研修」の様子を手がかりに、AI活用のトップランナー企業が“AIを前提に育つ世代”に何を教えようとしているのかーーその研修から見える、新卒教育の“次の標準”を考えてみたい。

“AIオールイン宣言”にザワついた内定者たち

今年の2月にDeNA会長・南場智子さんが「AIオールイン」を宣言。その戦略と覚悟は多くのエンジニアをはじめ、業界のリーダー層に刺激を与えた。宣言通り、DeNAは全社を挙げてAIシフトを加速させている。

DeNA南場智子が語る「AI時代の会社経営と成長戦略」全文書き起こし fullswing.dena.com
DeNA南場智子が語る「AI時代の会社経営と成長戦略」全文書き起こし

ただ、この発表が行われたのは、ちょうど26年卒の学生に内定を出し始めたタイミング。すでに内定を得ていた学生もいれば、まさに選考中という学生もいた。

当時、明確にAI戦略を打ち出す企業はほとんどなく、「AIに全振り?」「プロトタイプを作れないとダメ?」と内定者の間には少なからず動揺が走ったという。

今回の内定者研修の責任者で、村上 僚さん(ヒューマンリソース本部 採用戦略部)はこう話す。

村上さん

内定者にとっては“寝耳に水”だった一面もあるでしょう。だからこそ、南場の発言が何を意味するのか、DeNAはどこを目指しているのかを明確に伝える責任がありました。

DeNAが内定者研修にAIを据えたのは、「噂」ではなく「現実」としてその方針を体感させるためでもあった。

さらに、入社後にスムーズに立ち上がるためのAI活用マインドを、入社前から醸成する狙いもあったという。

つまり“AIを学ぶ”のではなく、“AIを前提に働く”という意識を内定段階から根づかせる試みだった。

研修のレベルは「入門+α」──仕様駆動開発まで体験

研修当日の流れを説明する責任者

研修当日のプログラムは朝9時30分から夕方17時30分まで。ゴールは「LLMを使った新規サービスのプロトタイプ開発」だ。チームではなく、個人で企画からプロトタイプ完成までやりきる。

プログラムの流れは以下のように設定されていた。

【研修プログラム】

1.AIオールインとそれをふまえた新卒社員に期待するAI利用について
2.先輩社員によるDevinのデモンストレーション
3.企画~バイブコーディングタイム(Devinにざっくり指示してモックを生成)
4.仕様駆動開発(SDD)で練り直し、プロトタイプを再構築
5.フィードバック・アウトプット等

事前アンケートでは「毎日AIツールを使っている」と回答した内定者が7割にのぼった。まさにAIネイティブ世代だ。

研修中の内定者の様子1
内定者が持参したマイ分割キーボード

会社貸与のPCではなく、各自が持参したPCで研修に臨んでいた。中には、愛用の“分割キーボード”を持ち込む内定者も。編集部がその手元を撮影していると、同じチームのメンバーから「(分割キーボード持参に)かましてるじゃん!」とツッコまれるなどして、和やかな空気に包まれた

バイブコーディングタイムでは、AIが数十分で“それっぽい”アプリを立ち上げる速さを体験。エンジニアもBiz職も、AI開発の速度を肌で感じた。

ただ、「側だけ作ることは今や誰でも簡単にできるので、研修ではもう一歩踏み込んだところまで触れていきます」と話す村上さん。

村上さん

例えば、AIが生成するコードは品質が徐々に低下しやすかったり、スパゲッティコード化することも多い。そこをうまく制御する必要があります

ここに今回の研修のミソがある。バイブコーディングではうまく実現されなかった部分を、仕様として再定義し、作り直す仕様ブラッシュアップタイムを用意。速さを知った後に、「精度」の重要性とその高め方を学ばせる構成だ。

内定者がつくったメイク提案サービスのTOP画面

「お出かけのシチュエーションやシーンを選択し、メイクしたい部位となりたい姿の画像をアップすると、おすすめのコスメの提案と使い方の動画を紹介してくれるサービスを作りました。ただ、購入ボタンを押すとなぜか関係ないYouTubeに飛んじゃうんですよね」――第一フェーズで早くも粗を見つけた、Biz職内定者のAさん

村上さん

品質低下に抗うためのプロンプトの作り込み方、いわゆる仕様駆動開発(SDD:Spec Driven Development)をレクチャーしています。まずは作ってみて“粗”をあぶり出し、それをベースに仕様をきちんと定め、タスクに分解してDevinに渡すことで、クオリティーが変わることを経験してもらいます

従来なら数週間かかっていた改善サイクルを、AI時代は数時間で回せる。そのプロセスを内定者段階から身に付けさせようというわけだ。

仕様駆動開発について説明する研修責任者

ちなみに、研修後は入社までの半年間、月100ドル(約15,000円)のAIツール利用補助も提供する(希望者のみ)。使用するAIは、Devin/Cursor/Chat GPT/Claude/Geminiから選択可。
AIを前提に働く感覚を入社前に養ってもらう狙いだ。

なぜDevinなのか?

今回使われたツールは、GitHub CopilotでもClaude CodeでもなくDevin。選定理由には、教育設計と社内体制の両面がある。

【Devinを選んだ理由】

●扱いやすさ(UI/UX)
Biz職でも扱いやすいUIと操作感 CursorやClaude Codeはより開発者向け設計のため、Biz職にはやや敷居が高い
●社内リソース/体制面
DeNAグループがDevinとパートナー契約を結び、経営層向け研修事業を開発中 社内での知見蓄積とサポート体制が整っている
●高いエージェント性
エージェント性が高く、自律してタスクを完結できる 課題の理解→コード作成→PR提出までを一気通貫で行うため、より“任せられる”ツールとしての可能性を感じてほしい

「エンジニア職には“AIが助けてくれるからもう一つプロジェクトを担当してみたい”と思えるほどの生産性向上の可能性を示し、ビジネス職には「とりあえず動くもの」を作れるハードルの低さを示す。両者に対応できるツールとしての合理的選択でした」(村上さん)

内定者が作った“動くプロトタイプ”

食事ログの自動化サービスを開発した、内定者Bさん

食事ログ自動化サービスをつくっている内定者Bさん

「よく自炊をするんですが、カロリー計算のために使っている食事記録アプリでは、各材料を毎回手入力しなければならず手間で。そこで、レシピのURLを入力するだけで材料と分量を自動抽出し、食べたものを記録できるアプリを作ることにしました」(Bさん)

食事ログ自動化サービスをつくっている内定者Bさん

AIスペシャリストとして内定しているBさんだが、Devinは初めて利用すると言う。それでも数十分で動くモックが立ち上がった

午後の仕様駆動フェーズでは、さらなる構想を語ってくれた。

「一度入力したレシピを保存するだけでなく、保存したレシピを選んで『今日食べた』と記録できるようにしたいです」(Bさん)
「また、“大さじ1”など曖昧な表記を自動で◯g/◯mlに変換できるようにしたいと考えています」(Bさん)

キャリア伴走サービスを開発した、内定者Cさん

キャリア伴走サービスをつくっている内定者Cさん

「就活中、自分のキャリアプランを言語化するのが難しかったんです。だから、“3年後・5年後の自分”を入力すると、LLMが理想像を文章化し、参考になる記事や学習プランをカード形式で提示するアプリを作っています」(Cさん)

キャリア伴走サービスのトップ画面
キャリア伴走サービスの入力画面

「今はまだモックの状態ですが、利用者が新卒だと仮定すると、かなり役立つものになるんじゃないかな」と語るエンジニア職の内定者Cさん

DeNAの内定者研修が突きつける現実

DeNAの事例が示すのは、単なるAI研修ではない。AI活用のトップランナー企業が、内定者のうちからAI実践を当たり前にしているという現実だ。

エンジニア職・Biz職の垣根なく、誰もがAIを使ってプロトタイプを作ることを前提に学ぶ。
AIを「特別な技術」ではなく、「共に働くパートナー」として扱う世代が、すでに入社前から育ち始めているとも言えるのではないだろうか。

「格差はもう始まっている」。AIを前提とする企業と、依然としてビジネスマナー研修に留まる企業。その差は、数年で取り返しがつかないものになるかもしれない。

新卒研修もまた、AI時代の価値観を映す鏡となっている。

撮影・文/玉城智子(編集部)

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