キャリア Vol.235

「ITの威力を肌で感じた世代が今後リーダーになる」夏野剛氏に聞く、SEの仕事とキャリアの未来戦略

「ITの威力を肌で感じた世代が今後のリーダーになる」と語る夏野剛氏

「2020年までに長年言われ続けてきた『BtoBシステム開発の問題点』をクリアしない限り、システムベンダーのみならず日本企業全体の競争力が弱まっていく」

数々の有名企業で取締役を務める夏野剛氏はかつて、日本のシステムベンダーが抱える課題について尋ねた弊誌の取材に対して、こうコメントすることで危機感をあおった。

そして2014年7月、AppleとIBMという2つの“巨人”がエンタープライズ分野での業務提携を発表。BtoBの分野でGoogleに対抗し得るプレイヤーが誕生したことは、夏野氏が指摘する「Xデー」に向けたタイマーをいっそう速めることにつながるかもしれない。

では、こうした状況の中、SIerやベンダーに務める業務系エンジニアは、何をどのように変えるべくアクションを起こしたらいいのか。

このテーマについて再び夏野氏に意見を聞くため、弊社サイト『@type』が主催するエンジニア適職フェア(8月2日、東京国際フォーラム)内のセミナーで、『エンジニアtype』編集長の伊藤健吾が公開取材を行った。

SE→PL/PMの従来型のキャリアパスは今後も通用するのか。企業のデジタル戦略をサポートしていくために必要な能力とは――。

端境期を生きる業務系エンジニアに向けて、夏野氏が語った。

慶應義塾大学 政策・メディア研究科 特別招聘教授 夏野 剛氏 早稲田大学を卒業後、東京ガスに入社。米ペンシルベニア大学経営大学院ウォートンスクールでMBAを取得。1997年、NTTドコモに転職し、『iモード』の立ち上げに携わる。現在は慶應義塾大学で講義を持つほか、ドワンゴ、セガサミーホールディングス、グリーなど数多くの企業で役員や顧問を務める。メルマガ(週刊『夏野総研』)も好評

ITを武器にできない「島耕作世代」の経営者

「大企業から町内会まであらゆるリーダーにITの知識が求められる」と語る夏野氏(左)。セミナーは公開取材という形で行われた
「大企業から町内会まであらゆるリーダーにITの知識が求められる」と語る夏野氏(左)。セミナーは公開取材という形で行われた

ソリューションを売る側(ベンダー)と、買って導入する側(情報システム部)。業務系エンジニアには大きく分けて2つありますが、今後はそのどちらも仕事は減っていくでしょう。

独自に作りこむシステムはどんどん減ってきているし、情報システム部門を通すとコスト、時間がかかるので、現場レベルで勝手に(クラウドサービスで提供されるアプリを使って)ローカルシステムを作るような動きも各社で実際に起きています。

今の業務系エンジニアを待つ未来は、決して明るいとは言えません。

しかし、一方で皆さんにとっていい話もあります。それは、「プログラミングの知識」と「ITの威力を肌で感じた経験」を持っていることが強みになるということです。

人口が減り、1人1人の給与水準が高い日本には、生産性を上げるしか道はありません。そして、それができるのはITしかない。

今、日本の大企業の経営者はほとんどが文系出身で、年齢も60歳前後です。プログラミングの知識がないのはもちろん、ITの大切さを肌で感じていないから、ITを使いこなすことができないのです。私は彼らを「課長島耕作世代」と呼んでいます。

でも、皆さんは違います。

比較的若い技術関連職の人たちは、一生懸命何かを作っていたら新しい技術が出てきて、すべてが無駄になってしまったという経験を何度もしている。つまり、既存ビジネスの前提条件をすべて覆すITの威力を知っているんです。すぐに自分の仕事をオーバーライドしていく可能性のある新しい技術を、食わず嫌いにしておくなんて、とても怖くてできないんじゃないですか?

エンジニアには今、マルチキャリアへの扉が開かれたと思ってほしいです。なぜなら、大企業の社長でも町内会のリーダーでも、ITは絶対に必要な知識になるからです。町内会の連絡網が、LINEでなく音声である必要なんて、もはやどこにもないですよね?

従来のキャリアパスとは違うかも知れません。しかし、リーダーのITへの姿勢がポジティブでないと、あらゆる組織を死に追いやってしまう状況とは逆に言えば、みなさんしかリーダーになれない時代が来たということです。

自分の仕事の先にある最終成果物をイメージできるか

航空会社の一番の収益源である国内線は、売り上げの75%がWebからです。証券会社の個人トレードの95%がネット。もはや、1億総IT起業家状態と言え、ITはどこの業界にも必要とされています(※数字は夏野氏コメントより)。

だから、先ほども言ったように、自分のキャリアをエンジニアに限定しないでもらいたいと思います。これからのキャリアを今までの延長線上に見ていたら、結局、同じようなことをやることになってしまう。

どの業界からも、必要とされているわけですから、服好きなら繊維メーカー、ゲーム好きならゲームなど、例えば趣味から入るアプローチも選択肢に入れていい。

単なるエンジニアの枠で収まるか、それを土台にして次のステージに羽ばたくか。業務系システムのアプリ導入も“現場主導”になってきている中、企業のデジタル戦略をサポートできる人材か否かの差を分けるのは、自分の仕事の先にある最終成果物、付加価値のイメージができるかどうかです。

自分が今やっている仕事が、最終的にどれくらいの経済価値や効率の向上を生むかが分かっていると、会議の効率がまるで違います。間違いにもすぐ気付く。特に、リーダーにそれができる組織は強いです。

こうした能力を研ぎ澄ませるために、自分が今までやってきた仕事を一度振り返り、どれくらいの価値を生み出したのかを見積もり直すというのもいいのではないでしょうか。

個人の価値は、会社がどれだけの価値を出したかでは決まらない

夏野氏はトヨタと日産の役員報酬を象徴的な事例として紹介し、「個人の価値は会社の業績だけでは決まらない」と主張する
夏野氏はトヨタと日産の役員報酬を象徴的な事例として紹介し、「個人の価値は会社の業績だけでは決まらない」と主張する

終身雇用と年功序列を前提にした組織に所属しているのであれば、すぐに抜けた方がいい。キャリアプランを会社に頼っていたら、つぶれた時に路頭に迷っても、誰も責任を取ってくれません。

近年、赤字か黒字か微妙なところにいる日産のカルロス・ゴーン社長の役員報酬が10億円。一方、トヨタの豊田章男社長は2億円。これはおかしいとマスコミは言う。しかし、これは当たり前です。

どこの世界に行っても、2億円以上払ってトヨタの社長をヘッドハンティングしようという人はいない。なぜか。社長としての手腕はトヨタでしか生きないということを、市場が知っているからです。

対して、ゴーンさんは過去の経歴から見て、マルチタレントとして流通の可能性がある。10億円の市場価値があるんですよ。

会社がどれだけ価値を出しているかでその人の価値が決まるのではなく、その人にはその人の価値があり、会社は会社。社長のレベルでもそういうことが起きているんです。

自分の能力が会社と補完しないと感じるのであれば、する会社は必ず、ほかにあります。それを証明するのに必要なのはやっぱり、過去にやった仕事がどれだけの価値を出したかを自分で言えること。ハッキリと言える人はまだ少ないので、転職では「ぜひウチに来てください」となるはずですよ。

文・写真/鈴木陸夫(編集部)

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