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生涯「エンジニア」として食っていくには何が必要?及川卓也氏×田中邦裕氏の答え

働き方

    経験に頼るな、ただただスキルを磨け

    「経験がモノを言う」と思われがちな開発の世界だが、なぜ経験に頼るのは得策ではないのか?

    「経験がモノを言う」と思われがちな開発の世界だが、なぜ経験に頼るのは得策ではないのか?

    及川 ちなみに、データサイエンティストの仕事は統計学に強くなければできません。つまり、プログラミング能力に違ったスキルをプラスすることで、新しい「開発職」が生まれたとも言えます。プロダクトマネジャーもデータサイエンティストも、プログラマーにはできない何かしらの専門性が必要という点では共通しますね。

    田中 今のお話を聞いて思い出したんですが、最近、当社では【サイエンス】、【テクノロジー】、【エンジニアリング】、【オペレーション】の4つが完全に同期している状態を作ろうとしているんですね。理由は、「大きなインターネット」の流れの中で、もはやサイエンスだけ、テクノロジーだけを研究してもイノベーションが生まれづらくなっているからです。

    この“四身一体”の開発を進めていく過程で、新しい専門分野の「開発職」が誕生するかもしれません。

    及川 そうかもしれませんね。

    田中 そして、すべてを連動させることで新しい価値を生むことに挑戦する以上は、例えば「オペレーションだけはマニュアル通りにやっていればいい」というような考え方も捨てなければなりません。

    なので2年くらい前から、当社のエンジニア募集のページ内では「未経験可」という言葉を消すようにと人事に依頼し続けてきました。「マニュアルがあるから未経験でもやれる」というのは、開発の仕事としてはおかしいじゃないですか。

    及川 それは、逆説的に「経験」とは何なのかという問いにもつながりますね。

    田中 というと?

    及川 中途採用では、その逆に「経験者優遇」と書かれていることもありますよね。本当は、どんな分野の開発も、過去の経験がそのまま使えるシチュエーションってないはずなのに。

    「経験者優遇」という言葉の裏側で企業が求めているのは「スキル」です。この経験がなければ、おそらくこのスキルも持っていないだろうという仮説に基づいている。でも、経験って、まったく同じ業務をこなす場合以外は役に立ちませんよね?

    だから僕は、スキルさえ高まれば経験を凌駕することができると考えているんです。特に開発の仕事では。

    田中 及川さんの言う「スキル」を、「PHPが書けます」みたいなものとして捉えてしまうとダメなんでしょうね。「僕はトラブルシューティングが得意」とか、「私はリファクタリングするのが好き」といったように、その人ならではの行動様式みたいなものをスキルと呼べば、エンジニアの持つ本当の力量を測れるのかもしれません。

    及川 仕事の中でスキルを発揮した結果が業績になり、その人の専門性として周囲に認められるんです。そしてまた、いろんな情報をインプットして、新しいスキルを得ていかなければならない。開発職のキャリアというのは、その繰り返しなんだと思います。

    及川氏の語る「スキル論」に聞き入る田中氏

    及川氏の語る「スキル論」に聞き入る田中氏

    田中 及川さんほどのベテランにそう言われると、身が引き締まりますね。

    及川 いや、でも、例えば僕が今日話したGoogleでの経験談だって、あと1年も経てば誰も興味を示さなくなるような代物になり下がるんですよ(笑)。全部、過去のことですから。仮に僕が今後1年間で何もインプットできなかったとしたら、すぐにスキルのないダメなプロダクトマネジャーになってしまいます。

    これが20年前、30年前ならば、ずっとCOBOLの開発経験さえ積んでいればよかったのかもしれないし、その経験だけで数年食っていくこともできたかもしれません。

    でも、今は新しい技術がどんどん生まれている。インプットして、それを理解し続けないとすぐにスキルは陳腐化します。

    ―― よく「経験がモノを言う」といいますが、そうではないと?

    及川 もちろん、意味がないわけではないですよ。職業人として経験を積むことの良さは、知識の持ち駒が増えることで、最新技術を学んだり新しい仕事に取り組む際に類似性を見いだすことができるという点にあります。

    それでも、新しいインプットがなかったら、やはり今の開発では何の役にも立ちませんよね?

    ―― そのインプットの原動力は何なのでしょう?

    及川 パッションじゃないでしょうか。技術に対する愛だとか、新しいことへの好奇心。 それをどの分野で持ち続けるかで、その人なりの専門性の作り方が変わってくるんだと思います。

    加えて、勉強会に出たりコミュニティに参加するなど、インプットを得るためにどれだけ多くのタッチポイントを持っているかも大事になるでしょう。

    田中 身を置く環境でも変わるんでしょうね。自分より年上の人が勉強し続けている姿を見ていれば、自分もそうしなきゃと思って学び続ける。逆に、「俺はもうコード書けないし」と遠い目をして語るような管理職しかいない職場だと、自分もくだを巻くだけの中年になってしまう。

    及川さんのお話を聞いていると、開発職としてのキャリアには年齢的な限界なんてなくて、今いる職場や身を置くコミュニティの状態が成長を左右するんだと痛感します。

    及川 たぶん人間は、どこかで「静かに暮らしたい」と思っちゃうんですよ。

    ―― 吉良吉影のように?(笑)

    田中 (笑)。それでも、エンジニアはその欲求に抗って生きていかなければならないんですね。

    ―― 貴重なご意見とお話をありがとうございました。

    >>【特集「コードで食っていく」は何歳まで可能か?】前編はこちら:エンジニア300人調査で見えた理想と現実

    取材・文/浦野孝嗣 撮影/竹井俊晴

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