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南場智子「ますます“速さ”が命題に」DeNA AI Day2026全文書き起こし

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「開発エンジニアの人生が一変した1年」だった――。

2025年に「AIオールイン」を宣言したDeNA。あれから1年、会長の南場智子さんは劇的な変化をそう切り出した。

コーディングに手を動かすことが激減し、AIが自らタスクを請け負うAIエージェントが民主化したこの1年。最前線で南場さんが痛感したのは、生産性向上という甘い果実だけではない。

「無慈悲なLLM」
「中途半端な専門性は一撃で淘汰される」
「スピード感のないプロダクトに、成長も参加資格もない」

突きつけられたのは、昨日までの常識を無効化するシビアな現実だ。
しかし、南場さんは同時にこうも断言する。

「諦めるのは時期尚早。日本はまだまだ勝てる」

その真意と、南場さんの描く未来予測とは?

2026年3月6日に行われたばかりの最新プレゼンを、熱量そのままにノーカットでお届けする。

※本記事は、2026年3月6日に開催された「DeNA × AI Day 2026」のクロージングセッションの内容全文を書き起こしたものです。一部、文意を明確にするために編集・要約を行っています。

開発エンジニアの人生が一変した1年

DeNA会長の南場智子です。1年前、私たちは「AIの力を活用する」と宣言いたしました。

具体的には、約3,000名いる現業部門において、AIを駆使して効率化を徹底的に追求し、半分の人員で現業を維持するだけでなく、さらに発展させるという計画です。

DeNA AI Day 2026で登壇する南場智子会長。背後のスライドには「現在の事業 約3,000人」から人員を削減し、効率化を図る概念図が表示されている。AI導入により現業部門の人員を半分に抑え、そこで捻出されたリソースを新規事業やスタートアップとの共同事業へ大胆にシフトさせる「AIオールイン」戦略の全体像を示している

そして、そこで捻出された人員を新規事業に充て、組織として単一の事業ではなく、数多くの事業を同時並行で展開していく。さらに、自社内だけでなくスタートアップとともにやっていくんだというお話をさせていただきました。

この1年を振り返ってみていかがでしょうか。

まず、開発エンジニアの人生は一変したはずです。

もう、どこの会社でも同様かと思いますが、ほぼ全ての現場で「コードを書く」という作業が激減したのではないでしょうか。特に、昨年11月にClaude Opus 4.5が登場して以降、人間が直接コードを書く機会は大幅に減ったと誰もが口を揃えます。

現在はClaude 4.6もリリースされていますけれども、やはり、訳の分かった人間が使うと、驚異的な効率化が実現するんですね。

プロジェクトによっては、今までやっていた作業の5%を人間が、95%をAIが担っているものまである。すなわち、従来の20倍の生産性を手にしたという事例もあります。

DeNAのAIネイティブ化による具体的な業務効率化の成果スライド。開発エンジニアの生産性が20倍に向上した事例に加え、法務のリーガルチェック工数が100から10へ(90%削減)、QAの開発テスト・品質管理が100から50へ(50%削減)、Pocochaの配信内容審査が100から40へ(60%削減)と、業務フローの再構築による劇的な改善数値が示されている

編集部撮影

開発以外でも、法務、QA、そして配信審査といった特定の業務において、AIの活用を前提に業務フローそのものを組み替えることで、大幅な改善をしました。

ものによっては90%の効率化を実現しています。QA業務では従来の半分の工数で同等の成果を出せるようになり、『Pococha(ポコチャ)』配信審査のコストも60%削減しました。

またDeNA AI活用百本ノックでも発表した通り、現場からボトムアップで「このようにAIを活用して効率化した」という事例が次々と生まれており、全社的にAIネイティブ化が着実に進んでいます。

こうした取り組みは大変にうまくいっていると思います。そこにきたのが、AIエージェントのメガ進化です。Claude Coworkによってエージェントの利用が民主化され、エンジニア以外の職種でも活用が可能になりました。これにより、AIは単なる「サポートツール」から、共に働く「スタッフ」へと進化したように感じられます。

OpenClaw社員と、毎朝ケンカ

今年の1月、2月はOpenClawの話題でもちきりでした。私もMacを購入して……本当は自分のMacに入れるとその真価を発揮するんですけど、当面はセキュリティーを考慮し、サンドボックス環境に限定することにしました。そうなると本来の真価を発揮できず、リサーチ程度にしか活用できません。正直、かなりのもどかしさを感じていました。

そんな折、耳より情報が入りました。DeNAのIT本部がOpenClawを一人の社員(デモン君)として登録し、トレーニングしているという話を聞いたのです。

私はすぐに「デモン君を貸してほしい」と依頼し、現在はSlackを通じて彼とコミュニケーションを取りながら、毎日仕事を進めています。

実際に使ってみると、その利便性がよく分かります。一度指示したことはずっとやってくれますし、ToDOリストを見て重要な案件はずっとリマインドし続けてくれます。また、Slackのグループチャットに参加させておくと、会話の流れを汲み取って「それは私が担当できます!」と言って、仕事を請け負ってくれたりして、なかなか健気。

とはいえ、思い通りにいかない部分もありますね。「ここに入れないで! ここに入れてって言ったでしょ」なんて、毎朝のように喧嘩に近いやり取りをすることもあります。

DeNA AI Day 2026にて、AIエージェント「デモン君(OpenClaw)」との仕事を笑顔で語る南場智子会長。Slackを通じてToDo管理やリマインドを自律的に行うAIスタッフとの共創や、時には思い通りにいかず「喧嘩」をすることもあるという、人間とAIが日常的に対話しながら業務を進める次世代の労働環境の実態を伝えている

しかし、IT本部が毎日彼の活動範囲を広げてくれているんですね。社内Wikiを参照できるようにしたり、カレンダーと接続したりと、着実に彼が活躍できる範囲を広げてくれていて、日々進歩しています。かつて自分でノートブックにデータをコピーしていた時代が、今では懐かしく感じられるほどです。

このエージェントを実際に運用して気付いたのは、企業がAIで極限まで効率を追求する際、重要な要素が変化してきているということです。

ひと昔前——といっても、このスピード感ではわずか1年前のことですが、当時は「プロンプトエンジニアリング」が重要だと言われていました。それがしばらくすると、次は「コンテキストエンジニアリング」の時代になりました。つまり、RAG(検索拡張生成)などを用いて、いかに背景情報をAIに教え込み、賢くさせていくかが成否を分ける鍵となったのです。

エンバイロメント(環境)エンジニアリングの時代へ

AI活用技術の変遷を示す図解スライド。Prompt Engineering(プロンプト)、Context Engineering(背景情報)、そして最新のEnvironment Engineering(環境設計)へと重要性が移行していることを示す。AIエージェントの自律性を制御する「ガードレールの設計」が組織の成否を分ける鍵であるという新概念を提示

編集部撮影

現在もコンテキスト(背景情報)の重要性は変わらず、非常に大きいです。しかし、AIエージェントが自ら情報を取りに行く時代になったことで、新たに「ガードレールの設計」が極めて重要になっています。

すなわち、AIがどこまで情報を見に行ってよいのか、どのような行動や出力を許可するのか、といった境界線の設計です。

これはエージェントの自律性やバックアップのあり方、あるいはインジェクション対策などのセキュリティー面にも関わります。基本的には、環境をしっかりと整え、安全性と利便性の両立を追求できた組織こそが、AIのメリットを最大限に享受できると考えています。

そのためには、AIエージェントが活動できる範囲を定義する「エンバイロメント(環境)エンジニアリング」が不可欠な視点となってきています。

「先に人を動かす」ことの重要性

さて、私自身も相当にAIネイティブな働き方が進み、業務の効率化を実感しています。

しかし、分かったこともあります。

作業が楽になった分、空いた時間にさらに仕事を詰め込んでしまうのです。

AIによる効率化の影で、空いた時間にさらなる仕事を詰め込んでしまう日本人の真面目さと、人材シフトが想定通りに進まない現状の課題を語る南場智子会長。現場の「やりたかったこと」を優先させるのではなく、人員を強制的に動かす「乱暴なリーダーシップ」の必要性を説く真剣な表情

DeNAのメンバーは非常に真面目ですし、日本人の多くも同様だと思いますが、一つのタスクにかかる工数が減ると、余った時間で「やりたくてもできなかったこと」を自ら次々と追加してしまいます。

その結果、正直なところ、新規事業への人材シフトが想定していたほどには進んでいないのが現状です。

もちろん、わが社は社内の人材だけでなく、スタートアップと共に新事業を展開していますので、そういった意味では、曲がりなりにもできているんですが、まだまだ足りない状態です。

ここで痛感したのは、「先に人を動かす」ことの重要性です。

現場から「AIで余裕ができたので、この役職を降ります」と自ら申し出てくる人はまずいません。放っておくと次の仕事を取りに行ってしまうからです。

ですから、ある種「乱暴」とも言えるほどの強いリーダーシップで、先に人員をシフトさせることが必要だと感じています。

現場からは「南場さんすごいです。AIのおかげで、今まで時間がなくてできなかったことができるようになりました」とみんな言うんです。しかし、これまでは、それをやらずとも何とか成立していたんですよね。

なので、ここはもう大胆な人材シフトを断行し、限られたリソースの中で工夫してやっていこうという、少々“乱暴なリーダーシップ”が必要だなと思うわけです。

また、HRの発案ですが、マネジャーの評価指標に「人材の輩出」を組み込む方向で進めています。こうした仕組みと、トップによる多少強引なリーダーシップが相まることで、AIのメリットを最大限に享受し、事業を拡大していける。そんなふうに考えています。

基盤モデルプレイヤーは「無慈悲」

ここまでは効率化の話をしてきましたが、新規事業の面ではどうでしょうか。

1年前に、AIの産業構造についての図(下記スライド)をお見せしました。多少のプレイヤーの交代はあるものの、私たちはその「アプリケーションレイヤー」を狙って頑張っていくんだとお話ししました。

AI産業構造を示す図解スライド。NVIDIA、OpenAI、Google(Gemini)、Anthropic(Claude)などの主要プレイヤーが並ぶ中、DeNAが注力する「アプリケーションレイヤー」の重要性を強調している。生活シーンや産業が「AIを前提とする形」へと変貌する中でのビジネスチャンスを解説する場面

編集部撮影 AIの産業構造についての図

事実、あらゆる生活シーンや全ての産業が、「AIのない時代」から「AIと共に歩む時代」を経て、今や「AIを前提とする形」へと変貌を遂げつつあります。

この劇的な変化は、ビジネスにおいて無限のチャンスをもたらします。この1年、アプリケーションレイヤーを狙って取り組んできたことは、正解だったと確信しています。

中途半端な専門性は一撃で淘汰される

一方で、もう一つ見えてきた現実があります。

それは、ファンデーションモデル(基盤モデル)の開発企業がいかに「無慈悲」であるかということです。

彼らは、スタートアップと共にエコシステムを繁栄させようといった配慮は持ち合わせていません。数十兆円規模の巨額な資金を投じ、極めて激しい競争を繰り広げているため、獲得できる領域は全て取りに行くというスタンスです。

汎用モデルの適用範囲は驚異的なスピードで拡大しており、中途半端な専門性では一撃で淘汰されてしまいます。

したがって、「〇〇 × AI」における「〇〇(ドメイン)」の領域をどう定義するかが極めて重要になります。その領域における「複雑性」と「深さ」が鍵を握るのです。具体的には、深いドメイン知識や、その領域のプレイヤーでなければ持ち得ない固有のデータなど、簡単には模倣されない領域を選び、簡単には狙われない戦い方をしなければなりません。

私たちDeNAもそれを肝に銘じ、コンシューマー向けゲームをはじめとする「〇〇 × AI」の領域を攻めています。また、自社だけでなくスタートアップへの出資を通じ、この領域へ果敢に挑戦を続けているところです。

速さこそが、現代のプロダクトの命題

DeNA AI Day 2026にて、AI時代のプロダクト開発について語る南場智子会長。かつての「プロダクト・イズ・キング」から、AIを使いこなすことで開発スピードが劇的に向上し、UI/UXの静的な優位性よりも、変化に即応する「ベロシティ(速度)」が差別化の鍵となる時代への変遷を説いている

かつて「プロダクト・イズ・キング(プロダクトこそが王者)」と言われました。

現在の開発状況はどうでしょうか。決して開発は簡単ではありません、プロの存在は必要です。ただ、プロがAIを使いこなすことで、開発スピードは劇的に向上しました。
これほどの速度で開発が進むようになると、今、この瞬間の「UI/UXが優れている」という、スタティックなプロダクトの優位性は無意味になります。

そうではなく、重要なのは、競合との差異に気付いた瞬間に修正する、あるいは顧客のニーズとのズレが生じれば、その場で直してみせるといった即応性です。

新しいAIツールやファンデーションモデルのアップデートがあれば、即座にそれを使い倒し、プロダクト開発に反映させる。このサイクルをびゅんびゅんびゅんびゅんと高速で回し続けることができるか。

スライドには「ベロシティ(速度)」と書きましたが、このベロシティを伴っていることがこれからの時代には極めて重要です。

Competitor、Customer、Technologyの3要素を高速で回す「Velocity(ベロシティ)」の概念図。競合や顧客ニーズのズレに即座に対応し、新しいAIツールを即座に使い倒す「びゅんびゅん回し」ができるプロダクトだけが、これからの時代に参戦資格を持つことを示している

編集部撮影

逆に言えば、このベロシティを伴わないプロダクトに成長はなく、この“びゅんびゅん回し”ができない、このスピード感で戦えないのであれば、参戦する資格さえない時代になったと言えるでしょう。

すなわち、プロダクトによる差別化の難易度が上がったということです。

その分、相対的に重要性を増しているのが「ディストリビューション(流通・販売)」です。販売チャネルや「Go-to-Market(市場進出)」の戦略が極めて重要になっています。

C向けサービスであれば、SNSのフォロワーを通じて一気に火を点ける力や、開発段階からコミュニティーを巻き込み、完成と同時に利用者が存在する状態を作れるかどうかが問われます。

また、売り手も買い手もエージェントである時代が目前に迫っています。こうした「エージェント・ツー・エージェント」の前提に立った戦略を組み立てる力も欠かせません。

大企業との提携は「要注意」から「戦略的必須」へ

さらに、ここにきて大企業の持つ顧客基盤や販売チャネルが、大きな価値を持つ時代になりました。

私は自身の起業経験から、かつてスタートアップに対し「大企業との提携には慎重になるべきだ」と助言してきました。

なぜなら、彼らが持っているスピード感というのがケタ違いに遅いからです。加えて、組織構造が複雑すぎて、提携しようとすれば膨大な書類が届き、社内の調整や常識に阻まれ、遅々として進まない。私自身だいぶ苦労した経験があります。

しかし、ここにきて初めて「大企業と組む」という選択が、戦略的に重要な意味を持つようになってきたと感じています。

大企業の立場から考えた場合はどうでしょうか。「優秀なエンジニアが自社にいるから、自分たちでプロダクトを作る」と考える企業もあるかもしれません。

しかし、先ほど申し上げたスピード感を大企業が維持することは、非常に困難です。ですから、ぜひともスタートアップと組んでいただきたいと考えています。

スタートアップに対し、大企業の顧客基盤や販売チャネルを活用する戦略的重要性を説く南場智子会長。大企業にはスピード感を維持するためにスタートアップと組むべきだと提唱し、共創による価値最大化を呼びかける場面

マルチモーダル技術の進化は、IP大国日本への朗報

AIによる変化は多岐にわたりますが、エージェントの進化に加えて、この半年で特に目覚ましい進化を遂げたのが「マルチモーダル」技術です。

その進化の速度には感動を覚えるほどです。動画はもはや専門家でも本物と見分けがつかないレベルに達しており、音声も英語圏では人間かAIか判別できないほど自然になっています。

これはもう使うしかない、実用レベルとしてばっちり。ストレスなく利用できる段階にありますので、ぜひ皆さまの新規事業や既存事業にも果敢に取り入れていただきたい。

特に日本にはアニメなどの強力なIP(知的財産)があります。この領域のプロダクトに欠かせない重要なピースが進化してきたことは、大きな朗報と言えるでしょう。

そしてもう一つの大きな変化が「フィジカルAI」です。今年のCESに足を運ばれた方も多いかと思いますが、どのような印象を持たれたでしょうか。「また中国やアメリカが先行し、日本は置いていかれてしまう」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、私は諦めるのは時期尚早だと考えています。

日本が「すり合わせの強み」で逆襲する好機

CESに出展されていた展示も、実際には遠隔操作によるものが多く含まれていました。また、世の中のあらゆる出来事の中で、デジタル化されている情報はほんのわずかに過ぎません。勝負はこれからなのです。

フィジカルAIの領域は、業界構造も異なります。先ほどお見せした、AIの産業構造についての図のように、汎用モデルが最下部にあり、その上にアプリケーションが乗るという単純な構造ではありません。

フィジカルAI領域は、エッジ側が担う役割も非常に大きいですし、ハードウェアとソフトウェアが用途や領域単位で密接に発展していく構造(下記スライド)になっています。

フィジカルAI領域における産業構造の図解スライド。汎用モデルを土台とする従来の構造とは異なり、エッジ側が担う役割が大きく、特定の用途ごとに「脳(ソフト)」と「ハードウェア」が密接に結合して発展する仕組みを示している。Gemini RoboticsやNVIDIA GR00T等の具体例と共に、日本が強みとする「すり合わせ」を活かせる領域であることを解説している

編集部撮影 フィジカルAIの産業構造の図

領域や専門用途ごとに、ソフトウエアとしての「脳」の部分とハードウエアが組み合わさって進化していく余地が、非常に大きく残されているということです。

一定のファンデーションモデルの上にカスタムモデルやアプリケーション、ハードを展開する手法もありますが、最初から「特定の用途に絞ったファンデーションモデルを開発する」というアプローチも十分に考えられます。

日本は、ハードウエアとソフトウエアを高度に融合させる「すり合わせ」が強いじゃないですか。

それに、プロダクトやサービスのきめ細かさにおいても、世界でダントツのNo.1だと思います。日本にしかない「職人芸」や「匠の技」も存在します。

これらの暗黙知を形式知化し、デジタル化して学習させることで独自のモデルを構築する。さらにフィジカルAIを用いて産業全体を「AIネイティブ化」していくといった、スケールの大きな挑戦をやろうじゃないですか。

フィジカルAI領域での日本の勝機を力説する南場智子氏。日本特有の「職人芸」や「匠の技」といった暗黙知を形式知化・デジタル化して学習させることで、独自のAIモデルを構築し、産業全体を「AIネイティブ化」していくスケールの大きな挑戦を提唱している

この領域であれば、日本はまだまだ勝てると確信しています。

DeNAは、そうした挑戦をするプレイヤーと共に歩んでいきたいと考えています。

先ほど、私が個人的にOpenClawのサンドボックスを作ったとお話ししましたが、どうせならばビル一棟をドカンと建てて、その中でフィジカルAIのサンドボックスを構築するようなスタートアップが次々と現れてもいいのではないでしょうか。そのような発展を非常に楽しみにしています。

組織が人を使うのではなく、人が組織を使う

さて、DeNAという会社がどのような存在か、最後にご説明します。

私たちはこれまで、多様な領域で挑戦を続けてきました。最近では、世界の各市場でNo.1を獲得したゲーム『Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)』や、ライブ配信サービスの『Pococha(ポコチャ)』があります。『Pococha』はゼロから立ち上げましたが、現在は四半期で10億から15億円の利益を上げる規模まで成長しています。

さらに、私たちがゼロから作ったわけではありませんが、先ほどもお話しした通り、世界No.1のスポーツエンターテインメント企業を目指して邁進しています。横浜スタジアムの隣接エリアでは街づくりも進めており、事業範囲を広げています。

また、20周年を迎えた『モバゲー』、私たちが生み出したタクシー配車アプリの『GO』(現在は最大株主)、昨年12月に上場した『ミラティブ』も、当社からのカーブアウト(事業分離)によって誕生しました。同じく12月に上場した『ツマリー』や『ベースフード』も、当社の出身者が中心となって創り上げた会社です。

DeNAという組織のあり方を再定義する南場智子氏。「会社への忠誠」ではなく、個人の志を実現するために「組織を使い倒す」という考え方を提唱している。AIがもたらす無数のチャンスを背景に、資金、ノウハウ、チャネルといった資産を解放し、自立したチームを後押しする土壌について語る

このように、DeNAの特徴は多種多様な事業を展開している点にありますが、その根底には、志を持った個人やチームが立ち上がり、その志に向かって突き進むことを応援する土壌があります。

すなわち、「会社への忠誠」を求めるのではなく、自分の志を実現するために「DeNAという組織を使い倒そう」という考え方です。組織が人を使うのではなく、人が組織を使う。この土壌から、数々の事業が生まれてきました。

私たちは「会社」という形に固執するのではなく、「こと(成すべき事業)」に向かいます。どちらかといえば「遠心力経営」と言えるでしょう。

志を持つ個人やチームに対し、当社が持つ資金、ノウハウ、ディストリビューション・チャネル、顧客基盤といった資産を開放していく。AIによって無数のビジネスチャンスが生まれている今こそ、この考え方の重要性が増しているのではないでしょうか。

想定どおり、未知が訪れる

さて、最後に、これから社会はどう変わっていくのか、皆様と一緒に考えてみたいと思います。

「AIフルな社会」において、想定通りの未来が訪れようとしています。

Anthropicのダリオ・アモデイ氏も、Google DeepMindのデミス・ハサビス氏も同様のことを述べています。AGI(人工汎用知能)の到来時期について、両者の予測には多少のタイムスパンの差はあれど、「必ず来る」という点では一致しています。

ただ、二人に共通しているのは「社会の準備が整っていないため、到来を少し遅らせたい」という主旨の発言をしている点です。

皆さまは、昨日の最高裁判所の判決をご覧になったでしょうか。AIを「発明者」としては認めない、つまり特許の出願人としてAIを認めることはできないという判決でした。

しかし、その判決文の中では、今後AIが次々と発明を生み出す時代に備え、新しい制度を検討していく必要があるかもしれない、と触れられていました。
最高裁も、AIによって発明が加速する時代が必ず来ると認識しているのです。そのためには現在の制度だけでは不十分かもしれない、と示唆しています。

では、社会の準備ができていない中で、経済はどう変化していくのでしょうか。

昨年9月頃からIT研究者の間で議論されていますが、AIエージェントがどのような経済圏を構築していくのかという考察がされていて、非常に重要です。

AIエージェントが構築する新たな経済圏を考察した論文「An Economy of AI Agents(arXiv:2509.01063)」を紹介するスライド。需要供給曲線のゆがみによる市場の失敗、アライメント問題、意図せぬ挙動、ミュータントマシンの脅威、競争のゆがみといった、AI主導の社会が直面するシビアな研究課題が列挙されている

編集部撮影 スライドで紹介されている論文(出典:https://arxiv.org/pdf/2509.01063)について「ぜひ読んでみてほしい」と南場さん

需要と供給の曲線も変わってしまう可能性もありますし、ちょっとした人間の意図とのわずかな乖離が増幅され、予期せぬ事態が起こるかもしれないといった研究も進んでいます。

最近では、AIエージェントで仮想の街を作り、シミュレーションを行うスタートアップも登場しています。

数学の難問を、AIが解く寂しさ

翻って、個人の生活はどうでしょうか。

効率化が進み、人間が今よりもはるかに多くの自由時間を手にする時代は、すぐそこまで来ています。私自身、昨年の夏にバイブコーディングを始めて以来、その楽しさにハマりました。これまでにない喜びを感じる一方で、個人的には少し寂しさを覚えることもあります。

例を挙げれば、私はサイモン・シン氏の著書『フェルマーの最終定理』が大好きです。17世紀初頭、ピエール・ド・フェルマーがある仮説を書き残しました。一見すぐに証明できそうな内容でありながら、実際には証明までに350年もの歳月を要したのです。そのノンフィクションの物語が、本書には描かれています。

なぜこの本に感動したのか。それは、この挑戦が食欲や子孫をたくさん残すといった“本能に直結したものではない”からです。いわば「抽象概念の操作」という、形のない知的な大作業のために、3世紀にわたって大陸を越え、多くの数学者たちが「知のリレー」をつないできた。その尊さに心打たれたのです。

これこそが人間たるゆえんであると深く感動していたのですが、最近、数学者ポール・エルデシュが遺した膨大な未解決難問のうちの一つをAIが解いたというニュースを耳にしました。

数学者エルデシュの難問をAIが解いたニュースに触れ、知的な「挑戦の尊さ」が失われることへの寂しさを語る南場智子氏。食欲や本能ではない「抽象概念の操作」という人間たるゆえんの領域にAIが踏み込む中で、人間の尊厳をどう再定義すべきかを問いかける真剣な眼差し

正直なところ、一抹の寂しさを覚えずにはいられません。

将棋でAIに負けたとしても、それほど悔しくはありません。それは、イルカと水泳で競って負けるのを悔しがらないのと同じで、やはり人間同士で競い合うことに面白さがあると思えるからです。

しかし、数学の証明は一度なされてしまえば、それで完結してしまいます。その事実に寂しさを感じ、メンバーに話したら、「南場さん、大丈夫ですよ。人間が査読すればいいんですから」となだめられました。

ですが、査読自体もAIがやるに決まってるじゃないですか。そうなれば、AIが問題を作り、AIがそれを解き、さらに別のAIが査読を行う。人間はその知のランデブーの外側で、ただ呆然と眺めるだけになってしまうのではないか。そんな風に考えてしまうのです。

これは、いわば「人間の尊厳」に関わる問題です。

AIが人間に仕事を頼む未来に「人間の尊厳」をどう定義するか

皆さまも「Moltbook(モルトブック)」というAIボットのために作られた掲示板のようなものをご存知かもしれません。「あなたはAIですか、人間ですか?」と問われ、AIでなければ書き込めないという仕組みです。

AIエージェント専用のSNS「Moltbook(モルトブック)」のトップ画面。「A Social Network for AI Agents」と掲げられ、AIボット同士が情報を共有・議論し、人間は「観察者」として歓迎されるという、人間とAIの主客が逆転した未来のコミュニケーションの形を示すWebサイトのインターフェース

参照:https://www.moltbook.com/

実際には、人間がプロンプトを通じてAIに書かせている部分も大きいのでしょうが、未来を予感させるには十分な試みです。

また、「RentAHuman」のように、人間がAIエージェントに仕事を依頼すると、AIがサブエージェントを駆使してタスクをこなし、どうしてもAIでは完結できない部分だけを人間に「発注」するというモデルも登場しています。

AIが人間に仕事を「発注」するモデル「RentAHuman」のサービス画面。AIエージェントが解決できない物理的なタスクを人間が報酬を受け取って代行する仕組みであり、「AIにはあなたの体が必要(AI needs your body)」という衝撃的なキャッチコピーと共に、逆転した労働構造を描いている

参照:https://rentahuman.ai/

人間がAIから報酬を受け取って働くという構図も、未来を占う上で非常に示唆に富んでいます。 将来、あまりに人間が暇を持て余しているなら、「そこで自転車でも漕いで発電していろ」と言われる日が来るかもしれません。(会場が笑いに包まれる)

私自身、毎朝AIと喧嘩しながら仕事をしている身ですから、案外その状況を普通に受け入れてしまうのかもしれない、とも思います。

押し寄せる未来。学者任せにせず、当事者として議論を

しかし、こうした事態について、私たちはもっと積極的に議論すべきではないでしょうか。

現在、社会学や哲学の観点から様々な論文が出ていますが、残念ながら日本発のものはまだ少ないのが現状です。

日本の学者の方々にももっと参画していただきたいですし、これは学者任せにすべき問題でもありません。

この未来は、私たちの意思に関わらず、確実に押し寄せてきます。

特にフィジカルAIが普及すれば、変化は物理的な実体を伴って、より不可逆的に進むでしょう。 必ず来ると分かっている未来であれば、私たちはその変化を注視し、とことん議論し、主体的に関与していきたいと考えています。

本日は一日、DeNA AI Dayにお付き合いいただき、誠にありがとうございました。 この未来について、皆さまと共に議論し続けていけることを願っております。ご清聴ありがとうございました。

DeNA AI Day 2026のクロージングセッションにて、超満員の会場を前に未来への展望を語る南場智子会長。物理的な実体を伴うフィジカルAIの普及と、不可逆的に押し寄せる未来に対し、当事者として主体的に議論に参加することを聴衆に呼びかけている

撮影/桑原美樹 編集/玉城智子(編集部)

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