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レンタルEM・久松剛が「エンジニアに転職を勧めないケースが増えている」理由【聴くエンジニアtype Vol.43】

働き方

エンジニアtypeが運営する音声コンテンツ『聴くエンジニアtype』の内容を書き起こし! さまざまな領域で活躍するエンジニアやCTO、テクノロジーに関わる人々へのインタビューを通じて、エンジニアとして成長していくための秘訣を探っていきます。
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「キャリアアップには転職が効果的」という考えが一般的になり、多くの人が一度は転職を検討する時代。

一方で、納得のいく会社が見つからずジョブホッパー(転職を繰り返す人)に陥るケースも少なくない。

今回は、数々のエンジニア採用に向き合ってきた久松さんに「エンジニアの転職」について詳しく聞いた。

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【ゲスト】
博士(慶應SFC、IT)/合同会社エンジニアリングマネージメント 社長
久松 剛さん(@makaibito⁠⁠⁠

2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。動画転送、P2Pなどの基礎研究や受託開発に取り組みつつ大学教員を目指す。12年に予算都合で高学歴ワーキングプアとなり、ネットマーケティングに入社し、Omiai SRE・リクルーター・情シス部長などを担当。18年レバレジーズ入社。開発部長、レバテック技術顧問としてキャリアアドバイザー・エージェント教育を担当する。20年、LIGに参画。プロジェクトマネージャー、フィリピン開発拠点エンジニアリングマネージャー、T&O(Talent & Organization、組織改善)コンサルタント、アカウントマネージャーなどを担当した後、22年2月より独立。レンタルEMとして複数企業の採用・組織づくり・制度づくりなどに関わる

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【MC】
エムスリー株式会社 VPoE
河合俊典(ばんくし)さん(@vaaaaanquish

Sansan株式会社、Yahoo! JAPAN、エムスリー株式会社の機械学習エンジニア、チームリーダーの経験を経てCADDiにジョイン。AI LabにてTech Leadとしてチーム立ち上げ、マネジメント、MLOpsやチームの環境整備、プロダクト開発を行う。2023年5月よりエムスリー株式会社3代目VPoEに就任。業務の傍ら、趣味開発チームBolder’sの企画、運営、開発者としての参加や、XGBoostやLightGBMなど機械学習関連OSSのRust wrapperメンテナ等の活動を行っている

「転職」が最善の策ではない。むやみに転職するべからず

ばんくし:われわれがいるIT業界は「転職」がわりと身近にある業界だと思うのですが、久松さんにとって「良い転職」って何ですか?

久松:正直、今は転職をすすめないケースが多いんです。実際にキャリア相談を受けたときも、半分くらいの方は「このタイミングじゃないですよ」となだめます。

というのも、2022年まではスタートアップや外資IT、コンサルティングファームや上場済みSaaSなどが積極採用をしていました。今はあまり調子がよくない企業が増えていて内定が出にくいですし、ジョブホッパーの受け入れ先がないケースが多いんです。

だから、社内異動などで自分がかなえたいことがかなうなら絶対その方がいい。キャリアチェンジは特にです。それなら履歴書にも影響が出ないですし、企業としても既にその人のことが分かっているので新しく採用するよりリスクが少ないですから。

ばんくし:現状に何かしらの不満があって「転職したい」と久松さんに相談にきた人が「やっぱり転職はしない」と心変わりすることってあるのですか?

久松:めちゃくちゃあります。もちろん社内異動がかなわない職場や、本人のスキルが浅いのに教えを請えるエンジニアが社内にいない場合は知り合いの会社や人材紹介会社を紹介することもあります。ただ、ほとんどの方は本人の考え方や立ち振る舞いを変えるだけで不満が解消する印象です。

ばんくし:「立ち振る舞いを変える」というのは、「エンジニアとして成長するため」というよりも「社会人として成長するため」というような意味合いですか?

久松:それもありますが、キャリア的な観点からのアドバイスもします。「今後スペシャリストでいくにせよ、マネージャーでいくにせよ、この部分を伸ばしながら何かしらの肩書きをもらいましょう。最低一年はその役割をまっとうしましょう」というようなアドバイスはよくしますね。

ばんくし:ぶっちゃけ「最後にどうするか選択するのは本人次第だし、そこで幸せになれるかは運の要素もある」とドライに対応することもできるじゃないですか。久松さんがそれほどまでにエンジニアの採用に親身になる理由って何ですか?

久松:前々回少しお話ししましたが、もともと教員を目指していたというのが大きいかもしれないですかね。関わる人の人生が少しでも上向きになればいいなという気持ちで活動しています。

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「人事とITの類似性」が労働資源を最大化するカギとなる?

久松:少し話は変わりますが、私が博士号をとった研究テーマである「P2Pストリーミング」と「人事」は似ている点が多いんですよ。

P2Pってデータの配送を一般の受信者が兼務するのですが、受信者はモバイル端末だったりすることがあるので、急に電源が切れたりネットワークが変わったりといった事態が頻繁に起きるんです。なのでそこから網全体を俯瞰した時に最小ダメージで再構築して復元しなければならないのですが、このアルゴリズムってまさにスタートアップやベンチャー企業で「主要だった人が急にいなくなったときにどう組織を再構築するか」という考え方と一緒なんですよ。

先ほどばんくしさんが「ドライに対応できる」と言っていましたが、効率的に組織を再構築する方法をドライに突き詰めていった結果、ウエットなところに帰着した……という感じです。

P2Pの世界では、計算機資源が高い個に依存すると、それがなくなったときに大変なことになるので、極力保持するデータを散らしておく考え方があります。これは人事をするうえでも求められる考え方なんです。

ばんくし:本当にいろいろなところから学びを得ていますね。P2Pストリーミングネットワークと人事を結びつけてエンジニア採用をおこなっている人は、たぶん世界に一人しかいないのではないでしょうか。

久松:あとは、「人事組織の作り方とデータセンターやクラウドのハイブリッド型ネットワークは似てる」という話をnoteでしたことがあります。

例えば新卒で一括採用された一人月のエンジニアを、データセンターにマウントされたサーバーだとすると、スポットインスタンスはSESやフリーランス、副業のエンジニアと見立てることができますよね。誰に何を任せるのか、リソース調整をどうするのが経営上の合理性があるのかというお話に展開できます。

ばんくし:なるほど。めちゃくちゃ分かりやすいですね。

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ばんくし:少し話は変わりますが、そもそも久松さんはなぜ教員になりたいと思ったのですか?

久松:理由は二つあります。一つ目は村井純先生のTA(ティーチングアシスタント)経験を経て、人に対して何かをアウトプットすることで、その人の人生にプラスになることができればと思っていました。

二つ目はめちゃくちゃ打算的ですが、IT革命当時に教授だった人たちはみんなお金持ちだったから。この道に進めば儲かると思ったのですが、その後事業仕分けやリーマンショックでその道は絶たれてしまいましたけどね。

ばんくし:打算的なところはありつつも、もともと「教える」「言語化する」というのが得意だったのかもしれないですね。

久松:まさに、私のnoteがウケている1番の理由は「言語化しているから」なんです。何となく雰囲気としてはありつつもうまく説明できない事象に対して、バチバチの解像度で言語化していくところが人気なんだろうなと思っています。

ばんくし:久松さんの言語化能力は本当にすごいですよね。「ITエンジニア採用とマネジメントのすべて」はエンジニア採用に悩んでいる人やこれからエンジニア採用を始めようと思っている人全員に読んで欲しいと思うくらい素晴らしい書籍だと思っています。エンジニアが言語化できていないことや理由はあいまいだけど、こういう文化は嫌われる……みたいな内容がたっぷり詰まっていますよね。

久松:IT業界って今一番人が動いている業界の一つなので、そこで起きていることを言語化することで他の業界にも役立つんじゃないかと思っているんです。

ばんくし:確かに、これから他の業種でも流動性が高くなる可能性はありますからね。

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ばんくし:久松さんが今後チャレンジしたいことは何ですか?

久松:組織の作り方や組織課題って、フェーズごとに似ていることが多いんです。なので、新規事業の立ち上げやスタートアップを起業する人向けにフレームワークのようなものを提供できたら良いと思っています。

ばんくし:採用から組織構築まで、会社の課題を解決していくということですね。

久松:そうですね。いろいろな会社さんの話を聞いていると、似たようなことで悩んでいるケースが多くて。悩む時間がもったいないなと感じるんです。

ばんくし:久松さんがいるとエンジニア業界がもっと楽しくなりそうな気がします。私もエンジニア業界を盛り上げていきたいと思っているので、同じ思いで活動できてうれしいです。

次回も久松剛さんをお迎えし、お話を伺います。お楽しみに!

文/赤池沙希

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