本連載では、外資系テクノロジー企業勤務/圓窓代表・澤円氏が、エンジニアとして“楽しい未来”を築いていくための秘訣をTech分野のニュースとともにお届けしていきます
「SIerへの転職」エンジニアが幸せに働くために気を付けておきたいこと【連載:澤円】
圓窓代表
澤 円
立教大学経済学部卒。生命保険のIT子会社勤務を経て、1997年、外資系大手テクノロジー企業に転職、現在に至る。プレゼンテーションに関する講演多数。琉球大学客員教授。数多くのベンチャー企業の顧問を務める。
著書:『外資系エリートのシンプルな伝え方』(中経出版)/『伝説マネジャーの 世界№1プレゼン術』(ダイヤモンド社)/『あたりまえを疑え。―自己実現できる働き方のヒントー』(セブン&アイ出版)※11月末発売予定
連載:リクナビNEXTジャーナル『澤円のプレゼン塾』/ダイヤモンド・オンライン『グローバル仕事人のコミュ力』
皆さんこんにちは、澤です。
先日の私の記事では、エンジニアが作業者扱いされないようになるにはどうすればいいか、という観点で書かせていただきました。
その中で、日本のエンジニアの多くがSIベンダーに在籍している話をしています。
『エンジニアtype』の人気コンテンツの一つに、ひろゆきさんの『SIerって本当にヤバいの? ひろゆきが語る、業界ごと沈まないためのキャリア戦略』があることからも、SIerの存在は読者の皆さんにとっても気になるトピックということでしょう。
私の所属企業にとって、SIerは大事なパートナーであり、この部分は全く変化がありません。というのも、多くの事業会社はITリソースが十分にはなく、どうしてもSIer企業の手を借りないとシステムが構築も運用もできないという構造になっています。
そのため、社内システム構築の大部分を外部のベンダーに「丸投げ」することが一般的になっています。
それで社内のシステムがうまく回っているのであればいいのですが、何しろ発注側がテクノロジーにめちゃくちゃ疎かったりすることもあり、急な仕様変更や追加要求が当たり前に行われたりします。
つまり、設計段階では自分たちの構築するシステムのイメージがつかめずに、ある程度形になってきてから、ようやくあれこれ口を出せるようになってくるのです。
すると、SIer側が人や機材のリソースを投入し、すでにコストがかかっている状況で、ちゃぶ台をひっくり返されてしまったりすることがあります。ただこれは、別に悪気があってのことではなく、構造的な問題です。
とはいえ、SIerは競争の結果手にしたシステム構築案件を手放したくはないので、無理難題に立ち向かわなくてはなりません。そうなると、しわ寄せはどんどん現場のエンジニアへと寄っていってしまいます。これではエンジニアはハッピーになれないですよね。
こう考えると、SIerというのは就職先としては最悪なのか? 絶対に職場として選んではならないのか? もし、この構造のまま全く変わらない、というのであれば答えはYesです。どう考えてもエンジニアが幸せにならないからですね。
もちろん、働くというのをどうとらえるかというのは個人差が大きいものなので、「給料がもらえれば何でもOK」という人もいるでしょう。そういう人は、どのSIerに入っても大差ないかもしれません。
SIerに転職する前に必ず確認すべきこと
もしもあなたが「エンジニアとして成長したい」かつ「SIerで働きたい」という場合には、その会社の勤務スタイルや環境を十分に見極めないと、楽しみながら仕事をすることは難しいかもしれません。
ということで、面談や転職イベントなどでの質問は、しっかりと準備していった方がよいでしょう。
まず、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)が明確ではない会社ですと、エンジニアとして入ったつもりが毎日Excelのチェックシート作成にいそしむなんてことになりかねません。
開発をしたいのであれば、会社支給のパソコンはどのくらいのスペックなのか、持ち込みはできるのか、開発プラットフォームは何を使っているのか、言語は何を使えるのか、なども気になるところですね。明確な回答が得られないようであれば、注意が必要です。
超低スペックのPCで、しょぼいオンプレミスサーバーでの開発を強いられたりしたら、楽しくもなんともないですね。あるいは、受注から開発、納品から運用までのプロセスをしっかり説明してもらえるかどうかも確認事項になります。質問した相手が全く答えられない場合、社内のプロセスがかなりサイロ化している可能性があります。
そうなると、情報共有が十分ではない状態で開発作業が行われていたりして、何度も手戻りがあったり、突然のゲームリセット的な展開が待ち受けているかもしれません。
運用をビジネスの中心に据えている会社もありますよね。その場合には、本社機能とどのように連絡を取り合っているのかを確認した方がいいでしょう。
電話とメールでしかやり取りができない、という会社ではシステム運用のために客先常駐になった場合に「島流し状態」になるかもしれません。SlackやLINE Worksなどの情報共有ツールで、スムーズに連絡が取りあえる環境があるかどうかも知っておいた方がよさそうです。
もちろん、SIerは良い環境が整っていないのがデフォルト、なんて乱暴なことを言うつもりは毛頭ありません。SIerで働く場合のリスクヘッジとしては絶対に必要な情報であると私は思っているだけです。
ウォーターフォールで、オンプレ環境で、レガシー言語で、……というのがすべてNGであるわけではもちろんありませんし、それが必要な場面もあります。ただ、「これしかできない」「これ以外の選択肢がない」という中でエンジニアが働くのは、なかなかつらいもの。ましてや、これから会社を選ぼうかな、という段階なのであれば、活躍できる幅が広い選択をした方が楽しいのではないかと思います。
「学び」と「挑戦」が許される環境で働こう
そして、なんと言っても「新しいことを学ぶ機会」があるかどうか、あるいは「新しいことにチャレンジする自由」が許されているかどうかも大事だと思っています。
社外の勉強会に、自腹でも参加ができないなんて言う会社があると聞いたことがあります。「新しい技術なんて知ったら転職してしまうから」というのがその理由だとか。ただの都市伝説であってほしいものですが、理解のない上司や経営者がいる会社では、こういう発想になる可能性は否定できませんね。
日本の事業会社はSIerへの依存度が極めて高い状況なので、さまざまな業務が丸投げされてきます。中には利益率の低い仕事が混じっていることも多々ありますし、レガシー環境を維持することに時間を使わなくてはならないこともあると思います。
ただ、そこで自分のエンジニア人生を使うことが自分としてアリなのかどうかは冷静に見極める必要があるでしょう。「仕事だから仕方がない」という考え方もありますが、これだけ新しいものが次々現れる業界もそうはないのですから、片っ端から楽しむのもエンジニアとして楽しい生き方ではないかと思っています。
そのためには時間が必要です。もちろん、ある程度のお金も必要です。その両方を満たせる会社かどうかを見極めるのが極めて重要ですね。
パッケージベンダーと違い、SIerは人間単価の価格競争に巻き込まれやすい体質があります。それでもSIerで働きたいなと思うのであれば、価格競争の被害者にならないためにその会社の体質をしっかり見極めましょう。
SIerの中には、さまざまな製品や環境を比べられる会社もあります。一社の製品やサービスに特化せず、あれこれ触ってみたい人たちにとっては、あえてSIerを選ぶというのも一つの考え方ですね。AWSもGCPもAzureもちょっとずつ触ってみたいなら、それができる部署のある会社を選んでも良いでしょう。
皆さんのエンジニア魂の方向性にマッチした会社をぜひ選んでくださいね。
セブン&アイ出版さんから、私の三冊目となる本が発売されました。
「あたりまえを疑え。自己実現できる働き方のヒント」というタイトルです。
本連載の重要なテーマの一つでもある「働き方」を徹底的に掘り下げてみました。
ぜひお手に取ってみてくださいね。
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