キャリアVol.284

ハードウエアスタートアップが実用化の壁を超えるには?筋電義手『handiii』の戦略【連載:NEOジェネ!】

世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、3Dプリンタとスマホを活用することで、個性に合わせて使える新しい筋電義手『handiii』の開発を目指すexiiiだ。数々の受賞歴で注目を集める彼らの、実用化のハードルを超えるための戦略に迫る

exiii (左から)CEO 近藤玄大氏 CTO 山浦博志氏 CCO 小西哲哉氏

exiii (左から)CEO 近藤玄大氏 CTO 山浦博志氏 CCO 小西哲哉氏

「気軽な選択肢」がコンセプトの筋電義手『handiii』とは?

筋電義手の『handiii』を開発するexiiiがクラウドファンディング『kibidango』で行っていた資金調達が、開始からわずか5日で目標金額の70万円を達成、その後も順調に支援の輪を広げている。

これまで『James Dyson Award』をはじめとするいくつかの賞を受賞した彼らは、2015年内に実用レベルの筋電義手を2本製作することを目標に置いている。今回の資金調達もそのためのもので、実用化に向けて大きな一歩を踏み出したことになる。

筋電義手とは、筋肉を動かす時に生じるわずかな電気信号で動かすタイプの義手を指すが、従来のものは専用の小型コンピュータを内蔵していることなどから1台数百万円以上と非常に高価で、一部の人にしか手の届かない代物だった。

exiiiは測定した筋電をBluetoothを使ってスマートフォンに送信する。部品製作にも3Dプリンタを活用することで低価格化に挑み、旧態依然とした筋電義手の世界に革命を起こそうとしている。

「maker movement」という言葉が示す通り、ここ数年の技術の進歩により、モノを作る上でのハードルは下がり、ハードウエアを扱うスタートアップの数は増えている。しかし、作るためのハードルが下がれば下がるほど浮き彫りになるのは、そこから実用化までこぎ着けることの難しさだ。

近藤玄大氏、山浦博志氏、小西哲哉氏によるexiiiは、コストとデザインを重視した「気軽な選択肢」というコンセプト、さらには、ハードウエアとしての枠組みを超えたエコシステム作りまでを視野に入れて、このハードルを乗り越えようとしている。

アイデアの出発点:大学研究に足りなかったコストとデザインの意識

近藤氏が大学研究室時代に足りないと感じていた「コスト」と「デザイン」の意識を込めたのが、「気軽な選択肢」をコンセプトとする『handiii』だ
近藤氏が大学研究室時代に足りないと感じていた「コスト」と「デザイン」の意識を込めたのが、「気軽な選択肢」をコンセプトとする『handiii』だ

事の発端は2008年。当時、東京大学4年生だったソフトウエア開発担当のCEO近藤氏が、筋電義手研究の第一人者である横井浩史教授の研究室の門をくぐったのがきっかけだった。

3年間の研究活動の後、そのまま大学に残って研究を続ける選択肢もあったが、近藤氏は最終的に就職する道を選んだ。「このまま研究を続けていても実用化はされないだろう」というはがゆさを感じていたからだ。

「大学の研究はデザインやコストを顧みることなく、とにかく筋電義手に巧みな動きをさせることに特化して行われていました。とりあえず指が5本ついてはいるけれど、ケーブルむき出しの見た目からは、装着して外を歩く光景が想像できなかった」

卒業後、研究職としてソニーに入社した近藤氏。研究は事業化を前提としているし、デザイナーとエンジニアが一緒に開発できる環境が何より魅力的に映った。

就職後もいずれは筋電義手の世界に戻りたいと考えていたというが、その日は想像していたよりずっと早くにやってきた。

「3Dプリンタやスマートフォンの普及で、少人数で安く開発できる環境が整い始めていました。そのことに気付いて仲間探しを考え始めたころに、たまたま大学の先輩である山浦がFacebook上に上げていた『機構』の動画が目に留まったんです」

自分がソフトウエア、彼がハードウエアをやれば、まったく新しい筋電義手が作れるのではないか——。ほどなくして山浦氏のパナソニックの同僚にあたるデザイナー小西氏が加わり、近藤氏が大学時代に足りないと感じていたピースは、すべてそろうこととなった。

当初、東京と大阪でそれぞれの会社に務めながら遠隔で開発を続けていた3人は、チーム結成からわずか1カ月で『James Dyson Award 2013』で2位に入り、一気に知名度を上げた。

そして今夏、意を決して独立、10月末に正式に法人化するに至った。

開発のポイント:軽量化と低価格化を支える「リンク機構」の採用

山浦氏が考案した「リンク機構」により、最小限のモーター数でも対象物をしっかりと握り込むことができる
山浦氏が考案した「リンク機構」により、最小限のモーター数でも対象物をしっかりと握り込むことができる

近藤氏がFacebook上で目にし、exiii結成のきっかけとなった「リンク機構」と呼ばれる構造が、『handiii』が「気軽な選択肢」となることに大きく寄与している。

『handiii』は軽量化と低価格化を実現するために、内蔵モータを最小限の6個に抑えている。5個は5本の指の付け根にあって曲げ伸ばしを担い、残りの1個が親指の起こす/寝かすを司る。

付け根のモータ1つでは、通常であれば5本の指は単純な曲げ伸ばししかできないが、「リンク機構」の働きにより、曲がった指はモノとぶつかることでさらに先の関節が曲がるようになっている。対象物に合わせて3関節で指の角度を変え、しっかりと握り込むことができるのだ。

コストダウンのための工夫は、部品の生産方法でも検討を重ねられている。

『handiii』のような樹脂製品は一般的に、まず金型を作って、そこに樹脂を流し込んで部品を生産する。金型の製造には非常にコストが掛かるが、部品をたくさん作れば減価償却は可能。作れば作るほどにコストは下がる。しかし、筋電義手にそのモデルは当てはまらない。

「日本国内で義手を使っている、あるいは使う可能性のある方の数は1万人以下なので、大量生産を前提にしたこうしたモデルは非現実的です。だから、今までとは違う作り方をしなければなりません」(山浦氏)

現在有力視しているのは、型を作るのではなく、3Dプリンタを使って設計データから毎回直接、部品を作る手法。生産台数の限られた義手の場合には、こちらの方が適していると山浦氏は考えている。

パーツ交換も可能な個性重視のカジュアルデザイン

「パーツ交換が可能な『handiii』はいずれ手を超える」と夢を語る、デザイン担当の小西氏(右)
「パーツ交換が可能な『handiii』はいずれ手を超える」と夢を語る、デザイン担当の小西氏(右)

「気軽な選択肢」というコンセプトはデザインにも反映されている。

「ユーザーがパチパチとパーツを付け替えられるデザインにすることで、自分の好みを反映させ、ひと目で自分のものと分かるものをイメージしています」とデザイン担当の小西氏。

従来の高価な義手をロレックスだとするならば、『handiii』が目指すのは、腕時計の世界に革命を起こしたスウォッチのような存在だ。

「スウォッチの登場以前、腕時計は一部の人のための高級品でしたし、作るのには90部品くらい必要というのが常識でした。そうした旧来の腕時計の世界にプラスチック製の部品を持ち込み、部品点数も50点ほどに抑えて、時計を誰でも持てるものに変えたのがスウォッチです。義手だって、時計やスニーカーのようにカジュアルに選べるものであっていいのではないでしょうか」(小西氏)

もちろん、それを実現するためには技術革新が必要だ。ただ、義手の世界はこれまで、ドイツの1社が世界の95%のシェアを占めていたように、技術面でも価格面でも健全な競争原理が働いていなかった。工夫次第で新たな局面に持ち込むことは十分可能というのが、exiiiの見立てだ。

「パーツを組み替えられるということは、例えば指先にマイクやスピーカーを入れることで、そのまま指で電話をする、なんてことだって考えられます。今までの義手はマイナスをゼロにするだけのものでしたが、一気にプラスにまで転じてしまう可能性だってある。健常者もうらやましがるようなものにできたらいいなと考えています」(小西氏)

来るべき本当のMakerの時代へ、オープンソース化も視野

主婦や子供が普通にモノづくりをする時代を想定し、生産者の手を離れても成り立つエコシステムづくりまで視野に入れている
主婦や子供が普通にモノづくりをする時代を想定し、生産者の手を離れても成り立つエコシステムづくりまで視野に入れている

ソフトウエアの近藤氏、ハードウエアの山浦氏、デザインの小西氏。プロダクト名の最後に並んだ3つの「i」が示すように、3人はMakerの時代にふさわしい、最小限のチームであるように見える。

だが、「社会で実際に使ってもらえるようになるには、おそらく3人ですべてを見るのは無理」と近藤氏は言う。

「単にモノを作るだけではなく、エンジニアとして、手放しでも成り立つようなシステムまで作りたいと思っているんです」

前述した通り、これまでの筋電義手にはコンピュータが内蔵されており、生産者が作ったプログラムに従ってしか動かなかった。しかし、スマートフォンを経由する『handiii』であれば、プログラムを後からカスタマイズすることも可能。

「例えばLINEのスタンプのように、サードパーティが機能を提案するというような広がりも考えられます」(近藤氏)

ハードウエアとしても同じことがいえる。優れた技術を使ってマスターピースを作っても、壊れた時に直せないようでは、実用的というにはほど遠い。3Dプリンタを利用した部品生産は、こうした継続性のあるモノ作りを視野に入れたものでもある。

普及のためには大手メーカーとの提携、要素技術を軸にした義手とは別のサービス展開による資金調達も必要と考える。さらに、「どこかのタイミングでオープンソース化もしたいと思っています」と近藤氏は言う。

「10年前はインターネットにアクセスすることさえ難しかったのに、今ではブログで稼ぐような主婦も現れています。ものづくりに関しても同様で、小学生が3Dプリンタを使ったり、子供向けの安価な設計ソフトが提供されたりといった動きも始まっている。これからは社会全体のリテラシーが上がっていきます。10年後には、主婦が普通にモノを作れる時代になっているはずです。僕たちは仕掛けづくりをして、その先は一般の人たちに委ねる。実用化のためには、そういったことも必要だと考えています」

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴

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