この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!
「真に受けてはいけない」“若手エンジニア超売り手市場”の実態――ビズリーチCTO竹内真が予測するエンジニア採用、次の20年
IT産業の著しい成長とともに、多くの企業で“エンジニア不足”が常態化している。同時に、ここ数年、若手エンジニアにとっては転職しやすい「超売り手市場」の状態が続いているとも言われる。
だが、転職サイト『ビズリーチ』や人材活用プラットフォーム『HRMOS(ハーモス)』をはじめとする、HRテック領域で多様なサービスを提供している株式会社ビズリーチでCTOを務める竹内真さんは、転職を検討中のエンジニアに向けて「若手売り手市場」の実態を真に受けてはならないと言う。その真意とは何だろうか?
若手がいいのではなく、若手でも欲しい。
企業が本当に欲しいのは真のプロ人材
アメリカで「IT産業」と呼べるものが誕生してから、約30年。日本においては、そこから10年の遅れを取り、約20年が経った。IT産業創生期の立役者となった技術者や経営者の活躍ぶりや、国内外で急速に進む技術革新のトレンドなどから、「次の20年、国内のエンジニアに求められるハードルはますます高いものになっていく」と竹内さんは予測する。
現在のITエンジニアの売り手市場についても、「今の日本企業は『若手が欲しい』のではなく、『若手でも欲しい』という状態。本来企業がエンジニアに求めている能力はもっと高いレベルにあると感じています」と念を押す。
アメリカの企業では、新卒採用においても専門スキルを持った優秀な学生に年俸2000万円を超えるオファーを出すようなケースが増えている。日本でも同様に、優秀なエンジニアの獲得に乗り出した企業の多くが採用・人事制度の見直しを迫られている。2018年末には、NTTデータがGAFAへの人材流出への危機感から、高額報酬による人材獲得のための人事制度『アドバンスド・プロフェッショナル制度』の新設を発表したが、これも時流をよく表している事例と言えるだろう。
「成長著しいアメリカのIT業界には、自ずと国内のエリート層が集まります。高額報酬を得られるポストを狙っての競争も激化しており、若手でも技術力だけでなく、高いコミュニケーションスキル、論理的・数学的思考、時間管理能力、経営視点などのあらゆる面で優れた人材がいます。企業はその人材獲得に貪欲です」
概ねアメリカの背中を追うかたちで発展を続ける日本のIT業界も、エンジニア採用のトレンドは引き続き “プロフェッショナル採用”の傾向が強まっていくと竹内さんは見ている。
世界の優秀層と対峙できるエンジニアとは?
国内のみならず、同社のエンジニア採用を海外でも行っている竹内さんは、「日本の若手エンジニアとアメリカの若手エンジニアに技術力の面で大きな差は感じない」と話す。しかし違いがあるとすれば、「自身の成長に懸ける意欲です」と実感を語る。
「日本の若手エンジニアの成長意欲は、グローバル採用をする中で出会った海外のエンジニアと比べると、大きく差がある印象です。今は売り手市場で転職もしやすい。しかし、先ほども申し上げたように、これから10年のうちに日本でもその環境は激変すると思っています。これは、10年前にアメリカが辿った歴史と同じです。特にここ数年、優秀なエンジニアへの対価としての報酬はどんどん上がっていて、それに伴い若手エンジニアの報酬も上がっている。どこかのタイミングで金融やコンサルよりも、相対的にエンジニアの報酬が大きくなるという瞬間が日本にもやってきます。IT業界のさらなる成長とともに、これまでは金融やコンサル等を志望していた若手の優秀層が、IT業界やエンジニアを目指すようになるのではないでしょうか。そうなると、ライバルの質が劇的に変化していきます」
急速に進む少子高齢化による労働人口減少を考えると、海外エンジニアの獲得に身を乗り出す日系企業が今後ますます増えていくことも予想される。東京が次の10年でシリコンバレーや深圳(深セン)のような発展を遂げたとき、ライバルはもはや“全世界の優秀なエンジニア”となっているはずだ。来る未来に備えるべく、今から取り掛かるべきは「クリエーティブ型のエンジニアへとシフトすること」だと竹内さんは話す。
「これから20年のうちに、自ら事業をつくっていく力を備えた『クリエーティブ型のエンジニア』と、オペレーティブに仕事をこなす『オペレーション型のエンジニア』、キャリアの二極化が進んでいくと見ています。日本のエンジニアが世界の優秀層と対峙していくためには、『技術力だけあればいい』という意識は捨て、経営視点を持ち、事業戦略を立てたり、プロジェクトリーディングをしていく能力を磨いていくことが必要です。また、逆に“仕様書通り”のオペレーティブな仕事は、AIなどにますますリプレイスされると予測されていますから、そのポストは減っていくと思います。仮に減らなかったとしても、例えば仕事がオフショアに流れていくようなこともあるでしょうし、報酬が高止まりする可能性は高いでしょう」
本やネットで情報を与えられるのを待つな。
「一次情報」を自分で取りに行こう
では、具体的に「クリエーティブ型」エンジニアにシフトする上で重要となるスキルはなんだろうか? 竹内さんは、ダイバーシティーを考慮した上でのコミュニケーション能力を基本として挙げる。
「アメリカなどから比べれば日本はまだ単一民族国家。『異なる信念を受け入れる』という素地がないためか、エンジニアにも『他者の異なる視点・意見を統合しつつ、議論すること』が難しいケースが多い印象です。これからは、多様性を受け入れ、自分とは違った価値観を持つ相手と一緒に仕事をするためのコミュニケーションスキルが重要になると思っています」
また、“一次情報”を自ら収集する能力を磨くことも重要だと続ける。
「今、ネットや本を見れば多くの情報は得られますが、すでに古い情報だったりすることもよくあります。また、翻訳者や編集者のバイアスによって想像以上に情報が加工されていて、本来の意味を読み取れず、ミスリードするような内容も多く見受けられます。それ以外にも、海外の技術事例の場合、日本語に翻訳され、出版されるまでの間にかなりのタイムラグが出てしまいますよね。このような問題は、現在進行形でその技術に関わっている人に自分で直接話を聞くことができれば解決します。そして、一次情報を誰よりも早く持ってくる人になることができれば、組織の中での存在価値も高まります」
今、国内の労働人口におけるエンジニアの割合は、約1%だと言われている。現時点では“貴重な存在”としてもてはやされることも多いエンジニアだが、この先20年のIT業界変革期に何を選択し、経験し、挑戦するかで今後のキャリアは左右される。
「最後に、『自分のキャパシティをどんどん広げて』というのが若手エンジニアの皆さんへのメッセージです。『これをしたくない』『こういうことだけをやりたい』と言って可能性に蓋をせず、興味・関心が向くことには積極的に新しいチャレンジをしていってください。自分の枠を決めないことが、これから先の未来にエンジニアとして活躍するためのキャリア戦略だと思います」
取材・文/上野 真理子 撮影/桑原美樹 編集/君和田 郁弥(編集部)
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