世界有数のソフトウエア輸出国になりつつあるウクライナ~日本展開を強化するオンラインロゴ制作『Logaster』に聞く
日本でも政治情勢にまつわるニュースに触れることのある東欧のウクライナ。しかし、経済面、とかくテクノロジー産業の動向について、かの国の状況を知っている日本人は少ないだろう。
そのウクライナのIT産業について、一端を知ることのできるこんなデータがある。
■Brain Basket Foundationというコンサルティング会社の調査によると、ウクライナには約2000のIT企業が存在しており、約7万5000人のプログラマーが働いている。
■サムスンやシーメンスといったグローバル企業が拠点を置いている(ウクライナに拠点のある世界の有名企業トップ20はこちら)。
■マイクロソフトのような世界的企業の研究機関も100以上ある。
■ウクライナで開発された各種ソフトウエアの80%は、Intel、Google、IBM、ボーイングなどの西欧諸国およびアメリカの大型顧客に輸出されている。
これらの情報を提供してくれたのは、ウクライナ発のオンラインロゴジェネレーター『Logaster』を運営するVasyl Holiney(ヴァシリ・ホリネイ)氏だ。オンライン上でのロゴ作成を簡単に行うことのできるこのサービスは、現在、日本展開を強化中だという。
そこで、Logasterの海外戦略を取材するのに合わせて、ウクライナのIT産業やスタートアップ事情についても話を聞いてみた。
2人の起業家が「誰でも簡単にロゴ作成」を事業化した理由
我々は2013年にサービス提供を開始したスタートアップで、Logasterはロシア語で“賢いロゴ”という意味です。主にスモールビジネスを展開しているベンチャー・個人事業主・ブロガーに対して、ロゴマークをオンライン上で制作して提供するITアウトソーシングサービスを展開しています。
サイト上には2万以上のサンプルイメージがあり、それらのほとんどを、ウクライナ国内のプロのデザイナーや、oDesk経由で募った世界中のクリエイターが作っているんですね。だからクオリティーには自信があります。
そしてもう一つ、Logasterの特徴は、高いカスタマイズ性にあります。サイト上でロゴ制作を行う際は
【1】手掛けるビジネスのタイプ選択
【2】ロゴデザインの選択
【3】ロゴデザインの編集
【4】(作成した)ロゴの保存
という4つのステップを踏むのですが、【1】~【2】のプロセスには人工知能を駆使して、既成のロゴフォーマットの中でフォント、アイコン、色を組み合わせられる高度なアルゴリズムとスクリプトを開発しています。これによって、ユーザーはサイト上で事業ドメインを指定するだけで、そのドメインにふさわしい色やフォントを自動で提示されるようになっています。
加えて、【3】の編集フェーズでは、ユーザーの好みに応じて自由にカスタマイズすることも可能です。デザインの知識や画像処理ソフトの操作スキルがない方でも、簡単に変更できるように工夫しています。
できあがったロゴは、低解像度のものならば無料でダウンロードでき、高解像度なら9.99USドル(約1200円)からダウンロード可能です。
Logasterの共同創設者であるEugene Kasinskyy(ユージン・カジンスキー)とAlexandr Olijnyk(アレクサンドル・オリーニク)は、Logasterを設立する前、あるマーケティング会社で一緒に働いていました。また、それとは別に自分の会社も持っていました。
ユージンの会社はロゴやコーポレート・アイデンティティ(以下、CI)などを提供するデザインスタジオで、アレクサンドルの方はインターネットサービスプロバイダーでした。
彼らはウクライナにある、人口50万以下の小さな町で働いていました。この町にはスモールビジネスを展開する起業家が多数いて、ユージンとアレクサンドルはこうした起業家たちに対してブランディングやCIの重要性を説明していました。
が、彼らはそんな大掛かりな話に興味を示しませんでした。CIの必要性は理解しているものの、そのための予算がなかったのです。顧客にとって、ブランディングやCIを左右する洗練されたクリエイティブは手の届かないものでした。
そういうわけで、2人は安価で、デザインの知識がなくても手軽にロゴや名刺が作れるオンラインサービスを作ることにしたのです。
現在はベンチャー企業(スモールビジネス)向けのツールをいくつか開発・提供しています。
どんなWebサイト内でもロゴが作れるようになるAPIとウィジェットで、ほかにもWordpressのプラグインや新製品の開発に努めています。
一番多いのはロシアのユーザーで、今年4月の実績だと全体の35.58%を占めています。
ユーザーの多い国TOP5はロシア、ウクライナ、ブラジル、アメリカ、インドネシアの順となっており、世界中の地域に顧客がいる状態まで成長しています。
日本は6番目にユーザーの多い国でして、同じく今年4月の時点で全体の3.18%が日本からご利用いただいています。
このパーセンテージが徐々に増えていることもあり、今、日本でのサービス展開を強化しているのです。ほかに、ブラジル、フランス、スペインなどの国でもLogasterのプロモーションを開始しました。
地道なマーケティング活動に加えて、ローカライズに注力しています。サイトの日本語対応はもちろんのこと、現在は日本語でのロゴ作成に適したフォントを研究しているところです。
ウクライナが「IT輸出国」として成長している背景とは?
現在は7名体制で、適宜フリーランスの人たちにも協力してもらっています。
エンジニア・デザイナーは3名。ユージンとアレクサンドルは、Victor(ビクター)という優秀なプログラマーと出会ったことで、Logasterのサービス構想を形にすることができました。
ウクライナのGDPにおけるIT産業のシェアは1.2~1.8%。コンピュータ・プログラミングとその他IT分野で、2014年の売上は14.4億USドルとなっており、2013年比で17.5%増加しています。産業全体が、毎年25~30%成長しているような形です。
ウクライナにおける新興企業TOP30はこんな感じですね。
また、IT産業はウクライナにおける5大輸出産業の一つとなっています。今ではソフトウエア開発の約80%が、西欧諸国やアメリカの巨大なIT企業に輸出されているそうです。ウクライナのソフトウエア開発輸出量を上回るのは、中国、インド、ロシア、ブラジルのみだという調査結果も出ています。
ちなみに、Logasterが属するITアウトソーシング市場も、インドや中国、ロシア、東欧諸国との競争に伍して戦える規模まで成長しています。
2015年は、世界的に報道されているクリミアのロシア編入やウクライナ東部での戦争に加えて、銀行の経営破綻、とりわけ最悪の予想をさらに上回ったウクライナ通貨の急激な下落があったので、確かに産業全体にとってマイナス要因になっています。
とはいえ、先ほど説明したように、ウクライナが世界のIT市場においてシェアを拡大しているのは間違いありません。
ウクライナには多くの大企業の開発拠点があり、キエフ、ハルキウ、リヴィウという三都市に大勢のプログラマーが居住しています。毎年3万人の情報系学生がウクライナの大学を卒業しており、教育の質は世界標準に劣らないと思いますよ。
ある調査によると、ウクライナでは47%の人がプログラマーという職業を「最も将来性がある」と回答しているそうですし、レベルの高い中等教育と質の高い数学教育のおかげで、ウクライナは世界でも先進的なIT立国になり得ると思っています。
ウクライナ人プログラマーの主な長所は、アメリカのサービスよりずっと安価なサービスを提供し、良質なソフトウエアを製作していることです。
例えば、アメリカ企業のトッププログラマーだと月収で1.5~2万USドルにも上るケースがあるのに対し、ウクライナのプログラマーの月収平均はわずか2500~3000USドル。この差も、ウクライナ人プログラマーに対する海外からの需要を喚起するだろうと感じています。
Logasterがやりとりをしているデザイナーの世界も、プログラマー同様に給与ベースは高くありません。レベルは、欧米のトップクリエイターに比べれば少し落ちるかもしれません。でも、悪くはありませんよ。
プログラマー同様、給料の低さもあって、ウクライナ国内のクリエイターは本業を持ちながら“社外の仕事”を請け負う副業の機会も多いのです。そういう背景もあって、アウトソーシングマーケットは明るい見通しが立てられるわけですね。
取材・文/伊藤健吾(編集部) 通訳/Vitaliy Zhygalko
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