「生成AIの台頭は非常に大きな波で、『SaaS is Dead』、ひいては『サイボウズ is Dead』になる可能性もはらんでいるかもしれません。ですが私たちは、このピンチをチャンスに変えるべく取り組んでいきます。
かつてサイボウズが大きく成長するきっかけとなったのは、クラウドへの切り替えです。振り返ってみると、あの時期(2011年頃)がサイボウズ史上もっとも危機的な状況でした。
パッケージのビジネスで勝負してきた私たちがクラウドに舵を切り、『kintone』を世に出すことができた。その結果、クラウド時代に対応して成長を掴むことができたのです」(青野氏)
サイボウズはSaaS is Dead時代をどう乗り越えるのか。経営陣が明かす「むしろ際立つ価値」とは
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生成AIが自らコードを書き、自律型エージェントが瞬時にシステムを組み上げる現代。エンジニア界隈では、既存のSaaSビジネスの終焉を予言する声が後を絶たない。そんな逆風が吹き荒れる中、国内SaaSの旗手であるサイボウズは、「攻め」の姿勢を示している。
2026年2月25日に行われた決算説明会。2025年12月期決算において過去最高益を記録した同社が打ち出したのは、AIを脅威ではなく「燃料」に変える構想だ。
巷で取り沙汰されている「AIがアプリを作る時代に、SaaSの価値はどこに宿るのか?」という疑念に、サイボウズはどう応えたのか。
AI時代の荒波に立ち向かうサイボウズの戦略を経営・開発・人事の三極からレポートする。
【経営】「SaaSの死」は第二の転換点に過ぎない
市場では「SaaS is Dead」という過激な言葉も踊るが、代表取締役社長・青野慶久氏の視座は極めて冷静だ。かつて、パッケージ販売での成功に固執せず、不退転の決意でクラウドシフトを断行した同社にとって、現在の生成AIの衝撃は、過去の危機を凌駕する「勝負どころ」に見えている。
加えて青野氏は、昨今のマーケットにおけるSaaS銘柄の株価急落についても、長年上場企業を経営してきた経験から次のように語った。
「2026年2月以降、『アンソロピック・ショック』と呼ばれる各社の株価変動が話題となりました。サイボウズも上場してから約25年の間に、ドットコムバブル、リーマンショック、SaaSバブルなど、〇〇ショック、〇〇バブルと呼ばれる時代のうねりを幾度となく経験しています。
今回の変化も、その一つであるというのが現在の見立てです。株価への影響がないとは言い難いですが、まだ落ち着いて受け止められる範囲に過ぎません。
新たな技術は脅威であるという見方もできますが、この脅威をうまく利用してまたチャンスに変えることができるとも思っています」(青野氏)
しかし、議論の矛先は、プロダクトの機能性からSaaSの根幹を成す「ビジネスモデル」そのものへと及んだ。
参加者から寄せられた「AIがSaaSの価値を激変させる時代、従来のビジネスモデルは維持可能なのか」という問いに対し、事業戦略本部長の栗山圭太氏は、変革を厭わない柔軟な構えを見せた。
「従来のユーザーライセンス型の課金体系が、将来的に別のモデルに変わる可能性も含め、市場の動向を注視しています。
課金体系の変更は膨大な作業を伴いますが、タイミングを逃さず素早く対応できるよう、社内体制や受発注システムの準備は進めているところです。当面は現状のモデルが続くと考えていますが、適切なタイミングで対応できるように備えていく構えです」(栗山氏)
【開発】AIには真似できない「堅牢な実行基盤」の価値
「自律型AIエージェントの台頭により、ノーコードツールの価値は消失するのではないか」
エンジニアが抱くこの懸念は、質疑応答の場でも参加者からの質問として話題に上がった。
開発本部長の佐藤鉄平氏は、エンタープライズ領域における「システムとしての完結性」の観点から、その本質的な価値を説明した。
「小さなプロダクトや自分だけで使うツールを作るなら、AIによるスクラッチ開発でも問題ないでしょう。しかし、社内の全員で使うとなれば話は別。認証、アクセス権、監査ログといった複雑な仕様をAIに指示し、メンテナンスし続けるのは困難です。
対してkintoneには、業務システムに必要なコアの基盤がすでに揃っています。確かな品質の基盤の上に、業務ロジックだけをAIで効率的に構築する。これがkintoneにおけるAI開発の立ち位置です」(佐藤氏)
AIはあくまでロジックの生成役であり、堅牢な実行基盤としてのSaaSの価値はむしろ際立つという論理だ。この基盤の堅牢性へのこだわりは、同社が最重点戦略として掲げる「一部門の利用から全社・大規模導入への展開」を支える生命線とも言えそうだ。
実際にサイボウズは、組織の壁を壊して情報のサイロ化をなくす「サイボウズ NEXT」というビジョンのもと、kintoneを全社の共通基盤へと進化させているという。
大規模利用に特有の要件に応えるため、機能追加や拡充を推進。JX金属や香川県といった数千名規模の導入事例も増えている。
しかし、基盤の堅牢さだけで全社展開は完結しない。現場の非エンジニアがAIの力を借りて自らアプリを量産する時代、情報システム部門が直面するのは、管理不能な野良アプリの増殖という恐怖だ。
そこでサイボウズは、技術だけでなく「運用の型」の提供にも踏み込んだ。公開されている「市民開発ガイドライン」では、安全にDXを加速させるためのモデルを提唱している 。
AI時代における「開発」の定義は変わりつつある。自らコードを1から書くこと以上に、AIが生成したロジックを安全かつ大規模にデプロイできる「器」をいかに選定し、ガイドラインによって統制するか。サイボウズが掲げる市民開発の支援は、この堅牢なプラットフォームと運用ノウハウという両輪があって初めて成立するものだといえるだろう。
【人事】AI時代に「チームで勝てる」人材を確保する
この激動の時代を乗り越えるため、サイボウズは再び採用のアクセルを踏む方針も明らかにした。その象徴が、2027年新卒の初任給を月給40万円以上に引き上げるという取り組みだ。
「利益率が上がり、AIによる事業環境の変化も進んでいる今はまさに攻め時。2024年、2025年と絞っていた採用を再度加速する予定です。人員を増強し、新しいことにチャレンジをしていく時期にしたいと考えています」(青野氏)
人事本部長の中根弓佳氏によれば、求めるのは単なるスキルを持つ人材ではない。AIという予測不能な変数を乗りこなすための高速な学習能力と、サイボウズが最も重んじるチームワークを体現できる人材だ。
「AIの影響を含め、事業環境は今後も急激に変わるということが予想されます。そのため、特定領域に特化するよりも、全方位的に人材を確保していきたいという方針です。
変化をしっかりキャッチアップして、それに対して高速に学習して変容していけること。そして、チームでワークするマインドセットを持つこと。この二点を重視しています。
人員が拡大する中で、個の成長だけでなく、機能するチームをリードしていける人材を迎え入れたいと考えています」(中根氏)
AIはSaaSの価値を脅かす「破壊者」となるのか、あるいは可能性を広げる「協働者」となるのか。
サイボウズの経営陣の言葉からは、SaaSというモデルの「死」ではなく、AIを燃料に進化する過渡期の訪れが感じられた。
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