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生成AIがもたらす「思考停止」にどう立ち向かう? コードの生成と流用の決定的な差とは

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「生成AIを使えば使うほど、その人の批判的思考力は低下する」

2025年4月、米マイクロソフトとカーネギーメロン大学が共同で行った研究は、AI時代の新たな問題を浮き彫りにした。

The Impact of Generative AI on Critical Thinking: Self-Reported Reductions in Cognitive Effort and Confidence Effects From a Survey of Knowledge Workers microsoft.com
The Impact of Generative AI on Critical Thinking: Self-Reported Reductions in Cognitive Effort and Confidence Effects From a Survey of Knowledge Workers

AIツールを頻繁に使用する人ほど、自ら考えることを放棄する「認知的オフロード」が起き、結果として思考力が弱まる傾向にあるという。特に、まだスキルの浅い若手ほどその依存度は高く、影響を受けやすい。

そして今、日本のシステム開発の現場でも、同じ現象が起き始めている。

「今年採用した新卒の方は、学生時代からAIを使い倒している世代。AIに書かせるだけで、なぜそのコードが動くのかは理解できていないまま、完成品として提出するケースが見受けられています」

そう語るのは、受託開発やSES事業を展開する株式会社システム・リノベイトの執行役員・三星 悟さんだ。データが示す「思考停止」の波は、確実に開発の最前線にも押し寄せている。

この問題に対して、システム・リノベイトではどのような打ち手を取っているのだろうか。三星さんに話を聞いた。

プロフィール画像

株式会社システム・リノベイト
執行役員
三星 悟さん

1998年に大学を卒業後、東京のSI企業に就職しNotes事業に携わる。SI部門のリーダー、マネジャー職を経て東京技術責任者として活躍。 2016年システム・リノベイトに入社し、経営企画室・室長に就任。 18年9月、執行役員に就任。19年より採用責任者として、同社の新卒・中途採用をけん引している

動くものは作れるが、「動く理由」は分からない

ーーシステム開発や採用の現場にいて、「思考力の低下」や「AIへの過度な依存」を感じる場面はありますか?

当社でも今年に入って初めて、「動いているけれど、自分自身は中身を理解していないプログラムを提出する新卒社員」が出てきました。

基礎研修を終えた後、より実践的な課題を与えて、自分なりにプログラムを書いてきてもらった時のことです。

コードレビューで「このプログラムはどうやって作ったの?」「なぜここでこういう処理を入れたの?」と聞いても、本人が答えられない。「AIが出したから分かりません」となってしまったんです。

動いたから「完成です」と持ってくる。でも、私たち教える側からすると「で、このコードはどういう理屈で動いているの? 」という話になります。仕事である以上、納品するコードには100%の責任を持たなければなりませんから。

――今やAIのおかげで、とりあえず「動く」プログラムは作れますからね……。

ただ、これは彼だけの問題ではありません。新卒採用の関係で専門学校の先生方と話をする機会があるのですが、やはり皆さん同じ不安を抱えているようです。

今の学生たちは、授業で「生成AIの活用方法」を学んでいます。当然、卒業研究にもAIを使うわけですが、本来悩むべきポイントや、プログラムの注意点を深く理解せずに卒業してしまう人も多いみたいです。

「この先、彼らはエンジニアとしてやっていけるのだろうか」という先生たちの声を、かなり頻繁に聞くようになりました。

システム・リノベイト 三星様 インタビューに答える様子

――AIで便利になっていく一方、若手の育成面には新たな課題が生まれていると。

ええ。個人的には、AIが何でも答えを出してくれる時代だからこそ、その答えに至る「思考の過程」にこそ価値が宿ると考えています。

「なぜその答えなのか」というロジックさえ分かっていれば、AIが間違った時に修正できますし、別のケースに応用も効きます。

採用面接をしていても、この傾向は顕著に出ますよ。AIやネットで調べたような「テンプレート通りの答え」しか言わない人は、すぐに分かります。言葉は綺麗なんですが、「なぜそう考えたのか」という思考の深みが無いからです。

自分の頭で悩み、調べ、考えた経験がないと、結局は誰かの受け売りしか出てこない。「思考の過程」を自分の言葉で語れるかどうかが、「AIに使われる側」から抜け出す鍵だと思います。

基礎体力を養うために、あえて「生成AI禁止」

――これまでも、ネット上のコードをコピペしたり、先輩のコードを流用したりすることは多くありました。「AI生成」と「既存コードの流用」に、そこまで大きな違いがあるのでしょうか?

一見似ているようで、そのプロセスには天と地ほどの差があります。

もちろん、ソフトウエア開発において、1から全てを作るケースはほぼありません。社内にあるリソースやWeb上の知見を流用して開発することがほとんどでしょう。

しかし、コードを流用する場合、そのままでは動かないケースが圧倒的に多いんです。「今の仕様だと、ここの変数は変えないといけない」「処理の順番はこっちが先だ」といった具合に、自分が開発するシステムの仕様に当てはめる「修正作業」が発生します。

――確かに、どうやって流用するかを考える必要がありますね。

つまり、コードの中身を一行一行読み解き、自分なりに理解しないと「流用」すらできない。そこには必然的に「思考」が介在していますよね。

一方で、生成AIはどうでしょうか。 分からなくても質問を繰り返していけば、それらしいものが完成してしまう。「なぜそうなるのか」という過程を一切理解しなくても、動くものが作れてしまう。ここが決定的な違いです。

システム・リノベイト 三星様 インタビューに答える様子

――苦労して解読するプロセスが、ごっそり抜け落ちてしまうわけですね。

ええ。だからこそ当社では、基礎を学ぶ研修期間においては、原則として「生成AIを利用禁止」にしています。ただその代わり、先輩エンジニアによるフォローやレビューを手厚くやっている形ですね。

具体的には、1ヶ月間の基礎研修と2ヶ月間の言語研修を行うのですが、夕会などで「今日書いたコードについて話す場」を設けています。「なぜこういう書き方をしたのか」を先輩エンジニアが一人一人丁寧にレビューし、フィードバックを行うんです。

そういった対話の中で「あ、ここは理解が浅いな」とか「ここはよく考えて工夫したな」というのが見えてくる。AIに頼らず、先輩たちとの対話を通じて得られる発見や気付きこそ、若手の成長にとって一番のフィードバックになると信じています。

もちろん、生成AIの使用禁止は「研修期間中のみ」です。基礎さえ身に付いていれば、生成AIは業務効率を劇的に上げる強力な武器になりますからね。

AIにはない「運用のリアル」を想像する力が重要

――とはいえ、これだけAIが普及している中で「手を動かすことの大切さ」を伝えるのは、一筋縄ではいかなさそうです。

確かに難しい課題です。当社の場合は、「現場でそのシステムがどう使われるか」といった運用目線を養うことの重要さを伝えることで、AI任せではなく実際に手を動かすことの大切さを伝えています。

例えば、「問い合わせアプリ」を作るとしましょう。いくつかの違いはあれど、そのワークフローは「質問を送る⇒回答する⇒解決ボタンを押して完了」といった形になると思います。

AIは指示通りにコードを出力してくれるので、その流れを汲んだアプリを実装してくれます。問題なく動くので、それで完成に見えるでしょう。

しかし、実際の現場ではイレギュラーの事態が発生します。質問者が見ていなかったり、返事をしないまま放置したりすることは容易に想像できますよね。

システム・リノベイト 三星様 インタビューに答える様子

――なるほど。AI任せで開発を進めると、そのイレギュラーに気付けないケースが出てきそうです。

ええ。本当に使えるシステムにするなら「1週間返信がなかったらリマインドを送る」とか「一定期間で自動的にクローズする」といった機能が不可欠になります。そのためには、人間がAIに指示をしなければなりませんよね。

「仕様通りに動くもの」を作るだけなら、その大半をAIがやってくれるかもしれません。でも実際には「このシステムを使う人はどう動くか」「運用したらどんなトラブルが起きるか」という人間の行動や感情を想像して、先回りして機能を実装することが求められるのです。

――技術力だけでなく、システムを使う「人」への理解も大切ですね。

これからの時代、コードを正確に書くスキルはAIが担っていくでしょう。だからこそ、エンジニアに求められるのは「顧客が本当に求めているものは何か」を汲み取ることだと思っています。

自分一人の実力だけで完結する仕事なんて、実はほとんどありません。誰かの影響を受け、誰かに影響を与えながら、チームや顧客と一緒に正解を作っていく。 事務的なコード生成はAIに任せればいいですが、「人と関わりながら価値を生むプロセス」は、AIには簡単に代替できません。

結局のところ、世の中の仕事はすべて「人のつながり」で成り立っていますから。

若手エンジニアの皆さんは、どれだけAIが進化していったとしても、そのことを見失わずに成長していってほしいですね。

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撮影/赤松洋太 文・編集/今中康達(編集部)

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