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従来のコーディングテストは無意味になる? ChatGPTがエンジニア採用に与える影響とは【樽石将人×葛岡宏祐】

ITニュース

2022年11月、彗星のごとく登場し、IT業界のみならず世間から注目を集めたChatGPT。入力する質問によっては精度の高いコードを生成することが可能なため、「エンジニアの仕事さえも奪われる時がきたのでは」というささやきも聞こえてくる。

採用シーンにおいて、「技術力」はエンジニアの市場価値を計る一つの判断基準とされてきた。しかし、ChatGPTのような高度な生成AIが普及しつつある今、エンジニアの評価基準はどう変化していくのか。そしてそれをどのように判断するのか。

コーディング試験サービス『HireRoo』を提供するハイヤールーの代表・葛岡宏祐さんと、Googleや楽天、Rettyなどで経験を積んだのちに独立した樽石将人さんが登壇したイベントの内容を一部抜粋しつつ、今後のエンジニア採用について考えてみよう。

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株式会社ハイヤールー 代表取締役 葛岡宏祐さん

1996年生まれ、京都府出身。バックパッカーとして世界一周を経験後、独学でiOSの旅行アプリ『AminGo』をリリース。2018年にAIエンジニアとして株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。20年2月、画像検索プロジェクトのテックリードとして株式会社メルカリに入社し、20年12月に株式会社ハイヤールーを創業。23年2月開催のカンファレンス 「Industry Co­-Creation(ICC)サミット FUKUOKA 2023」内で実施されたピッチ・コンテスト「SaaS RISING STAR CATAPULT 次のユニコーンを探せ!」にて優勝

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樽石デジタル技術研究所 代表 樽石将人さん

Google、楽天を経て、当時黎明期であった2014年にRetty株式会社にCTOとしてジョイン。現在は樽石デジタル技術研究所の代表を務めながら、某大手企業のCTOとして組織変革をリードしている

「ツールが作れる人」「ツールを使う人」の二極化が進む

昨今話題の中心となっているChatGPTは、従来の生成AIと何が違うのだろうか。葛岡さんは「人間と対話しているかのような使用感」を特徴として挙げる。

以下の画像は、上段がGoogleで「コーディング試験」と検索した際に上位表示されたページの情報、下段がChatGPTで「コーディング試験に関して説明してください」と指示した場合の返答だ。

樽石将人×葛岡宏祐
樽石将人×葛岡宏祐

よく見比べてみると、説明の内容に大きな違いがないことが分かる。単純な質問であれば、このように顕著な差は出ないだろう。

しかしChatGPTには、「前後のコンテキストを理解して回答できる」という強みがある。これがChatGPTが持つ人間らしさの正体の一つだ。

「『〇〇について教えてください』といった問いからChatGPTが生成した回答に対して、『ここが間違っています』と指摘をすれば、それを踏まえて新たなレスポンスをします。これは、Google検索との大きな違い。ChatGPTは、人間らしく振舞うことに最適化されたモデルと言えるでしょう」(葛岡さん)

AIが登場した頃から、多くの仕事はいずれAIに代替されると叫ばれてきた。とはいえ、これまでは「ITの専門人材であるエンジニアであれば安泰」という見られ方があったのも事実だ。

今、ChatGPTに「この条件を満たすコードを書いてください」と指示を出せば基本的なコードであれば問題なく生成されるようになった。いよいよ「エンジニアであってもAIに仕事を奪われる時代になったのでは」と警鐘を鳴らす識者も増えている。

実際のところ、ChatGPTの普及によってエンジニアに求められるものはどう変わるのだろうか。

「おそらく、AIの民主化によってシンプルなコードであれば多くの人が書けるようになるでしょう。その上で、今後は『ツールを使う人』と『ツールが作れる人』の二極化が進む可能性があります。

例えばスタートアップの場合、圧倒的な技術力でプロダクトの差別化を目指す企業もある。しかし、ツールの導入によってコーディング業務の民主化が起こると、技術による優位性を発揮できなくなります。

もちろん、効率化のために『ツールを使える人がほしい』という企業もあるとは思います。ですが、新たなものを生み出そうとするのであれば、『ツールが作れる人』が重要になってくるのではないでしょうか」(葛岡さん)

コードの正しさでは計れない技術力。「思考プロセスに目を向けて」

ChatGPTのような生成AIの進歩によって、変わっていくエンジニアの仕事。すなわちそれは採用する企業にとっても、従来の選考方法や評価基準では立ち行かなくなることを意味する。

葛岡さんは「各社がオリジナリティーを持ってコーディング試験の問題を考える重要性が増していく」と考えを述べた上で、樽石さんの意見を求めた。

「たしかに私が在籍していたGoogleでもオリジナルの問題を作っていました。ただ、オリジナルのテストだから、価値があったかというとそうでもない。

導き出された答えをもとに、求職者と面接官でディスカッションをして、いろんなインサイトを見いだしていく。その過程をよく見てたんですよね。そういう意味では、ChatGPTが出てきても大きな影響は受けないのかなと感じています」(樽石さん)

樽石将人×葛岡宏祐

この考えに、葛岡さんも同意を示す。

「コーディングそのものの正しさよりも、プロセスやコミュニケーション能力を重視するものですよね。私の経験を振り返ってみると、外資企業の場合はすでにこのような試験を行っているケースが多いように思います。

ただ、国内企業が実施するコーディング試験だと、候補者に1週間程度の時間を与えて、問題の回答を提出させるような宿題形式が一般的です。この場合、候補者がChatGPTなどを使っていないとも限りません。

ともすれば、当人のスキルとは関係なく、ChatGPTによって生成されたコードの正誤を見て評価してしまう可能性がないとも言い切れないのです」(葛岡さん)

今後、生成AIの活用はどんどんメジャー化する。コーディング試験も生成AIの活用を前提としたスタイルへの変化が必要なタイミングなのかもしれない。

「知り合いのエンジニアがChatGPTを使っている様子をみると、しっかりと要件定義をして、意図とは異なる回答の場合は何が違うのかを説明しています。つまり、対話を繰り返しながら精度を上げているんですよ。

なので今後の採用試験では、出題された問題の回答を得るためにChatGPTと対話したプロセスを提出してもらうのはどうでしょうか? 思考プロセスやコミュニケーションプロセスが分かるのでは、と思います」(樽石さん)

樽石さんが提案した方法であれば、いわゆるプロンプトエンジニアとしてのスキルを問うことが可能となるだろう。葛岡さんも「実務でChatGPTを使って良いとするのであれば、ChatGPTを使って問題が解けるかどうか、という点は大いに評価に値する」と頷く。

「そもそもコーディング試験を含めた採用の過程は、『この人とうまく仕事ができるのか』『どのようなパフォーマンスを出してくれるのか』をサンプリングして検証するものです。ChatGPTを使って、問題解決ができる人材なのかどうかを見極めるのも一つの方法かもしれませんね」(葛岡さん)

スピード感と創造力でプレゼンスを発揮する時代へ

エンジニア採用の変化についての議論は白熱。とはいえ、そもそも業務でChatGPTを使っているエンジニアはどの程度いるのだろうか。

イベント参加者に対するアンケートを行うと、実に85%が業務でChatGPTを使っていると回答。改めて、ChatGPTの普及の速さが伺える。

これほどまでにChatGPTの業務利用が一般化している今、エンジニアに求められるスキルはどのように変化していくのだろうか。

「これまでも、Google検索したり、活用できるコードをライブラリから引用したりすれば、ある程度のものが作れる状況ではありました。そう考えてみれば、ChatGPTは新しいプログラミング言語が出てきたような、そんなインパクトなのではと捉えています。

重要なのは、ツールを使いながら物事を実現することそのためのスピード感を高めていくことではないでしょうか」(樽石さん)

葛岡さんも、「ChatGPTは全ての課題を解決するものではない」と語る。

樽石将人×葛岡宏祐

そして改めて、「作り手」となるエンジニアの重要性を強調した。

「クリエイティビティーや創造力は、知能や感情のないChatGPTには代替できません。ツールを作れるエンジニアの価値は、これからどんどん上がっていくと思います」(葛岡さん)

文/林 春花 編集/秋元 祐香里(編集部)

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