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エンジニアは本来「雑談上手」な職種? 元Google人事が送る仕事力アップにつながる会話のNGポイント&Goodポイント

働き方

チームでプロジェクトに取り組むことが多いエンジニア。チームワークは、仕事のパフォーマンスを左右する要因の一つと言っても過言ではない。

しかし、中にはチーム内でのコミュニケーションに苦手意識を持つ人も多いのではないだろうか。

「エンジニアは本来雑談が得意なはず。いくつかのポイントを意識して『いい雑談』ができるようになれば、チームのパフォーマンスは大幅に向上します」

そう語るのは、元Google人事で書籍『世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』の著者であるピョートルさん。

なぜ私たちは雑談に苦手意識を持ってしまうのか。「いい雑談」と「悪い雑談」は、何が違うのだろうか。雑談力アップのコツとともに、詳しく聞いた。

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プロノイア・グループ株式会社 代表取締役
ピョートル・フェリクス・グジバチさん(@piotrgrzywacz

連続起業家、投資家、経営コンサルタント、執筆者。モルガン・スタンレーを経て、Googleで人材開発、組織改革、リーダーシップマネジメントに従事。2015年に独立し、未来創造企業のプロノイア・グループを設立。16年にHRテクノロジー企業モティファイを共同創立し、20年にエグジット。19年に起業家教育事業のTimeLeapを共同創立。ベストセラー『NEW ELITE』(大和書房)他、『パラダイムシフト 新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』(かんき出版)、『PLAY WORK』(PHP研究所)、『世界最高のコーチ』(朝日新聞出版)など著書多数。新著に『心理的安全性 最強の教科書』(東洋経済新報社)『世界の一流は雑談で何を話しているのか』(クロスメディア・パブリッシング)

雑談の苦手意識の正体は「思考パターンの違い」

ーー「雑談が苦手」というエンジニアは多いように思うのですが、なぜ苦手意識を持ちやすいのでしょうか。

それは、エンジニアの思考パターンに一因があると思います。あくまで一般的な傾向ですが、営業や人事などの職種を選ぶ人は、人に対する共感性が高いケースが多い。一方でエンジニアになる人は、論理思考が強い傾向にあります。

そういった傾向の人材は、黙々と仕事に取り組むことが得意です。チーム全体が同様の性質になりやすいため、ひょっとすると、会社に来ても「おはようございます」「お疲れさまでした」ぐらいしか話さない場合もあるかもしれません。

このような環境では、会話の練習ができませんよね。普段から人と話すことが少ないと、何を話せば相手が喜ぶのか、何を話すと相手が不快に感じるのかを理解できないので、いざ必要に迫られて話したときに雑談がぎこちなくなってしまうのです。

ーーちなみに海外のエンジニアも、雑談には苦手意識を抱いているものなのでしょうか?

そういう方もいるとは思いますが、日本に比べると少ないでしょう。というのも海外の有名大学では、エンジニアを目指している人でも「ITの勉強だけ」をするわけではないからです。

グローバルで評価を得るためには、深い会話ができる必要があります。そのため、教養の一環として対話の練習が行われているのです。

一方、日本の場合はあまり深い会話をしなくても業務が成立するケースが多いですよね。それは、日本が持つ美徳の一つ。日本人が相手のことにあまり深く立ち入らないのは、相手を尊重しているからでしょう。

この会話に対するスタンスの違いが、雑談に対する苦手意識の違いにつながっているのかもしれません。

ただ私は、エンジニアという職業の方々は本来とても雑談が得意なはずだと思っています。

ーーそれはなぜですか?

エンジニアとして働く方々は、平均的にIQが高い傾向が見られます。そしてエンジニアが作るプログラムとは、人間の思考の一つの形に他なりません。言い換えると、エンジニアはプログラミングを通じて深い対話を行っているのです。

「プログラミングと人の思考は別物」「モニター上だからできること」と思う方もいるかもしれませんが、その高度なスキルは、アナログな会話でも十分に生かせるものに違いありません。

雑談というと、「おしゃべりが上手な人」がするイメージをしがちですが、何も大きな声で周りをまきこんでいくことがベストとは限りません。本当に優れた雑談とは、相手に落ち着きを与えるものです。

論理思考を生かしてしっかりと傾聴すれば、相手は「自分はこういうことを大切にしていたんだ」と思考を整えることができます。そういう聞き手がチームにいると、チーム全体の雰囲気が良くなり、パフォーマンスの全体的な向上につながるでしょう。

エンジニアの論理思考は、相手に「落ち着き」を与える雑談をする際に役立つものだと思いますよ。

ーーとはいえ、仕事をしていく上で雑談って本当に必要なものなのでしょうか?

もとより、人間というのは社交的な動物です。社会という群れで生きていることからも分かる通り、どんなに「一人で生きたい」と思っても本当に孤独ではどこかで限界がくるでしょう。

人に頼り、支援してもらい、接しあうことが私たちの生活の中では必要不可欠。そこで、雑談を通じて共通点や類似点を見つけることが重要になります。

共通点が見つかると、徐々に仲が深まっていき、次第にそれがチームワークへと発展していく。それは、仕事においても同様だと思いますよ。

ピョートル・フェリクス・グジバチさん

「いい雑談」ができる人は、チーム全体を引き上げる

ーーピョートルさんが考える「いい雑談」「悪い雑談」とは、どのような雑談なのでしょうか?

「いい雑談」とは、相手と自分との共通点を見つけられる雑談だと考えています。

それぞれの価値観をシェアして、違いを認め合い、今後どのような関わり方ができるのかを見極める。「この会話を通じてお互いに学び合うことができた」と少しでも感じられたら、それはいい雑談だったと言えるでしょう。

反対に「悪い雑談」は、相手を理解せずに終わってしまう雑談です。

私の出身地でもある欧州や米国では「私はこの件についてこう思うんですよね」と自分の意見を話すことを得意とする人が多い。相手の話を引き出すためには自分の話もある程度必要ですから、これは雑談力を高める上では必要なスキルです。

しかし日本では、あまり自己開示をしない人も多いでしょう。

日本人は雑談で天気の話をする人が多いイメージがありませんか? ですが、それで相手に対する理解が深まるのでしょうか?

それよりも、適度に自分の話もしながら「あなたはどういう人なのか」「何を大切にして仕事をしている人なのか」を知ろうとする方が、よっぽど人間関係の構築に役立つと思います。

ーー「いい雑談」ができるようになると、エンジニアにはどのようなメリットがありますか?

お互いのことをあまり知らない状況では、感情的な葛藤が生まれやすく、人間関係がギクシャクしがちです。しかし「いい雑談」を通じて相手のことが分かってくると、自然と協力し合えるようになります。

特にエンジニアにとって重要なのは、雑談によって多様な意見を取り入れられるようになる点です。

優れたプロダクト開発には、さまざまな視点の反映が必要です。「いい雑談」ができるエンジニアは人間関係の構築に長けているので、相手から本音を話してもらいやすくなります。

メンバーや関係者がポロッとこぼした言葉も貴重な意見です。それをプロダクト開発に生かすことができれば、より良いものづくりにつなげられるでしょう。

ピョートル・フェリクス・グジバチさん

好奇心を持って相手に集中すれば、会話は自然と続く

ーーエンジニアが雑談力をアップさせるために、意識するべきポイントを教えてください。

まず、注意するべきNGポイントからお伝えしますね。大きく分けて三つあります。

NG.1 いきなりプライベートな話に突っ込む

いくら相手のことを知りたいからと言って、いきなり「今付き合っている人はいますか?」といったプライベートの話は避けましょう。

相手との信頼関係がない状態で踏み込んだ話をすると、「この人はどうして私にそんなことを聞くのだろう?」と警戒されてしまう可能性があります。

NG.2 “階層”に関する質問をする

特に日本で意識している人が少ないと感じるのは、「住んでいる場所」や「出身大学」を問う質問の危険性です。こうした質問は、相手の社会的階層を間接的に示すものであり、答えることに抵抗を感じる人もいます。

この他にも、宗教や性的アイデンティティーなどに触れる質問は避けた方が無難でしょう。

NG.3 雑談のための時間や場所を設ける

雑談は会議とは異なり、話す内容があらかじめ決まっているわけではありません。だからこそ相手は、自分に対する質問をされたときに「この人は自分に興味があるんだな」と感じてくれるのです。

雑談が人間関係の構築に役立つのは、スキマ時間を使って質問を投げかけることで相手に対する好奇心を自然に示せるから。しかも短時間で終わるので、身体的・精神的な負担も大きくはありません。

これを、「あなたのことについてもっと深く教えてください」とミーティングや飲み会の場を設定してしまうと、「何を聞かれるんだろう」と構えてその場に行くのが怖いと感じる人もいるでしょう。

駅まで歩く時間や、休憩中にたまたま顔を合わせた短い時間などをうまく使うことで、雑談は心地よいものになります。

ピョートル・フェリクス・グジバチさん

ーー確かにわざわざ場を設けるよりも、ふとした時間に話しかけてもらえた方が不思議とうれしいものですよね。では、雑談中に意識すると良い行動はありますか?

こちらも大きく三つあります。

Good.1 相手に対して「好奇心」を持って「集中」する

深い会話をするためには「好奇心」と「集中」の二つが絶対に欠かせません。これがない状態でどんな話をしても、本当は相手に興味がないことがすぐにバレてしまいます。

逆に言うと、この二つさえあれば話題を準備する必要はありません。今の相手の状態が自然と見えてくるからです。例えば「今日は調子が良さそうですね。何かいいことがあったんですか?」といった簡単な会話でも、相手への好奇心はきちんと伝わります。

日本的な会話の一つに「最近どう?」と言うのがありますよね。悪くはないですが、もう少し詳しく質問するとより良いでしょう。そのほうが会話が続きますし、相手も具体的な話をしやすくなると思いますよ。

そして、ただ事実を確認するだけの会話にならないように注意するとより良いでしょう。「イエス」「ノー」で答えを引き出すよりも、相手の考えをその人なりの言葉で引き出すことを意識してみてください。

Good.2 「教えて!」のスタンスで聞く

相手の興味関心が自分とは全く違う領域にある場合は、「教えて」という姿勢で聞くのがおすすめです。

例えば、相手の趣味がラジコンだと聞いたら「どんなラジコンですか?」「どうやって操作するんですか?」というように、教えてほしい姿勢を見せれば、気持ちよく話してくれる人は多いはずです。

相手との共通点を見つけることは雑談の目的の一つですが、それがすぐには見つからなかったとしても、お互いの価値観をシェアする過程で人間関係を築くことはできます。

Good.3 相手の言葉を繰り返す

相手の発した言葉をそのまま繰り返すと、「話をきちんと聞いている」というエビデンスになります。

先ほどの例のように「私の趣味はラジコンなんです」と言われたら、すかさず「ラジコンが趣味なんですね!」と言い返す。すると相手は「自分の発言は間違っていなかったんだ」という安心感を得ることができ、こちらに対する信頼が醸成されていきます。

雑談で大切なのは、相手が自己表現できるモメンタムを作ることです。今回紹介したようなポイントを意識すると、相手との間にある緊張がやわらぎ、人間関係の構築につながる「いい雑談」ができるようになるでしょう。

ただ、いろいろと申し上げましたが、実は雑談で話してはいけないことなんて、本当はないんです。

雑談でも普通の会話でも、大切なのは「信頼関係」と「タイミング」です。多少センシティブな話題であっても、相手との信頼関係があり、そしてタイミングが適切であれば、話す内容は大きな問題にはなりません。

先述したように、人のアイデンティティーに触れる話は雑談で扱うリスクは高いですが、そこを上手に乗り越えることができれば、人間関係を一段と深めるきっかけにもなるでしょう。

ぜひ相手への「好奇心」と「集中」を大切に、エンジニアの強みを生かした「いい雑談」にトライしてみてください。

取材・文/一本麻衣 編集/秋元 祐香里(編集部)

書籍情報

『世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』(クロスメディア・パブリッシング)

『世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』(クロスメディア・パブリッシング)

日本のビジネスマンの多くが、単なる無駄話や世間話ととらえがちな「雑談」。しかし雑談はお互いの関係性を深めるだけではなく、仕事全般のパフォーマンスを上げる効果が期待されるものなのだとか。

本書では、元Googleの人材育成統括部長であり、現在は経営コンサルタントとして人材・組織開発のための研修などを手掛けるピョートル・フェリクス・グジバチさんが、「目的のある雑談」について解説。日本企業の特徴を指摘しながら、ビジネスの場における「雑談力」の重要性を説く。

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