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ヤフー新CTO・小久保雅彦の思考法「“楽”できる効率的な仕組みを探してきた」

働き方

この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!

2022年4月、ヤフーのCTOに小久保雅彦さんが就任した。小久保さんは同社にいちエンジニアとして入社したたたき上げで、直近ではYahoo!ショッピングやヤフオク!、PayPayカードなどに代表されるコマース領域のCTOを務めてきた人物だ。

22年4月には全社CTOに就任し、順風満帆なキャリアを歩んでいるように見える小久保さんだが、「私ほど社長にお叱りを受けた経験を持つCTOや役員はいないと思うんですよね」と語る。そんな小久保さんがいかにしてエンジニアとしてのキャリアを積み上げてきたのかを尋ねると、「常に“楽”できる効率的な仕組みを探してきた」と意外な答えが返ってきた。

楽をして出世できるなら、それに越したことはないように思えるが……。取材を進めると、苦労を乗り越えてきたエンジニアの思考術が見えてきた。

kokubo

ヤフー株式会社
取締役 常務執行役員 CTO(最高技術責任者)
小久保 雅彦さん(@makokubo_yj

1972年生まれ。大学卒業後、SIerでの銀行ネットワーク構築、C++コンパイラ開発、イン ターネットプロバイダーの認証・課金システムの開発・運用などを経て、2004年ヤフーに 入社。ポイント、カード、公金決済システムのほか、法人向け課金プラットフォーム、IDプラットフォームなど主に決済・ID系の開発業務に携わる。2018年にはコマースCTOに就任 し、その後執行役員の兼任を経て、22年4月よりヤフーのCTOに就任

「人事評価には使わない指標」に込めたメッセージ

まず、今回のCTO就任にあたり、小久保さんはヤフーのエンジニア組織約3000名に向けて、大きく二つの「実現したいこと」を伝えた。

一つ目は、「多くの良いサービスを世に出すこと」。二つ目は「成長を実感してもらえる組織づくり」だ。

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「私がCTOとして目指すのは、エンジニア自らが良いサービスとは何かを考え、そのアイデアをサービスという形で世に出していける組織です。そのためには、エンジニア自身が成長を実感できる仕組みもセットで考えていく必要があると考えています」

小久保さんが長くヤフーで働いてきた理由もまた、「成長を実感できる機会を折に触れて与えてくれたから」と語る。

では、ヤフーがエンジニアにとって成長を実感できる場所であり続けるための秘策はあるのだろうか。

「まず、エンジニアが自分たちの成長を可視化できるように四つの指標を設けました。それが、1.サービスリリース数、2.AIモデルリリース数、3.サービス可用性の向上、4.トラフィックあたりのコスト、です。これらを半年単位で測って、どのくらい改善されたかを判断していきます」

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「ただし、これらは人事評価に使用するためのものではなく、あくまでエンジニア個人がどれくらい成長したかを定量化するための指標です。なので、必ずしも数字は上がっていなくてもいいんです」

指標なのに、上がらなくてもいいとはどういうことなのか。小久保さんは、その理由を「失敗も成長の糧だから」だという。

「自分で立てた仮説が上手くいかず短期的に指標が下がったとしても、その経験を振り返ることこそが重要です。成長の過程に避けては通れない、アップダウンを評価対象にしてしまうと、失敗を恐れる文化につながりかねないですからね。

私もそうでしたが、自分たちのアイデアと技術でサービスをつくっていることを実感できたり、そのフェーズを純粋に楽しめたりできることがエンジニアたちのモチベーションの源泉になるはずで。そこには失敗も成功も関係ないぜ、という私なりのメッセージでもあります」

何度も見舞われる想定外で見えてきたもの

失敗も成長の糧――。小久保さんをよく知る人物であれば、納得のいく言葉なのかもしれない。というのも、小久保さんは他の役員にいつも慰められるくらい、怒られっぱなしだったからだ。

「思い出されるのはやはりコマースCTO時代のことですね。PayPayのリリース当初や大規模なキャンペーン施策、超PayPay祭などの負荷対策です。予想以上のトラフィックがあったことで、何度かサービスを止めてしまい、ユーザーやお店の方はもちろんのこと社内外の関係各所にも多大なるご迷惑をおかけしました」

大量のトラフィックが予測される際、事故が起きないような仕組みを作る努力をするのは大前提。ただ、ヤフーではその予測を大幅に超える反響があることも少なくなかったと振り返る。

PayPayとの連携強化により、カード事業、銀行事業は大きく成長。この10月にはYahoo!ショッピングとPayPayモールは売り場を統合し、新生「Yahoo!ショッピング」へとリニューアルする。この先ビジネスが加速すればするほど、“想定外”が現われることは必至だろう。

いくら予想してもその予想を超えてくる反響があり、その都度トラブルを処理する日々に、逃げ出したくなったりはしなかったのだろうか。

「想定に想定を重ね、準備したものがダメだった時は凹みますよ。何よりも、ユーザーをはじめ、社内外の関係者に大きな迷惑がかかるので、毎回心苦しい気持ちでいっぱいです。

ただ、障害が起こったときはいち早く原因を突き止め、解決しなくてはいけないので、現実は落ち込んでいる場合じゃない。そんな時は、『この状況をいかに打破するのか』を考えることに意識を向けるようにしていますね。

『どうしたら防げたのだろうか』と考えたり、『こんなツールを作っておこう』『この機能はこう変えておこう』と次につながる予防策の考案に取り組んだりすることが苦にならない。将来のトラブルを防ぎ、現場の業務を楽にする作業に対して、むしろやりがいを感じるんです」

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「楽をしたい」気持ちは、子どもの頃からありました。他の教科はダメでも数学だけは得意だった理由も「公式さえ覚えてしまえばいい」からでしたね

「元々ヤフーに入社する前はSIで組み込み開発を手掛けていました。スクラッチでコンパイラ開発に従事していたので、それはそれはコーディングすることが苦しくて。ところが、時代がインターネットの世界に移行し、OSSやらデータベースやらに出会うわけです。シンプルで自由度が高くて、可能性も感じ、そこで『俺はここで生きていく』と心に決めました(笑)」

ヤフーに入社してからもキャリア戦略なんて考えてはいなかったという。ただ、途中から、自分で技術選定の裁量を持つためには役職者になるしかないと気付いた。

チームリーダーになってからも、メンバーが効率的に動ける仕組みを考えていたら「あれもこれもやってくれ」と請われて、「いつの間にかCTOになっていた」と小久保さんは笑う。

「さまざまな経験の中で、改善策を最優先で考え実行することを繰り返してきました。手前味噌ですが、私がCTOに選ばれたのは、そんな姿を評価してもらえたのかなと思っています」

「好き」だけで突き抜けるのは、F1レーサーになるくらい難しい

魅力的な企業やサービスが数多く登場しているこの時代、ひとたび現職で壁にぶつかると「別の会社に転職しようかな」と考える若者も少なくない。

だからこそ、これなら頑張れるという自分のモチベーションの置き所を早い段階で見つけておくといいと小久保さんは語る。

「モチベーションの軸に立ち返れば、目の前の成功や失敗、あるいは環境変化を気にし過ぎなくて済むはずです」

モチベーションの置き所を探る方法としてオススメなのは「好き嫌いをしないこと」。

「もちろん、最初は好きなことでスキルなり、キャリアを伸ばしていけばいいと思うんです。

私自身もエンジニアリングが好きだから、この道を選びました。ただ、一定のレベルからはさまざまな経験をした方が、結果的に成長につながるのではないかと思います」

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「自分が得意とする言語以外のものを使ってみることで、効率の良い開発方法が学べたり、逆にそれぞれに通底する思想に気付いたりすることができるかもしれません。

だから、仕事を振られたら基本断らないというのが、私が取ってきた道です。好きな仕事ばかりではありませんでしたが、その際に自分のモチベーションをどうすれば維持できるかを知ることができた。私の場合は、それがどんな状況でも『楽できる効率的な仕組みを考えること』だったと思います」

同時に、好きなこと、得意なことだけで大きな成果をあげるのは「F1レーサーになるくらい難しい」と小久保さん。だからこそ、多様な経験を積むことが結果的に早い成長に繋がるという。

「私自身、自分が突き抜けた能力を持っているとは思っていません。でも、ヤフーで培ってきたさまざまな経験が、今CTOとしての仕事に役立っています。

これだけの規模の企業でのCTOはなかなか経験できるものではありません。やるからには、今よりもさらに良いサービスが生まれる会社になったと言ってもらいたい。

私が辞める時にそれができていたなら、さらに成長した自分に出会えるのかな、と思います」

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取材・文/高田秀樹 編集/玉城智子(編集部)

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