アイキャッチ

今、深圳のモノづくりがヤバい。中国の“Makerスター”、エリック・パンが生んだすごいエコシステム【連載:高須正和】

働き方

    無駄に元気な『チームラボMake部』の発起人による、アジアンMakerの注目人物紹介。チームラボ/ニコニコ学会β/ニコニコ技術部/DMM.Makeなどで活動をしています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があります

    プロフィール画像

    高須正和のアジアンハッカー列伝
    高須正和(@tks

    無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボ/ニコニコ学会β/ニコニコ技術部/DMM.Makeなどで活動中。MakerFaire深圳、台北、シンガポールのCommittee(実行委員)、日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があります

    皆さん、こんにちは。チームラボMake部の高須です。

    僕は今、シンガポール在住(8月13日~9月10日はチームラボとニコニコ技術部の講演をかねて、ヨーロッパのハッカースペースを回っています)で、Fablab台北のメンバーです。台北やシンガポールのMakerには、いつもすごくお世話になっています。

    僕のバックパックには、いろいろなハッカースペースを訪れるたびにステッカーが増えていきます

    今、Makerムーブメントは、主にアジアに多くのMaker、Hackerのスターを生んでいます。この連載「アジアンハッカー列伝」では、主に僕が滞在・在住したアジアの国々の偉大なMakerたちについて書いていきます。

    中国語では、MakerもHackerも「創客」と当てます。ハッカースペースは「創客空間」です。

    これは意味だけ当ててあり、音は違うのですが、中国人は「音も意味も当てる当て字」も上手く、もともと詩の国だったことを感じさせます。

    「ケンタッキー=健徳基」は音だけ当てたようですが、コカコーラは「可口可楽」と書いて、意味も音も当てています。

    シンガポールやアメリカのMakerもそのうち登場しますが、今回は中国の創客を紹介します。

    世界のMakerを支援するSeeedstudio

    最初に紹介するのは深圳(しんせん)を代表するMaker支援企業SeeedStudioのCEO、エリック・パンです。

    ハッカースペースパスポートを掲げるエリック。これは伝説的なハッカー ミッチ・アルトマンのアイデアをSeeedstudioが商品化したもので、各国のハッカースペースを回るたびにスタンプを押していくモノです

    僕は8月に、深圳のMakerや工場などを訪ねるツアー、3日間の「ニコ技深圳観察会」を企画しました。

    日本にオープンソースの活動を伝えた山形浩生さん、ニコニコ技術部の中心人物であり、『南極点のピアピア動画』の著者野尻先生、ドワンゴでゲーム実況を担当する伊予柑、日本のハードウエアベンチャー数社の代表など、そうそうたる27人の日本人Makerと一緒に深圳に行き、Seeedstudioを訪ねました。

    Seeedstudioは僕たちのツアーを全面バックアップし、社員の何人もが仕事を止めてツアーに協力してくれました。

    Seeedstudio社長のエリックは、学生時代から電子回路、エレクトロニクス、組込みシステム、ロボティクスなどの仕事を経験し、電気技術者として経験を積んできました。学校を卒業後Intelに入社したのですが、研究者でなくてチップセットのプロダクトエンジニアに配属され、将来が見えなくて退屈し退社。

    以後、中国の各地を自転車で回るとか、モンゴルに電子部品を輸出するなどの仕事に従事していたらしく、共産党一党独裁の中国でそういうヒッピーみたいな生活ができることが意外でした。

    で、2008年にSeeed Studioを設立。急成長した現在は100人を超えるまでに成長しています。

    アメリカの企業のように綺麗なSeeedstudioのオフィス

    以下の図は、Seeedstudioの業務範囲を示す図です。まだモノを作ったことがない、Makers Business Pyramidでは最も初心者にあたる「Dreamer」に対しても、1万個以上の製品を作るハードウエア企業に対しても、以下のような業務でサポートすることを説明しています。

    ・オープンソースハードウエアのキット化(発明と、それをキットにしてマニュアルつけて売るのは別の能力)
    ・オープンソースハードウエアの製造(自分で作れるオープンソースハードウエアも、だいたいは買ってきた方が安くて楽)
    ・1個から1万個以上まで対応するPCB基盤の作成、レーザーカットのサービス
    ・Makerと協力しての自社製品の開発・商品化(発明者にライセンス料を支払う)

    Seeedstudioの業務範囲

    単にMakerに「基盤作成」などのサービスを提供するだけでなく、販売などを含めて一緒に考えることを特徴に、Makerのアイデアをプロダクトにすることを支援するオープンソースハードウエアのソリューションとサービスを提供しています。

    深圳MakerFaireを開催、Makerのエコシステムを創る

    他に、深圳の柴火創客空間(ChaiHuo hackerspace)を創設、ハードウエア開発を促進するプログラムHAXLR8Rを共同創設し、中国国内で初めてのMini Maker Faireを開催しました。

    エリックの作ったハッカースペースは、深圳を代表するハイデザインなエリアにあります。

    ハッカースペースと同じ場所にあるカフェ。テクノロジーに長けたギークとハイデザインな人が交流し、化学反応が生まれる

    同じエリアにある服飾店。手作りの一品物が多く、月に1回、DIYの衣服のフェアが開かれるという

    深圳のベンチャー企業が日々ハッカースペースでプレゼンを行い、ハイデザインな空間に出入りする、テクノロジーギークとは別のセンスを持った人が、Maker企業に入社してしまうエコシステムができ上がりつつあります。

    実際に深圳でいくつかベンチャー企業を訪問したのですが、数社の広報やデザイナーから、「ハッカースペースでプレゼンしていたCEOの話を聞いて面白いと思った」という話を聞きました。オフィスが美しいことを含め、デザインの力をしっかり分かっていることを感じさせます。

    HAXLR8Rに代表される深圳のスタートアップ集団が出展するMakerFaireがいかにすごいモノだったかは、このレポートに詳しいです。

    エリックの想い、Innovation with China

    中国では大量のコピー品が作られています。また、コピーをもとに機能を付与した新製品も多いです。

    例えばアクションカメラのGoProは、Wi-Fi機能を廃してLCDをつけた『SJ4000』という製品名で6000円ぐらいで売られています。GoProとSJ4000の画質を検証した動画がYouTubeに上がっていますが(以下参照)、性能は遜色なく、むしろGoProの使い勝手を改善したような良いモノです。

    野尻先生のレポートに詳しいですが、エリックはこのような製品を山塞(しゃんざい)と呼んで一定の評価を与えています。山塞は「山岳要塞」の意味で、中央から届かないところで勝手なことをやる水滸伝の梁山泊のようなものを指しています。

    どんなものでもコピーしてしまい、改善してしまう深圳の生産能力はすごいものです。

    エリックのプレゼンにて、赤い点が全部「工場」とGoogleマップで表示されるもの。小さい工場はココにカウントされないので、全体でいくつだか想像も付きません

    エリックはこの深圳の工場群と、密接な関係を持っています。

    彼のプレゼンではよく、「時代が変わった。大きくて鈍い恐竜の時代が終わり、素早いほ乳類の時代が来る」という例えが持ち出されます。彼の率いるSeeedstudioの工場は、Agile Manufacture Center(敏捷製造中心)の看板を掲げ、実際に1つから1万個単位まで生産をしてしまう、とてもフレキシブルなものです。

    敏捷製造中心ことSeeedstudioの工場。あえてロボットを使わず、熟練者の手作業で生産をすることで、多品種少量の生産を可能にしている。ラインでなく、全員がなるべく担当を入れ替えて、全工程に携われるようにしている

    生産はカンバン方式。頻繁に製造物を入れ替える

    これらすべてを差配しているのがエリック・パンです。世界のいろいろなMaker、特にアジアのMakerに「今度深圳に行くよ」というと、「エリックを知っているか?」と声がかかります。

    彼はアジアのMakerたちのスターです。彼の開いたMakerFaire深圳には、アメリカからクリス・アンダーソン(MAKERSの著者)やデール・ダハティ(アメリカMakerMediaの代表、MakerFaireの創始者)も講演しているので、世界のMakerのスターといっても過言ではないと思います。

    僕は前回のMakerFaireの時に、Seeedのスタッフみんなのサインを、いただいたモバイルバッテリーの裏に集めました。エリックはそれを見て「最初のMacintoshみたいだ!」と喜んでいました。

    いただいたモバイルバッテリーの裏に、Seeedstudioの人たちのサインを集めました

    まだ31歳の彼ですが、Appleが初代Macの内側、空けてはいけない部分の内部に、開発メンバーみんなのサインを入れた伝説を知っています。

    おそらく、「山塞」に一定の評価を与える彼は、初期のMacintosh開発チームが、オフィスに高々と海賊旗を掲げたことを知っているのでしょう。

    Seeedstudioのオフィスには、アメリカからIntelのCEOも来社したことがあります。オバマ大統領がホワイトハウスでMakerFaireを開くなど、世界がMakerムーブメントに注目する中、アジアの“Makerスター”に注目が集まりつつあるのです。

    彼のプレゼンは、深圳の製造力/技術力を背景にして、innovate with chinaを掲げて終わりました。僕ら参加者全員がSeeedstudioとエリック・パンにすごく感謝しています。彼は3日で、何人もの日本人Makerを虜にしてしまいました

    そして、彼のスタッフは機転が利いて楽しそうにハードワークしていて、彼の工場は素早くやることときちんとやることのバランスが取れているように見えました。

    大学で電子工学を学び、自分に与えられた役割を飛び出して自分を探し始め、今はMakerムーブメントの中心地深圳で、世界のMakerを助けるという自分の夢に向かって進むエリック。

    彼はまちがいなく「起業家」で「ビジネスマン」で「中国人」なのですが、おそらく世間でステレオタイプ的に言われるそれらのイメージからはかけ離れたものです。

    僕は彼みたいな人をMakerと呼びます。僕はMakerが大好きです。彼が僕のことを「日本のMakerだよ。日本のいろんなMakerと友だちらしい」と紹介してくれることはすごくうれしいです。

    Seeedstudioを見に行きましょう!

    12月にまた、シーグラフアジアの直後にニコ技深圳観察会を予定しています。終了後にレポートを書き、自力で参加して、観察会中のトラブルを自力で解決できる(またはトラブルを不満に思わない)方であれば、誰でも参加を歓迎します。もちろん自己責任のツアーなので、僕の力が及ばず実現しないこともあります。

    >> ニコ技深圳観察会のFacebook

    また、11月23日~24日のMakerFaire Tokyoに絡めて、25日~28日ぐらいに日本のMakeをエリックら外国人に見せるツアーを予定しています。東急ハンズ、秋葉原MOGRAなど、僕たちが好きな場所を紹介します。

    僕らは深圳が大好きになりました。僕はいつも、台北やシンガポールのMakerたちにお世話になっています。

    僕が台北やシンガポールや深圳が大好きなように、彼らに東京を大好きになってもらいたいです。ご飯を一緒に食べてくれる、ツアーに参加して彼らと友だちになってくれる、バスの手配や通訳をしてくれるなど、協力者を募集しています。

    >> 外国人Maker、日本ツアーのFacebook

    11月23日~24日のMakerFaire東京では直接彼らに会えます。また、僕もアジアのMakerムーブメントを紹介するプレゼンを行う予定です。

    これからもよろしくおねがいします!

    Xをフォローしよう

    この記事をシェア

    RELATED関連記事

    RANKING人気記事ランキング

    JOB BOARD編集部オススメ求人特集





    サイトマップ