アバナードのPower Platform統括責任者に聞く、リーダーとしての心掛け「来た球を打つだけでなく、先を読む力を磨く」
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コロナ禍以降、急速にニーズが拡大したDX。インターネットの概念として話題を集めたWeb3.0。そして直近、IT業界を超えて注目の的となっているAI。
次から次へとテックトレンドが生まれ、それとともに、企業のニーズも日々刻々と変わり続けている。
変化の激しい現代。各プロジェクトを率いるリーダーの重要性が増している。メンバーをマネジメントしながら確かな成果を出すことができるマネジャーとなるためには、どのような姿勢が必要なのだろうか。
今回、アクセンチュアとマイクロソフトのジョイントベンチャーであるアバナードでPower Platform統括責任者を務める後藤智親さんに、そんな問いをぶつけてみた。
市民開発ニーズが高まる中、数千人規模のデジタル人材創出に貢献
ーー後藤さんはDX推進の中でも、Power Platformを活用したプロジェクトの統括を行っているとか。Power Platformとはどのようなツールなのですか?
簡単にご説明するとすれば、マイクロソフトが提供するローコード開発ツールです。
コロナ禍以降、DX推進ニーズは増加の一途をたどっています。しかし、課題となるのが企業内のデジタル人材不足。そこで市民開発をサポートするツールとして、Power Platformに注目が集まっています。
ーーさまざまなローコード開発ツールがある中で、Power Platformの特徴はどこにあるのでしょうか?
Power Platformの優位性の一つは、シンプルですが「マイクロソフト製である」という点です。
ローコード開発ツールはPower Platform以外にもあります。Power Platformに近い機能性を備えたツールもあるかもしれません。ですが、日本企業の多くはマイクロソフト製品を中心に業務をしていますよね。DXを推進するにあたって「導入しやすい」という利便性の高さが、普及を後押ししています。
実際、当社ではすでに数十個のPower Platform関連プロジェクトが走っている状況です。ローコード開発はリスキリングの観点からも注目が集まっているので、今後もさらなるニーズ拡大を見込んでいます。
ーーDX推進だけではなく、デジタル人材の育成にも効果があるのですね。とはいえ、Power Platformを導入するだけでDX推進が進むわけではないですよね?
たしかに大切なのは導入後の活用です。とあるクライアントの事例をお話ししましょうか。同社では、結果的に大きなインパクトを出すことができましたが、市民開発を開始した当初からうまくいっていたわけではありませんでした。
ここ数年、同社はデジタル人材の育成を強化してきました。そんな中、調達や営業、経理、人事などのあらゆる業務ユーザーが、自分たちの使いやすいシステムを自ら構築できるようにと市民開発を開始。それに向けてPower Platformの導入後、われわれとのプロジェクトが発足しました。
実際に現場を見てみると、市民開発を促進するための改善ポイントは大きく二つありました。
一つは、市民開発に参加するためには社内での資格取得が必要だったり、計画を詳細に立てる必要があったりと、ルールが厳しすぎたこと。もう一つは、開発に関する疑問点が出ても速やかに解消できる体制がなかったことです。
ーーそれらをどうやって解決していったのですか?
ガバナンスや教育を含めた全方位的な支援を行いました。
まずは、「どうすれば業務ユーザーが手を動かしやすくなるか?」をひたすら考える。その上で、開発のしやすさとガバナンスのバランスの取れたルールを同社のために作成したのです。
加えて、開発スピードを上げるために技術相談会を開催。アバナードのトップレベルの技術者が窓口となり、業務ユーザーのPower Platformに関する疑問をその場で解決していきました。
相談会は30分を1枠として毎週何十枠も設けましたが、予約を開始すると5分で埋まってしまうほどの盛況ぶりでした。
上記の取り組みを通じて、同社ではPower Platformを扱えるデジタル人材が数千人単位で増加。単にプログラムの方法を教えるだけではなく、自らの手で開発するマインドを業務ユーザーの中に醸成できたことが今回のプロジェクトのポイントだったと認識しています。
クライアントの真の課題に迫る「本質思考」が強みになる
ーーDXがうまく進まず悩んでいる企業は多いですよね。それらの企業に共通点はありますか?
攻めと守りのバランスがうまく取れていないケースは多いです。
IT部門のように、ガバナンスを主なミッションとする組織がDXを推進すると、どうしてもルールが厳しくなりがちです。かといって、企画を主なミッションとする組織がプロジェクトの旗を振ると、今度はガバナンスがおろそかになりやすい。本来DXは両者を横断した体制で取り組むことが非常に大切なのです。
もう一つの原因は、業務ユーザーの目線に立った制度設計が不十分である点です。ありがちなのは、「業務ユーザーによる開発は自己啓発の一部」として位置付けし、人事評価の対象外としているケース。
その場合、せっかく開発にチャレンジしても評価につながらないため社員の意欲が上がらず、浸透していきづらいのです。
ーーそういったケースにはどう対応していくのですか?
DXプロジェクトはIT部門だけで進められるものではありません。さまざまな部署との連携が必要なため、クライアントには一定の負荷が発生します。
しかし私たちは「この体制でやらなければ、アバナードが支援したところで十分な価値は出せません」とあえて明言します。
それは「協力さえしていただければ、必ず成果を出せる」という自信の裏返しでもあるのです。
DXで大事なのは、プロジェクトメンバーが一丸となってゴールへ歩む姿勢です。「言ったものを作ってくれるんでしょ?」という一方的な関係性では、DXは決してうまくいきません。
本気で会社を変えようとする全員の熱量こそが、プロジェクトを成功に導くのだと思います。
圧倒的なスピード感と技術力に加えて、アバナードの社員は一人一人が「本質思考」です。
RFPに対して要望通りに回答するだけではなく、「もっとこうしたら面白くなるのでは?」といった提案や付加価値の提供を行うのがアバナード流です。
「RFPにはこう書かれているけれども、クライアントは本当はこんな世界を実現したいはず」「それなら、こんなアプローチをするとより良い結果が出るのでは?」と、何をどう実現するべきかをクライアントの立場に立って本気で考えます。
RFPの回答を見たクライアントに、第一声で「うちのことをよく分かっているね」と言っていただける機会が多いのは、このような姿勢が評価されている証だと受け止めています。
プロジェクトの責任者としては「自分たちにしかできない仕事をする」ことの意識を浸透させるようにしています。本質思考で考え、メンバーの熱量を引き出し、クライアントの協力を得られれば「成功する」と実体験からも確信しているのです。
「生の情報」を取りに行く。チームを率いるリーダーのあるべき姿
ーープロジェクトの成功にはリーダーのかじ取りが重要です。技術の進歩が早く、クライアントニーズも目まぐるしく変わっていく中、エンジニアたちの先頭に立つマネジャーには何が求められているのでしょうか?
最も大切なのは、スピードです。最近ですと、生成AIの活用について多くのプレーヤーが必死に頭をひねっていますが、そうした状況で競争に勝つためには決断の早さが欠かせません。
最先端のプロジェクトを率いるマネジャー層には「来た球を打つ」だけではなく「トレンドやクライアントニーズを先読みし、行動を取る」姿勢が求められると言えるでしょう。
ーー先を読めるリーダーであるために、後藤さん自身が心掛けていることはありますか?
アンテナを高く張っておくことですね。最新のテクノロジーやマーケットのトレンドを常に把握しておくために、できるだけ多くの方とコミュニケーションを取り、自分でも手を動かして新しい技術を吸収し、新しいアプローチやソリューションを考える時間をつくるようにしています。
もちろん新聞やニュースから得られる情報も豊富です。しかし、世の中に発信されているそれらの情報は、一次情報とは言い難いのも事実。やはり人と直接話して、生きた情報を得ることが重要だと思います。
アバナードではさまざまな領域のビジネスを手掛けています。そのため社員と話すだけでも各領域の課題を把握できるのは利点ですね。
マイクロソフトとアクセンチュアのジョイントベンチャーということもあって、関連企業やクライアントとして多くの上場企業との接点があるので、あらゆる業界の情報を知ることができるのは有難いと感じています。
ーー普段から、たくさんのプロジェクトリーダーと接しているかと思います。活躍するリーダーに共通点があれば教えてください。
夢や野望を持っている人ですね。そういった人たちは「挑戦」することにしっかりとパワーを注げます。
チームを率いる立場になると「こんなこと言ったら、周りに悪く思われるかもしれないな」と言いたいことを止めてしまう人もいる。
ですが、保守的であることでプロジェクトが停滞してしまうこともあるでしょう。勇気を持ってチャレンジできるマネジャーの方が、プロジェクトで成果が出せるのではないかと思います。
アバナードには「挑戦」できる環境でチャレンジするリーダーが多い。そういったリーダーたちから私もいつも刺激をもらっています。
取材・文/一本麻衣 撮影/桑原美樹 編集/秋元 祐香里(編集部)
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