無駄に元気な『チームラボMake部』の発起人による、アジアンMakerの注目人物紹介。チームラボ/ニコニコ学会β/ニコニコ技術部/DMM.Makeなどで活動をしています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があります
中国・深圳を「ハードウエアスタートアップの聖地」に押し上げたHAXLR8Rのすごさ【連載:高須正和】
高須正和(@tks)
無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボ/ニコニコ学会β/ニコニコ技術部/DMM.Makeなどで活動中。MakerFaire深圳、台北、シンガポールのCommittee(実行委員)、日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があります。各種メディアでの連載まとめはコチラ
怪しいガジェットからiPadまで、今あなたが目にしているたいていの電子器機は、深圳とその周りで作られています。アジア、世界のMakerシーンを見ていく中で、ほぼあらゆる製造を請け負っている深圳を置いて語ることはできません。
今の深圳は、単純に製造を請け負うだけでなく、イノベーションの中心地にもなりつつあります。第1回で紹介したエリック・パンのSeeedstudioと並んで、イノベーションをけん引しているのが、今回紹介するHAXLR8R(ハクセラレータ)です。
クラウドファンディングの成功率、脅威の100%
HAXLR8Rは半年ごとに10チームを世界から募集し、深圳で111日間のプロトタイピングを行い、消費者向けのハードウエアはKickstarterなどのクラウドファンディングに出します。
2014年前期の時点で26チームをクラウドファンディングに出し、成功率は100%。しかもたくさん出資が集まるプロジェクトが多く、1プロジェクト平均25万ドル(約3000万円)を集めていて、これはかなり多い方です(参考までに他のクラウドファンディングを挙げると、ちょっと前に話題になったSONYの電子ペーパーウォッチ『FES Watch』のクラウドファンディングが280万円、雰囲気メガネが680万円でした)。
HAXLR8Rは、ハードウエアのアイデアを持ったチームを世界から募集します。
彼らのWebサイトで、いつもアイデアを受け付けているのです。
応募するのは多くが大学の研究者や町の発明家で、将来その発明に人生をしばらく賭けてみようとしている人たちです。
HAXLR8Rは彼ら「町の発明家」には欠けている部分、会社の作り方や量産のやり方などのノウハウを支援し、起業資金を貸し付けて株を受け取り、一緒になって成功する製品を作り上げて会社を大きくする、シードアクセラレータと呼ばれるビジネスを行っています。
HAXLR8Rに採択されたチームは、スタートアップ企業となります。
なぜシードアクセラレータが必要なのか
アイデアを持ったチームがあるなら、そのまま自分たちで起業すれば良いのに、なぜシードアクセラレータが必要なのか? 1つの原因はハードウエアビジネスの難しさにあります。
Facebookの創業ストーリーを描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』で見るように、自分たちの食い扶持さえ確保できていれば、数人のチームが世界を相手に勝負できることが当たり前になったWebサービスの世界に比べて、ハードウエアのビジネスはまだ難易度が高いです。それゆえ、ハードウエアのスタートアップははるかに少ないです。
モノが実際に売れる前に工場に発注してお金を払い込まないといけないので、資金繰りも大変だし、Webに比べるとA/Bテストのような「とりあえずやってみて結果を見る」ものも難しい。試行錯誤も時間がかかり、ソフトのように毎日デプロイを行うわけにはいきません。
また、ソフトに比べると「大規模に行うノウハウ」を持った人も少なく、「何かの見込み手違いが、会社そのものに大きなダメージ」みたいなことも多いようです。
HAXLR8Rの創業メンバーたちは、「そういう難しい状況だから、できるようになったらアドバンテージがあると思った。実際に、創業からもう4年経つけど、ハードウエアのアクセラレータはあまり出てきていない」と語ります。
HAXLR8Rのビジネスモデル
HAXLR8Rは通常、スタートアップに対して5万ドルぐらいの投資をして、6~8%程度の株式を取得します。
Kickstarterで成功しても、リターンはせいぜい数千万円。ここから生産をするわけですから、実際の利益は少ないものになります。
投資回収のゴールは株式公開か、さらに大企業からの買収です。FacebookがヘッドマウントディスプレイのOculus VRを買収したのが話題になりましたが、その金額は20億ドル、アクションカムのGoProが株式公開(IPO)して資金調達をしたのが4億ドル。この時に放出した株が全体の何パーセントかはわかりませんが、通常10~20%ぐらいだと言われますので、GoProはOculus VRと同じかそれ以上の時価総額だと思われます。
Webサービスに比べるとハードウエア企業の成長は遅く、2個目や3個目の製品でいきなり100万個売れる大ヒット、みたいな企業は稀です。
HAXLR8Rの支援企業からも、まだ株式公開まで行った企業はありません。現在の製品の売り上げは、卒業生全部足してもまだ1億円程度です(卒業してから、売り上げが立つまで1年程度かかる企業も多いので、右肩上がりではあります)。
HAXLR8Rは
■クラウドファンドの成功率 (100%)
■1回あたりの調達金額 (平均25万千ドル)
■起業後、次の資金調達につながったか(73%がその後の資金調達につながっている)
などをベンチマークにしています。
「まだ僕らはスタートして4年。最初のIPO企業が生まれるまで、10年ぐらい掛かるのではないか。ただ、HAXLR8Rが支援した企業はほぼすべて生き残っていて、会社をつぶしたのは1つだけ」と彼らは語ります。
彼らの活躍で、深圳にハッカーが集まり続ける
彼らに支援を受けるチームは、秋葉原の30倍の大きさを持つとも言われる世界最大の電気街、華強北(ファーチャンペー)の中心にあるHAXLR8Rのラボで111日間の合宿形式の開発を行います。
華強北には世界中のあらゆる電子部品がその場で並んでいて、目の前で量産部品を確認して、手形で買うことができます。PCB基板であれば24時間で数百枚作ることができ、世界でもっとも速くプロトタイピングを行うことができます。
ビジネスルールの異なる 深圳の人たちとのコミュニケーションは、HAXLR8Rの共同創業者であるエリック・パン(第1回で紹介しました)とSeeedstudioの人たちがサポートできます。
“クラウドリモコン”の『IRKit』を開発し、販売しているMakerの大塚雅和さんは、「1週間で(日本で作る場合と比べて)1カ月分はかどると聞いていたが、それも控えめな数値」と 深圳の環境を語っていました。
世界中から集められた若者たちが、世界で最もプロトタイピングが高速で行える 深圳をベースに活動するパワーはすごいものです。しかもHAXLR8Rの卒業生は、いつでもラボに戻ってきて、ラボのプロトタイピング設備や、深圳の工場群とのネットワークを使えます。
僕は年に数回彼らのオフィスに行くのですが、いつ訪ねても、何期か前のOBが戻ってきて、量産の手配や調整を行っています。
次の製品のプロトタイプを始めたグループもいます。ラボのスペースは手狭になり、同じ華強北内の大きなスペースに移動しました。
半年に10チーム、優れたハードウェア開発集団が深圳に生まれ、量産を考える多くの起業は、そのまま深圳に残って活動し続けることで、深圳がより「Makerの街」になっていっています。
今回は資金調達や起業といった資本主義どっぷりの話でしたが、彼らのラボで行われていることはMakeそのものでした。次回はHAXLR8Rのラボの様子を紹介します。
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