この連載では、注目企業のCTOが考える「この先、エンジニアに求められるもの」を紹介。エンジニアが未来を生き抜くヒントをお届けします!
「“楽しい課題のシェア”でモチベーションは上がる」MIXI新CTO・吉野純平が考える、エンジニアの意欲の保ち方
MIXIは2023年4月、5年間にわたりCTOを務めた村瀨龍馬さんが取締役 上級執行役員の役割に専念することに伴い、CTOのバトンを開発本部の本部長である吉野純平さんへと託した。
吉野さんはエンジニアとして新卒で入社し、15年間MIXIでキャリアを築き上げてきた。さまざまなポジションを経験した吉野さんが考える、自分自身のキャリアをアップデートできるエンジニアの条件とは何だろうか。
新CTOとして取り組んでいきたいと考えているビジョンと合わせて、話を聞いた。
株式会社MIXI 執行役員CTO 開発本部長
吉野純平さん(@junpei_y)
大学院卒業後、08年4月に新卒エンジニア職で株式会社ミクシィ(現 MIXI)に入社。SNS『mixi』のインフラを担当後、アプリケーションの運用に従事。その後、物理インフラ、サーバ運用、ネットワークから、映像処理や撮影などIP通信関連の開発を手掛ける。19年5月にインフラ室の室長、22年4月に開発本部 本部長を担当。23年4月 執行役員CTO就任
「この会社でできること」を探していたら、ずっとMIXIにいた
08年の新卒入社以来、MIXI一筋を貫いてきた吉野さん。人気のスマホゲーム『モンスターストライク』の運用に携わっていたインフラ開発グループのマネジャー時代にも、エンジニアtypeに登場している。
ネットワーク、アプリケーション運用、インフラ部門のマネジメント、22年からは開発本部の本部長を担当し、この春CTOに就任した。
ずっとMIXIという会社に腰を据えてきた吉野さんだが、「辞めようと思ったタイミングが全くなかったわけではありません」と明かす。それでも、結果として辞めることなく一つの会社でスキルアップし続けてこれたのは「入社1年目での経験」が大きかった。
「新卒で配属された部署では、1年目の新人時代から予算管理も任せてもらっていました。そこで、どれくらいの予算でどんなことができるのか、与えられた予算内でどう成果を出すかを考える経験を積んだんです。
その結果、自然と『今のMIXIならこんなことができるだろうな』ということが肌感覚で分かるようになりました。
なので、別の企業からオファーをいただいたり、長く担当していたプロジェクトが終わったり、年次が上がっていく過程で別の場所へ移るきっかけが訪れても、『でも、MIXIでもまだこういうチャレンジができそうだ』という選択を取ることができた。
チャレンジする中では、”自分の得意領域を持つこと”、”得意領域を複数にしていくこと”を意識して取り組んできました。これが、今のキャリアにつながっていると思います」
入社15年。花形スマホゲーム『モンスターストライク』のエンジニアを経験後、着々とキャリアアップをしてきたが、常に同じ温度感で仕事に向き合えたわけではない。
特にこの数年間はプライベートにも変化があり、モチベーションの上下を感じる機会も多かった。
「子どもが生まれ家族が増えたことで、時間の使い道が大きく変わりました。これまでスキルアップのための学習にあててきた時間も、以前に比べて減りました。
また、担当していたプロジェクトが事業撤退によりクローズになったことも、気持ちが落ち込んだ理由の一つです。
ですが、幸いにして私はMIXIに入社してからさまざまな役割を任せてもらってきました。その中で自然と、『見る角度を変えてみる』という癖付けができていたんです。
プライベートの時間を学びに使えないのであれば、会社に貢献しつつもスキルアップできるような仕事を探してチャレンジすればいいと考えることができましたし、一つのプロジェクトのクローズを引きずりすぎずに『次のチャレンジに生かそう』とマインドチェンジすることができました。
モチベーションはパフォーマンスにも関わる重要な要素。下がった時も、自分の力で上げていけるよう意識しています」
「楽しい課題がシェアされる」開発組織作りを目指す
CTO就任し、新卒から自身を成長させてくれた組織を自分が作っていく側へになった。今、目指しているのは「面白い課題がある組織」だ。
「仕事でなんらかの区切りがあると『ここでやれることはやりきったかな』と思ってしまいがちです。エンジニアとしてモチベーション高く働き続けていくためには、やりがいのある課題や、評価につながるような挑戦が常に身の回りにある状況が望ましい。
これは、これまで多くのエンジニアと触れ合ってきた中で確信していることです。
なので今後は、技術的に『面白い課題』を意図的に用意することでエンジニアにとって刺激がある状態を作りたいと考えています」
そのために、吉野さんが取り組もうとしているのが「内に閉じがちなチーム」の改革だ。
「どんなチームでも何かしら技術面や運営面の課題は抱えているものですが、現状はチーム内で解決しようとするあまり外に開示されていないケースが大半です。
ですが、異なる視点で見ると驚くほどスムーズに解決することもある。そこで、まずは『課題をシェアし合う』ことを目指していきます。
課題によって足踏みしていたチームは、第三者からのアドバイスによって解決の糸口が見える。目の前の業務に慣れてモチベーションが低下しているエンジニアは、新しい課題に取り組む機会を得られる。双方にとってメリットのある環境をつくることで、課題の解決スピードも上げていきたいです」
取材当時、CTO就任から約1カ月。「正直なところ不安でしかない」と吉野さんは笑う。
「ただ、前任の村瀨(龍馬)は変わらず社内に居るので、これまでどのようにMIXIの開発組織をつくってきたのかを学ぶことも、判断に困ったときに相談することもできます。
そういう意味では、先人から学べるタイミングでこのポジションを任せてもらえて良かったな、と思いますね。学べることは学べるうちに学び、CTOとしてやるべきことを遂行していきたいです」
この先求められるのは「変化を許容し、効率的に学べるエンジニア」
最後に、エンジニアにこの先求められる要素について聞いてみたところ、吉野さんは「変化を許容できること」と答えた。
「会社も、事業も、扱う技術も、近年はすさまじいスピードで変化していきますよね。エンジニアにとっては、状況に合わせて新たな技術に興味を持ち、必要な知識を吸収できることの重要性が増してます。効率も意識し、変化についていかなくてはいけません。
学びの効率化に効果的な方法は、大きく分けて二つ。一つ目は、『きついパターン』を経験することです。
先程お話しした過去の話にもありましたが、担当していたプロジェクトが業績などの関係でクローズすることってありますよね。プロジェクトをきちんと畳む経験は、事業をつくっていく上では貴重です。『次はこうやろう』『収益化するためにここを工夫しよう』と、失敗を繰り返さないための努力にもつながります」
「そしてもう一つは、『学ぶための勉強』をやめることです。
『Excelの知識を付けるために勉強しよう』と思うのと、『計算を効率化するためにExcelの使い方を知ろう』と思うのとでは、後者の方が学びに身が入る気がしませんか?
何かを学ぶのであれば、学ぶ目的から考えること。そして、その目的を達成するために最も合理的な方法や必要な技術を選んで学ぶこと。この過程を踏むことが大切です」
もちろん、知識やスキルを身に付ければ良いというわけではない。吉野さんは、十分に学んだ上で「決断経験を積むこと」の大切さを強調した。
「エンジニアとして最も強いのは、結論を早く出せる人だと思うんです。何も完璧なアウトプットで目に見える成果を上げよ、というわけではありません。
エンジニアとして経験を重ねていけば、プロジェクトの過程で決断を迫られることも増えるでしょう。もちろん、迷うこともあると思います。そんな時は『今は迷おう』と決めてしまえばいい。それも一つの決断ですから。
私は物事をめちゃくちゃ迷うタイプなのですが、『今から迷います』と先に言うようにしています(笑)
自分で迷うよりも関係者からの意見を集約した方が早い場合には、そのために動くのも決断です。プロジェクトを前に進めていくためには、『どうするのか』という決断が必要なので、そのスピードを速めていくといいと思います。
プロジェクトに関わる人たちの要望を正しく理解して、その上で優先順位付けていく。この順番を意識すると、決断のスピードが上がるはずです」
取材・文/阿部裕華 撮影/赤松洋太 編集/秋元 祐香里(編集部)
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