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ドイツでなぜヒット?海外ユーザー5割の快挙、TimeTreeにみる海外展開メソッド

ITニュース

2023年11月8日、一般社団法人日本CPO協会主催による「Product Leaders 2023」が開催された。セッション6では、株式会社TimeTreeのCPO吉本安寿さんへのインタビューを実施。全世界で5000万人以上が利用するカレンダー共有アプリ「TimeTree」のグローバル展開について詳しく伺った。

ドメスティックな展開に止まりがちな日本のアプリ。定説をはねのけ、TimeTreeはなぜ世界で受け入れられたのか。その軌跡と戦略に迫る。

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【登壇者】株式会社TimeTree CPO
吉本安寿さん(@YSMTYSTS

2011年にヤフー株式会社に入社、広告商品企画業務に従事した後、13年にカカオジャパンに出向しサービス企画業務を担当。2015年にJUBLEE WORKS(現株式会社TimeTree)に入社し、TimeTreeのプロダクトマネージメント及びマーケティングを担当。現在はCPOとしてプロダクトの成長戦略の策定・実行を担っている

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【ナビゲーター】 一般社団法人日本CPO協会理事
株式会社EventHub CEO
山本理恵さん(@rieyam45

ブラウン大学経済学部・国際関係学部を卒業後、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーサンフランシスコ支社に入社。医療、金融、パブリックセンターの戦略立案・コーポレート・ファイナンスプロジェクトに従事する。在籍中に出向制度で認定特定非営利活動法人TeachforJapanへ出向することを機に日本へ。2016年に株式会社EventHubを創業し、2019年より現サービスEventHubを提供する

海外ユーザー5割のカレンダーシェアアプリ「TimeTree」

山本:まずは、TimeTreeというアプリについてご説明いただけますか?

吉本:TimeTreeは、2015年にリリースしたスマートフォン用カレンダーアプリです。通常のカレンダーアプリとは異なり、誰かと共有することを前提として作られています。

CPO協会 product readers 2023 timetree

一つのカレンダーを複数人が自分のスマートフォンから見て書き込むことで、それぞれの予定を共有できるカレンダーシェアアプリだ。

吉本:例えば家族でシェアした場合、子どもの参観日や会社の飲み会など、家族の予定が見えます。つまり、昔あったリビングの壁掛けカレンダーをデジタル化したようなプロダクトですね。家族の他にも、恋人、親密な友人グループなどで利用していただくパターンが多いようです。

現在の登録ユーザーは約5000万人。最も多いのが日本のユーザーで、全体の5割弱です。登録ユーザー数でみると海外ユーザーの方が割合が高く半数を超えています。

海外ではドイツ、台湾、アメリカ、英国、韓国の順にユーザー数を伸ばしています。地域ごとに特性があり、例えば日本やドイツでは家族や恋人間で共有されることが多い一方、台湾では恋人・パートナー間で多く共有されています。

CPO協会 product readers 2023 timetree2

山本:ドメスティックな利用に留まりがちな日本のアプリのなかで、海外ユーザーが半数を超えるとは快挙ですね。アプリリリース当初から、国外のユーザー登録数は順調に伸びていったのでしょうか?

吉本:実は当初から日本国内だけでなく、グローバルで利用してほしいと考えていて。なので、アプリストアが使える国では全てダウンロードできるようにリリースしたんです。

当初アプリは日本語と韓国語、そして英語に対応しており、日本・韓国以外の国では英語で使うという仕様でした。通常日本語と英語の二か国語でリリースされるアプリが多い中、弊社に韓国語スピーカーがいたおかげで、当初から三か国語リリースが可能となったんです。

そのおかげもあってか、色々な地域の多様なカテゴリーの方々がダウンロードしてくれました。

ただ、「カレンダーを共有する」というコンセプトが海外の国に刺さるのか、リリース当初はまだ半信半疑でした。なので、まずはリリースしてみて、ユーザーからのフィードバックを得ながら進めていくことにしました。

TimeTreeがドイツで伸びた、意外な理由

山本:海外展開にあたり、多くの経営者やCPOが市場の数や選定方法、進出の順序に頭を悩ませています。御社では、TimeTreeリリースにあたり、どの国から進出すべきかをどのように決定していったのでしょうか?

吉本:TimeTreeは当初からアプリストアが使える国であればどこでもダウンロード可能な状態でリリースしましたが、そのなかでも注力すべき国の判断にはいくつかの指標を設けていました。

その指標に沿って、伸びそうな兆しを観察し、ポテンシャルがありそうだと判断したら力を入れる、という方針をとっていましたね。

ニーズを満たせているか、機能的なコンセプトが刺さっているか、そしてプロダクトが市場に浸透しているかという3点を指標として定量的に観察していました。

具体的には、利用の継続率や口コミなどのバイラルの浸透を見るために、人口に対するマンスリーアクティブユーザーの割合を見ていました。

ときには、TikTokで取り上げられて多くのユーザーが一時的に流入してくるようなケースもありますが、そのような場合は慎重に見極めなければなりません。流入してきたユーザーの利用の深さを注意深く観察してから、その国に注力するかを判断しています。

山本:予想外にニーズの高かった国はありますか?

吉本:ドイツでこれほど使われることは想定外でしたね。そこで、ドイツのどの都市で多くダウンロードされているのか調べてみたところ、デュッセルドルフでの利用が相対的に多いことが判明しました。

デュッセルドルフという都市は、日本の駐在員が住む街として選ばれやすいらしいのです。この情報によって、現地の日本人から普及していったのではないかと考えています。

現地に足を運び、ニーズの違いを把握

株式会社TimeTree CPO 吉本安寿さん

株式会社TimeTree CPO 吉本安寿さん

山本:日本であれ海外であれ、プロダクトを広めるには顧客ニーズの把握が欠かせません。
日本ならまだしも、異国の顧客ニーズはどのように把握しているのでしょうか?

吉本:ユーザーはTimeTreeアプリ内から問い合わせや要望を送ることができるのでそこから届く要望はかなり参考にしていますね。そして、届いた内容は社内Slackで全て確認しています。

国ごとに、はっきりと分かれる顧客ニーズもあって。例えば、祝日の表記や、中国などで使われている旧暦などは、国別に対応しなければなりません。

また、カレンダーのフォーマットとして、日本ではマンスリーが選ばれますが、ヨーロッパだとウィークリーが選ばれる傾向にあります。

山本:海外の顧客にインタビューして意見を聞くこともあるのでしょうか?

吉本:はい。国ごとの視点では解決できない顧客ニーズは、実際のインタビューから探ります。

そこで重要になってくるのは、その国ならではのライフスタイルを知り、どんな課題が生まれやすいかを把握することです。

というのも、ドイツではダウンロードした後の利用継続率が非常に高いのですが、実はお隣のオーストリアやオランダでも同じ現象が起こっています。これは国境に関係なく、同じようなライフスタイルを送っていることが要因だと考えられます。

つまり、国は違えどライフスタイルが似ていると同じような課題が生まれる。似た課題を持つ国に対して、TimeTreeをどう展開していけば拡がりそうか推測できます。

実際、どのようなライフスタイルにどんな課題があるのかを知るために、現地調査をしたことも。ドイツと台湾には、現地までユーザーインタビューしに行きました。

山本:ドイツと台湾のユーザーは、それぞれどんな特徴があるのですか?

吉本:ドイツでは日本と同じように、家族でカレンダーを共有しているケースが多かったですね。子どもの習い事の送り迎えの予定など、日本と同じような使い方をしていることが分かりました。

対して台湾では、恋人・パートナーで共有されていることが多い印象。日本では夫婦で使っていると、飲み会の予定などを入れるパターンがよくありますが、これは暗に「夕食はいらないよ」という合図になっています。

しかし、台湾には自炊文化がなく、夕食も屋台などで済ませることが多い。夕飯について情報を共有する必要性は薄いことが分かったんです。

山本:文化によって共有する情報のニーズも違うとは、おもしろい発見ですね!

海外展開を成功させる、社内のグローバルカルチャー

山本:そもそも御社はTimeTreeアプリのシングルプロダクト体制なのでしょうか?

吉本:弊社は1ソースでシングルプロダクトを展開しています。言語や文化によってUIを変えたり、サードパーティのツールを入れて、機能を出し分ける仕組みはできるようになっていますが、基本的にはどの国でも同じプロダクトが展開されるように組織されています。

山本:地域別に仕組みや組織を分けている?

吉本:国ごとに組織を別にすることはしていません。プロダクト開発チームは基本的に、グローバルに見ています。新機能を追加する場合には、グローバルで一斉展開し、国ごとの利用率をチェックし、低ければ低い理由を、高ければ高い理由を国ごとに深掘りして最適化していく仕組みです。

山本:日本ではよくTimeTreeの広告を見かけますが、世界に向けてのマーケティングはどのようにしているのですか?

吉本:マーケティングは、グローバルに向けてはほぼやっていないんです。一時期はドイツや台湾でデジタル広告を運用していたこともあるのですが、今はほとんどがオーガニック戦略で広げています。

口コミも大事ですが、例えばアプリストアに何を書くかというのも、結構重要です。ユーザーインタビューで実際にどういうキャッチフレーズが刺さるのかを探ったり、対面でスクリーンショットを見せて、どのパターンが一番しっくりくるかを聞いてみたり、そういうことはやっていましたね。

山本:この国でしかないというような要望や新機能はそれほどないとおっしゃいましたが、一つのプロダクトをいろんな国に提供していることで、コンフリクトが起きることはないのでしょうか?

吉本:そこまで多くはないと思っています。基本的にtoCプロダクトはデータから得られる情報がかなり多いので、判断がつきやすいんです。

例えば、利用が伸びる兆しのある国では、利用頻度や利用率、1週間のうちに何割の人が利用しているかなどのデータが細かく見えるので、その点をチェックしてチューニングしていくという発想ですね。

プロダクト開発では、利用者データの情報をいかに把握するかが重要ですが、ビジネス展開はまた別。ビジネスに関しては国によって規制がかなり違うので、グローバルに一気に展開できるものもあれば、できないものもあるでしょう。

プロダクトの開発やビジネスの展開は、日本を拠点としている場合、まずは解像度高く調査できる日本で進め、うまくいけば海外に進出する、といった流れが多くなる傾向があるのではないかと思います。

山本:今後海外展開を検討している方々に、海外展開の成功のコツや、アドバイスなどをお願いします。

吉本:思い返してみると、私たちは日本でだけやる、というマインドがなく、最初からグローバルで成功させたいという思いがありました。その出発点が、私たちの強みだったのでしょう。

グローバルでビジネスを展開するためには、現地の人の考えや思考パターンが分からないとうまくいきません。私たちにはその考えが強くあり、現地の人との接点をいかに作るかを重要視してきました。

社内にも、韓国をはじめ、ドイツ、フランス、フィンランド、中国など、いろんな国のバックグラウンドを持った社員が働いています。この背景が、現地のマインドを知ることに役立ちましたね。

海外展開するんだという強い意思とコミット、そして会社のカルチャー自体がグローバルであること。これが、海外展開の成功への鍵となるのだと思います。

文/宮﨑まきこ

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