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【育休座談会】「MTGより娘とのお風呂を優先」「みんなもっと休もう」育休が変えたエンジニアたちの価値観

働き方

予期せぬ停滞?意図した休憩?

男性エンジニア、「キャリアの踊り場」を行く

多様なキャリアの選択肢が取れる時代になったとは言え、常に新しい技術を学び続けなければならないエンジニアにとって、「キャリアの一時離脱」は勇気がいるもの。 しかし、どんなキャリアになったとしても、そこにはいろいろな“やりよう”があるはず。 さまざまな「一時離脱、停滞期(=キャリアの踊り場)」を経験したエンジニアの事例から、前向きにキャリアを選択していくヒントを探る。

厚生労働省の発表によると、男性の育児休業取得率は7.48%(2019年度調べ)。育休を取得する男性が増えない理由の一つに、キャリアが中断することへの不安が挙げられる。だが、はたして育休によるブランクはデメリットなのだろうか。

そこで、育休取得経験のある3人の男性エンジニアを集め、座談会を実施。経験者だから分かる育休のリアルを語ってもらった。

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エムスリー株式会社 機械学習エンジニア
河合さん(@vaaaaanquish

29歳。Sansan、ヤフーを経て2019年2月にエムスリーへ入社。機械学習を用いた医師データベースのプロファイリングを主に担当
育休取得期間:2020年10月後半から2020年12月末まで(2カ月半)
>>娘が生まれたので育休をとっています

出産・育児において女性だけがキャリアにビハインドを負う理由はあるの?

――みなさんが育休を取得しようと思ったきっかけを教えてください。

陶山:僕の妻は仕事もキャリアも大切にしている人。妊娠をきっかけに夫婦でいろいろと話すうちに、僕も「出産、育児において女性だけがキャリアにビハインドを負う合理的な理由ってあるんだっけ?」と考えるようになって。保育園に入れるまでの期間を半分に分けて、それぞれが入れ替わりで育児休業を取ることにしました。

河合:私は最初から取る気満々でした。周りの諸先輩方が皆さん育休を取っていたんですよね。だから、自然と取るのが当たり前という考えになっていました。

海老沢:自分も同じです。前職時代の諸先輩方のおかげで、男性が育休を取るのはよくある話という感覚でしたね。

――陶山さんはパートナーと休業期間を半分に分けたとのことですが、河合さんと海老沢さんは休業期間をどのようにして決めましたか。

海老沢:僕のケースは少しイレギュラーで。妻の妊娠が分かったのは、前職に在籍していた頃。当時ちょうど転職を考えていたこと、子どもが生まれた後は動きづらくなってしまうことを考えた結果、「転職するなら今しかないのでは」と思い、育休を取得する前提で転職活動をしていまして。前職と同等の待遇を整えると言って迎え入れてくれたのが今の会社なんです。

前職には育休期間中も6カ月間は収入を補償するという制度があり、現職でも同じように休業開始から最大180日間は同等の手取り金額を支給する制度を作ってくれました。そこで、その制度を活用し、6カ月しっかりお休みをいただくことにしたんです。

河合:私の場合、育休を取ることは自然な流れでしたけど、休むことへの不安は大きかったんです。よくプロサッカー選手って「半年休んだらもう試合に出られない」と言うじゃないですか。それに近い感覚があって。

長く休めばもう自分がソフトウエアエンジニアとして通用しなくなるんじゃないかという恐怖があった。だから、休むと言っても、長くて3カ月かなと。そこで、ちょうど年末年始を迎える12月末まで休むことにしました。

河合さん
――やっぱりキャリアが一時中断することへの不安はありましたか。

河合:相当不安でしたね。2カ月もパソコンに触らないなんてことはそれまでなかったので。

陶山:分かります。僕も自分が8カ月もプログラミングをしないなんて想像付きませんでした。それに加えて、うちは妻と入れ替わりで育休を取得する体制だったので、日中の子どもの面倒は全部自分が見なくちゃいけない。親だから当たり前のことなんですけど、幼い子どもの命を守らなきゃいけないことへの恐怖心は大きかったです。

海老沢:僕はチームメイトの男性が育休を取った経験があり、それを近くで見ていたので、半年くらい抜けても大丈夫だとは思っていました。どちらかと言うと、僕の場合は入社して2カ月で育休に入るので、それまでにしっかり社内で存在感を出さなくなちゃなという方に関心が向いていた気がします。

育休中は、Slackを見ないようにしていた

――育休を取得するにあたって、職場の理解はスムーズに得られましたか?共に働くチームメンバーのためにやったことがあれば教えてください。

河合:うちの場合は周りに育休を取った人たちがいるので、理解を得るのに苦労することはなかったです。

陶山:うちもそうですね。チームが協力してくれたので、その点ではすごく助かりました。

河合:ただ、だからと言って何もしなかったわけではなく。自分が持っているプロジェクトの対応先まとめを作ったり、「こういうことが起きたときはこんな対応をしています」というメモをゴリゴリ残しておくことはやっていました。

海老沢:分かります。僕も育休を意識しはじめた段階から、ドキュメントにまとめることはやっていました。

陶山:あと気を付けていたのが、僕しか知らない情報をできる限りなくすこと。ペアプログラミングやモブプログラミングを採用して、誰かと常に同期できている状態を保つように心掛けていました。

陶山さん
――いざ育休に入ったときはどういう心理だったのでしょうか。

海老沢:僕はポカンとしましたね。というのも出産直後は妻も子も入院中なので、いきなり1人になっても何をやっていいか分からないんですよ。やったことと言えば、保活のために区役所に保育園の資料をもらってくるくらいでした。

河合:でも逆に、その助走期間があったから気持ちを切り替えて育児に向き合うことができた気はしますよね。

――育休中は仕事との距離をどのようにとっていましたか?

河合:私はSlackを見ないようにしていました。見ると、働いていないことに対する不安が出てくるので、休んでいる間は見ないでいようと。

陶山:分かります。僕もSlackを完全遮断して情報が入ってこないようにしていました。

海老沢:僕はSlackを見るのが好きなので、雑談用のチャンネルなどは結局見ちゃいますね。ただ、プロジェクトに関するチャンネルだけは薄目で見るようにしています(笑)

陶山:休んでいる間に勉強とかされました?

河合:私は結構していたかもしれないです。最初は忙し過ぎてできないんですけど、3週間くらい経った頃から慣れてきたこともあり少しずつ空き時間ができはじめて。それをなるべく勉強にあてるようにしていました。子育てをしていると、どうしても時間が細切れになっちゃうんですよね。

陶山:そうなんですよ。

河合:子どもが起きる起きないが生活のすべて。寝ている間にどれだけできるか、という感じでした。

陶山:分かりみが深い。

海老沢:僕は今育休に入ってちょうど1カ月くらいなんですけど、細かく時間はあるものの、集中力のいる作業や勉強がなかなかできないなというのが悩みで。できることと言えば、せいぜい本を読むぐらい。細切れ時間をうまく使って勉強するコツってありますか?

海老沢さん

河合:私はやるタスクを絞っていましたね。論文を読んで実装するようなことは3時間とか5時間とかまとめて時間をとらないと集中できない。そういうのは全部捨てて、新しいプログラミング言語を覚えるとか、プログラミングに関するYouTubeを見るとか、短い時間でできることをやっていました。

陶山:僕は勉強をする余裕自体が全然なかったですね。お昼寝で寝かしつけたら一緒に寝ちゃうみたいな生活(笑)。育休期間の前半は勉強ができないことへの焦燥感に駆られていましたけど、後半はもうあきらめて。育休中は子どもと向き合おうと気持ちを切り替えていました。

河合:そういうところは家庭環境の違いが大きいですよね。

海老沢:よく寝る子かどうかにすべてが懸かっているみたいなところありません?

陶山:確かに。あとは、夜泣きがどれくらいかとか。

河合:そうですね。私の子はよく寝てくれたんで、夜しっかり休めたことは大きかったです。

育休取得が不安なのは、知らないことが怖いから

――陶山さんと河合さんは育休取得にあたってキャリアに関する不安があると言っていました。そのあたりは実際にやってみていかがでしたか。

陶山:休んでいるときはずっと不安でしたね。復帰するとき、「プログラムちゃんと書けるかな?」と思ったのを覚えています(笑)

河合:完全には解消されないですよね。さっきのサッカー選手の話で言うと、リハビリ用の筋トレをして誤魔化している感じはちょっとありました。空いている時間にプログラムを書いてみたり。そうやって少しだけ筋トレをすることで感覚が鈍らないようにしていたところはあるのかなと。

陶山:ただ、実際に復帰してみたら別にどうということはなくて。当時Scalaをメインで書いていましたけど、「読める読める、俺、Scala読める!」みたいな(笑)。しばらく手を動かさなくても、意外と大丈夫なんだなということは、やってみてよく分かりました。

海老沢:結局、僕たちエンジニアの場合って、仕事を抜けることでポジションが落ちたり、周囲に抜かされることが怖いんじゃなくて、自分の進歩とか学習が止まることが不安なんですよね。

陶山:そうなんです。面白いプロジェクトって世の中にたくさんあるので、たとえ自分が休んでいる間に何か面白そうな新規プロジェクトが動き出したとしても、やれなくて悔しいということは考えなかったですし。

陶山さん

河合:そのプロジェクトに私が合っていると周りが判断したら、途中からでもちゃんと呼んでくれるでしょうしね。

陶山:冷静に考えると分かることなんですけど、そもそも例えば半年休んだとして、その半年で今のプロジェクトがどれくらい進みますかと言ったら、せいぜい大きな機能が二つ載ればいい方。半年でいきなりドラスティックに全部の技術が変わってついていけなくなるなんてことは恐らくない。だから、怖がる必要なんてなかったんですよね。

河合:確かに。

陶山:じゃあ育休前の自分は結局、何を怖がっていたかと言うと、「知らないこと」なんですよ。これまで長期間休んだことがなかったから、何が起こるか分からなくて不安だった。でも、こうして体験してみて、知らないことではなく知っていることになった。すると、もう不安ではなくなるわけです。

河合:知らないものは怖い。本当、その通りですね。

育休を取ったおかげで寛容になれた

――では、育休を取る前と後で、仕事観や働き方にどんな変化が生まれましたか。

陶山:優先順位が完全に変わりました。今は仕事よりも家庭が第一。

河合:私もチームのミーティングより娘とお風呂に入る方を優先しちゃいます(笑)

陶山:18時からお風呂の時間だから絶対にミーティング入れないで、みたいなのはありますよね(笑)。それまでは割とワーカーホリックな働き方をしていましたけど、今は朝8時30分に始業して、17時には終業。そこから子どもを保育園まで迎えに行って、お風呂に入れて、ご飯を食べさせて、寝かしつけて。そこでまだ時間があるなら、ちょっと仕事の続きをやる程度。家庭の時間が最優先。その空き時間を仕事で埋めるようになりました。

河合:あとは寛容になれたというのも大きい気がします。他の方が育休を取るのはもちろん大歓迎ですし、育児以外でも休みたいと思ったらどんどん休めばいいと思えるようになった。それまで僕もわりと仕事仕事という生活だったので、そういう視野の広さを持てるようになったのは、育休を取ったおかげだと思います。

陶山:分かる。今は他の人が突然有休を取っても、「疲れてるよね、みんな休もう」って思う(笑)

河合:今って育児をしながらリモートワークのご家庭もあると思うんですけど、子どもがいると本当に仕事って進まないんですよ。そういう事情を想像できるようになったのは、自分が育児を経験したから。相手から返信がないときも、きっと何か事情があるんだろうなと許容の幅が広がった。そこでイライラせず、「だったら私もその時間は娘と遊ぶぞ!」と切り替えられるようになりました。

河合さん

陶山:そもそも子どもは思い通りにならないですからね。

河合:分かります。ソフトウエアと違い過ぎて困る(笑)。プログラムを書いたらちゃんと動いてほしい! みたいな。

海老沢:しかも何が起きているのかわからない。エラーログ出せって話ですよね(笑)

河合:エラーログ、アラートしかないですからね(笑)

陶山:しかもそのアラートが夜中に鳴ったりする(笑)

河合:でも対処方法が分からなくて。

陶山:オムツ見て大丈夫。お腹も空いていない。さて、何ですかみたいな(笑)

河合:メトリックスをダッシュボードに書いておいてくれないと。

海老沢:効率的に対応できないって思っちゃいますよね(笑)

陶山:あと仕事の進め方という意味では、チームで成果を出すことを意識するようになりました。育休前は全部自分でやりたかったし、自分がやることに価値があるんだという驕りがあった。でも今は自分がいなくても大丈夫という状態をいつでもつくっておくことに価値を置いている。そこはドラスティックに意識が変わったところです。

一度立ち止まる選択をとれる社会であってほしい

――今後もしまた育休を取る機会があったら取りたいですか?

河合:私は取りたいですね。やっぱり子どもはかわいいし、成長を見られるのはすごく貴重。次に取るとしたら今度は半年は取りたいです。

――初めて育休を取ったときは不安があったとおっしゃっていました。それでもまた取りたいということは、その不安は解消されたということでしょうか。

河合:そうかもしれないですね。勉強ができるだろうかとか、スムーズに復帰できるだろうかとか、そういった不安は実際にやってみたらなんとかなった。陶山さんがおっしゃっていましたが、やっぱり知らないことが怖いんですよね。1回目が何とかなったんだから2回目も何とかなるだろうくらいの気持ちで今はいます。

海老沢:自分たちの観測している範囲が比較的先進的な企業が多いからかもしれませんが、世の中全体も寛容になっているようには感じます。特にエンジニア界隈は男性の育休取得を推奨している会社も多いですし、育休取得への不安は減ってきているのかなと。

海老沢さん

陶山:僕も社会全体が寛容になっている空気は感じています。子育てに限らず、まだ知らない自分の一面を探しに行きたいとか、いろんな理由で一度立ち止まってみるのもいいと思うんですよね。むしろそういう選択がとれる社会であるといいなと思います。

海老沢:それに、僕らの仕事は半年キャリアが止まったからと言って、なくなるような仕事ではない。たとえキャリアは止まっても、その間、自分の人生や家族の人生は進んでいる。今はそちらに軸を置く時期だと捉えて、家庭のことに全力投球して、また環境が整ったら復帰して、仕事も頑張る。キャリアに関しては短距離走的に見るのではなく、中長距離走的な視点に立って考える方がいいのかなと思っています。

ただ、最後に一つだけ伝えておきたいのが、育休を取ることが必ずしも正義みたいな感じになるのもちょっと違うのかなと。各家庭や個人で考え方も事情も異なる。大事なのは、それぞれが決めたことを尊重し、それを貫ける社会や会社をつくること。そんなふうに僕は考えています。

取材・文/横川良明 編集/河西ことみ(編集部)

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