「1000兆円が眠っている」Web3.0の世界をメルコイン×コインチェック×LayerXが徹底討論! 日本のフィンテックの未来像
GAFAMなどのビッグテックが絶大な影響力を持ち、中央集権的になったとされるWebの世界にいま、変化が訪れようとしている。ブロックチェーン技術を土台とした分散型Web社会、「Web3.0(Web3)」の時代がやってくるとささやかれているのだ。
また、金融の世界では、特定の国家に縛られない資産として暗号通貨への期待が高まっている。もちろん、メタバースやNFTアートなどの盛り上がりも見逃せない。
そこで本記事では、2022年4月12日、13日にわたりエンジニアtypeとメルカリが共同開催したテックカンファレンス『Tech Update 2022』内のセッション、「これからどうなる? 日本のフィンテック」の一部を紹介。
スピーカーは、株式会社メルコイン 取締役 伏見慎剛さん、コインチェック株式会社 執行役員 飯田直規さん、株式会社LayerX 代表取締役CTO 松本勇気さん。メルコイン プロダクトマネージャー 中村奎太さんが聞き手となり、これから訪れるWeb3.0の世界と日本のフィンテックの課題について語った。
各社強みを生かしながら、事業展開は「手探り」な部分も
メルコイン中村:議論の前提として、各社がフィンテック領域でどのようなビジネスを行っているのか、ひいてはNFTやWeb3などの技術トレンドをどのように捉えているのかを確認したいと思います。
まず、メルコインについて、伏見さんからお話しいただけますか?
メルコイン伏見:メルコインはまだ方針と言えるほどしっかりしたものはなく、取りあえずいろいろチャレンジしてみよう、という段階。その上で、事業内容としては大きく三つの軸を立てています。
一つ目が、クリプトアセット(暗号資産)です。具体的には、2021年4月にメルコインをつくり、関係当局などとコミュニケーションしながら暗号資産交換業のライセンス取得を目指しています。
現在、フリマアプリ『メルカリ』はありがたいことに2000万MAU、8000億GMV規模のサービスに成長しました。多くのお客さまに、もっと気軽に暗号資産への投資体験をしていただけないかなと思い、販売所開設に向けて準備を進めているところです。
二つ目は、NFTプロジェクトです。これに関しては2021年12月にパ・リーグさんとの協業を発表させていただきました。
そして三つ目が、ウォレットサービスです。現実的に考えてみて、現行のWeb2.0が即座に3.0へ切り替わることは考えづらい。それならば、両者の架け橋となるような、いわば“Web2.5”とも呼べるサービスが必要なのではないかと考えました。
そこで目をつけたのがウォレットです。ウォレットを提供すれば、Web2.0のサービスであるメルカリのユーザーと、3.0のNFTプロジェクトをスムーズにつなぐことができます。
……なんてかっこよくまとめましたが、正直なところは、どうしたものかと悩みつつも進んでいる感じです(笑)
LayerX松本:まだWeb3.0になじみのないユーザーに対し、気軽にトライできる入り口を用意する。そこにメルカリの強みがある、ということですね。
メルコイン伏見:まさに。われわれの強みは、技術の最先端を一般に普及させる、より踏み込んだ表現をすれば「民主化する」ことだと思っています。
例えば『メルペイ』は、フィンテックという、まだ一般のお客さまにとってハードルが高かった領域をグッと身近にしました。同じことがWeb3.0にもできないかと考えています。
コインチェック飯田:大事なことですよね。われわれコインチェックが目指すところとも、かなりの部分で重なっているように思います。
メルコイン伏見:ありがとうございます。日本には現在500万〜600万程度の暗号資産取引における本人確認済口座があるそうなので、この数字をどこまで広げられるかがわれわれの課題かなと思っています。
これまで暗号資産には触れたことがないような方に「フリマの売上金をビットコインに換えておこうかな」と考えてもらえるような世界を、どうつくっていくか。こうしたアプローチであれば、業界のパイオニアであるコインチェックさんなどとも、良い意味で競合せず、相互に発展していけるのではないかと考えています。
コインチェック飯田:では、この流れでコインチェックの取り組みについてもご紹介します。
ご存じのとおりコインチェックでは暗号資産の取引所サービスを展開しており、今も少しずつサービスの範囲を広げています。具体的には、取引できる暗号資産の種類を増やすとか、NFTのマーケットプレイス『Coincheck NFT(β版)』をオープンするなどですね。
加えて、去年からはIEO(Initial Exchange Offering)プラットフォームである『Coincheck IEO』の提供を開始し、HashPaletteさんと日本初のIEOを実現し、暗号資産による資金調達を支援しました。
このようにいろいろと展開しているところではあるのですが、課題もありまして、その最たるものがエンジニア不足です。
というのも、暗号資産の取引サービスは、各種の法令への対応が必須になるんですね。その分、サービスの開発・運用の面でもやるべきこともたくさん発生するのですが、それに対応するためのエンジニアの数が不足しており、ちょっと困っているなあというのが正直なところです。
LayerX松本:どこもエンジニア不足には悩むものですよね。
コインチェックさんにぜひ質問したいのですが、今後Web3.0の経済圏が拡大していく中で、暗号資産の販売所・取引所はどういった役割を果たしていくでしょうか?
というのも、最近では仲介業者を置かず、ユーザー同士で取引をするDEX(Decentralized Exchange、分散型取引所)なども注目されているじゃないですか。こうなってくると既存の販売所や取引所は、どういう立ち位置になるのかなと思って。
極端な話、「CEX(中央集権取引所)はいらない」論にもつながっていくのではないかと思うんです。
コインチェック飯田:ラフな考えですが、当面はそこまで踏み込んだ変化は起こらないように思います。
今後Web3.0の経済圏が拡大して、DeFi(分散型金融)上のTVL(Total value locked、預けられた暗号資産の価値)が高まっていけば、DEXがメインになってくる可能性もありますが……。
しばらくの間は、日本円から暗号資産へ交換するニーズの方が圧倒的に高いと予想され、販売所や取引所のプレゼンスは失われないのではと。
メルコイン伏見:韓国などでは、むしろCEXでの管理を推進する動きもありますしね。
コインチェック飯田:そうなんです。日本でもこれから議論が進んでいくと思いますが、直近で事業に大きく影響することは考えづらいのではと思います。
メルコイン中村:では、続けてLayerXさんにも最近のお話を伺ってもいいでしょうか?
LayerX松本:LayerXは現状、ブロックチェーン技術への取り組みをいったん休止している状況にあります。
創業当時(2018年)はプロトコルの開発からマイニングまで幅広く手を出し、非中央集権型の社会って面白いな、実現できたらいいな、という思い一筋でやってきました。一方、事業としてやるからには、出口(製品化)を考えなければいけなくなって。
多種多様なPoC(Proof of Concept)をやった結果、芽が出たのが、三菱UFJ信託銀行との協業で生まれた、デジタル証券プラットフォームの『Progmat』でした。
メルコイン中村:そういう経緯があったんですね。
LayerX松本:そうなんですよ。で、なぜ今はブロックチェーン技術をそこまで追い求めていないかというと、われわれの理想とする非中央集権型の社会と、現在のブロックチェーン技術に大きな乖離があることに気付いたからです。
というのも、現在のブロックチェーン技術はとにかく計算が遅い(笑)。この速度では、例えばクレジットカードのネットワークに流れているようなトランザクションをさばくのは、現実的ではないだろうと感じました。
かつ、社会実装するとなると、壁になるのはもっともっと手前の部分だと気付いた。つまり、社会のあちこちにデジタル化されていない部分がたくさん残されているわけですよ。
メルコイン中村:なるほど。
LayerX松本:例えば、「荷札をデジタル化して物流を改善しよう」と言うのは簡単です。でも実際に、現場の方が紙でやりとりしているものをデジタル化してもらうための交渉って、相当大変なわけです。
ブロックチェーンうんぬん以前に、そこができないと社会は変わっていかないよね、と。まずはそういう愚直なデジタル化をやるのが先じゃないか? という議論があり、ブロックチェーンからはいったん手を引きました。
未整備の税制、計算速度……課題は山積みだが期待も大きい
メルコイン中村:各社の立ち位置が分かってきたところで、技術トレンドや現状における課題について話したいと思います。まずはコインチェックさん、どうでしょう?
コインチェック飯田:のっけから技術の話ではなくて恐縮ですが、弊社としては、やはり関連する税制の行く先が気になっています。
例えば、スタートアップ事業者が自社発行のトークンで創業資金を集めたとします。事業者の手元には日本円ではなく、トークンだけがある状態です。
この場合、現在の税制ですと、期末のトークンの時価評価に基づいて課税されてしまうんですよね。この税は当然、日本円で支払う必要がありますから、資金力に乏しいスタートアップ事業者に払えるわけがない。
メルコイン中村:スタートアップとして生き残れるかどうか以前に、自社の暗号通貨を立ち上げられないわけですね。
コインチェック飯田:そうなんです。そのため、こうした事業者はシンガポールやドバイに流れており、非常にまずいなと感じています。国としても、Web3.0に詳しい技術者が国外に流出しているわけで、見逃せない損失だと思うんですよね。
メルコイン中村:暗号通貨の取り扱いをはじめ、ルール整備が進んでほしいですよね。次に、LayerXさんはいかがでしょう?
LayerX松本:ルール整備に期待しているのはもちろんのことですが、技術の進歩にも期待しています。
NFTの仕組みが誕生したのは2017年。そこから5年ほどたちましたが、根本の技術は変わっていなくて、ただムーブメントが盛り上がっているだけにも見えます。
メルコイン伏見:技術的なブレークスルーが起きていないよね、という問題提起には賛成です。ただ、ムーブメントの盛り上がりについては、個人的にはポジティブに捉えています。
というのも、私がOrigamiを創業した2012年には、フィンテックという言葉すらなかったんですよ。「僕たちが毎日持ち歩くスマホで、なぜ決済ができないんだ!」と孤独にほえていたくらいで(笑)。それが2015〜16年あたりから急速に盛り上がり、今も成長を続けている。
たしかに今のNFTやWeb3.0はただのムーブメントかもしれないし、非常にカオス。でも、ここから何かが変わり始めるかもしれない。そんな期待を抱いているんですよね。
「答えのない問い」に技術で立ち向かっていく
メルコイン中村:ここまで多種多様な論点が出てきましたが、最後に、各社が今後目指すところについてお話しいただけますか?
コインチェック飯田:コインチェックは暗号資産やNFT、ひいてはWeb3.0の世界へのゲートウェイになりたいと考えています。
現状では、一般の消費者がNFTを買うハードルは相当高いと言わざるを得ません。このハードルをどんどん下げ、ユーザー体験を高めていく中で技術的なチャレンジも積極的に行っていきたいです。
LayerX松本:LayerXとしては、技術ありきではなく、あくまでも課題に基づいたアウトカム(結果)をベースに、今後も挑戦し続けていきたいと考えています。
ブロックチェーンもNFTも、結局のところツールでしかありません。あくまでも「こういう社会にしたい」というビジョンありきだと思います。
日本には今、「眠っているお金」、つまり投資の場に出てきていないお金が1000兆円以上あると言われます。この1000兆円を動かすことができたら、社会のあり方はガラッと変わるでしょう。
そのためにはどのようなアプローチが必要で、どんな技術が求められるのか、今後も検討を重ねていきます。
メルコイン伏見:メルコインは他2社と比較して、まだスタートラインにも立てていない状況です。
目の前にはコインチェックさんがパイオニアとして開いてきた道があり、LayerXさんが語る未来がある。そんなマーケットにおいて、われわれメルコインができることって何なんだろう? と手探りしています。
ただ一つ言えるのは、プレーヤーが1社、2社と増えるだけでもいろいろなことが前に進むはず。それこそ、税制の課題もそうで、あちこちの会社が働き掛けることによって動き出すものがあるでしょう。そうなったときにどんな未来が見られるのか、今から楽しみです。
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文/夏野かおる
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