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有料ツール提供も「手応えなし」だったMIXIは、いかにして利用率99%&利益貢献10億円のAI活用企業になったのか

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各社が「AI活用推進」を掲げ、生成AIを業務に組み込む動きが一気に加速した2025年。工数削減やコストカットなど、具体的な成果を示す数字を目にする機会も増えた。

しかし、目覚ましい成果を上げている企業はごく一部に過ぎないのが現状だ。全社的に生成AIを導入し、成果へとつなげていく道のりは決して平坦ではない。

事実、MIXIで生成AI推進をリードしている取締役 上級執行役員の村瀨龍馬さんも「当初は全く手応えがなかった」と振り返る。

現在では全社45部門での活用が進んでいるというが、いかにして現場に根付かせていったのだろうか。「徹底的」とも言える、MIXIの歩みを見てみよう。

MIXI 取締役 上級執行役員  村瀨龍馬さん

取締役 上級執行役員 村瀨龍馬さん(@tatsuma_mu

ゲームの専門学校に半年在籍した後、2005年にイー・マーキュリー(現:MIXI)に入社。SNS『mixi』の開発に携わる。09年に一度退職し、ゲーム会社のエンジニアや役員を経験。13年にミクシィ(現:MIXI)に復帰し、『モンスターストライク』の開発に携わったほか、XFLAG開発本部本部長を務め、18年には執行役員CTOに、19年6月には取締役CTOに就任。23年4⽉より現職

全社的なAI活用で10億円の利益貢献

ーー2025年は業界各社が会社を挙げて生成AIの活用を推進していました。MIXIでも全社的な取り組みを行ってきたとか。

全社での生成AI利用率は99%に達し、業務時間では月間で約1万7600時間の削減が見込まれるなど、大きな手応えを得ています。

業務効率の向上や外注費などのコスト削減につながった結果、今期(2025年度)は生成AIの導入によって10億円の利益貢献を見込むなどの成果が出ています。

ーー具体的には、生成AIをどのように活用しているのですか?

開発部門では、以下のような活用を進めています。

【開発部門における生成AI導入の取り組み・導入効果の例】

●開発本部インフラチーム:障害対応・運用をAIで高度化
・ネットワーク障害ログを生成AIが要約・原因候補を提示する仕組みを構築
・アラートの自動検知を起点とした自律解析が、解析用データとともにSlackへ通知。これにより初動対応時間はほぼゼロに 短縮
・脆弱性診断(Junos系)でもAIを活用し、確認・評価工数を削減

●みてね事業本部:コーディングエージェント導入による開発生産性の飛躍的向上
・Devin、Cursor、Claude CodeなどのAIコーディングエージェントを活用
・コーディング作業全体で30%以上の効率化を実現
・デザイナーがFigma上のデザインからコーディングエージェントを利用して直接HTMLを生成するフローを確立し、約30人日かかっていたLP制作を約1人日に短縮

●TIPSTAR事業部:専門組織「AIイノベーショングループ」発足による開発自動化と生産性向上
・発足2週間で全職種の課題を38カテゴリーに体系化してAIドリブンな開発環境を再設計。コーディングエージェントによるアプリ自動生成と検証環境構築の仕組みを2カ月で開発し、企画段階でのプロトタイプ提示とリードタイムの短縮へ
・Web開発では Claude×Figma(MCP)検証を通じて、コード生成効率を約30%向上
・自然言語ドキュメントからWikiを自動生成する仕組みを構築し、開発ワークフローの自動化と属人性低減を実現
・非エンジニアも生成AIを活用し、画像処理ツールや仕様書テンプレートを自作。関連業務で60〜80%の工数削減を達成

特に効果を実感したのはAIコーディングエージェントの導入ですね。

『家族アルバム みてね』の事業本部では、DevinやCursor、Claude Codeなどの活用により、コーディング作業全体で30%以上の効率化に成功しました。最近ではほとんどコードを書かないエンジニアも出てきていますし、エージェントの機能はさらに進化するはずなので、今年中にはコーディング作業の大半をAIに任せられるようになると想定しています。

生成AI活用で求めたのは、効果検証ではなく抜本的な変革

ーー現場への生成AI導入は順調に進んだのですか?

いや、正直なところ最初は動きが鈍かったんですよ。

当初、私たち経営陣は「生成AIはこんなに便利なんだから、一度試せばみんなやみつきになるでしょ」と思っていたんです。なので、23年から有料版ChatGPTの利用料補助や、自社開発した文章生成ツールの提供などを行ってきました。ところが、待てど暮らせど社内に目立った変化が見られなくて。

インタビューに応えるMIXI 取締役 上級執行役員  村瀨龍馬さん

ーー最初は苦戦したと。そこからどのように進めていったんですか?

本気で生成AI導入を進めるなら、経営戦略に組み込むほかない」と考えを改めました。

そこで、24年12月に発足し、25年1月に始動したのが「AI推進委員会」。経営層、事業部門長に加えて、各部門から選出された「AIアンバサダー」と呼ばれるAI推進担当から構成される組織です。

発足後、まずは部門長たちを集めた研修を実施しました。ここで目指したのは、求めているのは「PoC(概念実証)」ではなく、AIを使った「変革」であるという共通認識を持つこと。そのため、丸1日かけて徹底的に議論を行い、AI活用によって自部門をどう変革するのか考えて「宣言」していく場にしたんです。

この日以降、個人レベルの活用にとどまらず、組織全体でのコスト最適化やサービスの品質向上といったより戦略的な活用が加速していきました。

副産物ですが、この研修に参加した部門長たちの自社に対するNPSも大幅に上がったんですよ。AI活用の手応えが得られたことで、「うちの会社、良くなったな」と実感してもらえたんだと思います。

ーーとはいえ、いくら部門ごとの目標を立てたからといって、肝心の推進は一筋縄ではいかないのでは?

そうですね。実際、動き出した時に法務や知財、セキュリティー部門のスピード感に課題がありました。なので、リードタイムを短くするために、例えばAI関連の法的チェックを行う法務部には「他部門からのチェック依頼は必ず5営業日以内にクローズさせる」という目標を設定し、実現するために動いてもらいました。

また、各部門でのAI活用の進捗については、毎月の報告を義務にしています。AI活用に関して「今月新たに追加したもの」と「取り組みが完了したもの」の2点をSlackで報告してもらうんです。

インタビューに応えるMIXI 取締役 上級執行役員  村瀨龍馬さん

その結果、日々の業務における工数削減や時間短縮がハイスピードで進むようになりました。「今月完了したものはゼロでした」なんて報告したくないですからね。「Codexによるウィジェット開発を追加しました」「CS対応の返信自動化が完了しました」といった報告が毎月大量に届き、月100~150件が完了している状況です。

ワークフローがAI標準になれば、やがて人間がボトルネックになる

ーー村瀨さんはAI推進委員会をリードするポジションですよね。どんなメッセージを発信してきたのですか?

まずは「人間がボトルネックになる状態」を目指してほしい、と伝えてきました。

AIが活躍すればするほど、人間の判断が重要になっていきます。仮に業務の90%にAIが導入されても、人間の判断をなくすことはできない。なので「人間が遅くて、AIでこれ以上効率化しても意味ないね」という状態までたどり着いてほしいと思っているんです。

これまで1週間かかっていた仕事が1日で終わるようになったのに、「ネクストアクションは来週の定例会議で決めましょう」などと言うのは、もはや人間の「儀式」でしかありません。そこから抜け出して、AIのためのワークフローをもう一度考え直そうと思える状態になる必要があります

なので、最初にお話しした利益貢献も重要ですが、それよりも重視しているのは全社的な浸透度なんです。全45部門でどの程度活用されていて、何が変わっているのか、日々細かくチェックしています。

インタビューに応えるMIXI 取締役 上級執行役員  村瀨龍馬さん

ーー各部門のワークフローをもう一段変えていく必要があるわけですね。

2025年度の下期に入るタイミングで、各部門に改めて今後の目標を宣言してもらったのですが、ワークフローがAI標準になっていなければ達成し得ないテーマを掲げるリーダーも増えてきました。

ですが、部門やチーム単位で変わるだけでは十分ではありません。部門目標を達成したとしても、結局ワークフローというのは「横」とのつながりで機能するものじゃないですか。なので、部門単位でのAI導入率が100%に達してもワークフローが改善しないケースが結構あるんです。

エンジニアが開発を進める過程では、IP管理やデザイン管理、法務やセキュリティー管理など、さまざまなチームとのやりとりが発生するので、関係各所にまたがる全工程を一気通貫で改善しないと本当の変革は実現しない。なかなか大変ではありますが、今は組織を超えた社内横断の連携強化に取り組んでいるところです。

「AI活用で人手が余った」なんて言っている隙はない

ーーまだ変革は道半ばとはいえ、社員一人一人の仕事を見れば、すでに効率化によって余白の時間は生まれていますよね?

まず前提として、AIで作業を効率化しても、別に人間の手が空くわけじゃないんですよ。世間では「AI活用が進むと人が余るんじゃないか」と言われますが、今のMIXIにそんなことを言っている暇はない。空いた時間を使って新しい事業やプロダクトをどんどん創り出し、グローバル市場へ投入しなければいけませんから。

そもそもMIXIが生成AI活用を強力に推進してきた最大の理由は、グローバル展開を加速させるためです。

MIXIがゲームやSNS事業を通じて大事にしてきた「コミュニケーション」を軸にしたサービスを国外でも展開したい。そして、世界中に人と人とのつながりを広げて、新たな体験価値をより多くのユーザーに届けたい。その目標を一刻も早く達成するには、生成AIの活用が本格化した今が最大のチャンスです。

インタビューに応えるMIXI 取締役 上級執行役員  村瀨龍馬さん

ーー生成AIの登場によって、グローバル戦略も変わってくると?

もちろんです。生成AIを使えば、現地の市場調査やデータ分析といったローカライズのコストが劇的に下がるので「まず出してみよう」ができる。これまでなら慎重にならざるを得なかった国や地域への展開も、軽やかに意思決定できて、挑戦の機会が加速度的に増えていきます。

だから人が余るなんてことは全然なくて、AIの力を活用しながら、創り出すものを今の2倍や3倍ではなく、100倍や200倍の単位で増やしていく必要があるんです。グローバルへの挑戦の質も、データドリブンの深さも、スピードの次元も変わります。

ーー人手が余るどころか、むしろ必要になるシーンが増えるということですね。

もちろん「人を絞る」ことは重要です。人間による判断や合意形成にはコストがかかるので、人数が多ければいいわけではありません。

生成AIの導入が進んだ先にある最終的な成果が「これまでできなかったことができるようになる」ことだとすると、スピード感も重要です。新たな施策を「いいね、やろう」というノリで進めようと思ったとき、100人と10人では明らかに合意形成にかかるスピードが違います。

なので、組織の人数自体はシュリンクさせ、分散させていくことで施策の総量を増やしていく必要があると考えています。

エンジニアのポジションは、細分化から集約へ

ーー描いているビジョンが現実になれば、エンジニアの仕事も変わっていくのでしょうか?

これまではテクノロジーの進化とともに、エンジニアのポジションが細分化されてきたと思うんです。端末の種類が増えればiOSエンジニアやAndroidエンジニアが生まれ、サーバーの技術が進化すればクラウドエンジニアが生まれるなど、領域ごとに分業が進みましたよね。

でも生成AIによって大半の作業が自動化された結果、今では少人数でものを作れるようになりました。なので、細分化されたポジションが徐々に集結する動きが出てくるのではと思っています。

MIXI 取締役 上級執行役員  村瀨龍馬さん

ーー生成AIの活用によって、個人の力でできることも増えましたよね。

分業しなくても好きなものを作れるなら、そもそも企業に所属せず、独立した方が稼げるかもしれないですしね。それでもエンジニアが企業で働くなら、「あなたは何のためにこの会社で働くのか」を問われることになるし、その答えは「事業や会社を伸ばしていくためです」というシンプルなものに行き着くんじゃないかと思います。

するとエンジニアが企業を選ぶときも「会社のビジョンに共感できるか」が重要になるし、同じ思いや熱量を持った仲間が集まれば、もっと良いサービスやプロダクトをどんどん生み出せる。私たちも、MIXIのビジョンに共感してくれる仲間たちと「コミュニケーション×AI」によるイノベーションの創出に取り組み、グローバルAI企業としてさらなる成長を目指していきます。

取材・文/塚田有香 撮影/桑原美樹 編集/秋元 祐香里(編集部)

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