特集:音楽とITと私
・AWA小野哲太郎氏が語る、音楽産業復興の打ち手~「出会いと再会を生むプレイリスト」の開発に込めた思い
・激変する音楽業界でスタートアップはどう生き残る?Beatrobo×nanaトップ対談
・音楽の危機を救うのはネットか?リアルか?業界の異端児3人が立ち上げた地方創生プロジェクト『ONE+NATION』
・「閉じたコンテンツ商売」に未来はない~猪子寿之氏が語る、デジタルと作り手のいい関係
特集:音楽とITと私
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・「閉じたコンテンツ商売」に未来はない~猪子寿之氏が語る、デジタルと作り手のいい関係
2015年9月、先行していた『AWA』や『LINE MUSIC』、『Apple Music』に続いて『Google Play Music』も国内向けにサービスを開始するなど、「定額配信音楽配信サービス」をめぐるユーザー獲得競争が激しさを増している。
しかし、世界の音楽業界全体に目を向ければ、市場の縮小傾向は着実に進行しており、先行き不透明感は否めない。これから“音楽Tech”を取り巻く環境はどう変わっていくのか。
今回は音楽系スタートアップを運営する2人の経営者を迎え、変革期を迎えた音楽業界の中で彼らは何を考え、何を生み出そうとしているのか、忌憚なく語ってもらった。
イヤホンジャックを通してさまざまなコンテンツを楽しめる画期的なガジェットアプリ『PlugAir』を開発・提供するBeatrobo,Inc.のPresident&CEO浅枝大志氏と、人気の音楽コミュニティアプリ『nana』を生んだnana musicのFounder・CEO文原明臣氏。彼らが見据える、音楽とビジネスの未来とは?
―― サブスクリプション型(月額定額制)の音楽配信サービスが続々とスタートしています。これから音楽の楽しみ方は、どんな風に変わっていくのでしょうか?
文原 僕自身の話で言えば、最近は90年代のグレイテスト・ヒッツものをよく買います。TUBEとかポルノグラフィティのベスト版ですね。「やべ、コレ懐かしい!」みたいな感じで、つい手を伸ばしてしまうんですが、一連のサブスクリプションサービスには、残念ながら僕が好きなジャンルの日本人アーチストの楽曲がないんです。
浅枝 そうそう。ミスチルもサザンもないんですよね。
文原 ないですね。だからダウンロード販売やCDで音楽を手に入れているわけですが、でもそれは僕が大人だからであって、もし今お小遣いに乏しい10代の学生だったら、わざわざダウンロードやCDで音楽を買おうとは思わないでしょう。
ですから、定額料金で楽しめるサブスクリプション型のサービスのあり方や方向性自体、間違ってはいないと思っています。僕自身もライブラリーさえ充実してくれば、普通にAWAやLINE MUSICを使うと思いますよ。
浅枝 僕も文原さんとだいたい同意見です。逆に何百万曲のライブラリーが安く利用できたとしても、好きなアーティストが参加していなければ使わないでしょうし、神と崇めるアーティストの曲のためなら、何千円払っても惜しくないというファン心理もありますよね。
文原 そうですね。
浅枝 もう一つ、音楽配信以外での楽しみ方で言うと、例えばニコニコ動画に投稿された曲にレーベルが目をつけ製品化されて、実際に売れたりするような現象が起こっていますよね。
文原 ええ。
浅枝 ユーザーにしても、ニコ動で視聴している分にはタダなのに、お金を払うような動きが出てきている。これはコミュニティの持つ力が大きくなってきているからだと思うんです。
文原 浅枝さんの言う通り、コミュニティがあるからこそできることってたくさんあるんです。先日、ユーザー同士の関係を深めてもらいたくて、都内で『nanaフェス』というイベントを開催したんですけど。
浅枝 当日は盛り上がったみたいですね。
文原 おかげさまで。その時に感じたのが、将来的にはイベント開催だけにとどまらず、nanaの内部で流通する仮想通貨やポイントを使った、新しい評価の仕組みやサービスを作るようなことも可能になるかもしれないってことで。
それもこれも、コミュニティが存在するからこそできることなんだと思っています。
浅枝 僕の友だちにも、EXILEとミスチルしか聴かないっていう人がいて、理由を尋ねたら、「カラオケのレパートリーを増やしたいから聴くんだ」と言っていました。つまり、音楽をコミュニケーションのためのツールだととらえているわけです。
彼の話を聞いて、もしかして、彼のような音楽の楽しみ方をする人が「次の普通」を体現するファンであり、多数派になる日がそう遠くない日に来るんじゃないかと直感的に感じました。
文原 確かに、音楽をそういう風に楽しんでいる人が増えている印象がありますよね。
浅枝 今は音楽のジャンルが細分化されてしまって、音楽ファン同士が分かり合うことが難しい時代です。そんな中、nanaは歌や演奏が好きなユーザーを集めコミュニティを作ることに成功してますよね。
しかも集まっているのは、古いタイプの排他的な音楽オタクじゃなくて、実際に音楽の楽しみ方を知っている人たち。そこがまさに、「歌ってみた」、「演奏してみた」の「うp主」さんたちとイメージがかぶります。だから、「次の普通」を上手く取り込んでいるなと思うんですよ。
文原 僕も音楽オタクのこだわりよりも、楽しむことを優先するタイプなので、浅枝さんがおっしゃることはとてもよく分かります。
浅枝 僕がイメージしてるPlugAirのユーザーも、まさにnanaと一緒で「次の普通」の音楽ファン。ですから、文原さんのサービスにはとても共感しているんですよ。……突然ですけれど、ちょっと自慢していいですか?
文原 もちろんです(笑)
浅枝 この間、倖田來未さんのファンの皆さんにウチのPlugAirを配ったんですが、ユーザーの皆さんからすごくいい評価をもらえたんですね。
文原 おおっ!
浅枝 もし実際にPlugAirを手にされたファンの皆さんから、「別にダウンロードいいじゃん」とか「DVDの方が良い」なんて言われたら、次の展開を考え直さなきゃと覚悟していたんですが、実際にはこういう反応が得られて。
「PlugAirがCDの代替になるんだ」っていう、僕らがずっと主張し続けてきたことが裏付けられたような気がして、すごくうれしかったんです。
文原 すばらしいですね。nanaの場合は「世界と歌おう」、「みんなで音楽をやろう」というコンセプトを打ち出して運営しているサービスです。もちろんnanaユーザーからプロの世界に飛び出していって、音楽でご飯が食べられるようになったら、それはそれですばらしいことですが、nanaが取り込むべき本筋のサービスではないと思っています。
僕らの仕事は、あくまで音楽で人と人をつなげること。僕たちにとって音楽は手段であり、媒介なんです。
浅枝 「音楽サービスを立ち上げてやろう」っていう人は、たいていは音楽オタクですから、コミュニティを作るにしても方向性がマニアックになりがち。でも、文原さんたちのnanaは、そうした人たちが作るコミュニティより、どちらかというと「カラオケ」に近い。nanaみたいなポジションのサービスって、実は日本にもアメリカにもあまりないんですよね。
文原 そうなんですよ。
浅枝 僕たちが今年7月まで運営していた『Beatrobo』というサービスも、Facebookのフレンド情報からプレイリストを生成し、YouTubeで視聴、共有するコミュニティサービスでしたが、僕はnanaやBeatroboのようなコミュニティで音楽を発見した人って実はたくさんいると思うんです。
僕らが学校で友だちと音楽についての情報交換していたように、今の子たちはネットでそれを行っている。これも「次の普通」なのかもしれません。
文原 そうですね。実はnanaも「素人の音楽なんて誰が聞くんだよ」って何度も批判されましたが、実際は毎日数百万回再生されてますし、中にはアマチュア作家さんのオリジナル楽曲を何人ものフォロワーさんが歌い紡いで、すでに何万回も再生されているような曲もあります。
先日のnanaフェスで舞台に上がっていた人たちも、いわゆる名の知られたプロのアーティストではなく、音楽が大好きなアマチュアの皆さんでした。でも、彼らが舞台に上がれば、フォロワーたちから大きな歓声が上がる。
イベントに招待したレーベル関係者の方々は、口々に「信じられない」とか「マジか」と驚いていらっしゃっていましたね(笑)。
浅枝 こうした人たちこそ、まさに「次の普通」を体現している人だと思いますね。ちなみに今、nanaユーザーはどれくらいまできましたか?
文原 だいたい100万を超えたくらいです。
浅枝 おそらく既存の音楽業界の人たちには、100万人のnanaユーザーが喜んで1000円払うようになったら信じられない気持ちになるでしょうね。でも、「次の普通」を肌で感じている文原さんたちなら、それができるかもしれない。
もし1万円払ってもでも買いたくなるコンテンツを生み出すことができたら、nanaはその時点で勝ちですよ(笑)。これはCDが売れていた90年代の「古き良き時代」の慣習にとらわれている人には、かなり難易度が高いことです。
文原 僕らのイメージでは、既存の音楽業界がアーティストの持つ圧倒的なカリスマ性やタレント性を前提とした世界だとしたら、僕らが目指すのは全員が当事者であり、みんなでお金と情熱を出し合って支えあうような協調性の世界。つまりまったく別の市場、コミュニティなんだと思っています。
ですから僕らは僕らで、自分たちが理想とする世界に、共感してくれる人を集め、新しいエコシステムを作ればいいんだと。事実、人が集まるところに市場ができるわけですからね。
浅枝 初期の「初音ミク」みたいなものかも知れませんね。従来の音楽業界から見れば「オタクが作ったよく分からないもの」だったボカロ曲も、ファンがついてビジネスになって、業界の見方もガラッと変わったし、お金も掛けるようになりました。
文原 nanaはまだまだ小さいですが、ようやくレーベルやプロダクションの皆さんからお声掛けいただけるところまできました。権利関係や過去の取り組みとの整合性など、難しい問題もないわけじゃないですが、理想は音楽を軸に、プロやアマ、国境の垣根を越えて、参加者が対等に楽しめる場をリアルなイベントを絡めながら展開していければと思っています。
もし「アーティストのプロモーションにもなる」っていう効果が示せれば、現実的な選択として、音楽業界の人たちと一緒に新しいビジネスに取り組む場面も増えるでしょうし。
浅枝 分野は違いますけど、『TEDx』のように、ユーザーの自主開催で展開できたら面白いことが起こりそうですよね。
文原 僕もそう思います。TEDxやコミケのように、全員がお祭りの当事者っていう雰囲気になったら最高。ユーザーの皆さんをきちんとサポートする仕組みを作って、ぜひぜひ実現させたいと思います。
浅枝 PlugAirもまだまだ発展途上ですが、次世代の音楽ファンの「普通」を体現するサービスです。nanaとPlugAirには共通する部分が多いと思っています。
現状の音楽配信ビジネスはライブラリーを持っているところが勝つようなビジネスモデルなので、収益性の面で新人ミュージシャンには参加するメリットが非常に乏しいというのが現状があります。
僕たちは、音楽を媒介するグッズとしてPlugAirを売り込むことによって、業界のあり方に風穴を開けたいんです。
文原 なるほど。
浅枝 2年ほど前にPlugAirを採用してくれたLINKIN PARKのメンバーにこんなことを言われました。「俺たちはユーザーのメールアドレスがほしいんじゃない。ただユーザーに曲やライブ情報を直接届ける手段がほしいだけなんだ」って。それでファンのスマホに最新情報が届く仕組みとして、PlugAirを採用してくれたんです。
文原 僕もプロ・アマ問わず、アーティストがユーザーに直接届けるっていうのは、本当に大事なことだと思います。
浅枝 インターネットが発達する過程で、アーティストもユーザーもITリテラシーが上がっているわけですから、直接つながる何かが求められるのは当然の帰結。
そこでどんな提案ができるか。それが今、音楽系のスタートアップに問われているんだと思います。
文原 nanaも最近プレイリストが作れるようになりました。まだまだ数は少ないですが、将来的にPlugAirに入れて、フェスやコミケなどで配布したり販売したりしたら面白いかもしれません。
浅枝 歌ったものを販売するのは問題ないんですか?
文原 管理団体と契約し直す必要はありますが、利用規約上は営利非営利問わず使えることになってるのでいけると思います。
浅枝 著作権処理がクリアになれば問題ありません。その時が来たらぜひ業務提携しましょう(笑)
文原 そうしましょう!(笑)
浅枝 実際、CDの代替メディアとしてPlugAirを使った場合、ちゃんとオリコンチャートに反映されるようなにもなっていますし、最近オフラインで聴けるキャッシュ機能も実装しましたから、今後アマチュアの情報発信から大物アーティストのプロモーションまで、いろいろな活用をしてもらえるようになると思いますよ。
文原 いろいろなことが期待できそうですね。僕自身も楽しみにしています。
取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/桑原美樹
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