SESで働くエンジニアの声を聞く
SESとは? SIとの違いやブラック企業の見極め方、働くメリット・デメリットなどを解説
エンジニア転職を目指している人であれば一度は聞いたことがある「SES(System Engineering Service)」という言葉。ざっくりと理解はしていても、詳しく説明できる人は少ないのではないでしょうか?
そこで今回は、SESとはそもそも何なのか、SES企業で働くメリットやデメリット、SES企業ではどんなキャリアパスを描けるのか、そしてSES企業はなぜブラックといわれることが多いのか、さらにホワイト企業を見極めるコツも詳しくご紹介します。
「SES企業に興味がある」、「SES企業で働きたい」と考えている方は、ぜひ参考にしてみてくださいね!
※この記事は2020年12月7日に公開し、2024年1月4日に最新情報を更新しています。
目次
SESとは?
SES(システムエンジニアリングサービス)は委託契約の一種で、ソフトウエアやシステムの開発・保守・運用などの特定の業務に対して技術者を派遣する技術支援サービスのことを指します。こう聞くと「SESって派遣契約のこと?」と考える人もいるかもしれませんが、派遣契約とはまた異なります。
それでは、SESのエンジニアは具体的にどのような働き方ができるのか、派遣契約とはどう違うのか……など、SESに関する疑問を一つずつ紐解いていきましょう。
SESのエンジニアの働き方・仕事内容・給料
SES企業のエンジニアはクライアント企業で働くことになるため、勤務地や勤務時間、仕事内容や服装などの条件は、現場によって大きく異なります。また、一般的にプロジェクトの規模が大きいほど大人数のチームで派遣されることが多く、プロジェクトの規模が小さければ1人で派遣されることもあります。未経験や経験の浅いエンジニアは、教育係も兼ねたベテランエンジニアとセットで動くことも多いです。
案件単位で仕事内容や働き方が大きく変わるため、平均年収は370万~780万円、平均月給は25万~60万円と幅が広いのが特徴です。
SESとSIの違い
SES契約の場合、SES企業が提供するのはエンジニアのスキルや労働力です。それに対し、SI(システムインテグレーション)を行うSIerは、ソフトウエアやシステムの導入からその後の保守にいたるまでの業務全般を担い、「どのようなソフトウエアやシステムを開発し、どう安定稼働させていくか」といった枠組みを決める部分に比重があります。
そのため、SES企業のエンジニアには技術力が求められる傾向が高いのに対し、SIerにはクライアントのニーズを汲み取る力やチームをまとめ、指揮する力が求められる傾向が高い点が両者の大きな違いといえるでしょう。
要件定義などのいわゆる上流工程と呼ばれる部分はSES企業よりもSIerが担うことが多く、その分給与や待遇が良いことがほとんどのため、大手SIerに就職するのは倍率が高くなります。
SESと派遣契約・請負契約・委任契約との違い
「SES契約」は、実際は「準委任契約」と呼ばれる契約形態です。SES契約は労働力に対して報酬が払われる契約なので、ソフトウエアやシステムの品質や、そもそも納品できたかどうかについての責任は負いません。また派遣先はSESエンジニアに対して労務管理や指揮命令を行う権利はないため、残業や休日出勤を命じたり、細かい作業の指示を行ったりすることはできません。
SES契約と似ているものとして派遣契約がありますが、派遣契約は労務管理や指揮命令の権利が派遣先の企業にあるのが特徴です。
請負契約は、労務管理や指揮命令の権利はSES契約と同じくSES企業側にありますが、労働力ではなく成果物に対して報酬を払う契約のことを指します。
委任契約は、法律行為を代理で行うことを委任する契約で、例えば弁護士などに対して結ぶ契約です。エンジニアの業務には法律行為はないため、エンジニアとして働く際には無関係の契約です。
SESを採用している企業例
現在日本には、10,000社以上のSES企業があるといわれています。そのほとんどが30名規模ですが、中には社員数千名規模の大企業も多くあります。SESのイメージを明確化するために、SES事業を行っている代表的な企業を見ていきましょう。
●富士ソフト株式会社(社員数:連結17686名)
●株式会社システナ(社員数:連結5,703名)
●コムチュア株式会社(社員数:1818名)
●株式会社システムサポート(社員数:1137名)
●株式会社BrandingEngineer
●株式会社クラウドワークス(社員数:252名)
●ランサーズ株式会社(社員数:117名)
●株式会社オルトプラス(社員数:連結231名)
●ギークス株式会社(社員数:504名)
●株式会社昭和システムエンジニアリング(社員数:463名)
※社員数は2024年1月時点の企業HPまたは『日経会社情報DIGITAL』の情報を参照しています。
SESのエンジニアとして働くメリット・デメリットは?
先ほども述べた通り、SESのエンジニアは、派遣されるクライアントによって働き方や待遇が大きく変わります。これはSESエンジニアにとってはメリットでもあり、デメリットでもあるのですが、具体的にどんなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
さまざまな角度から詳しく解説していきますので、SES企業への転職を考えている人は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
メリット1.未経験者も正社員として採用されやすい
日本のIT人材が従事する企業の7割がユーザー企業ではなく、SESやSIなどのIT関連企業に就職しています(参照:経済産業省「我が国におけるIT人材の動向」)。
業界は慢性的に人手不足ということもあり、SES企業では正社員かつ未経験者OKの求人が多く出回っています。もちろんエンジニアは技術が必要な仕事ですので、入社後の勉強は必須ですが、「とにかく安定した職に就きたい」「手に職が欲しい」という人にはおすすめといえるでしょう。
メリット2.専門性や幅広いスキルが身に付く
SESのエンジニアはプロジェクトごとにさまざまな技術に触れることができるため、経験したプロジェクトの数が増えるほど幅広いスキルを身に付けることができます。またプロジェクトの内容によっては高度な専門性を学ぶことも可能でしょう。
SES企業への転職を考えている場合は、自分の磨きたいスキルに合ったプロジェクトが稼働しているかを確認するのが大切です。
メリット3.残業時間が少ないことが多い
「エンジニア=残業が多い」というイメージが強い人も多いと思いますが、SESエンジニアに限っては少し違います。ほとんどの場合、SES企業とクライアントは事前に労働時間について定めた雇用契約を結んでいるからです。そのため、クライアントは契約で決めた以上の労働をエンジニアにさせることは基本的にはできません。
また先ほども述べた通り、SES企業がクライアントに提供するのは労働力です。成果物に責任を負う必要がないため、プロジェクトの納期が迫っているから徹夜で作業……ということが発生しづらいのです。
メリット4.大手企業とのコネクションができる可能性あり
クライアント先で働くSESのエンジニアは、自社の社員だけでなくSIerや他のSES企業の人たちと関わる機会が多くあります。いろいろな企業の人たちとのコネクションができるため、クライアント先や他のSES企業から技術が認められれば、転職の相談に乗ってもらえることもあるようです。
デメリット1.収入が低め&年齢が不利になりやすい
SES企業はSIerの下請けとしてプロジェクトを受注するケースが多いため、SES企業とSIerのエンジニアを比較すると、SES企業のエンジニアの方が収入が低い傾向にあります。
また難易度の低いプロジェクトも多く、それらのほとんどが若手の育成案件として使われるため、スキルのないエンジニアだと年齢を理由に選べる仕事の幅が狭まってしまうのがデメリットの一つです。
デメリット2.やりがいを感じづらい
世の中にあるほとんどのSES企業は中小企業ですが、一般的に大きなプロジェクトはまず大手SIerが受注します。その後SIerが仕事を細分化し、中堅企業に割り振ります。中堅企業は仕事をさらに細かく分け、中小企業に割り振っていきます。
そして中小企業に割り振られた仕事はかなり部分的であることがほとんどで、「納品したら終わり」のプロジェクトが多いため、システムやソフトウエアの完成図が見られないまま契約終了……ということもよくあります。自分が担当しているプロジェクトはどんなものなのか、何のために作っているのかを実感しづらいため、やりがいを感じづらいのです。
デメリット3.自社への帰属意識が希薄になる
SESエンジニアは基本的にクライアント先の企業に常駐して勤務することが多いため、同じ会社なのに顔も知らない社員がいるということは珍しくありません。プロジェクトごとにチームメンバーも変更になることが多いので、仲間意識や自社への帰属意識をなかなか持ちづらいという特徴があります。
デメリット4.プロジェクトによって環境が大きく変化する
これまで何度も述べている通り、SESエンジニアはクライアント先での勤務がメインとなるため、プロジェクトや契約期間の終了に伴い、職場が変わります。せっかく職場になじんでも、また次のプロジェクトでは一から人間関係をつくらなくてはならなかったり、労働環境が大きく変わったりする点は人によっては大きな負担と感じてしまうでしょう。
どんなエンジニアがSESに向いている?
SESのエンジニアに向いているのはズバリ、新しい環境に適応できる人です。
SESのエンジニアは短ければ数カ月、長くても2~3年で次のプロジェクトに移ることが一般的です。プロジェクトが変われば勤務地や一緒に働くメンバーも変わります。新しい環境や人間関係を築いていくのが苦ではない人は、SESのエンジニアとしてあまりストレスを感じずに働けるでしょう。
またプロジェクト先のルールなどにうまく適応できるかどうかも大切です。これまでの経験を活かしつつ、新しい技術や開発の進め方を学んでいける素直な人が、SESのエンジニアに向いているといえます。
なぜ「SESはブラック」と言われるのか?
先ほども述べた通り、SES契約は指揮命令権や労務管理をSES企業側が担う必要があります。しかし実際には、クライアントがSESのエンジニアに業務の指示を出している……ということが多くあるようです。
これは明らかな契約違反行為なのですが、エンジニアがそのことに気付いていなかったり、クライアントが違反行為をしていることを証明しづらかったりするため、残念ながら世の中に知られることなく「ブラックな労働環境」が生まれてしまっているところもあります。
それでは、なぜSESでは「ブラック企業」が生まれやすいのか、その理由を確認してみましょう。
ブラックSES1.残業が起こりやすい
先ほど「SESのエンジニアは事前に決めた契約通りに働けばいいので、残業や休日出勤が発生することは起こりにくい」と述べました。しかしSES企業はエンジニアにクライアント先で働いてもらうほど報酬を得ることができるため、あえて労働条件をあいまいに決めておき、状況に応じて残業や休日出勤を命じられるようにしている企業もあります。
また、SES契約は「クライアントに指揮命令権がない」ことを知らないエンジニアが多いのをいいことに、クライアントが残業や休日出勤を命じているというケースもあるようです。
ブラックSES2.下請け企業の待遇が悪くなりがち
例えばA社が10名のエンジニアが必要なプロジェクトを受注したとします。しかしA社が常に10名のエンジニアを抱えているとは限りません。もし5名のエンジニアしか用意できない場合、A社はパートナー企業であるB社にエンジニア5名を用意してもらえるように依頼をします。この時B社が5名のエンジニアを揃えられない場合はパートナー企業であるC社にエンジニアの依頼をします。
このようにIT業界は、一つの案件を2次請け、3次請け……と下請けに流す多重下請け構造となっているため、同じ仕事をしていても下流の企業はどんどん利益が少なくなっていくのです。
会社の利益が少なければ当然エンジニアに支払われる報酬も減っていくのは言うまでもありません。所属する会社によって、エンジニアが“買い叩かれる”こともあり得るのです。
ブラックSES3.常駐先に当たり外れが大きい
自分が配属されるプロジェクトが具体的にどんな様子かどうかは、実際に入ってみないと分かりません。運よく自分が馴染みやすいプロジェクトに配属された場合はラッキーですが、例えば人間関係が悪かったり、すでに納期が迫っていて残業や休日出勤が発生しがちだったり、要件が固まっていなかったりといわゆる“外れプロジェクト”もあります。
エンジニアがプロジェクトに配属される時には、事前に営業担当と面談をするのが一般的なので、その際に対象のプロジェクトがどういった現場かを探ってみるのが大切です。
ブラックSES4.案件のアンマッチが起こりやすい
多くのSES企業では定期的に面談を行い、エンジニアの志向性や得意分野を把握しています。この面談の内容を踏まえたプロジェクトがうまくアサインされるといいのですが、エンジニアが面談の場で自分の得意分野や身に付けたいスキルなどをしっかり伝えられないと、どうしてもアンマッチが発生してしまいます。
また、プロジェクトを受注できるかどうかは営業によるため、「そもそも自分の志向に合ったプロジェクトが受注できていない」ということもあります。
案件アンマッチを防ぐには? 関連記事
ブラックSES企業の実態が分かる関連記事
どうすれば「ホワイトSES企業」を見つけられる?
SESエンジニアは未経験からチャレンジしやすいことや幅広い知識やスキルを得られるなど、実はメリットがたくさんあります。しかし残念ながら、違法に近い経営を行う「ブラック企業」が多いのも事実。
ホワイト企業かどうかを見極めるには、会社の利益をしっかりエンジニアに還元しているか、人を派遣するだけでなく社内に技術を蓄積する仕組みがあるか……などを確認するのが大切です。
……といっても、どういった企業がホワイト企業にあてはまるのかを判断するのは難しいですよね。そこでこの章では、「ホワイト企業を見極めるポイント」について、事前に自分でリサーチする場合と面接時にチェックする場合に分けて紹介します。これから転職活動をする際の参考にしてみてくださいね。
【企業選び】ポイント1.給料・ボーナスがいい
その企業がエンジニアもしくは技術に対して重きを置いているかどうかは、給料やボーナスを見れば一目瞭然です。また給料やボーナスの額はその企業の安定度を計る基準にもなります。技術力や営業力があり、きちんと利益を出せている会社であれば、自然と社員にも還元できるからです。
給料やボーナスだけでなく、イベント時にかかる費用負担を会社がしてくれるかどうかや、福利厚生の充実度などからも判断することができますよ。
駆け出しエンジニアが給与で転職先を選ぶといい理由
【企業選び】ポイント2.社長がエンジニア出身
SES企業の代表(社長)が営業出身だとブラックということではありませんが、社長がエンジニア出身であれば、エンジニアの苦労を理解していることが多いです。そのため会社の設備やフォローの仕方、評価面など細かい点でエンジニアが嬉しい制度や環境が整っている傾向があります。
また社長のエンジニア時代のコネクションによって、条件の良い案件を継続的に受注できている、といったこともあるようです。
社長がエンジニア出身であるということは、SES企業にとって一つのアドバンテージといえるでしょう。
【企業選び】ポイント3.自社開発製品が現在進行形で売れている
その会社に技術力があるかを判断するのに「現在進行形で自社開発をしているかどうか」は一つのポイントです。
一般的にSES事業は、エンジニアをクライアント先に派遣するだけで利益が上がるため、あまりコストがかからない事業といえます。それに対し、自社開発は人件費や設備費がかかるわりに、製品が売れなければコストを回収できません。
そのため、現在進行形で自社開発をしているということは、「製品が売れている」=「技術力がある」ことを意味しています。また、自社で売上を生み出せるということは、その分エンジニアの給与や設備投資に割く余裕がある企業といえます。
ただし、HPや求人広告などで、現在進行形ではない自社開発実績をアピールしている企業には注意が必要です。現在は自社開発をしていないということは「その製品が売れなかった」=「技術がない」ということを指しているからです。営業ツールにするためだけに、過去にとりあえず作った自社製品をアピールしている可能性もあるため、注意して見てみましょう。
【企業選び】ポイント4.エンドユーザーと直接取引がある
エンジニアが希望のプロジェクトにつけるかどうかはその企業の営業力にかかっています。その営業力の高さを表す一つの目安が「エンドユーザーもしくは元請け企業(SIer)とのコネクションを持っているかどうか」です。
世の中にある多くのSES企業が取引をしているのは、同業他社のSES企業であることがほとんどです。その理由は、どのSES企業も人材を求めているため、それほど苦労しなくても受注できてしまうからです。しかしこれでは多重下請け構造の下流から抜け出すことはできません。
求人広告や企業情報を見る時は、その会社がエンドユーザーや元請け企業からの案件を受注できているかどうかをしっかりチェックしましょう。
では次に、面接に進んだ際の「ホワイトSES企業の見極めポイント」を解説していきます。
【面接】ポイント1.案件の話以外も聞かれるかどうか
面接は、求人広告や職務経歴書など書面だけでは分からない人柄や社風、会社の方針などを聞くことができる絶好のチャンスです。
本来は会社と求職者がお互いのことを理解し合う場であるにも関わらず、一方的に求職者のスキルや実績だけを聞かれる場合は、会社が「求職者がいくらで売れるか」と値踏みしている可能性があります。
面接は「求職者が会社を見極める場」であると考え、求職者自身も社風や教育制度、昇給の仕方などあらゆる角度から質問を投げかけることが大切です。面接官が回答を濁したり、一方的に質問をされたりするようなら注意をした方がいいかもしれません。
【面接】ポイント2.評価・昇給の仕方に納得感はあるか
会社の利益を社員に還元しているかを判断する最も分かりやすい指標は、やはり給与です。面接では入社時の給与だけでなく、例えば「昇給は年に何回あるのか」「評価制度には明確な基準があるのか」など、入社後どのようなかたちで評価され昇給に繋がるのかを確認しましょう。
面接官があいまいな回答をしたり、入社から何年経っても微々たる金額しか昇給していなかったりする場合は要注意。単純にエンジニアのことを評価していない会社であるだけでなく、そもそもエンジニアがスキルアップできる仕組みがない可能性もあります。
ホワイトなSES企業でスキルアップ・キャリアアップを目指そう!
今回は、SESのエンジニアについてさまざまな角度から解説しました。文中でも述べましたが、SESエンジニアは未経験や経験浅めからチャレンジしようと考えている人にとって、とてもおすすめの職種です。
一方でホワイト企業に出会えるかどうかが、その後のスキルアップやキャリア形成に大きく影響する職種でもあるといえます。貴重な時間をブラック企業に費やすことがないように、会社の良し悪しをしっかり見極め、着実にキャリアを築いていきましょう。
文/赤池沙希
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