*「Developer Human Resources」の略。エンジニアやデザイナーなど、専門性を持った組織の成果創出をバックアップする存在として、組織改善に集中的に取り組む役割を担う
「組織改善もアジャイルで細部まで」Chatworkの事例に学ぶ、“働きがい”を感じられる開発組織づくりとは?
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優秀なエンジニアを仲間にしたい。せっかく採用したエンジニアに長く働いてほしいーー。エンジニア採用に力を入れる企業の多くが、リモートワークを導入するなどエンジニアにとって「働きやすい」環境づくりに力を入れている。
一方で、「働くをもっと楽しく、創造的に」をコーポレートミッションに掲げるChatworkのCTO室/DevHR*の高瀬和之さんは、「企業の成長をさらに後押しするためには、エンジニアが『働きやすい』だけでなく、『働きがい』を感じられることが大切」だと話す。
アジャイル型の組織開発で、エンジニアが「働きがい」を感じられる環境づくりに取り組んできたというChatworkの事例を、高瀬さん、同社HRBPの武田遼介さんに教えてもらった。
Chatwork株式会社 HRBP/CTO室/DevHR
武田遼介さん
大学卒業後、SIerで新卒採用から総務までを幅広く担当。セガゲームス(現セガ)に転職し、プログラマー・プランナー・デザイナー・バックエンド等の採用・人事企画に携わる。その後はメルカリでCS部門マネージャーの採用やHRBPとしてチームマネジメント、制度設計に携わり、全社の人事SaaSの選定・導入・効果検証をPMとして担当。資生堂に転職し、SaaSの導入を中心とした統括PMOを担う。2022年よりChatworkにジョインし、全社のHRBP(部門人事)・中途採用を担う部署のマネージャーと、プロダクト開発部門のHRBP、組織企画部(全社人事施策の企画)を兼任
Chatwork株式会社 CTO室/DevHR
高瀬和之さん(@guvalif)
理系の教育一家に生まれる。幼少期より電子工作やプログラミングに触れ、ものづくりへの興味を持ったことから長岡工業高等専門学校へと進学。その後は大阪大学工学部に編入後、2足歩行ロボットの開発を行うプレンプロジェクト社に入社。5年間勤務してCTOを勤めた後、2019年9月にChatworkにジョイン。採用・育成業務に携わるほか、並行して専門学校や小学校での講師としても活動
技術力か影響力か。志向に合った土壌が「働きがい」を育む
——Chatworkでは、エンジニアが「働きがい」を感じられる開発組織づくりに注力しているとのこと。そもそも、エンジニアにとっての「働きがい」とは何だと考えていますか?
高瀬:エンジニアはざっくり二つのタイプに分けられると思っていて、一つ目のタイプは、職人タイプ。
技術力を磨いたり、新しい技術について学んだりすることが好きで、技術的なチャレンジがそのまま働きがいにつながるタイプです。このタイプは「この会社でしかできない経験」を求める傾向があります。
例えば、『Chatwork』であればDAU*(1日あたりのアクティブユーザー数)100万人というユーザー数や、同時多発的・大量のトラフィックをさばく経験などが挙げられると思います。
私自身も、『Chatwork』がScalaで開発されている国内有数のプロダクトであることに引かれたことが入社理由の一つです。また、期待した通りエンジニアが持つ高い技術知見や好奇心をぶつけられる場所であることが、働きがいにつながっています。
*2022年9月末時点でDAUは101.7万人
もう一つのタイプは、携わるプロダクトの影響力や社会貢献性を重視するタイプです。自分たちが作っているものがどのように社会にインパクトを与え、ユーザーを幸せにしているのかを重視するエンジニアも多いと思います。
このタイプが「働きがい」を感じるのは、何よりもユーザーの反響を得られた時です。『Chatwork』であれば、圧倒的なDAUがあり、社会インフラ化したプロダクトですから、少しUIを変えただけでもSNSで話題になったりします。自分が開発したものが多くのユーザーに届いている実感が、後者のタイプの働きがいになりますね。
ざっくり二つのタイプに分けてみましたが、同じエンジニアであっても何を働きがいにするかは志向性によるので、会社が提供する魅力は複数あった方がいいと考えています。
武田:私からは「働きがいがある組織にあるもの」という角度からお話しできればと思いますが、これも大きく分けると二つの条件があります。
一つ目は、「会社が目指す方向がクリアなこと」。例えば「レンガを積み上げる」という仕事があったとして、ゴールが分からないままでは退屈なだけです。
だけど、「僕たちは今、お城を作っているんだ」「これは、お城を守る大切な壁なんだ」と分かっていれば、同じ仕事でもずっとやりがいを感じられるはず。
このように、会社の方針が解像度の高い状態で浸透しているかどうかが日々のモチベーションを左右するカギになります。
高瀬:そうした目標をマネージャーがうまくブレークダウンして伝えることも大切ですね。経営層が立てる目標はどうしてもビジネス視点に寄りがちですから。
例えば、「有料プランの契約数を〇〇社に増やす」「そのために、〇〇という新機能をリリースする」というような目標。営利企業である以上、事業の存続・成長が目標になるのは当然です。
しかし、エンジニアの立場に立つと、ビジネス的な都合だけで「この機能を〇月までに作ってくれ」と“受託開発”を強いられるのはつらいものです。
エンジニアが納得感を持って働くためには、マネージャー層がタスクの背景を深く理解し、納得感のあるかたちでチームに伝える必要がありますよね。
——もう一つの条件とは?
武田:優秀なメンバーと働けることだと考えています。
「(スキルも成長意欲も高いメンバーと働ける)この環境なら成長できる」と思えると、エンジニアの会社へのエンゲージメントは高まりますよね。
ですからChatworkでは、尊敬し合える同僚と切磋琢磨できる環境を整え、エンジニアの成長機会をできる限り増やし、個人のスキルアップ・キャリアアップにつなげてもらえるような組織づくりを行なっています。
「情報の粒度」「意思疎通のしやすさ」……細部にもアンテナを張り、アジャイルで改善
——エンジニアにとって「働きがいのある組織」をつくるためにChatworkがこれまでに取り組んできたこととは?
武田:先ほど「会社のミッションが浸透しているかどうかが大切」という話をしました。ただ実際、各メンバーに方針を受け入れてもらえるかどうかはマネージャーの伝え方に大いに左右されるところがあります。
同じ方針を伝えるにしても、「上がこう言っているから」ではメンバーは納得しづらいですよね。そこで、マネジメント手法や会議体のあり方、ドキュメンテーションのルールなどを細かくアップデートするようにしています。
例えば、マネジメント手法という点では、10月から大きく組織体制を変えました。エンジニアリングマネージャー業務からピープルマネジメントの部分を切り離し、複数名で・複数チームをマネジメントする体制にしました(前回記事参照)。
他にも、マネージャー定例ではマネージャー全員が持っている情報の粒度がバラけないように密に情報を共有。メンバーへの伝え方まで認識合わせをしています。
細かい部分ですが、社内で飛び交うチャットにしても、メンバーが「なぜこの方針に決まったのか分からない」とつぶやいていたら、コミュニケーションを取り、不安の種を早め早めに取り除くことを心掛けています。
——マネージャーも見ているチャットでオープンに意見できる風土は良いですね。
武田:その点はビジネスチャットを扱うChatworkならではかもしれませんね。日頃からチャットを通じて意見交換することをポジティブに捉える社風があるからです。
高瀬:僕自身も中途でChatworkに入社した立場ですが、「チャットに書き込めば、必ず誰かが10分以内に返信してくれる文化」が自然と根付いていて驚きました。どんな悩みでも必ず誰かが反応してくれると思うと、心理的安全性が高まります。
武田:あと、マネージャーこそ率先してぼやくべきというか(笑)、メンバーに対して積極的に”あるべきコミュニケーションの姿”を見せにいくべきだと感じています。
そうすればメンバーも「こんなことを言ってもいいんだ」「こんなふうに返答すると気持ちいいんだ」と安心できますし、おのずと組織のコミュニケーションの質も高まると感じているからです。
高瀬:Chatworkはプロダクト本部の多くの社員がアジャイルスクラムの手法を研修で学ぶので、課題を見つけたら悩み立ち止まるのではなく、解決に向けた思考と行動が自然に伴う風土がありますよね。
武田:そうですね。このアジャイル志向は社内のあらゆるところに浸透していて、例えば評価プロセスなどもアジャイルで改善を続けています。来年にもいくつか施作を実装して仮説検証をしていく予定です。
例えば、Chatworkでは人事考課シーズンが終わると、各マネージャーにアンケートを取るのですが、直近寄せられた回答で「メンバーの挑戦をもっと評価したいけれど、今のグレード要件だと適切なフィードバックがしづらい」というものがあって。
確かに、評価の基準となる各グレードの定義は二行程度でまとまったシンプルなものでした。そこで納得感ある要件に改善するために、人事だけでなく、各職種のマネージャーも交えて定義のブラッシュアップを検討しています。
——技術的なチャレンジができる環境づくりについてはいかがでしょうか。
高瀬:技術面での挑戦については、手を動かすエンジニアがオーナーシップを取れるかどうかが重要だと感じています。
なので信頼して権限を委譲するようにしていますし、「オーナーシップがとりづらそうだな」と感じたらボトルネックになっているものに合わせて組織や進め方を柔軟に変えるように心掛けています。
他にも、プロダクト本部内での連携を強化するために、他部署や他職種との交流の場として「Beer Bash」や「LLTTT(Lunch Lightning Tech Talk Time)」といった取り組みを行っています。
「Beer Bash」は一言でいうと業務時間内の懇親会で、希望者はアルコールも交えながら自分のチームを自慢したり、どのような活動をしているのかを紹介したりします。
Chatworkも社員数が多くなり、「他部署がどのようなことに取り組んでいるのか分かりづらい(縦割り組織になりつつある)」という声が出てくるようになったため、このような会を設けて交流を促しています。
「LLTTT」は「LT(Lightning Talk)」よりもっと気軽なトークで、ランチタイムなどに自分の興味・関心について自由に話す機会です。この他にも、自然発生的な勉強会は多数ありますし、他チームの設計の様子だったり朝会だったりをのぞきに行くのもOKとしているので、学習の機会はあちこちに用意されています。
このような試みのメリットは、メンバーのチャレンジ精神を刺激できること。エンジニアが成長するためには、オーナーシップを持ってプロダクトを開発することが重要だからです。
そのためには最新技術へのキャッチアップや権限移譲、そして何より本人の興味・関心が大切なので、いろいろな手段でエンジニアの好奇心を刺激していきたいですね。
「働きがい」の主は自分自身。まずは声を上げることから始めて
——ここまで、エンジニアが働きがいを持てる組織をつくるための方法という視点からお話をいただきました。では、エンジニア一人一人が「働きがい」を得るためにできる工夫はありますか。
高瀬:まずはシンプルに声を上げていくことだと思います。「チャレンジしたい」というポジティブな気持ちも、「ここを変えてほしい」というネガティブな気持ちも、言葉にしなければ周囲の人に伝わりません。
何か不満があってもアクションを起こさないまま、「この組織はダメだ」と見切りをつけてしまう方もいますよね。それを頭から否定するわけではありませんが、言葉にするだけで事態が改善に向かうこともあります。
むしろ、そこで改善フローが動き出すかどうかを組織レベルのバロメーターにしてしまえばいい。見切りをつけるのはそれからでも遅くないのではないでしょうか。
高瀬:チャレンジについてもそうです。以前、新卒2年目の社員に、インターンシップのプロジェクトマネージャーを任せたことがありますが、それもその社員が交流会で「高瀬さんの仕事が面白そう。やってみたい」と話してくれたことがきっかけでした。
武田:高瀬さんのように、マネージャー層が率先してロールモデルになってくれるとメンバーのモチベーションも上がりやすいですよね。その意味では、身近なところに「この人のようになりたい!」という存在がいることは大きいなと思います。
例えばChatworkには、メンター&エルダー制度という、入社者の精神的・技術的サポートを両輪で支える制度もあります。「メンター」は年齢やキャリアなど属性が近い方、「エルダー」は所属部署の上長や先輩がアサインされるので、何か困ったことがあったり、チャレンジしたい気持ちが湧いたらこうした人に相談するのも一つの手です。
武田:そして何より、会社やプロダクト、組織自体がチャレンジングであることも欠かせません。『Chatwork』はCEOである山本が、まだ「ビジネスチャット」という言葉すらなかった時代につくったプロダクトです。
チャレンジングな背景、あるいは目標をプロダクトや組織自体に掲げてみることも、エンジニアが自身をアップデートし続けられることにつながるのではないかと考えます。
取材・文/夏野かおる 撮影/桑原美樹 編集/玉城智子(編集部)
撮影場所:Chatwork 東京オフィス(WeWork 日比谷FORT TOWER)
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