この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!
シリコンバレーで働いて気付いた「技術力向上」だけに固執するエンジニアのダメさ【Sansan CTO 藤倉成太】
法人向けクラウド名刺管理サービス『Sansan』や個人向け名刺アプリ『Eight』を手掛けるSansanが、2018年6月にCTOの役職を新設した。初代CTOは、創業間もない頃からSansanの事業を率いてきた藤倉成太さんだ。
もともとコードを書くことが大好きで、自身の技術力を上げることが大事だと思っていたという藤倉さん。しかし今では、「エンジニアこそ事業にコミットすることが大切」だと確信するようになった。それはなぜなのか。
徹底的にエンジニアリングに向き合ってきた藤倉さんだからこそ分かる、エンジニアが事業に関わる重要性とは?
プロのエンジニアなら、経済価値に直結するコードを書くべき
藤倉さんがプログラミングにのめり込んだのは、小学5年生の時。父親が買ってきたMSX(8bitパソコンの一種)で自作のゲームを作って遊んでいたのがきっかけだ。それからというものは、とにかくプログラミングに没頭し、「超一流のエンジニアになりたい」とシリコンバレーで働くことを夢見るようになった。
新卒でSIerに入社し、海外製ミドルウェアの導入コンサルティングや技術サポートを手掛けること4年。エンジニアとしてのキャリアを積んだ藤倉さんは、シリコンバレーの現地法人に飛び込んだ。
「当時の僕の仕事は、シリコンバレーで有望なミドルウェア製品を探し出して、それをブラッシュアップし日本に持ち帰ること。シリコンバレーでは、現地のベンチャー企業に毎日出社し、他の社員と一緒にコードを書いたり、設計の手直しをするなど、プロダクトの共同開発をしていました」
コードを書くのが大好きで、学生時代は「授業でプログラミングの宿題が出れば、友達の分まで代わりにコードを書いていた」ほどの藤倉さん。しかしアメリカで目の当たりにしたのは、自らの技術ではなく、事業に全てを懸ける‟死にものぐるいなエンジニア”の姿だった。
「同僚とは朝から晩まで一緒にコードを書いて、よく飲みに行ったりもしていました。でも彼らが話すのは、技術の話ではなく『このプロダクトで世の中にどうインパクトを与えるか』ということばかり。自分の技術力のことばかり考えていたんじゃ、彼らにとって僕は“同志”ではなく“お客さん”のままなんだと痛感しました」
技術に対する知識や能力だけなら自分の方が優れている自信はあった。しかし事業について熱く語る彼らの姿を見て、自分はまだ同じ土俵にすら立っていないと打ちのめされたのだ。
技術力の高さだけに囚われるのはきっぱりやめた。それ以降、「プロなら経済価値に直結するコードを書くべきだ」と信じているという。
「昔の僕は『技術のための技術』を極めようとしていた。でもそれって、すごい自分目線だし、何なら趣味でいいじゃんって思います。コードを書くなら、それが事業や収益にどうインパクトを与えるかを常に意識すること。それはコードを見れば一目瞭然だし、なぜこのケースで・このタイミングで・この技術を使ったのかを考えるべきなんだと思います」
世の中を変えるような事業にコミットしてこそ、エンジニアだ。「いつか自分のプロダクトでもう一度シリコンバレーで勝負したい。そのために自分が心血を注げる事業を見つけるんだ」。日本に戻った藤倉さんにとって、その可能性を秘めていると感じたプロダクトが『Sansan』だったという。
Sansanをただの「良い会社」にしたいわけじゃない
Sansanでは今年、CTO室を開設し、VPoEやCPOなどこれまで同社になかった新しい役職を次々と誕生させた。これまでは取締役や各事業部の責任者など代表6名による合議制を取っていたが、紆余曲折を経て新体制が出来上がった。
「Sansanと、Eight、R&D部門のDSOCでは、それぞれカルチャーもエンジニアリング手法も違います。だからこそ今までは、各事業を伸ばしていくために代表者6人がフラットな立場である合議制が有効でした。
しかし昨今では検討すべき事柄が多くなり、複雑度も増してきたため、これでは決断スピードが遅くなってしまうと懸念するようになりました。この先のグローバル展開や、これまでとは質の違う非連続的な成長を考えた時、CTOという役割を置いて全体を統括するのが最適だという結論に至ったのです」
そして藤倉さんは、エンジニア部門のトップとして「技術的な何か」を決めるのではなく、「エンジニアリング力を引き上げ、事業にコミットする」ためにCTOを引き受けた。
「グローバルを見据えた外国人エンジニアの採用や、クリエイターたちによる情報発信ブログの開設、イベントの開催など、Sansanのものづくりをあらゆる角度から強化しようと思っています」
サテライトオフィスや在宅勤務制度などさまざまな制度も充実させ、働きやすい会社づくりにも取り組んでいる。しかしこれらの働き方や制度の改革を含め、藤倉さんは「別にSansanを良い会社にしたいわけじゃないんですよ」と真剣な面持ちで語った。
「どれも全てはプロダクトをグロースさせるため。プロダクトが成功しなければ、技術的に正しいことをしていようが、組織として素晴らしかろうが意味がありません。全てのメンバーが事業にコミットすべき。そういう考え方が根強いですね」
今やれることは全部やる。
キャリアという「ゲーム」を楽しもう
藤倉さんに今の“時代の変化”について聞いてみると、「今の若手エンジニアがうらやましい」という答えが返ってきた。
「僕が社会人になりたての頃は、日本には世界で通用するエンジニアも、それができそうな会社もなくて、“超一流になりたい”なんて夢物語でした。でも今はロールモデルがたくさんいるし、グローバルに活躍できる日本の会社もある。新卒の採用面接をしていても、『こういうものを作って、世の中を変えたいんです』という人が増えてきました。それだけエンジニアにとっていい環境になったと思います」
そう羨む一方で、「ただ世の中を変えたいと一言で言っても、まだまだリアリティーが足りない人も多い」と檄を飛ばす。
「世界を変えたいとかいうのに、なぜか『修行宣言』をする人が多いんですよ。いつか技術が身に付いたらやります、とか、20代のうちは修行します、なんて。少しでもコードが書けるなら、10年後じゃなくて今始めればいいじゃないですか。確かに技術力は必要だけど、それがなくてもできることはいくらでもある。例えばチームで開発しているなら、こぼれ落ちた簡単なタスクをどんどん拾って、チームにどう貢献するかを考えることの方が大事です。
技術力だけが世の中を変える武器だというのは大間違いだし、いつまでもアマチュア気分でのんきなことを言っている場合じゃない。先輩のコードを読み書きしたり、コードレビューのやり取りを復習したり、現場で飛び交う言葉を調べることからだって始められるわけです。『エンジニアは技術力がなければ、何者にもなれない』なんて、まずスタート地点が違うんじゃないかと思います」
今すぐできることを楽しみながら全力でやっていれば、「何者にもなれない」人なんていない。そう考える藤倉さんの仕事に対するスタンスは、「ゲーム感覚で楽しむ」ことだ。
「僕は基本的に、悲壮感を漂わせるより、いい意味で周りの期待を裏切ってドヤ顔したいんですよ(笑)。例えば普通なら1カ月かかるような開発も、僕なら1週間でできますって涼しい顔して答えます。そうしてタイムアタックにしちゃえば、仕事がゲームみたいになって面白いじゃないですか。
最短でゴールに到達する手順は何だろうって考えながら、やりきる。それで『こんなのできない人いるんですか? 僕はできちゃいましたけど』なんてアピールしたりね(笑)。
社会人になってからずっと、そんな風にいつも張りつめながらやってきたことで、僕は周りより少しだけ濃い時間を過ごせてきたのだと思います」
ゲームをクリアするように、より早いタイム、より高いレベルを目指して目の前の仕事をクリアする。それが藤倉さんのキャリアを一つ上のものへと引き上げてきた。謙虚に飄々と語る姿からはその苦労は計り知れないが、相当な努力を重ねなければ成し得なかったはずだ。
「これからは、Sansanをグローバルで戦える世界有数のトップエンジニア集団にしたいと考えている。そのために必要なことは、全部やる。必ず世界で戦える事業に育て上げてみせる」。目に光を湛え、藤倉さんはまっすぐ前を見据えた。その決意は揺らがない。
取材・文/石川香苗子 撮影/赤松洋太 編集/大室倫子
Information
Sansanのクリエイターたちによる技術ブログ:https://buildersbox.corp-sansan.com/
Sansanのものづくりを支える技術やデザイン、プロダクトマネジメントの情報を発信しています。
Sansan Builders Box:https://jp.corp-sansan.com/sbb2018/
Sansan史上初、サービス開発に携わるものづくりのメンバーを中心としたカンファレンス“Sansan Builders Box”を開催しました。
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