本記事の内容は2026年1月10日開催『今一番アツい!AI時代のヘルスケアプロダクト開発を語る会』より執筆しています
“外気浴”で本音がポロり? 『サ道』ロケ地・サウナ北欧でのエンジニア採用イベント潜入記
NEW! ITニュース
2025年12月、エンジニアtype編集部宛てに「サウナで行うエンジニア採用イベント」の取材依頼が届いた。
正直なところ、最初に浮かんだのは「話題性先行の企画ではないか」という疑念だった。言葉のインパクトは強いが、採用イベントとして本当に実りあるものになるのか。
ただ、詳細をよくよく聞いてみると、会場は上野の「サウナ北欧」。ドラマ『サ道』のロケ地として知られ、サウナーの間では“聖地”とも呼ばれる場所だ。大のサウナ好きでもある私(編集部・今中)としても、そのロケーションには惹かれるものがあった。
イベントを主催するのは、尿によるがんの早期発見技術を開発する、バイオAIスタートアップ・Craif(@craif_jp)。NEXTユニコーン企業としてバイオ領域ではNo.1に位置しており、社外取締役には元サッカー日本代表の本田圭佑さんも名を連ねている。
そんなディープテック企業が、なぜサウナで採用イベントを行うのか。単なる変わり種イベントなのか、それとも理にかなった狙いがあるのか。
百聞は一見にしかず。そう思い立ち、実際にイベントに参加した編集部の今中ヤスタツが、イベントの模様をレポートする。
目次
いざ、サウナーたちの聖地「サウナ北欧」へ
2026年1月10日、イベント当日。JR「上野駅」浅草口を出て数分。赤いレンガ調のビルが目印の「サウナ北欧」に到着したのは、午前10時過ぎのことだった。
入口や看板に、イベント用の特別な装飾は見当たらない。周囲の通行人から見れば、私はただサウナに入りに来た一般客と何ら変わらなかったはずだ。
「サウナ北欧」外観(左)|「サウナ北欧」エントランス・入り口(右)
受付を済ませて、ロッカールームへ向かう。
他の参加者たちと同じように服を脱ぎ、水着に着替えてガウンを羽織る。「これから本当に採用イベントが始まるのか」と少し不思議な感覚に包まれていると、ロッカー内で参加者に声をかけている男性の姿が目に入った。
挨拶を兼ねて話を伺ってみると、その人物は日本サウナ学会代表理事の加藤容崇さんだった。
加藤さんは医学博士としてサウナの効能研究に従事しており、サウナ専用ウェアラブルデバイス『サウォッチ』を手がける株式会社100plusの代表でもある。
このイベントでは、参加者全員にその『サウォッチ』が配布されていた。このアイテムは、体表温度や心拍変動を計測することで、総合的に体の状態を評価してくれるそうだ。
サウナに入る前に、休憩室でトークセッション
サウナに入る前、参加者全員が休憩フロアに集まり、1時間ほどトークセッションが行われた。
CraifのCTO・市川さんが語ったのは、バイオ×AIという領域で彼らが向き合う課題と、そこでのエンジニアの役割についてだ。
がんの早期発見を支える研究・オペレーションの現場には、いまだ多くの非効率が残っていること。その非効率を、研究者任せにするのではなく、エンジニアが現場に入り込み、仕組みそのものから作り変えてきたことが語られた。
Craif CTO 市川裕樹さんによるトークセッションの模様
象徴的だったのは、内製の開発プラットフォーム「Oyster(オイスター)」の話だ。研究現場や社内業務に散らばっていた非効率な業務を吸い上げ、システムに落とし込む。その積み重ねが、事業成長を支えているという。
とはいえ、詳細な技術解説や成功事例の深掘りというよりは、「なぜエンジニアが事業の中心にいるのか」「どんなスタンスで開発しているのか」といった価値観の共有に重きが置かれていた。
非効率をどう捉え、どう壊すのか。エンジニアはどこまで現場に踏み込むのか。そんな問いを各自が頭に浮かべた状態で、いよいよサウナ室へと向かう。
ロウリュに打たれながら、技術談義に花が咲く
ガウンを脱ぎ、タオルを手に大浴場へ。サウナ室の扉を開けると、室内にはすでに数名が腰を下ろしていた。
サウナ室で談義する参加者(左)とCraif ソフトウェア開発責任者 谷 祐斗さん(右)。撮影の都合上、室内はライトアップされているが、実際はもう少し暗く、落ち着いた雰囲気だった。写真では社員がシャツを着用しているが、当日は参加者と同じく水着姿でサウナに入っていた
「さっき出ていた“Oyster”って、どこまで内製なんですか?」
「研究の現場って、実際どれくらい泥臭いんですか?」
「ラボの研究データって、今でもExcel管理なんですか?」
サウナ室の中にはPCも資料もないため、画面を見せて説明することはできない。その分、会話は細かい実装の話よりも、「なぜその技術を選んだのか」「その時チームはどう動いたのか」といった、思考プロセスやスタンスの話に集中していた。
サウナという空間がそうさせるのか、あるいは裸に近い開放感がそうさせるのか、採用イベント特有の「探り合い」のような空気は希薄だった。誰かが一方的にプレゼンするわけではなく、質問に対し、実体験ベースの答えが返ってくる。
やがて、誰かが立ち上がり、水風呂へ向かう。それにつられるように、自然と人が動き始める。
Craif社員が熱波師となり、ロウリュが行われた。「この日のために1週間くらい練習しました」(Craif 経営企画部 佐野 翔一朗さん)
外気浴のベンチ。ふと口をついて出た「ぶっちゃけ」
サウナ室を出て水風呂で身体を冷やし、外気浴スペースへ。
ベンチで風に当たりながら、しばらくは各々が静かに目を閉じている。ほどなく呼吸が整ってきた頃、ぽつりと誰かが口を開いた。
正直、全部自分たちで内製するのはしんどくないですか?
まあ、めっちゃしんどいですね……(笑)
実際、どんなところが大変でしたか?
要件定義をしようにも『まず現場を見てくれ』と言われて。結局、ピペットを持つところから始めました。コードを書くより、観察している時間の方が長かったかもしれないです。
笑い混じりの声がいくつも上がる。成功談というよりは、そこに至るまでの試行錯誤の話だ。
外気浴での会話のトーンは、サウナ室で熱心に話を交わしていた時とは少し違ったように聞こえた。独り言のような、力が抜けている感じに近い。質問する方も、答える方も、飾らない。
「ととのった」状態だからこそ、つい本音がこぼれやすいのだろう。ベンチに座って、頭がぼーっとしている状態だと、ややこしい会話をするのが億劫になる。自然と、言葉がシンプルになっていく。
会議室で向き合っていたら、もう少し言葉を選んだり、「社内調整の苦労が……」なんてかしこまった言い回しになったりしたはずだ。
サウナ室で談義するCraif エンジニア 服部毅保さん(左)と参加者(右)
実際に参加者からは「技術の話はもちろん、どういう人たちなのかがよく掴めた気がする」 「無理に自分を良く見せようとしなくていいのが気楽だった」という感想が寄せられていた。
一方で、「フォーマルな場の方が安心できる人には、少し居心地が悪いかも」という冷静な意見もあった。確かに、向き不向きがはっきり出る形式であることは間違いない。
なぜ会議室ではなく、サウナだったのか?
イベント終了後、運営メンバーの一人、Craif 経営企画部の佐野 翔一朗さんに改めてこのイベントの背景を聞いてみた。
そもそも、なぜこれほど手のかかるイベントを企画したのか。単なる話題作りだったのか……?
「僕らの事業は、Web完結のサービスとは違って、研究開発の現場と密接に関わるディープテックです。仕様書通りにコードを書くだけでなく、研究者とぶつかったり、カオスな状況を泥臭く前に進めたりするタフさが求められます。
ただ一般的な採用イベントでは、スキルマッチは確認できても、『この泥臭い現場を楽しめるか?』というマインドの部分までは、なかなか見抜けないんですよね」(佐野さん)
そこで白羽の矢が立ったのが、サウナだった。
強制的にリラックスし、素の状態にならざるを得ない場所。ここならお互いの「鎧」を脱いで、マインド面のマッチングを確かめられるのではないか。それが、今回の狙いだったという。
「自分たちが、外からかなり堅苦しく見えてしまう状況を打破したかったんです。だったらもう、一回全部脱いじゃおうと(笑)」(佐野さん)
『サウォッチ』の使い方を説明する加藤医師(左)と、Craif CEO 小野瀨 隆一さん(右)
職務経歴書では見抜けない「素の相性」が分かった
では、実際にやってみてどうだったのか。
「正直、期待以上でした」と佐野さんは顔をほころばせる。
「外気浴の時間なんて、まさにそうでしたよね。面接なら『御社の課題は……』なんて構えて話すところを、『ぶっちゃけ、しんどい時はどうしてます?』みたいな、地に足のついた会話が自然と生まれていました」(佐野さん)
技術力や実績は、職務経歴書を見ればある程度分かる。「しんどい話を面白がれるか」「飾らずに対話ができるか」といった波長の部分は、この環境だからこそ可視化されたという。
エンジニア採用において、企業は魅力的な開発環境をアピールし、候補者は高いスキルをアピールする。それが定石だろう。
だが、スタートアップやディープテックのような「未完成で泥臭いフェーズ」にある企業の場合、その定石がお互いの首を絞めることもある。「入ってみたら思っていたのと違った」というミスマッチだ。
今回のような「サウナ採用」は一見突飛に見えて、カルチャーフィットが何より重要だという企業にとっては、採用のミスマッチを減らすための理にかなったアプローチなのかもしれない。
取材・文/今中康達(編集部)
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