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Anthropic Japan代表「コスト削減ではなく、収益を生み出すためのLLM活用が鍵」

ITニュース

2025年10月31日に開催された「AI駆動開発カンファレンス 2025 Autumn」にて、Anthropic Japan合同会社 代表執行役社長の東條英俊さんが登壇し、「責任あるAIの開発とClaude Code」と題して講演を行った。

本セッションでは、Anthropicの理念や日本での取り組み、そして企業におけるLLM活用の方向性が語られた。

日本政府との連携強化、AISIとの締結

講演の冒頭、東條さんは米Anthropic CEO ダリオ・アモデイの来日と、日本政府との新たな連携について報告した。

「今週、我々のCEOであるダリオ・アモデイが日本に来ており、これまでずっと温めてきた政府とのやりとりを形にできました。中でも大きかったのは、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)とMOU(※)の締結ができたことです」

AIセーフティ・インスティテュート 米Anthropic社とMOCを締結 aisi.go.jp
AIセーフティ・インスティテュート 米Anthropic社とMOCを締結

このMOUは、日本におけるAIの安全性向上と信頼性確保を目的としたものであり、Anthropicが掲げるミッション「安全・安心を中心としたAIの研究開発」と高い親和性を持つ。

「これから日本社会のさまざまな分野で、AIを安全・安心に使っていただけるような社会実装を目指していく中で、我々のミッションを大変親和性高く受け止めていただきました。

Anthropicの研究やリサーチを共有しつつ、我々も学ばせていただきながら、モデルに反映していく活動をこれから加速させていきたいと思っています」

さらに、高市早苗首相からも「AIは非常に重点分野である」との言葉があったとし、「日本拠点をスタートさせていく上で、より一層、身が引き締まる思いです」と語った。

(※)契約や条約、協定などが正式に締結される前段階の合意文書

ダリオ・アモデイが見据える、フロンティアAIの未来

続いて紹介されたのは、Anthropicの哲学だ。

「Anthropicは、OpenAIを離れた7名の研究者が作った会社です。2021年の設立で、創業者はダリオとダニエラの兄妹。今回日本に来たのが、兄のダリオの方です。妹のダニエラはビジネス面の責任者として、世界中で新しい製品やサービスを市場に広げる戦略をリードしています」

Anthropicは単なる営利企業ではなく、Public Benefit Corporation(PBC、公益法人型企業)として設立されている。これは、利益追求よりも「AIの安全性と倫理的運用」を優先する姿勢を明確にするためだ。

「会社を回していくために、もちろん利益を追求する部分もあります。ですがそれ以上に、安心・安全に使えるAIの研究を優先しようという趣旨から、このPBCという立ち位置にしているんです」

そして東條さんは、ダリオ・アモデイが24年10月に公開したエッセイを取り上げた。そこには、いわゆる「フロンティアAI」がもたらす、人類の未来を根本から変えうる壮大なビジョンが描かれている。

「これは、我々が開発しているフロンティアAIの5年後の姿、10年後の姿です。『もしかしたらもっと早いかもしれない』とダリオは言っていますが、これら五つ重点分野においてAIは非常に有益だと考えています」

Machines of Loving Grace - Dario Amodei darioamodei.com
Machines of Loving Grace - Dario Amodei

エッセイで示された未来像は、まさにSFの世界だ。

人間の寿命が飛躍的に延び、全ての病気が克服・予防可能になる。そして、世界の数十億人が貧困から脱却するといった、一見すると「本当に実現できるのか」と疑問に思えるような、人類の根源的な課題をAIが解決する可能性に言及している。

「今はまだ進化中ですが、我々が開発しているAIモデルは今後大きな可能性を秘めているし、きっとそうなっていくだろう。そのように、研究の最前線に立っている人たちは見ているわけです」

フロンティアAIが切り拓く未来への確信を、東條さんは力強く語った。

ChatGPTリリースの裏側で行われた、安全性を最優先する判断

一方で、Anthropicが最も重視するテーマ「安心・安全」に関連付け、東條さんはフロンティアAIの危険性にも言及した。

「我々が開発しているフロンティアモデルのAIは、当然ながら良い方向で使われる分には問題ないのですが、悪い方向で使われた時には人類を壊滅させるほどのインパクトがあるだろうと思っています。犯罪や戦争などに使われるような事態は、絶対に避けなければなりません」

Anthropicのミッションと価値観

そうした責任を果たすため、リリース前の段階でリスクをすべて洗い出し、安全策を講じてから世に出すことがAnthropicの義務であると東條さんは強調。数年前にChatGPTが登場した当時、社会的な熱狂の裏側で下した一つの判断を振り返った。

「実はあの時、我々のモデルも準備ができており、すぐにでもリリースできる状態ではあったんです。ですが、まだその時点では安全性がしっかりと担保できてないと最終的に判断し、OpenAIを追いかけることなく一度立ち止まりました。その後、安全性の担保を納得いくまで進めた上でリリースしたのです」

東條さんは「こうした姿勢は、日本の皆さんにもきっと共感していただける部分が多いのではないか」と語り、今後も「安心・安全」の具体的な意味を伝え続けていくとした。

LLM活用のステージは、効率化から価値創出へ

話題はそこから、米国におけるLLMの法人利用の実態へと移った。

「嘘だと思われるかもしれませんが、米国の法人市場ではOpenAIよりもAnthropicの方が使われているんです。私は25年の8月にAnthropicに入社し、その後すぐサンフランシスコの本社に赴いて2週間ほど滞在したのですが、米国企業におけるAnthropicの“熱”は凄まじいものがあると感じました。

銘柄という意味でもそうですし、投資規模、スピード感、ユースケース、どれをとっても米国企業は非常に進んでいるなという印象です」

米国におけるLLMの法人利用の実態

この米国での熱狂はいずれ日本にも来ると期待を寄せつつ、東條さんは日本のビジネスパーソンに向けたヒントとして、LLM活用の現状とユースケースを整理する「4象限のマトリクス」を紹介した。

「この4象限に整理してみると、現状LLMが適用されている領域で一番多いのは『社内の生産性を上げつつ、コストも下がる』といった部分です。ClaudeCodeは、その代表的な事例だと思います。この領域におけるLLM活用・適用が圧倒的に多いのは、日本だけではなく世界中で見られる傾向です」

LLM適用領域とユースケース

横軸・・・LLM適用の方向性。左側が「社内向け」、右側が「社外向け」
縦軸・・・LLM適用の効果。上が「収益創出」、下が「コスト削減」

MITが発表したレポートによると、現時点で企業のAIに対する投資の約9割は、コスト削減には寄与しているが収益を生み出すには至っていないとされる。確かに多くの日本企業が、業務の自動化やドキュメント作成の支援、コード生成による開発スピードの向上などをLLMの主な用途としているはずだ。

だが東條さん曰く、「直近の米国では徐々にこの構図が変わり始めている」という。これまで内向きだったAI活用が、顧客価値を生み出す仕組みそのものへとシフトしている。つまり、単にコストを減らすのではなく、AIによって新しい収益を生む仕組みを作る方向へと企業が動き始めているのだ。

「いくつかの企業は、AIを単なる業務効率化ではなく、製品やサービスの価値そのものを高めるために活用し始めています。顧客が直接AIを操作するわけではありませんが、サービスの裏側でLLMが働くことで体験の質が向上し、結果としてその企業が選ばれる理由になっている」

講演の最後、東條さんは「他社の真似ではなく、自社の置かれた状況や顧客との関係性に根ざしたAI活用を考えるべきだ」と強調した。

「一社一社、置かれている状況は違います。ぜひ社内にいる皆さんが、自分の会社でAIを収益を生む仕組みとして使うとしたら、どんなことができるのかを考えてみてください。それがきっと、何かしらのブレイクスルーにつながるはずです」

文/今中康達(編集部)

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